File.29 競売へ
【翌朝】
「それで…競売の事なんだが」
紅羽陣営が目指すは兄である拓の救出。
そして芳沢達警察陣営がやるべきは競売の破壊だ。
利害は一致しているこの状況。
二つの武力が合わされば更に勝ちへと近づく。
だからこそ慎重に。
「ルシア、場所はどこにある?」
「あるアリーナだ」
彼女はだいたいの設計図を書き始めた。
その見た目はスポーツスタジアムの形に近い。
客が主催者を取り囲む、ザ・競売の形だ。
「…と言うかここ!グランドアリーナじゃ!?」
東京の有名なアリーナで湊の好きな歌手がここでライブをした事があった。
東京の近くにあるアリーナ。
収容人数は都内でも最多クラス。
スポーツ・音楽ライブ・その他イベントで大活躍のここで、最悪の祭典があったというのか。
「なんで冥本はここでやるんだ?」
「冥本が言うには、人が多く入れるから」
さも当然に語るルシア。
相変わらず奴のシンプルで適当な思考には驚かされる。
(まぁでも……)
そこに物喰いや裏社会の人間が集まるとしたら……
「見て見ぬふり。もしくは何者かによって隠されているか」
「………!!」
その一言に芳沢は何かを考えた様だが口には出さなかった。
変な間が空く前に彼女は続けて呟く。
「変に警察やSATなどを突入させても返り討ち、最悪のケースとして国民に被害が及ぶ可能性だってある」
大規模突入は得策じゃないと言うわけだ。
厄介そうに語る紅羽と芳沢。
「行くしかないでしょう」
潜一がそう語る。
考えるべき所と考えるべきじゃない所は分けるべき。
そして、スマホを見ながら潜一は皆の前にある情報を提供した。
「一般的なアリーナには必ずセキュリティ室・機械室・サーバー室などがあります」
スマホで見せたのはある写真。
様々なアリーナの設計図だ。
「俺達の勝利条件である救出と競売の壊滅にはここを叩き、支配する事が……必要不可欠」
人身売買や武器の売買がある以上参加するのは無論裏社会の人間。
物喰いが指示を出せば、敵は無限に近い。
的確且つ迅速さが求められる。
「なら此方としてもより精鋭を積もう」
「精鋭?どう言う──」
紅羽が返した瞬間、芳沢のスマホから通知が。
『九条です。特異対策課がアメリカから帰還しました」
「いいタイミングだな。分かった、そのまま指定した場所に対策課を集合させてくれ。後楓…すまないが私の仕事もやってくれないか?少しだけだが帰れそうにない」
『ふふ…分かってますよ。了解です』
特異対策課の上司、九条楓の一言に芳沢は笑みを浮かべながら立ち上がった。
「ここで話すより有意義な“場所”と“人”を提供しよう。ついてこい」
「?」
そうして紅羽達は芳沢の車に乗り発進。
彼女が言うには、そこが“前哨基地”になるらしいが…
着いた場所は、よく分からないバーだった。
「ここの店主とは知り合いでな。ドイツに旅行するから三週間くらい開けると知らされていたんだ」
「…酒。嫌いなんじゃなかったのか?」
思わず返した和泉。
「あぁ嫌いだ。その嫌いな中でも好きなのがカクテルってだけだ」
そう芳沢は返し、訳が分からんと肩をすくめた和泉と潜一だった。
彼女は扉を開き、紅羽達に入る様促す。
「その中にいる奴らがお前達の協力者だ、楓に仕事を任せているからな、私達は帰る」
「なんだ、俺もか?」
「ここから先、考察は必要じゃない。お前の出番はないんだ」
「あそう」
和泉の首を掴み、芳沢は紅羽達に軽く手を振りそのまま帰った。
本当に彼女は多忙が似合う。
楓という人間に仕事を預けてまだ数時間しか経っていないが……
「い…忙しいって大変ですね……」
湊がそう呟くと、潜一は何度も強く頷く。
警察時代…どうやら本当に大変だったらしい。
そんな事がありつつも紅羽はバーの中へと足を踏み入れる。
……そこにいたのは、かつての────
グラスを置き、此方を見つめる男がそこにいた。
「柊紅羽」
「久々だな……堺」
座席に足を組んで座っていたのは…特異対策課のリーダー堺だった。
そして後ろには楽しそうにパズルをしていた迅・千景・晴菜。
「今の俺達は味方だ、物喰いを終わらすまでな」
京極オフィスビルでのいざこざはあるが……まぁ問題はない。
敵対するなんて理由はないのだから。
「フッ……そうだな」
紅羽陣営と特異対策課。
二つの強者たちが合わさった瞬間でもあるのであった。
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【車内:芳沢と和泉】
「……和泉」
「なんだ?」
どこから持ってきたのか…彼は再び飴を舐めながら芳沢の方を見る。
彼は飴を持つ癖として、人差し指と中指、中指と薬指で飴の棒を挟む癖があるのだ。
「もし…お前の言うその“意義”という奴がなくなったらどうなるんだ?」
「……………」
「和泉?」
「さぁ?もしかしたら、この世界からお前という存在が消えるかもな」
脅す様に…と言うより、淡々とそう告げた和泉。
外をただ見つめる彼に芳沢は何故こんな話をしたか分からなくなった。
「……まぁ、意義を失くすなっていう話で───」
「でも」
「あ?」
和泉は芳沢の一言を覆う様に語る。
「そこからしか見えないものもある。そしてまたゼロから“意義”を見つけ出す事が出来たのなら、再びこの世界に誕生したとも言える」
「誕生……」
「この世界…地球にいるヒトという種族は皆、往々に意義を持っている。それを失くしたとしてもまた新しいものを見つけるさ」
彼は認めないが、どことなく和泉には哲学者の一面がある…気がする。
それを伝えたとしても一向に認めない和泉なのだが。
「能力者とは、その“結晶”だからな。あのガキにも聞かれたよ。「どうして感情説を信じるんですか」ってな」
少し間を空けて、その思いを和泉は話す。
「何故か?今時のガキは本当に面白い事を聞く。
答えはシンプル!そう…信じたいじゃないか?」
人には無限の可能性がある。
人それぞれなんて言うのは個性の範疇。
他の人に出来て、他全員が出来ないなんて言う話など…絶対にあり得ないからだ。
「…馬鹿を友人に持つと本当に大変だ」
「まぁ…これも絵空事だがな〜」
「あそう」
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【紅羽・警察陣営】
「お前…涼風湊か!?」
迅が思わず彼女に指差して叫んだ。
その一言に千景と晴菜も驚いた表情。
「あはは…本日二回目ですね」
「やっぱり……堺さんの言う通り物喰い関係者じゃなかったんですね…」
まさか紅羽陣営と組んでいたとは。
本当に驚いたと言いたげに晴菜は零した。
「不死身の能力者…あなたの様な学生を戦いに巻き込むのは申し訳ないけど──」
「あぁ、役に立つなら問題ねぇ」
迅と千景の一言に強く頷いた湊、酒に関する能力者と不死の能力者。
そして元警察と公安。
「俺達で、競売を終わらすぞ」
「無論だ」
こうして潜一主導で作戦会議がスタートするのであった。
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【アリーナ:ログロ】
物喰いの構成員の一人。
刀の男ことログロ。
今回の主催者でもある。
様々な協力者に武力と信用を強固にする為にこの競売は必要なのだ。
「……冥本?」
あちこちに指示を行っていた時、ログロの携帯に通知が。
『ログロ。調子はどうだい?』
「まぁそこそこだな。お前は今どこにいるんだ──おい、なんか「ナイッサー!!」とか「ナイスレシーブ!!」とか聞こえるんだが!?」
『バレークラブに混ざってママさん達と練習中だ。その後に行く場所があるから、その間の暇つぶしかな』
相変わらずこいつの八方美人さというか勝手さには舌を巻く。
寿司握るのはもう飽きたのか。
まぁそんな事より……
「“行く場所”?」
『あ?俺が行くべき場所はな……いや秘密。それよりも柊紅羽についてなんだが──』
「………ほぅ」
彼の作戦を聞いて、冥本という人間を本当に心底恐れたログロなのであった。
『んじゃ……頼んだぞ。ログロ!』
「あぁ…任せとけ!!」
こうして通話は終了。
競売まで残り一週間。
出来る限りの手を打つ。
もう少しで……
「さぁ……準備だ」
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【一週間後:紅羽陣営】
車の中。
アリーナに近づいた時、堺が口を開いた。
「柊紅羽」
「ん?」
「俺達は作戦を遵守する。でもお前は…好きに動いてくれて構わない」
これは堺の独断専行という訳ではないのだろう。
車の中にいる迅達は一切動じていない。
「…分かった」
拓の救出。
それが紅羽の悲願であり、今までの意義。
潜一と湊も、拳銃を持ち準備。
紅羽も脇辺りに銃を携えている。
静かなやり取りが終わり、アリーナが窓から見えた。そこには至る所に怪しい黒い車達が。
「行くぞ」
扉を開け、黒いスーツに身を包んだ紅羽達はアリーナへと進む。
東京グランドアリーナ。
ヤクザ・マフィア…裏社会の連中が集まるこの中で、
柊紅羽の…戦いが始まる。
次回:When
お楽しみに。
マジで頑張ります、応援よろしくお願いします。




