File.15 動向
発砲はせず、湊は銃火器の基礎を学んでいた。
筋トレをした後、現在は休憩中。
「あの…潜一さん」
タオルで汗を拭いつつ、湊は潜一へある事を問う。
「どうしてあなたは、紅羽さんと組んで奴らと戦う事にしたんですか?」
彼女は紅羽と潜一の間柄を聞きたいらしい。
何を話そうかと悩む彼だが……
「…あの人に恩があんだよ。俺としても奴に借りがあるしな」
はぐらかす様に返した潜一に、これ以上湊は何かを聞く事はなかった。
【一週間後】
「湊、これ付けてくれ」
「これは…ヘッドホン?」
「イヤーマフって奴だ。クソウルセェ銃声から耳を守ってくれる」
早速付けると、彼の声がちゃんと聞こえる。
こんなに耳にヘッドホンが密着していると言うのに。
良く見てなかったが潜一はヘッドホンではなくイヤホンをしていた。
多分これも特別な奴なのだろう。
ちゃんと互いに会話ができるとは…驚きだ。
「この銃には火薬と弾丸が入ってる。正直言ってこんな早い期間に銃を教えるなんてあり得ない。警察にだって下積みはあるからな」
潜一から受け取った拳銃は、今までと同じ拳銃なはずなのに数発の弾丸がより重く感じた。
「……きる……僕はできる……僕は……」
「…………………」
引き金以外にも銃を撃つには色々動作が必要なのは練習して理解している。
準備を整え、奥の的…狙うべきは画用紙に書かれてある人を模した“頭”
そこさえ狙えれば人は死ぬ。
生命活動を断てる。
画用紙に書かれているのは、人の上半身のみ。
言ってしまえば上半身……生身ならどこを受けても人はダメージを引き摺る。
(もし、僕が敵に銃口を向けた時……僕は──)
まずい。
銃口が震えてきた。
相手は画用紙。
相手は画用紙。
相手は画用紙。
相手は……
「ッ!!!」
ドン!!
…そう山に銃声が大きく響いた。
しかしその弾は大きく逸れて隣の木に当たった。
反動の大きさによる驚きと、銃を“撃った”という事実が手に残る。
体の全てに入った緊張が抜け、その場にへたり込んだ湊。
激しく息を切らし虚な顔をした彼女に、潜一は画用紙を剥がして違う物に変えた。
「…?」
上半身の人が描かれてある画用紙から下半身から足先までを描かれた絵が見える。
「人を殺すのはお前の役割じゃない。狙うのは……動きを封じる事だ」
彼からしては、この様子になった事こそ想定内だ。
少しホッとしている所もある。
「狙うは足……すねから太ももだ。敵の機動力を一瞬で奪える。それさえできないなら……それは返せ」
突きつける様に放った潜一の一言は、湊に再び力を取り戻させた。
うだうだ言う奴を戦力とは言わない。
おとなくしく“守られる側”に戻って貰う。
「ひとまず今は休憩を──」
潜一の一言を無視して湊の拳銃から再びドンと響く。
急いで振り向くと、画用紙に描かれる足の近くに跡が残った。
「外れた」
ショックそうに画用紙を見つめる湊の肩に手を置き、少しだけ微笑みながら呟く。
「…次こそ当てろよ」
その一言に湊は嬉しそうに
「はい!!」
戦力の成長に期待を膨らませる潜一だった。
───────────────
【物喰いの秘密基地】
「さ、て」
突如椅子から立ち上がった冥本。
何かを思いつきそうなのか、ぼ〜っと天井を眺める。
「“次”へ行こうか」
「次?」
筋肉質の男が冥本にそう返す。
ニヤリとした表情を向けた冥本の顔は、悪い事を思いついた子供の様だ。
「ブレン。まぁそう慌てんなって」
「慌ててねぇよ」
筋肉質の男…ブレンは少々ムキになって返す。
「面白い事考えたんだけど、まぁ…人手が足りないから、集めてきてよ」
…と言っても、人手については伝手がある。
金が欲しい奴には金をやればいい話。
「若い人手を…集めて欲しいんだよねぇ」
刀を持った男は少しだけ笑みを零していたが、
妖艶な女……ルシアは違う。
「武器の調達は俺がやる、ログロはここにある住所に行ってくれ。そこに人手はいるだろうからな」
渡された住所を見て、ブレンは心当たりがあるのか楽しみそうにそこへ向かった。
「ちょっと待って」
「どうした?」
面倒くさそうに返す冥本に、少しだけ彼を睨んだルシア。
「これが本当に、差別への撤廃に繋がるの?」
「当たり前だろ?認識を改めますと日本が言うまで、俺は戦い続けるさ」
「…………そう」
そのまま彼女はどこかへ行ってしまった。
世界にとって、異端な力を持つ者は差別の対象。
能力者はそれが顕著だ。
世界人口の約三割。
日本と同じく世界も、能力者人口の八割は自覚できないまま一生を終える。
「さてと…これの投稿準備を進めないとね」
楽しそうに呟く冥本なのであった。
投稿内容など、予告声明に決まっている。
内容は…………
六月十三日。
渋谷にて、能力者の人生の為に
無差別のテロを行う。
必要なのは変革。
能力者による差別を撤回させる為、
大義の犠牲となれ。
「ハッ、大義。ね」
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【警視庁】
「失礼します」
「入れ」
低い女性の声が扉の奥から聞こえ、ゆっくりと開けた。
楓は芳沢の“個人的な”召集を受け、一人で向かったのだ。
「芳沢さん…一体何の用で?」
彼女達はどちらも忙しい。
一人は特異対策課の上司として、一人は政権のコントロールとして。
最近芳沢の表情があまり良くない物である事を察している楓はその事について心配するも、いつもはぐらかされて終わってしまうのだ。
「彼らは今どこへ?」
「アメリカで色々調べてもらっています。彼らでしかわからない事がきっとある」
堺達は“ある事”を調査する為に動いていた。
「…物喰いが、初めてテロを起こした場所か」
思い出せば、あの時から日本の…いや世界の歯車が狂い出したと思う。
裏社会─マフィアやヤクザの活発化。
武力による制圧が増えた境目でもあったか。
「いつ、どこでテロを起こすのか分からない相手なら、徹底的に調査するまで…ですから」
「そうだな」
相変わらずの行動っぷりに思わず微笑する芳沢。
現役の時からも、それが変わる事はなかった。
ただ二人の胸にはいつも何かとんでもないことが起きる予感に襲われる時がある。
初めてのテロである日本をターゲットにしてから、一年という早いスパンでの、京極ビル襲撃。
彼らの圧倒的な武力が日本中に公開された瞬間でもあるのだ。
「私には…眠れる獅子を呼び覚ましてしまった気がするのだ。何かとんでもない大きな渦に飲み込まれていく様な…そんな気がする」
珍しく気弱な芳沢。
老けた顔と増えた白髪は歳のせいか、それとも心労か。
十三下の楓が常に綺麗だからなのかより顕著に映る。
「楓、呼び出しておいてすまない。今日はもう終わりだ」
「えっ?」
「悩みというものは自分で解決してこそ。だな」
芳沢が言っているが全く理解できなかった楓だったが、ひとまず特に気にした様子なく部屋を後にした。
「染めるのは…私だけで充分だ」
そう呟き、窓をただ眺め、思わず彼女が内面に隠していた思いが零れてしまう。
「対能力制圧群……それが切り札になるってのかい?
……氷室」




