File.25 堺と楓
【事件当日から数週間】
「どうしたの?そっちを見て」
千景は悔しさと憧れを秘めた目を奥にある上司二人を睨んでいた。
九条楓と堺修司、警察内でも名高い二人。
芳沢が上層部に入った以上、今この二人が主力となり国を守っている。
追いつきたい本心。
一人前の定義なんて分からないが、彼らは間違いなくプロだ。
「確かにあの二人は別格ね。悔しいけど」
「クッソ〜」
「一度だけ九条さんと同じ任務に就いた事があるんだけど、とんでもない射撃技術だったわ」
千景が見たもの。
それは超遠距離を拳銃で敵の拳銃をピンポイントに狙撃して無効化した。
「……なるほどな」
“ヒットマン”という異名を持つ訳だ。
射撃技術は警察内でもトップ。
「こっちは堺サンと一緒になった事あっけどさ、あの人の判断速度マジでヤバいぞ」
全体像を見て淡々と判断を下す彼は指揮官として優秀。
堺修司二十八歳。
九条楓二十九歳。
間違いなく二人のお陰で黄金世代だ。
「絶対追い立てやるからなぁ……」
「ははっ、馬鹿って限界を知らないよね。でもまぁ…そうだね」
迅と千景。
優秀な二人は今も怪物の背中を見ていた。
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【食堂】
「つっても、どうすりゃ追いつけるのか……」
「馬鹿なんだから頭使うとどんどん差をつくよ」
「言い過ぎだろ」
あまりにも刺々しい返し思わず、唖然としてしまう迅。
様々な事件を二人で解決してきた為に、ある種の相棒感は強くなってきた。
喧嘩するほど仲が良い。
…で片付けていいのか分からないが……
「“千景”てめーもなんか考えろよなぁ」
「ああいうのは経験でしょ?難しく考えすぎだよ“迅”」
そんな公安の中でも優秀な彼らに一人の男が話しかけてきた。
「楽しそうだな」
知的な容姿、彼の顔に似合う眼鏡と見た目から“優秀そう”を醸し出す男の正体は──
「堺サン!?」「堺さん!」
先輩である堺修司だった。
凄い事に彼がここにいるだけで色んな人たちが彼らを…いや、彼を見ている。
「食事は済んだのか?」
「いえ…まだですけど」
「なら俺も混ぜてくれ」
良いですよと返す前に堺は座った。
そうして長く…気まずい食事を終えた後、堺は口を開く。
「迅、千景の二人は俺達の任務に加わってくれ」
単刀直入にそう告げた堺は二人の動揺を気にも留めずに続ける。
「ある建物に裏社会の人間が集まっていてな。可能性の範囲だが…外国のテロ組織ロボストがそこにいたかもしれない」
かなり驚いた二人だったが、堺の冷静な顔を見て更に驚いた。
恐怖を微塵も感じない。
「どうするつもりなんですか?堺さん」
「良い質問だ千景。簡潔に言おう、制圧する」
淡々と告げた堺に苦い顔になる迅。
テロ組織と戦うつもりだ。
「先制攻撃…って言う事っすよね」
だからこそ優秀な奴が欲しい。
期待の新人二人に任せたいという思いが堺達にはあるのだ。
「お前達はかなり成長した。問題はないだろう」
「問題ないって…新人をそう簡単に重要な任務に加わらせて良いんですか?」
「案ずるな、俺は…俺達は強いからな。それで頼まれてくれるか?」
迅と千景。
二人は堺の目に応える様に強く頷くのだった。
【当日】
面倒な事にその場所は……ある港。
かなり広い上に周りには人一人寄らない場所だ。
「ここから先は出来る限り固まって動く。奴らがどういった人物が想像ができない」
堺は辺りを確認し直後に指示を下す。
二人はそれについていくのがやっとだ。
「二人とも落ち着いて。私達がついているから」
温かい優しい笑みを浮かべる楓。
堺と楓の二人の顔には汗一つない。
(ヤベェ人達だ)
そうして一つのコンテナに隠れ、奥にいる人影を捉えた。
どうやら……
「ここで作戦会議と言った所ね」
時間は夜の十九時。
焚き火を起こして何かを話している。
「敵はかなり武装している。決して正面から戦うなよ」
情報によると敵の数は数十人。
焚き火を囲んで話しているのは六人。
後四人いる。
「!」
迅が上を見て何を閃いたのか堺にそれを話す。
「九条さん。上のあのコンテナ撃てますか?」
「……成程ね」
楓達はそれを察したのかロープで繋がれているコンテナへと銃を向けた。
夜の闇に覆われているが彼女はそれを気にも留めていない。
「楓さん、迅。発砲後は落ちたコンテナに身を隠せ。俺と千景でカバーする」
三人は頷き、楓の顔が変わる。
息をゆっくりと吐いて『パンッ』と一発発砲。
爆音を鳴らし地面に落ちたコンテナは砂埃を纏いながら真下にある車を押し潰した。
大人数用のハイエース。
もう恐らく逃げる為の足はない。
「なんだ!?」
「誰だ!!」
動揺が続くのは数秒。
畳み掛ける。
「行け!!」
砂埃と真っ暗なせいで的確な射撃は出来ない。
今はさっさとこ六人を制圧するべきだ。
千景と堺は敵がいる所にひたすら発砲。
残りの二人でコンテナ裏へと向かい挟み撃ちにする。
「ッ!?」
銃から出る火薬…フラッシュからおおよその位置を特定して撃ち返してきた。
コンテナの端に当たり体を隠す千景。
後もう少し左にズレていたら見事に命中してきた。
「敵はロボスト確定だ。手慣れてる、注意しろ!」
「はい!!」
敵は奥のコンテナに隠れた……が。
そっちにもいる。
コンテナから楓が発砲。
闇からフラッシュが見えた時、奥からの射撃を防ぐべく隠れていた二人の腕や肩に命中した。
もう一つの方向から迅も発砲し足などに当て、動きを封じる。
焚き火にいた六人中三人の動きは止めれたが……
(潜伏している奴も含めれば…残り七人)
どうする。奥からも攻められない所に隠れてしまった。
楓は辺りを深くより広く観察。
(待て、こんなに暴れて他の四人はどこに……)
そうして敵側の方を見た時───
ピンっと音を鳴らした後、無音で此方に丸い物が近づいてくる。
それについて考える必要もない。
「(…手榴弾!!)迅!!」
彼の背中を少しでも遠くに片手で押し出し、いつ爆発するかも分からないこれを撃つ!!
弧を描いてゆっくりと接近する手榴弾に三発発砲し、その一発が手榴弾の端に当たった。
「ッ!!」
遠ざける事は出来た。そのまま地面に伏せ──
ドン!!と空中で爆発。
「迅!!楓さん!!」
「顔を出すな!」
千景の体を引っ張り射線を切る二人。
「警察がいたぞ!!」
「詰めろ詰めろ!!」
他の四人が集まってきたのか。
戦いが苛烈となるのを感じた堺。
少しだけ息を荒くしながら、彼は辺りを捜索し活路を探す。
何段にも積まれたコンテナ。
そこには細いタイヤなら通れそうな道。
奴らが乗っていた黒いバイクが見えた。
「あれだ」
「…え?」
「ついてこい」
残りの敵は海側から来た。
奥にいる楓達は大丈夫だろうが……
「グッ…」
「楓さん大丈夫ですか!?」
迅を守る為に覆う様に倒れてきた彼女の左耳端からは血が流れていた。
手榴弾から出た破片が楓の耳の一部を切り裂いたのだ。
「残念ながら…本当に痛いのはこっち…だなぁ」
苦笑いを浮かべながら楓は右手を見る。
破片まみれになり血だらけ。
動かせる物でもない。
「そこか!?」
彼女の背後から銃を持った男が一人。
(まずいこの体勢じゃ──)
「ッ…!!」
男が銃口を引くよりも速く楓は急いで振り向き銃口を引き、男の首に命中させた。
「迅」
「…え?」
「起きてしまった事は仕方がない。今できる事をやるだけだ。でも…心配しなくていい、私達には…頼れる“参謀”がいるからな」
彼女が笑った瞬間に、何段にも積まれたコンテナから一つのバイクが宙を舞う。
「……千景!?」
暗闇をバイクの光が切り裂き、全員の視界へと飛び出した。
指揮官の…奇策である。




