↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
酒鬼   作者: 半端者の柑橘系 
第三章
37/50

File.37 Flee & Confront

「俺は……やめる」


「……は?」


玄関前にいるせいで、潜一の表情は見えない。

苦しそうな声色だが……どこか疲れたようにも聞こえる。


「やめる……って、もしかして戦うのを?」


「あぁ」


「紅羽さんは……潜一さんを待っているかもしれないのに!?」

湊は潜一にそう叫ぶ。


「俺は三回。冥本に策を講じたり、土壇場での戦闘になった。それでも奴は止められなかった」


ギュッと拳を握ると、悔しそうに彼は更に言葉を零す。


「ここまでだ。紅羽さんもルシアも救えなかった。足手まといなんだ」


「ッ……僕……新しい身分(こんなの)いりません!!一緒に戦って下さいよ……潜一さん!!」


涙ながらに彼を呼び止める湊と、完全に心が折れてしまった潜一。


「この家はこれからお前のものだ。世間やマスコミは、物喰いを能力者のカテゴリで叩き続けて収拾がつかない。今やお前は世界のお尋ね者になってしまった……お前の偏見も……助けてやりたかったが……」


もうどうしようもないのだ。

初めから分かっていたはずなのに、冥本は……怪物。


「……僕の両親は幼い時に亡くなった」


「?」


今の疲れ果てた潜一の様子に何を思ったのか、湊は語り出した。


「僕の面倒を見てくれた人は、父の友達で、僕に“立派な人になるように”って湊っていう名前をつけてくれました。おかしいですよね……僕女なのに」


中性的な見た目をしている彼女にぴったりの名前。

立派な人と湊という名前の関係は、本人も分からないらしい。


「能力を手に入れてから、散々な目に遭ってきたけど……もし能力に目覚めなかったら、僕は車に轢かれて死んでた」


「……そうか」


「今こうして、まだ希望がある。まだ戦えると思えるのは……潜一さんと紅羽さんのお陰です」


涙を溜めながらも、ぽつぽつと語る湊。

「もし冥本がこの国全体を巻き込むというのなら、僕は学校にいる友達の為に戦う」


「湊……」


「だから……お願いします……もう一度だけ……一緒に戦って下さい……潜一さん」


地面に涙をこぼしながら、必死で、潜一を説得する。


少し前までただの高校生だったというのに、ここまで成長した。成長させてしまった。


ドアノブに手を掛けて、外へ行こうとするも……動かない。


振り向けと何度も訴えてくる。

それでも……


「……ごめん」


ガチャっと音を立て、どこかへ行ってしまった潜一。


それでも湊は深く頭を下げ、悔しさと悲しさから涙を止める事はできなかった。


────────────────────

【潜一】


彼はバイクでただ道という道を走る。

一体どこへ行こうというのだろうか。


自分でも分からなかった。



(…………何やってんだか)


そうして辿り着いたのは東京湾。

海開きをしているお台場付近の公園だ。


もう夕暮れで、少しずつだが夏も終わりに差し掛かっていた。


もう少しで九月。

時の流れは早い。


────ここは私のお気に入りでな。


そう言えばここは紅羽に紹介されたお気に入りエリアだった気がする。


彼女の言葉が頭の中で反芻した。

「何思い出してんだ俺は……」


雑に頭を掻きながら呟く。

もう終わりだ。


(サイバー犯罪対策課から離れて、警察辞めて、紅羽さんと一緒に戦って……すげぇ長いようで短い一年だったなぁ……)


海の音というのはいつ聞いても、心を無理やり落ち着かせられる。


考えないようにした所で考えてしまうわけで……


【一年前】


居場所が悪く、逃げるようにサイバー犯罪対策課を辞めた潜一。


彼は他のメンバーより賢かった。

だからこそ、数人ではあったが嫌がらせを受けたのだ。


一年前も丁度、ここの海で潮の流れを見ていた。

「お前が達潜一か?」


「……誰アンタ」

すげー美人。

なんて思いが当時の潜一にはあったが……


「私は柊紅羽。お前の力が必要なんだ。だから───」


「言っておくけど俺は警察に戻らねぇぞ」


「知っている。お前が付くのは警察なんかじゃない。“私”だ」


「は?」

怪訝な表情となった潜一に、畳み掛けるように語る紅羽。


「私は物喰いに誘拐された兄を救い、殺された両親の仇を取りたい」


「……え……はっ!?物喰いに!?」

急いで立ち上がり、潜一は紅羽を見据える。


あり得ない。

馬鹿なんじゃないの?という言葉が喉元から出かけたが堪える。


「世界を股にかける奴らに私の“足”じゃ限界だ。お前の“足”が必要なんだ。頼む……協力してくれ」


そう言えば今思い出した。


潜一が警察学校に在学中、優秀な結果を残して生活安全課に配属された謎の人間がいると。


とんでもなく美人で、冷静そうな顔をしているなんていう容姿の特徴しか知らなかったが……


今。合点が行った。

「……一つ。聞かせてくれ」


「ん?」


「アンタがやってる事は“正義”か?それとも“悪”か?俺だって子供じゃない。そんな簡単に人を測れるとは思ってはいないが……それでも聞かせてほしいんだ」


その潜一の問いに、紅羽は少し悩んだ様子を見せ、答える。


「分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)。でも、これが私なりの正義……これじゃダメか?」


「……いや、充分ですよ」


【今に至る】


彼女に会うのもたまたま。

こうして手を組んで戦えたのもたまたま。


警察時代、潜一が作った“対ハッキングアプリ”をアメリカに提供したが、物喰いに難なく突破された事があった。


その借りを返す意味でも、潜一には戦う理由はあったし、この戦いで多くの民間人が守れると信じていたから。


(その結果、紅羽さんは消え、ルシアは死亡。笑えないジョークだよ、本当)


もし……紅羽の兄、拓が冥本に吸収された時、彼女は戦い続けるだろうか。


やっぱり心が折れてしまうものだろうか。


────潜一。死ぬなよ。



────……もう一度だけ……一緒に戦って下さい……潜一さん



「…………」

まだやるべき事はある。


「…………」

逃げたら死なない。


「…………ッ」

逃げたら……奴は止まらないだろう。


どんな思いを抱いたのか、潜一はバイクへ乗り、どこかへ走り去ったのであった。


────────────────────

【同時期:湊】


紅羽宅の前で、バタンと車の扉を閉める音が。

「堺さん!!」


車に乗っていたのは芳沢と、特異対策課の五人。

そして────


「俺もな」

紅羽の兄、拓だった。


六人を家に招き、早速芳沢が現況を語り出す。

「東京グランドアリーナは壊滅。してやられたな」


「……あれ?湊ちゃん。潜一さんは?」

晴菜が辺りを見渡しながらそう答えると、悲しそうに「やめた」事を呟く湊。


「……紅羽と一緒にやってんだろ?無理ねぇな」

残念そうに呟く迅と、それに頷く千景。

潜一の作戦参謀としての力は確かだった。


失ったのは惜しい。

「でも……でも!!僕は戦います!皆さんもそうでしょう!?」


暗くなった空気を無理やり明るくしようと、湊は自身の決心を叫んだ。


それでも返ってくるのは沈黙のみで──────

「……あります……よね?勝ち目」


「……湊ちゃん。私達はね、あなたには普通の───」

「僕は!!」


ムキになったのか、頭に血が昇ったのか、湊は怒りに身を任せて語る。


「……戦うって決めたんだ。だから!!絶対に諦めたくない!!一人でも多く……助けたいんだ……!」


ルシアも、湊も突き落としたあの女の人も。

皆……何かの思いを湊に託して死んでいった。


「…………」

根性論だけじゃ、人は救えない。

ルシアという情報源も失った以上、作戦は────


すると扉を開ける音が聞こえ、皆は急いでそこを振り向いた。


「ただいま」

そこには……特に何か劇的なセリフも、カッコつけたセリフもなしにぬるっと現れた男の姿。


「え!??」

あんぐりと口を開ける湊に、常に冷静沈着な堺と芳沢が驚きを隠さず目を大きく見開いていた。


「「潜一さん!?!?」」

湊と晴菜がそう叫び、真顔のまま潜一は軽く頷きのみで返す。


「やめたんじゃなかったのか?」

ニヤリと笑う堺に、バツが悪そうな顔で潜一は苦笑する。


そんな事がありつつも、ようやく潜一は口を開いた。

「もうこれは俺一人の問題じゃない。冥本はこれからも何千の罪なき人を殺すだろう」


「……冥本を何をするつもりなんですか?」

思わず湊は聞き返すと、


「それは分からない。だから奴らがやってきたテロを昔調べてたんだ」


近くの部屋から自分のノートパソコンとスマホの情報を連結。

画面に映されたのは、簡単なスライドのような物だった。


「奴らは三回にわたってテロを行う。小規模、中規模、大規模のテロになっているんだ。初めてアメリカでのテロでは交番の襲撃→マフィアの襲撃→そして────」


「大統領の暗殺……か」

芳沢のその時現地にいて、暗殺をこの目で見た。

大規模な会場の中で淡々とやってのけた物喰いの手腕。


見事なもの……としか言いようがなく、芳沢は悔しそうにつぶやいた。

「日本のテロの一回目は……渋谷か?」


迅の一言に潜一は首を横に振るう。

「……柊家だ」


「!!」

拓が思わず目を見開くと


「二回目は渋谷で、三回目がこれから起きること」

冥本にとっての“中規模”が渋谷の大規模テロというなら、奴らの言う大規模テロで起きる事はもう想像つかない。


「恐らく、物喰いのゴールは日本の重要機関の沈黙。報道や政界に対する絶対的ダメージを与えることだ。動機はもうどうでもいい。冥本は……やる」


ある意味信頼できる。

ある程度はやり切る……もしくは成功させるだろう。


「紅羽さんは拓さんを救ってやりきった。なら俺も、やることをやる」



強く拳を握ると、潜一は静かに……なおかつ力強く宣言した。




「物喰いとケリをつけるぞ」






そうして数日後。

ダークウェブや様々なSNSに物喰いと思われる文が貼られていた。

その文は────────


          

“最後の戦いが始まる”





第三章:競売編 完


次章

最終章:最終挑戦フェーズ編


この章で終わります。


どうか応援お願いします(催眠)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。