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酒鬼   作者: 半端者の柑橘系 
間章
24/29

File.24 久我原迅

【五年前】


「君達は警官としてこの国を──」


上官のそんな話。

はっきり言ってつまらない。


この国を守るなんて当たり前だ。

そんな事言われなくてもやってやる。


そうして警官としてあらゆる任務をこなしてきた迅は二年後、転機が訪れた。


【久我原迅:二十二歳】


「…公安」

テロや犯罪組織の対策などに戦う彼らの一員として、上からの通達。


これに拒否権はない。

認められた“証”であり…“普通”との別れを意味する。


嘘に塗れ、死ぬまで国に尽くす。

それが公安であるのだ。


「やってやるぜ」

この国の為に。

強い正義感を胸に迅は歩き出すのであった。


暫く移動して着いた場所は警視庁。

上には一つだけ、“公安部外事第四課”と書かれてある。


外事第四課…つまり国際テロ組織への対策がメインの課だ。


それでも偶に他の部署に駆り出される時があるが…それよりも事態は今だ。


扉を開けるとそこには一人だけ女がいた。

黒髪ショートカット。


サラサラした髪は彼女に良く似合っている。


「…………」


少しの時間だけ呆けていると、彼女は此方に気づいたのかトコトコと此方に近づき……


「あなたが久我原迅?」


「…そうです…?」

ちゃんと敬語で答える。

なんか若く見えるがどうせ年上だ。


俺が一番若い。

彼はそう思っていたのだが───


「私と同期ね!!よろしく!」


「は…はぁ!?」

日本の最下部を守る秘密組織公安らしかぬ動揺。


手を差し伸べてきた彼女の手にゆっくりと答え、唖然としながら用意されていた自分の席に座った。


これからどうなるのやら。

取り敢えず目先の書類をこなす。


「成程あいつが──」

「優秀と言われた若手の──」


近くの先輩方がそう話している。


もしかして俺!?

そう逸る気持ちを抑え先輩達を見るも……彼らの視線はそこを見ていない。


黒瀬千景(くろせちかげ)。優秀な奴が入ってきたらしいじゃないか。堂々としてるよな〜」


先輩達は彼女の話で盛り上がって迅の事など全く気に留めていなかった。


「………ぜってー見返してやる」


やる気を滾らせ燃焼させる。

先輩達は同じ新人の迅など視野にないと言った様子。


こうして公安に入り早二ヶ月。

ある情報を掴んだ公安は他国の諜報員を特定。


そして()()はその人間を張り込み中。

見た感じ東南アジア系列の人間だ。


(なんで……他の先輩じゃなくてこいつなんだ!?)


車の助手席に座っているのは───見返してやりたい千景本人だった。


彼女の黒髪は本当に夜景に合う。

此方へと振り向く彼女に急いで前を向く迅。


バレてないと思っていたが……


「私の顔に何かついてた─」

「ついてません!!」


「え?なんで敬語?」


迅は彼女を目の敵にはしているものの、それを私情には出さない。


それはそれとしてやっぱり悔しい。

二ヶ月の間、彼女は悉く任務を成功させていった。


なんとか食らい付いていった迅だったが、圧倒的に差がある。


「これ、敵が銃を所持していたらこれ使って」

彼女が渡してきたのは拳銃。


黙ってそれを受け取ると彼女は車から飛び出し正面の入り口へと向かった。


迅は裏口から。

情報によるとその諜報員は裏社会の連中と繋がっているらしい。


「任務遂行だ」


─────────────────────

【千景視点】


(私は正面から。仲間も揃ってるし、多少ここで交戦しても近くの住民に被害は及ばない。大丈夫、私は優秀…私は優秀!なんならここで全員捕まえてやる)


─── 優秀な奴が入ってきたらしいじゃないか。


─── 先輩達は彼女の話で盛り上がって此方の事など全く気に留めていなかった。


「大丈夫だよ。千景」


そう静かに呟き、彼女はひっそりと壁にもたれ近くにいる人達を視認。


メンバーは見える範囲では五人。

銃は…恐らく持っているだろう。


「日本は──」


やはり情報共有していた。

ここで捕まえる。


一度だけ息を吐いて、拳銃をしっかり握り、大声をあげる。


「動くなッ!!!!」


千景の声に驚いた五人は即座に遮蔽物へと隠れ潜伏。

ちゃんと近くに身を潜める場所で話していたのだ。


「チッ!!」

ヤケクソ気味に発砲した諜報員の一撃に即座に身を隠し、射線を切る。


裏社会の連中は良いとして、諜報員(こいつ)は駄目だ殺せない。


(どうする!?このまま隠れても逃げられる…!)

そう千景が考えた時、ドン!!と奥から銃声が。

スパイ以外の人間が倒れ、残るは一人に。


扉から身を出したのは相棒である迅だった。

少し唖然とする千景に。


「久我原君……ッ!!」

諜報員の視線が背後に向いたのと同時に、彼女は飛び出し発砲。


敵の銃を飛ばしそのまま身柄を確保。


「クソ……」

悔しそうに呟いた彼は合流した仲間に連れて行かれるのだった。


【車内:迅と千景】


「馬鹿、お前何をしてるんだ?」


そう千景に話す迅。

彼女は俯いて何も返さない。


「逃げる様子なんて欠片もなかっただろ!!今回裏口のロックがたまたま緩かったから俺が間に合ったが、五対一の状況で下手に戦うんじゃねぇよ」


こいつの事をエリートだと思っていたし、実際エリートだと思う。


どうしてこんな事をしたか理解できなかった。


「……ごめんなさい。本当に助かったわ…久我原君」


「黒瀬、いつものお前なら仲間の到着まで待ったはずだ。何があった?」


何故彼女の思いを聞こうとしているのか。

自分でも全く分からないが、聞くべきだと感じた。


「私は…弱いから。力も…心も」


「…………………」


「だからこうして、勉強も鍛錬も欠かさずやってきた。でも…期待されるって…こんなに嬉しくて…重いんだね」


分からないが分かる気がする。

迅が感じた事はそれだけ。


彼女の顔に涙が浮かんで……いた訳ではなかったが、それなりに打ち解けてくれたみたいだ。


「俺達は立場上、いつ死んでもおかしくねぇ。だがな…そんなメンタルで死なれて勝ち逃げさせるのはムカつくからな」


「え?」


「この二ヶ月。俺は“お前に”追いつこうと頑張ってきたんだ。でも勝てねぇ」


悔しさを露わにした迅は真っ直ぐな目で千景を見る。


「正直俺はお前の気持ちなんて分からん。期待されたら更に燃えるし、任されたら嬉しい。そこに重荷なんて感じた事なかった」


そうして彼はこう続けた。

「俺に勝てる奴が…そんなメンタルの持ち主でいられるのはムカつくんだよ!!重荷なんてぶっ壊せ!」


「……ははっ」


「何笑ってんだよ!!」


「久我原君、それマジで言ってるの?」

笑いながら返す彼女にムッとした表情を向ける迅。


あまりにも笑いすぎたせいなのかは分からないが、彼女から涙が零れていた。


「あはははっ!!本当馬鹿みたい!」


「黒瀬…!絶対お前より優秀な人間になってやるからな!」


「いいよ。勝負だね」


こうして一つの事件は終わりを告げ、新人の公安である二人は更に研鑽していくだろう。


───────────────

【千景宅】


スーツを脱ぎだらんとソファに座った彼女。

家でいつ眠ったかは覚えてない。


─── 俺に勝てる奴が…そんなメンタルの持ち主でいられるのはムカつくんだよ!!重荷なんてぶっ壊せ!


「ぶっ壊せ…か」

少しだけ微笑みながら千景は呟く。


「良い事言うなぁ…久我原君」



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