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酒鬼   作者: 半端者の柑橘系 
第三章
35/50

File.35 再会、と。

「あぁ゛痛った……」

刀ごと腹を切り裂さかれ、地面に倒れたログロ。

息が絶えながら、紅羽はそれをただ見つめる。


彼女は確実に勝ったのだ。

敵の銃を飛ばし、刀は折った。


こっちの剣は無事。

抵抗のしようがないだろう。


「私の……勝ち……だ……!ログロ」


「はは。そうだな」

どうでも良さそうに答えるログロに紅羽は疑問に思ったが、何かを話そうとしているのを見て黙る。


「……まぁ、負けるとしてもやる事はやれたし、別にいいか」


そんな紅羽の様子を知っているのか知らないのか、ログロは独り言を呟いた。


(この時間辺りには来るって言ってたけど、全然来なかったな……)


ムカつくなぁあいつ…と軽く笑いながら、そのままゆっくりと目を閉じるログロ。


「…………」

紅羽はその様子に何を思ったのか、数秒の沈黙が流れたが────


「あ、兄さん……」

アナウンスで流れてきた、一番会いたい男の声。

痛む腕を抑えながら、紅羽は拓を探す為に部屋を出た。


第一ホールの扉を開けると、そこには……

「紅羽さん!!良かった……勝てたんですね!!」


潜一が嬉しそうに走りながら紅羽の下へと駆け寄る。

お互いに安心したような表情を見せた。


「潜一。兄さんは?」


「拷問されてたんでね…あまり具合が良くないです」


「……早く行くぞ」


「いやいや、その前に紅羽さんも大丈夫ですか?」


「私は大丈夫だ。切り傷が多いだけだ」

それでも利き手である右腕を酷使した為に、かなり痛めていたが、紅羽は気にせず進む。


【第二ホール】


「あぁクソ……めっちゃクラクラする……!」

頭を抱えながら、苛立ちを抑えきれない拓。

つい最近まで出血前提の拷問をされていたのだ、仕方がない。


「……?拓さん。指を縫った事あるんですか?」


「冥本が“少しでも価値を上げるように〜”ってさ。つか、なんでガキがここにいるんだ?」


拓はギョロッという視線を目を向けた。

その圧に少しだけ気圧されそうになったが……


「……僕だって拓さんと同じ、奴らに巻き込まれて…自分で“選んで”ここにいるんです」


未だ信用はいまいち得られた気がしないが、ひとまずここの大規模なホールに佇む拓達。


潜一の作戦では、堺達警察陣営が増援を呼び、紅羽達によって眠らされた裏社会の連中を一斉逮捕する手筈になっている。


ここ第二ホールは一番入り口に近い。

外からパトカーのサイレン音が聞こえてきた。


これで味方は増えた。

(まぁ今の日本にとって僕は物喰い関係者だから、一概に味方!……って訳ではないんだけど)


心の中で苦笑する湊。

紅羽も潜一もやっている事は正義かもしれないが、普通に法を破っている。


捕まったらまずい。


そんな事を考えていたら、「紅羽さん!!」という怒声が廊下から響きながら、走ってくる音が聞こえてきた。


ガン!と扉を大雑把に開けた紅羽と、息を荒くしながら必死についてきた潜一の姿が。


「……………………」

兄の姿。

拓の姿。


紅羽はそれをただ見つめる。

「…………?」

潜一はそれに対して疑問に思う。


「兄さん!!」


「……紅羽か?」

あり得ないといった表情で、紅羽と拓はお互いの顔を見る。


ゆっくりと拓の下へと歩き…抱きしめる為に大きく腕を広げた拓だったが、紅羽が一歩手前で止まった。


(私の手は……汚れてる…こんな私じゃ……兄さんを……)


「……ふん!!」


「いっ!?」

紅羽の様子を察したのか潜一は彼女の背中を叩き、湊もそれに乗っかって、優しく紅羽の背中を叩いた。


「お前が俺のためにやった事だ。それを責めるなんて事はしねぇよ」


「……!」

潜一達と拓の行動に文字どうり背中を押されたのか、勢いよく拓に抱きつく。


両親を殺され、兄を誘拐され、絶望の奥底にいても折れずに…紅羽は進んできた。


数秒もしないうちに彼女から啜り泣く声が。

「本当に……良かった……死んじゃってたら……どうしようと……!」


「良くやった。紅羽……!」


「兄さん…にぃさん…!!」

初めて紅羽のそんな様子を見た気がする。

拓の肩に顔を埋め、涙を流す。


……これで恩は返せたか?

深呼吸しながら潜一は心の中で呟いた。


本当に申し訳ないが……

「紅羽さん。拓さん。本当に申し訳ないんだが……警察にバレないようにさっさとトンズラしないと────ん?」


潜一の通信機からザーザーと砂嵐の音が。

そこから男の声が何度も繰り返して……


『……逃……ろ!!潜……!!……そっちに……とが!!』


声色的に堺の声だ。

「(逃……ろ?“逃げろ”か?警察がそっちに迫っている感じか)紅羽さ────」


刹那。

ダッ…と風を切るように走る男が“一人”、湊と潜一の間に入り込んだ。


「!?」

ほぼ構えていなかった所からのタックルにも近い強襲。

チラッと見えた…その男の顔は……


「ッ……冥本!!?」

二人は押し出された勢いのまま地面に倒れ、奴を止める事は出来ない。


冥本の表情は二人に“しか”向いていなかった。

ワクワクした表情のまま、冥本の視線を向きどころは─────


「兄さん!!」

体調不良の拓をここで何かすると読み、即座に拓を押し出した紅羽。


現に今、冥本の目線は拓に向いて……い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。


「残念。そっちだ!!」


「!?」

奴は手を大きく伸ばし紅羽の顔を掴んだ。

彼の次なる行動は……


「『吸収』」


─────────────────────

【数十分前:物喰い】


「いや〜着いたね!東京グランドアリーナ」

いつ見ても壮大だ。


冥本も、何度かここでやっているサッカークラブにお邪魔したことがあった。


「正面玄関から入るのは流石にだめ。かといってコソコソすると遠回りだし、危(・)険(・)に(・)な(・)る(・)」


「どうする冥本」


「簡単さ。正面玄関に一番近い所から入るのさ」

アサルトライフルをカチャッと音を鳴らしながら構える。

ブレンの武器はショットガンだ。


「今集合している警察はエリートではあるだるがSAT程じゃない。そしてログロ以外のメンバーがいるとも知らない。やる事はシンプルだ、徹底した圧倒的な武力で叩き潰す」


息を大きく吸い込み、少し間を空けて冥本は呟く。

「小細工はいらないさ」


【警察】


「よし、先にいる特異対策課と合流するぞ」

拳銃を持った警察の人達は裏社会の連中を捕まえるために動いていた。


敵がどこにいるか分からないから、慎重に…という連絡を受けていた為にゆっくりと。


そんな時、ポーンという音が響いた時。

警察の人達が目線がそこに向いた。


「?誰かそこにいるのか?」

従業員専用の自動ドアから鍵を開けた音が聞こえたのだ。


もしかしたら巻き込まれて逃げてきたのかもしれない。


扉がゆっくりと左右に開いていく。


金属の掠れた音が警察達のいる廊下に響く中……

扉の端から誰かの足が。


その瞬間。

「ちゃお〜」


不気味な男の顔。

そしてその手に握られているものは……ライフル。


「!!全員構え───!!」


「うん、遅い!」


バキン!!!

……と銃声を鳴らし、冥本は発砲。

一番近くにいた人間をヘッドショットで殺し、滑り込むように遺体を盾にした。


片手でそれを支え、一瞬だけ手を離し、体を傾けて発砲する。

バキン!バキン!と何度も撃ち続け、殺す。


「おっ」

避けることや、パニックになってまともに反撃できていない中、数人の人間が反撃にでようとしていた。


銃口が自身に向けられていた事に気づき、ドン!っと銃声が鳴った瞬間──────

「何!?」


まさか冥本は体を傾けてその一撃を回避。

遺体達を盾にし、そのまま警官達を全滅させたのだった。


「よっしゃ。ノーダメージクリアだな」


─────────────────────

【他の場所】


「おい!被害者だぞ!!」

警官達が地面に倒れていた筋肉質の男に駆け寄る。

息はしている、問題はない。


どうにかして運ぶ方法を考えていた時、一人の警官が気づく。

「ん…?ショットガン?」


これを持って…逃げてきた────とは考えにくいが……

「お、本当に来たな」


「!!?」

即座にショットガンを警官の首に押し当てはそれを放った。

他の警官達が驚いて此方を見ているのを気にせず、拳銃を彼らへ連発。


これにて全滅。

堺が呼んだ増援のほとんどが全滅した。


『やっほーブレン、聞こえるか?』


「あぁ。その様子じゃそっちも終わったか」

ショットガンに弾を入れながら応えるブレン。


『俺はこのまま柊紅羽を吸(・)収(・)し(・)に(・)い(・)く(・)』


「はっはっは!!マジでやるのか!!」

会場全体にブレンの大声が響く。


「他者を吸収するのは拒否反応が出るんじゃないか?」


『大丈夫大丈夫!!上手くいけば俺は更に強くなる』


─────────────────────

【時は今に至る】


紅羽の顔を鷲掴みにして、その様子に全員が呆気に取られていた。







「『吸収』」






「……何も起きない?」


そう湊が呟いた時、紅羽と冥本の間に謎の粒子が大量に溢れ出し、彼らを覆う。

この世のものとは思えない現象に、ただ見つめる事しかできなかった。


「まずい」


潜一の一言と同時に嵐のような風が潜一達を襲い、妨害が不可能になってしまい……


「ねぇーちゃんあぶねぇ!!」

湊の背後から大きな石が迫り……拓が入り込み庇った。

彼の頭に石が当たった事により気絶。


「晴菜!!千景!!潜一達を連れて逃げるぞ!!」


壊れた会場から迅の声。

その表情から鬼気迫ったものを感じる。


「おい待て!!紅羽さんは!!」

一緒に逃げようとする晴菜の手を払い、叫ぶ潜一。


「今は逃げないと……!!」

そんな晴菜の叫び。

いつもおどおどしている彼女にはっきりとした言葉。


「ッ〜!!!」

あまりにも突然な状況に頭が回らない。


「グッ……!!重い〜!」


「!!」

拓を持ち上げようとして四苦八苦している湊と千景。

何を優先するべきか考えていた時、風が止んだ。


大量の粒子が消え、一人の“男”がその姿を現した。


「おっ、成功した」

軽くそう呟き、ポケットに入っていた謎のボタンを押す。


そして、大爆発。

地震のような大きい揺れが、アリーナ全体に響く。


「冥本……!紅羽さんを…『吸収』したのか…?」


「おぉ、その顔は潜一“君”じゃん、そうだよ。紅羽の力は俺のものさ」


本当に彼は軽薄だ。

徹底した作戦に確かな実力。


「それじゃ、お互いに生きてたら、また会おうか」

天井裏から爆発によって砕けた瓦礫が落ち、冥本と潜一の間に落ちる。

もう彼を殺すことも拘束もできなくなった。


「潜一さん……」


「……逃げるぞ」


会場爆発まで、残り五分。
















バキンという擬音は私の好きな漫画から取りました。

さぁなんでしょう?

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