File.39 サイバー犯罪対策課
【紅羽宅】
現在九月十日。
物喰いを倒すぞと潜一が宣言してから、(だいたい)一週間が経過した。
奴らの動きは一切ない。
SNSでは次のテロを非難・支持する層が溢れている。
『先週、東京グランドアリーナにて物喰いと思われるテロ組織が爆発テロを起こし、会場にいた千人以上が亡くなられました』
ほとんどのテレビのニュースは競売での戦いに皆釘付けだ。
パソコンで様々な情報を調べる潜一と、紅羽が使っていた筋トレ器具を愛用する湊。
『ということで、今回は大学教授で心理学科の立川教授をお呼びしました』
【テレビ局】
「立川教授、よろしくお願いします」
ニュースキャスターがとても若々しい見た目をしているからか、隣に座る立川がとても老いて見える。
「テロ組織である物喰いは、能力者の集まりと言われていますが……真偽はどうなのでしょうか?」
「彼らの目的は、世界で根強く残る能力者差別の撤廃でしょう。しかし、“能力者”と“人間”は大きく違うのです」
もはや差別にも近い立川の発言は、留まることを知らず続く。
「能力者は日本人口の二割だと言われています。その内の八割は自覚せずに生涯を終えるとも。我々は今まで、“生きる爆弾”を一人の人間として迎え入れてきました」
勿論、全員が全員ではないですが。と保険をかけて返事を待つ立川。
「それはつまり……?」
「今回の事件で気づいたはずです!能力者は我々を利用できる駒としか思っていません!国民一人一人が知る必要があったのです」
立川の発言と、能力者に対する考えはもはや差別にも近い。
そのような言葉が続き、見覚えのある“彼女”の顔が映った。
「今回のアリーナにも涼風湊がいましたが、今回の事件にも関わっているのでしょうか?」
「可能性はかなり高いです。“物喰いメンバー”である彼女も、テレビ局の人間を睨むその目も、私の発言を裏付けます」
【紅羽宅】
『怪しい人間、涼風湊の顔を見たら軽率な行動はせず、警察に通報して下さい』
一通り聞いた潜一と湊だったが、こんなにも罵詈雑言を浴びせられるとは思わなかった。
たった二人の人間によるテロだけでここまで世界にダメージを与えられるのだ。
しかも元から能力者として知られている以上、世界の差別意識がより強くなるのは必然だろう。
「好き勝手言いますね」
今回の発言により、元から日本の敵として見られていた湊だったが、今回の事件で逃げるところは無くなった気がする。
「物喰いに勝って、世論を覆すしかないな」
「潜一さんは何をしているんですか?」
「ちょっとある人に会いに行く為にな。一年ぶりにメールをしたよ……」
出かけてくる。
そう彼は言い残し、どこかへ行ってしまった。
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【警視庁:サイバー犯罪対策課】
「櫻井。今回の事件について……」
サイバー犯罪対策課の部長、的場はこの課をまとめる重要ポジション。
部下の櫻井は現場で戦うホワイトハッカーだ。
「ん?」
的場の私用のスマホから通知が。
「!!」
そのメールは懐かしい人間からだった。
「すまん。少し抜ける」
「?はい?」
的場は簡潔にメールを返し、対策課から部屋を出て“その人”に会いに行く。
【桜田門前】
時間的にここら辺りで会合する約束だ。
スマホをいじりながらそこで待っていた時─────
「お久しぶりです。的場課長」
夜の闇から現れたのは潜一。
それを見て、どこか嬉しそうに的場は口を開く。
「今は課長じゃない。部長だ」
「昇進しすぎでしょ!」
「お前みたいな生意気野郎をしばく為には偉くなるしかないんだよ」
互いに軽口を叩きながら、昔話をする的場と潜一。
本当に一部の人間だが、潜一にも仲の良い部下と上司はいる。
「……戻ってこないのか?潜一」
「……戻ってきて欲しいんですか?」
「お前のような人材を逃すほど、俺も老けちゃいないさ……まぁ、その話は後にして……俺に会いにきた理由は?」
このまま談笑だけして帰るとは思っていなかったのだろう。真剣な様子で的場は潜一を見た。
「近々、大きな戦いがあります。物喰いがテロを起こす。必ず」
「今月中か?」
「少なくともそれくらいにはやるでしょう。俺一人じゃハッカーは務まらない。だから……協力してほしいんです」
バッと潜一は頭を下げる。
元上司と部下の関係。
勤めていた時間は短くても、それは濃い時間だった。
「力を貸してください」
「…………」
驚いたように、そしてどこか嬉しそうに潜一を見る的場。
生意気な天才クンが、人に頭を下げて助けを求めているのだ。
一年前からはその光景は異様だっただろう。
「…………やっぱりこの歳になると涙脆くなるから嫌になるな……いいだろう。その時になったら協力してやる。その“時”が来たらな」
「……ありがとうございます」
こうして二人の会話は終わり、二人とも夜の闇に消えていった。
本当に物喰いがそれほどの戦力を持っているのか、的場は疑問だったが、それほどの事なのだろう。
後は潜一の一言に頷くのみだ。
【対策課】
「的場さん。どこへ行ってたんですか?」
櫻井がそう聞くと、
「潜一がいた」
「えぇ!?センパイが!?」
長い前髪を揺らしながら櫻井は叫んだ。
一年前、彼女と潜一は先輩と後輩の立場。
ある程度の交流は同時あったのだが……彼が警察を辞めてから音信不通になっていた。
「必ずまた会う」
「……そうなんですか?」
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【紅羽宅】
現在二十二時。
「おかえりなさい。潜一さん」
お疲れの様子は潜一に湊は玄関前で色々準備してくれたようだ。
「晩飯は食べてないの?」
「一緒に食べた方が美味しいですよ?」
「……はっ。そうだな」
そうしてテレビニュースを見ながら食事をしていたら、拓から電話が。
「拓さん?どうかしましたか?」
彼は護衛の警察と共に別行動中。
詳しいことは忘れたが、柊家の歴史について調べていたらしい。
『潜一君元気!?俺は元気だぜ!!……で、本題なんだが、どうやら柊家の蔵に行って色々調べていたんだけど、そうしたら面白い物が見つかってな』
「面白い物?」
食べ物を口に含みながら返す潜一に、
『あぁ!柊家の血に関しては結構長い歴史がある。もしかしたら江戸より前から続いてるかもしれねぇ』
確か柊家の血は能力者の能力を“活性化させる”ものだったはず。
そしてそれは長く受け継がれてきたという……
『何故この血が今になっても受け継がれてきた理由はさっぱりだ。でも、冥本がその情報を掴んだらしいな』
書物に書かれてあったのはそれだけ。
それ以上の情報はどこかに隠したか……抹消したか。
「今奴の能力である『吸収』がどんな能力になっているかは想像つかない。間違いなく奴は“怪物”に更に一歩近づいたはずです」
『だな。警察のあんちゃん達と話して、もう少し調べさせてもらうわ。それじゃ』
紅羽が吸収されたと言うのに、拓はいつでも冷静だ。
……冷静に見せているだけかもしれないが、少なくとも本人は、紅羽を絶対に救えると確信している。
「こうして座して待つのは疲れますね。絶対にテロを起こす確信こそありますけど……いつ来るか分からない」
「そうだな……でもまぁ────」
湊の言葉に応えるように、ニュースは政治に関する声が。
『先日、氷室総理大臣が会見で関係者を集めた会議をする。と表明しました』
「なんだと」
食べる手を止め、テレビに釘付けとなる二人。
アナウンサーは続ける、
『議事堂にて、二日後の昼に行われるそうです』
「…………」
氷室総理が何を考えているかは分からない。
今までのテロや事件に対する国民の不安感情を、本当に上手くコントロールしていると思う。
泡のような人の感情を弾けさせることなくまとめあげる……その手腕には拍手を送りたい。
……と芳沢や紅羽は語っていた。
目立った対抗策はまだだが、なんとかなるんじゃないかと思わせる人間だ。
「“最後の戦いが始まる”……か」
「え?」
「冥本なら……もしかしてここら辺りで何かをするんじゃないか?いや……する」
そうして独り言のように呟いた潜一は、急いで全員に電話を掛ける。
「もしかして────」
「あぁ。決戦の日は九月十二日に……奴は奴なりにケリをつけるつもりだ」
冥本が何をするかは一切分からない。
それでも……やる。
最後まで戦うのみだ。
「湊。よく寝てよく休め。明後日────何かが起きる」
決戦の地は東京。




