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酒鬼   作者: 半端者の柑橘系 
第二章
23/29

File.23 結果

【紅羽宅】


「はぁ……ふぅ…」


なんとかマスコミの目を避けて帰る事が出来た湊。

帽子を深く被って歩くのは大変だった。


紅羽の家に戻ると、そこには紅羽と潜一。そして──


「……………………」

口に包帯を巻かれて全く動けない物喰いの女メンバールシアだった。


紅羽は真剣な表情でルシアを睨みつける。


潜一は体中に包帯を巻いてパソコンを睨んでいた。

これからどうするかを考え中。


「湊、帰ってこれたか」


「なんとか……」

疲労困憊。

これ以上動ける気がしない。


「休んでてくれ」

紅羽の一言に湊は自分の部屋へと戻り、着替えた後風呂へと向かった。


物喰いのメンバーを確保出来たのは、彼らから得られた唯一の勝利だろう。


今こうして尋問の機会を得られた。

「そろそろニュースの時間だな」


潜一はテレビをつけ始める。

日本の歴史に残るであろうテロ。


出来れば政界の内容も映して欲しい。

『こんにちは。六月十三日水曜日、今日のニュースを始めます』


ニュースキャスターの表情はいつもよりも暗く、より重い感じだ。


『正午、テロ組織物喰いが渋谷に大量の爆薬で建物内を無差別に破壊するテロが起きました。このテロにより死者数は数千人を上る見込みで──』


「クソッ…!」

悔しさを噛み締めたかったが無理だった。

机を思いっきり叩いた潜一。


紅羽も悔しさと行き場のない怒りが募るが、ルシアの表情を観察しつつ、出来る限り冷静になる様に努める。


そんなルシアは勝ち誇った笑みを浮かべる……と思っていた紅羽だったが違った。


ルシアの表情には怒りと絶望の二色が彼女の心を掴んで放さない。


「……?」

それについて疑問に思ったがひとまず置いておく。


今テレビでは警視庁のインタビューが報道中。

『我々日本警察の威信に懸けて、これ以上テロの縮小を目指していきます』


SAT十五名が負けた以上、彼らも容易に手を出せなくなっただろう。


(暫く奴らも動けないだろうな)

世界と繋がった者達によるあそこまでの破壊行為。


日本…いや世界中の裏社会の奴らは間違いなく冥本に情報や物資を提供しているのだろう。


何故それほどまでに皆、冥本を信用できるのか。

彼らを本物の革命家と信じているのか?


『続いて、氷室総理大臣の会見です』


「!!」

紅羽と潜一がテレビに釘付けとなる。


丁度ライブ配信で、画面で見ている此方も眩しくなる様なシャッターに囲まれながら、記者達の前で彼は登壇した。


『今回の“大規模な”事件について、政府は関係機関と連携し、然るべき対応を志しています。渋谷の不特定多数を狙ったテロに巻き込まれた皆様には心から追悼の意を表します』


彼は深々と頭を下げた。

記者達はシャッターを切り、彼の頭頂部を何秒もわたって撮り続けていた。


苗字の氷室から取って一時期は「氷の男」なんて言われていた彼だが、その表情には僅かな苛立ちと無念が籠っている。


「どう動くんだ?氷室」

テレビの前でそう呟いた紅羽。


『今回のテロ行為に関して我々は屈しません。政府、警察、医療機関と一体となり、国民を…日本を、象徴を。守りきります』


「お熱いこった」

そう潜一が零す。

氷室は無能ではない。


だが、今もこうして何も対策を講じてないのが現状。

『国民の皆様に安全でいてもらう為に、私は最後の一人になるまで戦う!!どうか私を…私達を信じて貰いたい』


そうして質疑応答に移ったが、具体的な内容は避けさせて貰うの一点張りで、氷室は大した回答しなかった。


こんな事をしたら、“作戦なんてない”と思われるのが常だ。


(もしかしたら作戦なんて不透明なのか?氷室は本当に何もしていないのか?)


裏で何かをしているのか、もしかしたら有能というのは嘘だったのか。


全てが謎。

「…まぁでもそんな作戦内容なんて具体的には答えられないよな」


紅羽に…と言うよりかは自分に言い聞かせる様に呟いた潜一だった。


そうして続いてきたのは防衛大臣の左馬(さうま)

彼は確か氷室と同じ年だった様な……


『20新聞です。左馬防衛大臣、つぎに起きるこの様なテロ行為に関して自衛隊の投入はあり得るのでしょうか?』


『現時点においては、自衛隊の派遣、テロ組織「物喰い」への投入については決まっておりません』


『つまり、政府は自衛隊の投入を“ない”という訳なのですか?』


その後についても左馬は“はい”とも“いいえ”とも答えず質疑応答は終了。


こうして国の防衛に努める者達の話は終わりを迎えるのであった。


「やはりはっきりしないな」


「ですね」

国…いや、氷室は間違いなく何かの対策を講じているはず。


それが全くと言っていいほど、彼らの発言から見えてこないのだ。


「それなら奴らが何をする・しそうなのかを知る人物が必要だ」


紅羽は剣を取り、拘束中のルシアへと向ける。

その目には怒りを押し殺した“ナニカ”があった。



「さて…話して貰うぞ」


──────────────────

【病院】


トントンとノックが聞こえる。

どうぞと返す。


ゆっくりと扉を開けた人は“上司”芳沢だった。

「大丈夫か?」


「問題ありません」


防弾チョッキの上から被弾したのが幸いし、完治すれば動く分には問題はないだろうと言うのは医師の見解だ。


彼女がここに来たのは他でもない。

冥本という人間について知りに来た。


「確か…腕を切断した後、能力発動の数秒後接着した…そうだな?」


「はい」


「やはり不可解だ」

それだけ?

それによって不意を突かれて隊員は彼だけになったのは現状なのだが…


ただやはり腑に落ちない。

「瞬時に磁石のS極とN極のように出来るのか、それとも時間を巻き戻す様にできるのか……」


あくまでも能力名が『吸収』なら一番考えやすいのは、指定したものを“取り込む”力だが…能力者の歴史も人数も少ない。


「名前から推測なんて事は出来ないな。後で和泉さんに聞いておく」


そう芳沢は言い残し、お土産を置いて病室を去ろうとした時──隊長は彼女の腕を掴んだ。


「…どうした?」


「芳沢さん…あなたに一生の願いがある……」


【潜一と隊長がいた時】


「………もし」


「あ!?」


「もし助かったら…俺に…何か……できる事は…あるか?」


恩に報いる為に隊長は潜一にそう告げる。

彼を抱えながら走る以上、酸素が頭の中に全く回らない。


その中で潜一は一つの考えに辿り着く。

「それは──」


「出来る事なら……なんでも…やる……」


「上司の芳沢に会う機会をくれないか?」


「!!」

これからどうするか、もう紅羽と潜一だけじゃこれ以上の進展が望めないと思っていた。


後は…彼女に賭けるべきだと思ったのだ。


「出来る…のか…?」


「…やってやるさ」


【時は戻り……】


潜一が身を挺して自分を救ってくれたのだ。

応えるしかない。


「あなたも同じ考えだったんじゃないのか!?」


「…ッ」

警察だけじゃ、奴ら(物喰い)には追いつけない。

裏の裏まで探れる人間が求められる。


役に立たない政治家達。

自由に動けない警察。


───柊紅羽を見つけ出し、交渉して仲間にする。どんな手を使っても、物喰いにテロを起こさせてはならない。


彼女を見て確かにそう思った。

様々なしがらみに囚われない人間……


「芳沢さん。俺は暫く動けない……治るまで時間が掛かる、その間に何も出来ずにただ寝ているだけ……なら…俺を助けてくれた男に報いる」


「………ふぅ」

帰ろうとした芳沢は再び椅子に座り、自分の肌を触った。


四十代後半になって、自身の老いを感じる事もなく働いて……気づけば警察上層部へ。


()()()()氷室と左馬には彼女よりかは顔の老けは無かったが、白髪があった。


政界に渡った彼らが何を考えているかはもう分からない。


「一人で戦う必要はない…か」


「え?」


「…分かった。会談はいつだ?」


「あなたの携帯に直接…と」


「ふっ、流石ハッカーだな」

そう零すと、芳沢は病室を去った。


隊長の想いは確かに彼女へと伝える事が出来たのだ。

溜まった緊張を息を吐く事で出す。


「…………生き残った者として最期まで…戦う」

強い眠気に襲われた隊長はそのまま重い瞼を閉じた。

彼の信念は消える事なく。


今は少しでも休める事を願う。

…戦いはまだ終わらないのだから。


───────────────────

【特異対策課】


現在アメリカにて彼らは冥本について調べていた。


「晴菜、なんかあったか?」

対策課のリーダー、堺は晴菜に聞く。


「残念ですけど何も……」

物喰いのリーダー冥本は一切の情報がない。


渋谷に現れた彼は従業員の服装をし、カメラ目線で写っていた。


そもそも冥本が本名なのか。

それさえも分からない。


「…!」

すると、堺の携帯に着信が。

少しの受け答えで電話は終了した。


「晴菜、迅達に伝えておいてくれ。帰国するぞ」


「え?もうですか?」


「あぁ。もう一悶着…ありそうだからな」


────────────────────

【物喰い】


「吐け!柊拓(ひいらぎたく)!!」


物喰いメンバーの一人、刀を持った男であるログロが紅羽の兄である拓を拷問していた。


何度も殴っても()()()()を吐かない。


「はぁ…ふぅ……ふふふふ。全然!痛くねぇな」

拓の指は二本切断されていた。

口や鼻から血を流し、意識も朦朧としているのに……


何故か怖くない。

「吐け、隠す必要があるのか?」


「はぁ…知らねぇ…つってんだろ」


「柊一族には()()()()()()()()()()()()()()事を長男であるお前が知らないはずがない」


誘拐から一年間徹底的にこいつを拷問し続けた。

それなのに彼は何も知らないと言い張る。


「ログロ、もういいよ」

そう言いながら冥本が拷問部屋に入ってきた。

拓は不敵な笑みを浮かべながら冥本を睨む。


「ボスのお出ましか。頑張って思い出すから酒持ってきてくれないか?」

「嫌だよ」


無論敵対しているこの状況。

彼と冥本との間には奇妙な関係が生まれていたのだ。


拓は蔵元。

一年間酒に触れていなかった彼は何とかして酒が欲しい。


「そこまでして耐えるか?仮に知らなくても適当な事言って逃げられるかもしれないのに」


「まじでわかんな〜い」と言いたげの冥本。

その様子を見て拓は声を出して笑い出した。


「ふっふっふっ!当たり前だろ?俺は常に変わらない」


口の中にある血を吐き、拓は続ける。


「ある文献で、パラレルワールドがあるかも〜みたいな話を見た事があるんだ。この世界にいる『俺』はテメェらみたいな不幸を撒き散らす奴に、己が身可愛さに他者を切り捨てる漢ではないからなァ!!」


「…イカレてるな」

しみじみとした様子で冥本は呟く。

理知的な紅羽とは大違いだ。


熱意…というか感情で動いている感じだ。


「…冥本…まだ続けるのか?拷問は俺じゃなくルシアだろ?」


「…あぁそう言えばそんな奴いたな」


「捨てたのか?」

少しだけ驚いた様子を見せたログロ。

冥本は彼の肩に手を置きこう答える。


「“大義”なんて俺達にはいらねぇのさ」


そうして冥本は拓の方を見て──

「こいつは本当に何も知らないんだ。()()に出せ」


ログロは拓を気絶させどこかへと運び出す。

「競売はログロ、お前に任せる。頼んだぞ」


物喰いとの新しい戦いが始まる。

場所は………








第二章:渋谷テロ編 完。


間章:

特異対策課編。


お楽しみに。

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