File.21 Fire!!
【数分前:冥本】
ブレンは恐らく戦闘不能。
残るは冥本のみ。
それは彼自身が一番よく理解している。
「よぉブレン」
「冥本?来たのか」
止血を終わらせたブレンはわざわざ十階に来た冥本に疑問を抱いた。
「まだ敵がいる様でな。あ、そうだ…まだ能力は使えるか?」
「…コレを使ったら俺は本当に戦えなくなるぞ。いいのか?」
少しだけ心配そうに返した彼に冥本は笑って返す。
「あぁ問題ない。爆弾も、人質も、お前のサポートすら期待できないこの状況。本気で行く」
常に笑みを忘れない冥本。
だが今の笑みは一味違う。
殺意だ。
純粋な戦いへの悦楽と…それに対するスパイス。
それが彼が抱く殺意なのだ。
「よし」
殺したSATの隊員達から色々物色する。
“準備”を重ねた彼は九階へと下りた。
非常階段や屋上からの潜入は、雇われ組のスナイプがある為そこから来る事はないだろう。
正面の階段から…敵は来る。
─────────────────
【バイク企業ビル】
「皆さん」
八階から九階へと上る時、心が張り裂けそうなくらいの静寂を打ち破ったのは湊の一言だった。
「僕がもし敵に撃たれて即死しなかった場合、僕の頭を撃って殺して下さい」
「お前…!」
潜一が何かを話そうとしたが、隊長は──
「了解」
部下の人も同じ考えで、湊の顔を見て無言で頷いた。
その後彼らはすぐに辺りを警戒。
「湊、良いのか?」
小声で潜一が湊の耳元で呟く。
彼女は不死身。
恐らく何度も死ねる。
だが、確定はしてない。
条件があるのかも……と彼は言いたいのだ。
「大丈夫ですよ。僕は覚悟出来てます」
「……覚悟が出来てないのは俺の方だったか」
潜一はそう苦笑し、前を深く見つめた。
彼女は守られるだけの人間じゃない、戦える。
九階にたどり着いた四人は左右の壁にもたれ、奥の長い廊下に銃を構えた。
右の壁には潜一と湊、左にはSATの隊長と部下。
奥の長い廊下には曲がり角が左右に。
防犯カメラには注意深く辺りを見渡す冥本の姿が映っている。
左の角から奴が出てくるだろう。
「…あまり気負いすぎるなよ。俺達の目的は確保・もしくは射殺。状況に合わせて対応するんだ」
その為に彼は拳銃だけではなく、確保用の銃も待っている。
隊長がそう呟いたとの同時に冥本が体を出した。
…人質と一緒に。
不敵な笑みを浮かべる冥本はそのまま此方に接近しようとするも……
ドン。
隊長が発砲し冥本の左肩に掠った。
「おっ!?」
素っ頓狂な声が彼から漏れる。
かなり驚いた様子だ。
続けて潜一が発砲しようとしたが、冥本はデコイ越しに発砲。
左右の壁ギリギリに当て、牽制された。
そのまま奴は曲がり角に隠れ身を潜める。
隊長が人質を撃つと、水の様に蒸発して消えたのだった。
「やるねぇ!?」
曲がり角から冥本の大声。
人質デコイ作戦に関しては、屋上組の戦いを防犯カメラが録画していた為に引っかかる事はなかった。
第一、もう人質となる人間はここにはいない。
彼の底こそ見えないが、今は間違いなく好機だ。
「奴にはデコイという“壁”越し且つ片手でも此方へ的確に反撃できる銃の腕がある。完全に無力化できるまで油断するな」
隊長はそう伝え、再び奴が出てくるであろう左の角に注目。
「流石SAT。特殊部隊とはあんま戦ってこなかったから新鮮だ」
悦楽が今も彼を突き動かしている。
そんな事がありつつ、隊長は部下と湊にある事を命じた。
(そちらから回り込め)
二人を指差して合図すると、そのまま彼らは命令通りに動く。
物資も武力も上回っているのは此方側だ。
焦らずゆっくりと攻めるのみ。
「奴が曲がり角に隠れた時、背中からナイフの持ち手の様な物と拳銃を数丁」
粗い画質じゃ、彼の武器などを確認するのは不可能だった為、今ここで奴の所持する武器の一部を知れたのは大きい。
「このまま警戒」
奴が此方に来なければ、そのまま回り込んだ者達によって──
「!!」
冥本の右手には黒い物体が握られていた。
彼から此方への距離を測る為に一度顔を出し……
「(作戦の都合、我々は手榴弾を持っていない。つまり─)スモークだ!」
白い煙が廊下を覆い尽くし、近づけなくなってしまった。
冥本の狙いはシンプル。
「ッ!!」
回り込んできた湊達の対処だ。
スモークのお陰で廊下側に身を隠せる。
足を狙った湊の弾丸が躱されて、一瞬だけ顔を出した冥本の射撃により、顔に直撃。
一瞬で視界が闇に覆われ、彼女は地面に倒れた。
部下が追撃するも完全に身を隠されてどうしようもない。
「ははは!!」
冥本は突然動き出し、湊と部下がいる所へ連続で発砲し行動を制限。
そのまま奥の部屋へと消えていった。
「う……」
「起きたか涼風」
部下の人がそう告げ、疲れている湊を起こす。
「撃つ時体を出しすぎたな。次はもう少し体を隠した方がいい」
「はい…!」
ただの学生がここまで戦えている。
潜一の教育がかなり行き届いるのだと感じた部下だった。
煙が消えて、湊達と合流した潜一達。
後一歩なのだが、そこを中々詰められない。
「潜一。これを使え」
隊長に渡されたのは、他の拳銃と比べて一回り小さい……
「…麻酔銃」
驚いた様にそう零した潜一。
だがこの銃は……
「他の注射器は?」
「すまない…爆発の時破損してしまったんだ。俺が持っている一発とお前の一発。合計二発で奴を無力化する」
予備はない。
外したら無力化は不可能となるだろう。
「それと、奴の事ですが」
ここで部下が口を挟んだ。
「奴は一〜二発程度なら狙われた部位を躱せる。涼風の狙いは正しかった…のに奴はそれを躱した」
発砲した後に奴は足を上にして躱した。
…と言うよりも確実に狙った所に気づいて避けている様にしか彼には思えない。
実際、湊の発砲を冥本は足だけを移動させ躱した。
人間離れしている。
「遠距離の撃ち合いになれば俺達が不利になる。出来る限り“付かず離れず”を徹底しましょう」
冥本は奥の部屋に入った。
部屋の内装は支柱が三つ。
扉が二つ。
そんな中冥本は……
「さて…“準備”をしようかな」
彼はナイフを取り出し、部屋の中で何かを切る音が響いた。
冥本の作戦など露知らず、四人はそのまま扉の前に立つ。
「麻酔銃を撃ち終わったら殺す選択肢に変えろ。奴は恐らくSATの武器も有している」
「反射神経による回避でも、この距離となれば空気により発射する麻酔銃でもない限り避けられない」
隊長と部下が今までの戦いで得た知識を情報として纏めた。
「俺が再び回り込みます」
こうして部下が奥の扉へ。
湊は深呼吸をして隊長からの合図を待つ。
潜一は麻酔銃を所持し、拘束の準備を進める。
「いくぞ」
扉を大きく開き、支柱越しに冥本が見えた。
彼の持っていた武器は拳銃ではなく、サブマシンガン。
「!!」
ドドドド…と潜一達のいる扉へと乱射。
チラッと見えたが、彼らの周りに様々な銃が置かれている。
この銃を撃ち切るまでには勝つ。
そんな彼の殺意を感じる。
「さて……」
乱射が終わった時、冥本は別の方に拳銃を向けた。
その方向とは……
回り込んだ部下の方。
軽い銃声が部屋の中に響いた。
「……ッ!」
顔を出した部下の右脇腹に命中。
彼は地面に倒れ……
冥本はその後、潜一達の方へと銃口を向け牽制の為に数発撃った。
「そのまま奥へ行け!!」
隊長はサブマシンガンへと銃を変えて、冥本がいる支柱に連射。
冥本が動けない間に潜一と湊が室内へと突入。
支柱へと隠れた。
「潜一さん!このまま──ッ!!」
柱の両端に冥本は発砲し、二人の移動を封じる。
地面に落ちた拳銃達が冥本の攻撃に無駄をなくしているせいで攻め込めない。
だが転機が訪れる。
(“ここ”に当たるか……俺はもう死ぬ。だが手は動く、足も……)
冥本は部下を殺したと考え全く警戒してない。
視界がぼやけて細かい所は撃てないだろうが……
「“そこ”は撃てる」
ニヤリと笑い、狙いを定める。
楽しそうに撃ち続ける彼の拳銃。
「なっ!?」
彼のマシンガンから放たれる重い銃声が冥本の銃を吹き飛ばした。
落としてあった拳銃を拾おうとしたが……その尽くが撃たれて弾かれてしまう。
奥の扉にいたのは隊長。
回り込んでいたのだ。
「チッ…!!」
冥本は背中に掛けてあった拳銃を持ち隊長の方へと向ける。
「自分の仇かな」
爽やかな笑みを浮かべ、湊は冥本の拳銃を弾いた。
彼女が練習してきた銃の技術が生かされている。
「………」
一切動じる事なく背中の銃を取ろうとした冥本だったが…
バシュッという空気を押した様な音が冥本の耳に響いた時───
同時に、注射器が彼の胸に刺さる。
(注射器!!こいつら……)
それが刺さり彼の目がゆっくりと閉じ、そのまま壁にもたれたのだった。
「……目標を完全に沈黙。眠った」
隊長がそう呟き、湊は今までの疲労と緊張を息を吐く事で消す。
他二名も同じ思いだ。
隊長は扉の前で倒れた部下を一瞥。
ここからじゃ足しか見えない。
そこには生命の動きは感じられなかった。
「………冥本を眠らせました」
芳沢に通信を送った隊長。
そこには悔しさと怒りを孕んだものだ。
『…ご苦労だ。生き残りは?』
「十五名中…一名生存」
『……本当に良くやった。注意深くな』
彼女は邪魔しない様に通信を切った。
冥本を拘束し、全てを終わらせる。
「湊と潜一は、扉辺りを警戒しろ」
隊長は麻酔銃を持ちゆっくりと近づく。
冥本は完全に…寝ている。寝て……
「…?」
ここである時に気づいた。
冥本の片腕がおかしい。
「潜一。冥本の腕は──」
「『吸収』」
「!?」
ゆっくりと目を開ける冥本、隊長に向けるその目は余裕だと言いたげだ。
湊も異変に気付いたのか、隊長達に目を向けてしまった。その時扉には、
銃を彼に向けようとした二人は扉から勢いよく接近する物体に気づかなかった。
その物体は────
冥本の欠けた断面に重なり、綺麗にくっついた。
「さぁ…!リベンジマッチだ」




