File.32 酩酊
今回は短め
【第三ホール】
「柊紅羽です!!」
第三ホール・セキュリティ室にいる一人の男が叫んだ。
ログロ達は、壁にもたれロープを天井に括り付けた紅羽を凝視していた。
第三ホールの壁は残念ながら彼女が走りやすいように斜めに出来ている。
(このままこっちへ来るつもりか……?)
彼は自身の腰に掛けてある刀に手を置く。
だがこのガラスは防弾仕様。
割ることなどできないだろう。
「ん…?」
紅羽は此方など一切確認していない。
ずっと“下”を───
(何をする?紅羽?下の客をどうするつもり───)
───突如二人が酒に酔った様に体を大きく揺らし……
「おいおい。狙いはそっちかよ」
冷や汗がログロに伝う。
一年前、確かに柊紅羽は能力を覚醒してみせた。
もし…この状況をどうにか出来るのなら。
そうして、紅羽の能力発動。
全てはこの時の為にあったのだ。
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【作戦会議時】
「対策課と潜一と湊でセキュリティ室・機械室を乗っ取る。そうすれば、紅羽さんが暴れられる」
潜一の作戦は紅羽に大暴れさせる為に徹底的にお膳立てする……というもの。
「機械室にある全機械を破壊。紅羽さんが暴れるタイミングで第三ホール内にあるセキュリティ室は破壊。こうすれば────」
「私は『酩酊』を扱える訳だな」
「…どう言うこと…ですか?」
思わず湊が聞き返すと、潜一は答える。
「ログロと戦う為には第三ホールにいる客や警備員が邪魔。なら……そいつらを離脱させればいい」
酩酊なら全てをイーブンに出来るのだ。
会場に集まる人間のほとんどはホールに集まるのだから……
「私の能力は“酔い”と“催眠”。そして───」
この三つ目の能力のおかげでルシアや京極ビルでのラミアを捕まえる事が出来た。
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【今に戻る】
紅羽は大きく息を吸い……吐く。
ナイフは壁に突き刺さっている為、バランス問題はクリア。
後は“走る”だけ。
紅羽の酩酊を全体に行き届かせるのだ。
「『酩酊』」
能力発動と同時に会場の電気が切れた。
潜一達が機械室を陥としたのだろう。
ジャストタイミングだ。
会場全体が暗闇に覆われる中、紅羽は迷わず走り出す。
「おい!機械室!!予備電源は!!?」
応答はない。
恐らく紅羽の仲間が、何かをしたのか。
「いや〜やられたな」
軽く返したログロ。
後は“興味”をそのまま、紅羽がどうするかを見届けるまでだ。
そんなやりとりをしていたログロ達。
窓越しに紅羽がホール中を走っている姿を見て、これから何が起きるかを考えていた。
「なんだ…?酒の香りが…」
「誰だよこんな所で酒を飲んでる奴!!」
二階の客席から、そんな叫びが聞こえ始めた時──
司会者のうるさい声までも掻き消す、男の大きな声が聞こえた。
「おい!!上に誰かいるぞ!!」
空気を切る音と、客達の目が暗闇に慣れたのか、ロープを繋いだまま走る紅羽の姿が目に映る。
この暗闇で紅羽を狙う事は難しい。
そうこうしている間に、紅羽はこの円形ホールを二周した。
(誰も分からないだろう。ログロ、客共)
酩酊の能力。
その三つ目は────
「ん…なんか眠く…」
「やべぇ…飲みすぎたか……?」
「酒の匂いが……」
そうして再び、二階からそんな声が聞こえる。
様々な言い方はあれど全員が共通した感覚は“睡魔”だ。
───私の能力は“酔い”と“催眠”。そして──“麻酔”だ。
「全員眠らすつもりか!!柊紅羽…!」
能力による未知の毒ガスではあるが、物質としてはアルコールに近い。
これは空気より重い。
二階から撒き散らせば……
「一階にも影響を出せる。全員……全員眠らせるつもりか!」
「……………」
楽しそうに語るログロ。
その様子と紅羽の奇策に、セキュリティ室にいる部下は唖然とする。
「……ッ」
紅羽の息が少しずつ荒くなってきた。
その憂いは作戦会議での会話でこんな問題が浮かんだ。
───能力を使えば、体力が減るんですよね?
湊の質問は至極真っ当なものだった。
───そこは問題ない。紅羽さんの馬鹿体力を前提とした作戦だからな。
───馬鹿は余計だ潜一。でも…まぁ…そうだな。能力を発動し続けたとしても…私は倒れる気はないがな。
彼女の根性に近い能力の継続的発動は会場の人間達を全員眠らせるに至った。
「セキュリティ室作業員はここに留まれ」
ロープを伸ばし、地面に着地した紅羽を見据えるログロ。
人差し指と中指をクイッと曲げ、紅羽に示す。
“かかってこい”
そうして彼はセキュリティ室から出ていった。
それを見ていた紅羽もそこへと向かう。
息も絶え絶え、体力は確実に減っている。
それでも…奴を殺す為にここにきた。
「……いいだろう」
剣を抜き、片手に銃を構えて第三ホールを出る前に────
「柊さん!」
全員が寝ている客席から一人立ち上がった。
その女は…
「ルシア…まだいたのか?」
彼女はわざわざガスマスクを付けてその場にいたのだ。
少し驚いたように返した紅羽に「ふふ…」と軽く微笑んだルシア。
「私もやれる事をします。だから……死なないで」
「フッ。無論だ」
元物喰いメンバーであるルシア。
奴らに裏切られたとは言え、昔の仲間であるログロを殺すのは中々複雑そうだ。
湊も言っていたが、初めて会った時よりも物腰が更に柔らかくなった気がする。
元よりこんな感じの人間だったのかもしれない。
「勝負だ。ログロ…!」
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【冥本】
「ふ〜ん。能力の進化。ねぇ…」
「……少しログロが心配になってきたな」
ある神社にて、冥本とブレンは能力という未知の技について調べていた。
紅羽達よりも能力関係の情報について詳しい訳ではないが……
「ま、ある程度は知れた」
「どうする?行くのか?冥本?」
「あぁ。日本への挑戦フェーズを成功させるには、ア
レが必要不可欠だからな」
そうして神社のど真ん中で、防弾チョッキやライフルなどの武装を済ませる二人。
「ここって静かでいいよな。在中しているお坊さん?もいないし」
「まぁな。穴場って奴だな」
「ま、今日はたまたまいたみたいだけど」
冥本の装備は連射も単発も出来るライフル。
ブレンはショットガンを持ち、メインウェポンは準備完了。
「最初は少数精鋭だろうけど、時間が経てば経つ程、敵は増えていくだろう。ならば…敵の武力を大きく上回るんだ」
車に乗り、冥本は楽しそうに語る。
「“武器”も敵も…全てがそこに揃ってる。問題はないさ」
ブレンは冥本の分の銃を調整しつつ、楽しそうに笑っていた。
「よし…行こうか」
彼らの作戦は────?




