File.33 紅羽vsログロ
【紅羽】
第三ホール。
全員を眠らせた事により、一時的とはいえ競売はストップするだろう。
兄である拓はどこにいるのだろうか。
ただ…そこは潜一達に任せた。
第三ホール・セキュリティ室から出て、どこかへと向かうログロを追う紅羽。
(晴菜達によってセキュリティ室は制圧。建物内はいくつかシャッターが閉じている)
そしてあそこのセキュリティ室辺りは、多くのシャッターがある。
誘導されるとしたら……
(……第一ホールか)
近くにある一番古く、一番狭い。
良くスポーツクラブなどに使われるこのホール。
そこに奴はいる…かもしれない。
単に逃げた可能性こそあるが、ルシアの情報によると…“戦いたがり”との事。
───柊さん。ログロは物喰いの中で接近戦最強です。刀使い…って言うのもあるけど、元アメリカ軍人による底力よ。
「………上等だ」
そうして紅羽は第一ホール前に立つ。
「なんだ?」
何故か冷たい。
冷房をこんなに付けて何を?
確かに今は七月下旬だが……
紅羽は片手に拳銃を構え、片足で扉を蹴飛ばした。
体を少しだけ晒し、辺りを確認すると───
「!?」
部屋の部分部分が凍っていた。
そうして真ん中に佇むログロ。
真っ直ぐに互いを見つめ合う中で、先にログロが口を開く。
「どうした?撃たないのか?」
「お前も同じだろ?」
互いに銃を持っているが、互いに撃つ事はない。
剣と刀のみ。
「まぁ…そうだな。そうかもな、もしかしたら俺はこっちで決着をつけたいのかもしれない」
ログロはゆっくりと刀を抜く。
彼が醸し出す空気から紅羽は直感した。
“一歩でも歩けば斬り合いが始まる”と。
冥本とログロ。
この二人が柊家を襲い、両親を殺した。
「私に出来る事は……これで最後だ」
紅羽は銃を仕舞い、剣を構えて一歩踏み出す。
どんな奴だろうと必ず殺してやる。
…また互いに一歩踏み出す。
一歩、また一歩。
互いの間合いに入り───
「はっ!!」
「ッ!!」
キン!!
…と剣と刀による衝突で、甲高い金属音が部屋中に響くのであった。
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【堺・迅】
「堺サン。本当にここに柊拓がいるんすかね?」
「……懸念は尤もだ。流石にこれはおかしい…」
だいたいの部屋は見て回った二人。
人身売買をするのは情報としては知っているが、流石にこれはおかしい。
「潜一。聞こえるか?」
『はい聞こえます』
「すまない。拓探しは難航している」
『こっちもですよ』
潜一・湊班も同時に捜索しているものの、全くと言っていいほど人の“ひ”の字すらないのだ。
ここまで人を散らしていないとするに……
仮に第三ホールに柊兄や他の売買にかけられる人間がいた場合、紅羽が報告するはず。
(柊紅羽の能力作戦はあくまでも、“人身売買の開始”だったからな。極限まで戦闘を避けようとしたのが裏目に出たか)
「設計図には、第三ホールに何人も置いておけるスペースなんてなかった。やっぱり違う場所に置いているのが正解なんじゃないのかぁ?」
『…………クソッ』
迅の一言に考え出す潜一。
紅羽の“麻酔”がどれくらい持つのかは個人差がある以上、あまりジタバタしたくない。
「潜一はそのまま───」
『堺さん。聞こえますか?』
その声はルシアだった。
『第三ホールに変な部屋があって……そこに変な地下室が……』
それを聞いて、堺はパンフレットを開く。
全体がどこにいるかを瞬時に特定し、判断を下す。
「俺達がいる所は…チッ、遠いな。潜一!湊!!お前達が向かうんだ!後で合流する!」
『了解!』と潜一達は通信を切り、ルシアのいる所へ向かったのであった。
晴菜達の報告で、この場所に冥本達、他の物喰いがいない事は知っている。
いない内に全てを終わらせるつもりだ。
「行くぞ!!迅!」
「はい!!!」
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【第一ホール:紅羽・ログロ】
剣戟の応酬。
甲高い音が響く。
その中で、たった一人。
息が絶えながら男の剣技をかろうじて防いでいる。
「クソ……!」
第三ホールでの能力の継続発動が、紅羽に負担として重くのしかかっていた。
「あっ!!」
姿勢が崩れて、尻もちをついた所に─────
「遅い!」
大きく刀を真下に振るうログロ。
避ける暇はない。
「グッ…!!」
その姿勢のまま刀を受け止める紅羽。
両腕で振り下ろされた刀はとても重く、同じ両腕で剣を持って防いでいるのにこの力の差。
プルプルと震える腕から、自身の限界が迫っていくことを感じる。
「剣とかまともにやった事ないのに、こんなに強いとはな……やるなぁ!」
「はぁ…!はぁ…!くっ!!」
彼女の根性でログロの刀を少しずつ押し返す。
その様子を見て、彼は嬉しそうに呟く。
「良いね。ご褒美だ」
刀を真横に振り、紅羽を少し遠くへ吹き飛ばした。
そうして彼の手から冷気が漏れ出す。
「『氷結』」
そう唱えた時、地面から隆起するように小さな氷柱が紅羽に迫る。
「ッ!!」
真横に避けて、ログロの能力を躱した。
氷の生成。
物喰い最強の武力は伊達じゃない。
「さぁ……どうする?」
「ッ…『酩酊』────あっ…!」
辺りを見渡すと、大きな窓ガラスがド派手に割られていた。
「それ。毒ガス的な感じだろ?それをやられるとマジでやばいからな。防がせてもらった」
ははっと笑いながら返すログロ。
それをただ睨む紅羽。
奴と冥本には一度、自身の能力を浴びせた事があった。
忘れていた事に一抹の願いを懸けていたが、流石にそうではなかったが。
「手の内は互いに明かしたな。さぁ…第二ラウンドだ!!」
刀を紅羽に向けながら真っ直ぐ此方に接近。
重苦しい緊張が、紅羽を襲う。
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【潜一・湊】
「ここだ」
このホールに相応しくない、真っ暗なマンホールみたいにそこに佇んでいる。
明らかにここが変だ。
「開けるわよ…せ〜のっ!!」
潜一とルシアが力を合わせてその地下扉を開けた。
金属製の扉でとても重い。
息が荒れながらも、三人はそのまま部屋に入る。
「湊、先行してくれ」
部屋の中を捜索すると、薄暗く小汚い地下室が待ち受けていた。
こんな所に閉じ込められたら精神を病む。
もし仮にここに柊兄がいても……
「誰だ!!」
それよりも速く、物喰い関係者の黒服が数名、声を荒げて叫ぶ。
即座に撃たれ、湊が撃ち抜かれた。
潜一とルシアは近くの遮蔽物に隠れ、なんとか銃弾の嵐を防ぐ。
「………?」
牢屋にいる一人の男が銃声に気付き、違和感を覚える。
助けに来たのか?
それともトラブル?
(変に騒いで殴られるのは面倒くせぇしなぁ…う〜んどうすればいいか───)
「クソッ!!まさかここがバレるなんて……警察か!!」
「…!」
助けが来た!!
一年間拷問に耐えた甲斐があった。
「お〜い!!!助けてくれぇ!!!俺の名前は柊拓!!!助けてくれたら……あ!酒!酒作れます!!是非ともよろしくー!!!」
狭い地下室。
そこにむさ苦しい男の全力の叫びが響いた。
「……ははっ!全然似てねぇ」
潜一は軽く笑いながら、ルシアに麻酔銃を投げる。
それをキャッチしたルシアは片手に水を作り、応戦体勢。
「ぜってぇ救わなきゃな」
潜一の一言に強く頷いたルシアなのであった。




