File.27 尋問と考え
【紅羽宅】
「ルシア、お前らは何故テロを起こすんだ?」
紅羽は物喰いメンバーであるルシアにナイフに押し当て低く呟いた。
手足を縛っている為に彼女は一切の抵抗が出来ない。
「…私…は…」
「……?」
涙を零し、真っ暗な顔をして言葉を紡ぐルシアに潜一は違和感を覚える。
一体何を悲しんでいるのか分からないのだ。
捕まった事?助けに来ない冥本への失望?
他に何がある?
「…話せ、お前らは何者なんだ?」
「知らない」
「は?」
「私は……奴らの事なんて…全く知らない」
「…………………」
彼女は全くと言っていいほど話さなくなってしまった。
でも嘘をついている気はしない。
本当に知らない……のだろう。
その様子に潜一は気になった事を話す。
「お前は何故、何処で『物喰い』に加わったんだ?」
少しの間があったが話すになった様で、涙をそのまま、彼女は自身の過去をぽつぽつと語り出した。
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【アメリカ:二十年前】
「あっち行け!!」
「変なの〜!」
石を投げられ、他の子供達からいじめられていたルシア。
“体から水が出る”だから不気味…という理由で。
気持ちは分からなくもない。
何年も前から人智を超える力を持つ能力者は確認されていたが……世界的にも人数は少ない為に差別の対象になっている地域も多いのだ。
(おなかすいた……さっき投げられた石…いたかったな……)
外れの地域である以上、村の仲間意識は根強い。
一人が差別すれば皆する。
何故差別をされていたのか?
それは物心ついた頃から彼女は能力が使えたから。
水を作れる。
喉の渇きはそれでなんとかなったのだが……
能力を使えば使うほど体力は消耗する。
一回一回喉の渇きを潤しても体力は大幅に減っていく。つまり……
「はぁ…はぁ……はぁ…」
疲れて動けなくなりその場に倒れる。
水を出しても腹は満たないし、栄養だって得られない。
……どうしようもない。
(誰もごはんをくれない……家も……くれるのは石ころだけ……酷い…!悔しい…!!水が出せるだけなのに……)
悔し涙を零し、硬い土に倒れてただ絶望するだけ。
ルシアの人生は生まれた頃から死と隣り合わせだったのだ。
「おいおい、何やってんだ嬢ちゃん?」
諦めて目を瞑ろうとした時、男の声が聞こえた。
ゆっくりと上を向いたら……
黒いスーツを着た男が彼女を見ている。
「おじ…さんこそ何を…してるの?」
「いや〜ここら辺にある町の風習として、火を囲んで変な踊りするらしいじゃん?“興味”があってここまで来たんだよね」
「…………」
「あれ?気絶しちゃった?」
よく見れば彼女はガリガリに痩せこけていた。
男は何を思ったのか後ろにいた筋肉質の男に彼女を預け町へと向かう。
【数時間後】
「ん……」
「あははは!!冥本なんだそのダンスは!!」
目を覚ましたルシアは暖かい部屋にいた。
そうした時に、近くにいた筋肉質の男は目の前にいる黒スーツの男が変なダンスを楽しそうにしている。
「俺も最初はそう思ったけど、踊れる様になると中々楽しいぞ。ブレンもやれよ」
「やらん」
そう言いながらも男は踊るのをやめない。
…本当にやめずにずっとループしている。
「…おじさん達は?」
「俺達は『物喰い』だ。これから名高いテロ組織になってやるさ」
冥本と言われる男は踊りながらそう語り、ルシアを見続けていた。
「ここら辺りは能力者の差別が激しい。俺達はそう言う差別もなくしたいんだよね」
軽く話した男。
「………え?」
「お前も俺達と一緒に来るか?」
筋肉質の男はそう告げると彼女は悩み出す。
───あっち行け!!
───変なの〜!
もうそんな扱いを受けない為に…誰もそんな扱いを受けないない為に。
差別を失くす為には悪が必要だと、子供心なりに考えたルシアは冥本との誘いに乗ったのであった。
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【時は今】
「私自身…死にたくなかったしね…」
暖かい部屋、ご飯、睡眠。
本来当たり前としてあるものが得れてなかったルシア。
冥本の誘いはヒーローじみたものだった。
「冥本は親みたいな存在だったし、今までのテロには私“達”…いや、“私”なりの正義があった」
「他のメンバーはその正義を持っていたのか?」
彼女の過去を聞いて考えが少し変わった紅羽は、ひとまずそれを聞く。
「…………なかった。が正しいわね」
信じていたのに。
冥本達は差別の為に戦っていると思っていたし、実際そうしてした。
「渋谷のテロで…私が馬鹿だったと気づいたわ」
「………哀れだな」
潜一は彼女に向けて何を話せばいいか分からなくなりそう呟く。
親という身分を利用して正義感に燃える彼女をここまで利用できるものなのか。
「兄は?お前らが捕まえた柊拓はどこにいる…?」
「恐らく…彼から情報を聞き出せずに“競売”を出すはず」
「競売??情報?」
彼の問いに間を空けてルシアは呟く。
「人身売買、武器開発、武器売買……裏社会の人間が集まる市場」
法など無視。
目指すべきはそこだと悟る紅羽。
「それで情報とは?」
「冥本は言ってた。柊拓…もしくは柊家には能力者を強化する血を持っている…って」
「は…!?」
それを聞いて紅羽は目を大きく見開く。
何故奴らが一年前に家族を襲撃したのか。
どうしてわざわざ拓だけを誘拐したのか。
全てが繋がったが、新しい謎が生まれた紅羽達であった。
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【芳沢・和泉】
「おぉ来たのか」
能力者について研究している博士・和泉。
能力者管理委員会の一人である芳沢は彼と個人的な繋がりがある。
「偉い奴は大変だなぁ!」
「うるせぇ」
どこか悪友感のある二人。
和泉の言葉を適当に返した芳沢。
「柊紅羽との対談は後二時間だ。少し歩かないか?」
「レディのお誘いとなれば」
「お前は変わらんな……」
「女は死んでも美女だからな。俺みたいな男は死ぬまでレディーファーストを貫くのさ」
相も変わらず訳が分からない言葉を吐く和泉。
「口説くなら他にしてくれ」と返した芳沢は東京の街並みへと向かう。
【数分後】
夜の東京は今日も賑やかだ。
外で楽しそうに話す部活帰りの学生達。
居酒屋で飲みまくるリーマン達。
二人は酔うのは好きだがあまり酒の味が好きじゃない。
「面白い事があってな」
「あ?」
髭だらけの顎を触りながら和泉は話し始めた。
その目にはどこか哀愁…というより何かを考えていた様子だ。
「博物館で俺はあるイベントに出たんだ。その時、小学生くらいのガキが俺にある事を聞いてきた。
“生きる事の意味ってなんですか?”ってな」
芳沢は面倒なのかその問いを考えていたのか、特に返事をする事なく、黙って話を聞いていた。
「俺はその問いを“それは死ぬまで分からない”と答えた。実際に俺はそう思っていたはずなのに…その問いが今も頭の中で駆け巡るんだ」
彼はこんな不健康体なのにタバコや酒が嫌いだ。
何かに熱中する為には外側を気にする事は無駄な行為と言い続けている。
「そして俺はある事を考えた。生物…もしかしたら人間は生きる意味を失いつつあるのだと」
「…なんだと?」
「そもそも生物の意義とはなんだ??それは種の繁栄・存続だ」
和泉は胸のポケットから飴を取り出し口を含む。
「人間だってそうだった。だが今はどうだ?好きに生きれる。好きに生きる権利を保証されてる。子供を作らなくても問題はないし強制もされない」
「問題ではあるがな」
現に今の日本は少子化だ。
「生きる意義を見つけたいなら、強制されない事に感謝をし、しょうもない日々から見つけていくしかない」
歩きながら話す内容ではないが、二人は完全にこの話題に夢中になっていた。
「“生きる意味はなんですか?”…か。その問いの答えに必要なのは答えが無限にある事だ。どうせ人は死ぬまで自由を手放す事はないんだ。好きに生きたらいいじゃないか」
飴を舐め、夜空を眺め、人々の喧騒の中で彼はある答えに至る。
「それが迷惑な事でも素晴らしい事でも、人は生きてるんだ。好きに」
「……私は」
「芳沢、お前は何をするんだ?」
「安心しろ。警察である以上最期まで私の正義を果たすさ」
後輩達の為に彼女は戦う。
無能だろうが有能だろうがクズだろうが。
こんな話で覚悟がまた決まり直すのは、和泉が言った“しょうもない日々から意義を見つける”かもしれない。
「フッ…ありがとな」
「?…何よりだ」
人物紹介
和泉
年齢:四十二歳
職業:学者
好きな事:考える事。
芳沢
年齢:四十五歳
好きな事:特になし




