File.28 会合
「本当にここに来るんですか?潜一さん」
湊は潜一にそう訴える。
渋谷テロ時、SATの隊長に潜一は“芳沢をここへ招待して欲しい”と頼んだ。
指定した時刻に紅羽宅へと来る様に。
完全に潜一の独断専行、紅羽もそれについては賛成したが少し焦る。
「…約束を反故にされ武力での制圧をしてくる可能性だってあるさ。そりゃあな」
冷や汗が紅羽の頬に伝う。
芳沢がどんな人間なのかも分からないのだから。
そうして数分。約束の時間になった直後に車の音が。
こんな辺境な所に車なんて来ない。
つまり───
「来たな」
真っ暗な車が山道を通って家の近くに止まり、そうして扉から二人。出てきた。
「達潜一。何故私を信用した?五秒後にお前達は我々に制圧されていてもおかしくないというのに」
「隊長が信用するアンタを信じたまでだ」
─────なら…俺を助けてくれた男に報いる…!
そう隊長は芳沢に言っていた。
「………………」
彼女はその言葉を思い出し黙り込む。
数秒に掛けて互いに見つめる時間が続いたが、その静寂を打ち破ったのは……
「おいお前ら。何突っ立っているんだ?俺は早く柊紅羽の能力を解明したい」
そう愚痴を零す和泉。
「…じゃあそう言う事で」
「協力しましょう…うん」
一触即発の空気から一変、和泉の空気を読まないぶっこみ発言のお陰で、紅羽達と芳沢の間にあったものはなくなった気がした潜一なのであった。
【紅羽宅】
互いに向き合う形で座る紅羽と芳沢。
紅羽の隣には潜一と湊。
芳沢の隣には和泉が座る。
「涼風…やはり『物喰い側』の人間ではなかったか」
「僕も戦ってる。紅羽さんと一緒に」
「…保護だけではなく、共闘も……凄いな」
感嘆の一言を漏らした芳沢に、単刀直入に話を切り出す紅羽。
「芳沢。“情報共有”だ、お前達が知る情報をこっちに寄越せ」
「良いだろう…と言っても持っている情報はごく僅かだがな」
そうして芳沢は続けた語る。
「物喰いリーダー冥本。そんな人間は日本は存在しない。戸籍を偽り偽名を使っているのだろう」
「奴はどこ出身の何者だ?」
「人間である以上どこかで産まれ育つ。正体の一切が謎だ」
紅羽の問いに対して簡潔に答えた芳沢。
物喰いはそんな人間の集まりである事は知っていたが……こうも情報を遮断できるとは。
「それじゃあ……聞いてみるか」
「何?」
こっちに来いと部屋の奥からやってきたのは、“元”物喰いメンバーであるルシアだった。
「私は物喰いのメンバー。ルシアよ」
「……そうか」
どうやら彼女達はルシアという女を寝返らせる事に成功したらしい。
少しばかり驚きを見せた芳沢達だったがすぐさま冷静となり黙る。
「メンバーは三人。冥本、ログロ、ブレンの三人。
ログロは途中参加だけどブレンと冥本は最初期から仲間…って冥本は言ってた」
勿論この三人も厄介だが、一番厄介なのは奴らの財力と信頼。
傭兵や様々な人間を雇われたらキリがない。
今回の戦いでも仮にこれからの戦いでも、恐らく冥本単体と戦う事は…恐らく少ないだろう。
「ひとまずそれはもういい。謎を探す為には近づくしかない」
情報共有がひと段落ついた時、紅羽は此方が話したかった本命を話す。
紅羽の目を見て何かに気づいた芳沢は再び構える。
「芳沢。私達が協力する条件として此方が出せるのは…ルシアという人間を渡す事。逆にお前達から提示するのは…そこの博士さんの話だ」
潜一から情報として、能力者を研究する変な男がいるという話は聞いた事があった。
そして和泉を連れてきたと言う事は、能力について共有すべき何かがあるという事。
「…だそうだ。ほら、さっさと話な」
面倒くさそうに“お前の番だ”と言う様に、隣にいた和泉の肩を叩く。
全員の視線が和泉に向いたのを確認した瞬間、和泉は口を開いた。
「柊紅羽……酒に関する能力か。随分と面白いな」
「能力について教えてくれ、和泉」
紅羽の一言には一切答えずただひたすらに何かを考えている和泉。
「何故能力者は生まれるのか?アメリカの奴らと話し合って二つの“説”があったんだ」
「説?」
「一つは感情説。これは俺が一番支持する説だ。能力の発現は“根源的欲求”とそれに関する“行動”によって生まれる説だ」
「詳しい事はまだ分からんがな」と付け足し、和泉は再び語る。
「二つ目は才能説。元より他とは違う人間がいる話。これは世界で浸透してる説だな…残念ながら」
和泉のポリシーは“人間は皆平等”
特別な人間なんていない。
後者の説はできる限り認めたくはないのだろう。
「根源的欲求とは、本人ですら気づかない深層心理だ。大量に人を殺した人間の根源的欲求は他者からの愛かもしれない…みたいな話だな」
本人が欲する物と根源的な物は全く別物だって話だってある。
「能力者を差別する奴らも、たった一つのきっかけで能力を司るかもしれない」
「……なるほどな」
能力が芽生えたのは“そういう状況だったから”
和泉の考えにある程度は賛成できた紅羽。
もしかしたら能力とは……
「……能力とは人生の過程であり結果でもある。これこそが俺の考えだ」
そんな事がありつつも、競売や冥本について話し合い、気づいたら夜。
「少し休憩にしよう」
芳沢がそう切り出す。
「情報が一気に入ってきて…少しだけ頭が痛い…」
「こっから長丁場だ。耐えるんだ湊」
【休憩中】
湊と潜一達がコーヒーを淹れようとしていた時、紅羽は別の部屋で月をただ見ていた。
(今この瞬間。一番兄さんが近い)
だからこそ競売での戦闘は慎重にならなければならない。
絶対助ける。
彼女の復讐も兄の救出も、競売の任務を無事終わらせば落ち着く。
「私は……」
「柊紅羽」
「あ?またお前か」
和泉は飴を舐めながら紅羽の隣に立った。
そういえばコイツが話す時、癖なのか分からないが人差し指と中指をくっつけて話す。
「芳沢から聞いた。お前ン所は立派な酒屋だったらしいじゃないか」
「あぁ、父さんは蔵元で蔵人だった」
「ところで柊紅羽、酒は好きか?」
どこか含みのある一言に怪しむ紅羽だったが、
「…?まぁ能力の都合上酔えないが、好きだぞ」
「…そうか」
飴を口から出し、また和泉は口を開いた。
「柊家が酒屋を始めたのはいつだ?」
「…昭和初期だ」
「逆算すると…だいたい百年か」
何が言いたいのか分からない紅羽、会話を焦らす彼に痺れを切らし聞く。
「それを聞いて何になる?」
「柊。もし…もしだ、能力が遺伝する。と言ったら信じるか?」
衝撃的な告白。
紅羽の顔から少しの間だけ冷静さが消えた。
…がすぐ元の顔に戻り「…なんだと?」と返す。
「二十年も前…ある韓国人に、視力が異様に発達する能力を持った人間がいた。その数値まさかの18.2」
構造上最高でも3.0が人間が得れる視力の最大値。
「問題はそこじゃない。そしてそいつにも息子が出来たのだが……驚くべき事に息子の視力は8.5だった」
「…まさか!」
「あぁ。能力値は低減するもののそれは次の世代にまで受け継がれる事が分かったんだ」
そしてまた飴を口に含み話す和泉。
「これは俺の妄想でしかない。だが、もしこれが正しければ…柊紅羽、お前は百年の伝統を受け継いだ“蔵人になる人間”なのかもしれない」
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【物喰い】
冥本、ログロ、ブレンの三人は秘密基地でこれからについて作戦会議中。
そこで冥本はいつも通りある事を呟く。
「俺ちょっと東京で寿司握ってくる」
「……もうお前が何を言っても驚かん。しかも今回は作戦にマジで何も関係ない奴だろ」
「ピンポーン。だから競売は頼んだぞ、ログロ」
彼の肩に手を置き“興味”をそのまま彼はどこかへ行ってしまった。
ブレンは休となり彼もどこかへ。
残ったログロは競売の主催を務めるべく準備を進める。
……扉を開ける寸前に、冥本が零した言葉を知らずに。
「行けたら行くわ、多分な」




