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酒鬼   作者: 半端者の柑橘系 
第三章
33/50

File.33 紅羽vsログロ

【紅羽】


第三ホール。

全員を眠らせた事により、一時的とはいえ競売はストップするだろう。


兄である拓はどこにいるのだろうか。

ただ…そこは潜一達に任せた。


第三ホール・セキュリティ室から出て、どこかへと向かうログロを追う紅羽。


(晴菜達によってセキュリティ室は制圧。建物内はいくつかシャッターが閉じている)


そしてあそこのセキュリティ室辺りは、多くのシャッターがある。


誘導されるとしたら……

(……第一ホールか)


近くにある一番古く、一番狭い。

良くスポーツクラブなどに使われるこのホール。


そこに奴はいる…かもしれない。

単に逃げた可能性こそあるが、ルシアの情報によると…“戦いたがり”との事。


───柊さん。ログロは物喰いの中で接近戦最強です。刀使い…って言うのもあるけど、元アメリカ軍人による底力よ。


「………上等だ」

そうして紅羽は第一ホール前に立つ。


「なんだ?」

何故か冷たい。

冷房をこんなに付けて何を?


確かに今は七月下旬だが……


紅羽は片手に拳銃を構え、片足で扉を蹴飛ばした。

体を少しだけ晒し、辺りを確認すると───


「!?」

部屋の部分部分が凍っていた。

そうして真ん中に佇むログロ。


真っ直ぐに互いを見つめ合う中で、先にログロが口を開く。


「どうした?撃たないのか?」


「お前も同じだろ?」


互いに銃を持っているが、互いに撃つ事はない。

剣と刀のみ。


「まぁ…そうだな。そうかもな、もしかしたら俺はこっち(刀)で決着をつけたいのかもしれない」


ログロはゆっくりと刀を抜く。

彼が醸し出す空気から紅羽は直感した。


“一歩でも歩けば斬り合いが始まる”と。


冥本とログロ。

この二人が柊家を襲い、両親を殺した。


「私に出来る事は……これで最後だ」

紅羽は銃を仕舞い、剣を構えて一歩踏み出す。


どんな奴だろうと必ず殺してやる。


…また互いに一歩踏み出す。


一歩、また一歩。

互いの間合いに入り───


「はっ!!」

「ッ!!」


キン!!

…と剣と刀による衝突で、甲高い金属音が部屋中に響くのであった。


───────────────────

【堺・迅】


「堺サン。本当にここに柊拓がいるんすかね?」


「……懸念は尤(もっと)もだ。流石にこれはおかしい…」


だいたいの部屋は見て回った二人。

人身売買をするのは情報としては知っているが、流石にこれはおかしい。


「潜一。聞こえるか?」


『はい聞こえます』


「すまない。拓探しは難航している」


『こ(・)っ(・)ち(・)も(・)ですよ』

潜一・湊班も同時に捜索しているものの、全くと言っていいほど人の“ひ”の字すらないのだ。


ここまで人を散らしていないとするに……

仮に第三ホールに柊兄や他の売買にかけられる人間がいた場合、紅羽が報告するはず。


(柊紅羽の能力作戦はあくまでも、“人身売買の開始”だったからな。極限まで戦闘を避けようとしたのが裏目に出たか)


「設計図には、第三ホールに何人も置いておけるスペースなんてなかった。やっぱり違う場所に置いているのが正解なんじゃないのかぁ?」


『…………クソッ』

迅の一言に考え出す潜一。


紅羽の“麻酔”がどれくらい持つのかは個人差がある以上、あまりジタバタしたくない。


「潜一はそのまま───」


『堺さん。聞こえますか?』

その声はルシアだった。


『第三ホールに変な部屋があって……そこに変な地下室が……』


それを聞いて、堺はパンフレットを開く。

全体がどこにいるかを瞬時に特定し、判断を下す。


「俺達がいる所は…チッ、遠いな。潜一!湊!!お前達が向かうんだ!後で合流する!」


『了解!』と潜一達は通信を切り、ルシアのいる所へ向かったのであった。


晴菜達の報告で、この場所に冥本達、他の物喰いがいない事は知っている。


いない内に全てを終わらせるつもりだ。

「行くぞ!!迅!」


「はい!!!」


─────────────────────

【第一ホール:紅羽・ログロ】


剣戟の応酬。

甲高い音が響く。


その中で、たった一人。

息が絶えながら男の剣技をかろうじて防いでいる。


「クソ……!」

第三ホールでの能力の継続発動が、紅羽に負担として重くのしかかっていた。


「あっ!!」

姿勢が崩れて、尻もちをついた所に─────


「遅い!」

大きく刀を真下に振るうログロ。

避ける暇はない。


「グッ…!!」

その姿勢のまま刀を受け止める紅羽。


両腕で振り下ろされた刀はとても重く、同じ両腕で剣を持って防いでいるのにこの力の差。


プルプルと震える腕から、自身の限界が迫っていくことを感じる。


「剣とかまともにやった事ないのに、こんなに強いとはな……やるなぁ!」


「はぁ…!はぁ…!くっ!!」

彼女の根性でログロの刀を少しずつ押し返す。

その様子を見て、彼は嬉しそうに呟く。


「良いね。ご(・)褒(・)美(・)だ」

刀を真横に振り、紅羽を少し遠くへ吹き飛ばした。

そうして彼の手から冷気が漏れ出す。


「『氷結』」

そう唱えた時、地面から隆起するように小さな氷柱が紅羽に迫る。


「ッ!!」

真横に避けて、ログロの能力を躱した。


氷の生成。

物喰い最強の武力は伊達じゃない。


「さぁ……どうする?」


「ッ…『酩酊』────あっ…!」

辺りを見渡すと、大きな窓ガラスがド派手に割られていた。


「それ(酩酊)。毒ガス的な感じだろ?それをやられるとマジでやばいからな。防がせてもらった」


ははっと笑いながら返すログロ。

それをただ睨む紅羽。


奴と冥本には一度、自身の能力を浴びせた事があった。


忘れていた事に一抹の願いを懸けていたが、流石にそうではなかったが。


「手の内は互いに明かしたな。さぁ…第二ラウンドだ!!」


刀を紅羽に向けながら真っ直ぐ此方に接近。

重苦しい緊張が、紅羽を襲う。


─────────────────────

【潜一・湊】


「ここだ」

このホールに相応しくない、真っ暗なマンホールみたいにそこに佇んでいる。


明らかにここが変だ。

「開けるわよ…せ〜のっ!!」


潜一とルシアが力を合わせてその地下扉を開けた。

金属製の扉でとても重い。


息が荒れながらも、三人はそのまま部屋に入る。

「湊、先行してくれ」


部屋の中を捜索すると、薄暗く小汚い地下室が待ち受けていた。


こんな所に閉じ込められたら精神を病む。

もし仮にここに柊兄がいても……


「誰だ!!」

それよりも速く、物喰い関係者の黒服が数名、声を荒げて叫ぶ。


即座に撃たれ、湊が撃ち抜かれた。

潜一とルシアは近くの遮蔽物に隠れ、なんとか銃弾の嵐を防ぐ。


「………?」

牢屋にいる一人の男が銃声に気付き、違和感を覚える。


助けに来たのか?

それともトラブル?


(変に騒いで殴られるのは面倒くせぇしなぁ…う〜んどうすればいいか───)



「クソッ!!まさかここがバレるなんて……警察か!!」


「…!」

助けが来た!!

一年間拷問に耐えた甲斐があった。


「お〜い!!!助けてくれぇ!!!俺の名前は柊拓!!!助けてくれたら……あ!酒!酒作れます!!是非ともよろしくー!!!」


狭い地下室。

そこにむさ苦しい男の全力の叫びが響いた。


「……ははっ!全然似てねぇ」

潜一は軽く笑いながら、ルシアに麻酔銃を投げる。


それをキャッチしたルシアは片手に水を作り、応戦体勢。


「ぜってぇ救わなきゃな」

潜一の一言に強く頷いたルシアなのであった。





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