File.13 静観
どこかにある牛丼屋で紅羽と潜一は昼ごはんだ。
「くっそー!!ムカつく!!」
悔しさのまま牛丼をかき込む潜一と、綺麗且つ素早く食べる紅羽。
やはり物喰いとの戦いにはあまりにも悔しい。
暴れるだけ暴れられて何も抵抗させてもらえずに逃亡された。
この事実はなかなか腹立つものだ。
「生きてさせすれば、次はあるさ」
「まぁそうですけど…」
理解はできるが納得はしていない様子。
気持ちは分かるが。
「そう言えば、ニュースを見たか?潜一」
「見ましたよ。ネットニュースや新聞とかでデカデカと宣言されていましたよね」
そのニュースの中身は、京極オフィスビルを襲った犯人の正体…ではなく、能力者の新しい能力者の発覚だった。
車に轢かれた女子高生がそのまま死亡せず蘇ったと言うもの。
これから彼女はどうなるのやら。
能力者がいるこの世界。それでも…日本人口の約一割いるかいないか。
「…その内の八割が自身は能力者である事を気づかずに寿命で生涯を追える…か」
「それについちゃぁ、色んな考察がありますよね」
ある大学からでは人間の感情がトリガーとか、アメリカでは、その能力に関する“出来事”や“場所”が重要。
…など多種多様だ。
どれも根拠はないが。
「あ、七味いります?」
「あぁいる。すまない」
残った牛丼に七味を振りかける時、紅羽は一つ思う事があった。
涼風湊はもしかして味方にできれば心強いのでは?
…と。
「潜一、一つ頼みがあるんだ」
「?」
「涼風湊を調べてくれ」
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【警視庁】
「失礼します」
堺は一人で上司に報告しに向かった。
「入って」
若々しい女性の声が扉越しに響く。
ゆっくりと扉を開け、軽くお辞儀をする。
昔からそうだが彼女はこう言う報告の時は笑みを必ずと言っていいほど絶やさない。
それが不気味であり、とても……
「京極ビルの件。ご苦労だったわ」
「奴らを捕まえられず、申し訳ございません」
もう一度頭を下げた堺だったが、彼女は慌てた様子ですぐさま頭を上げさせた。
「…彼らをみくびっていた訳ではなかったけど…まさかこんなにも大暴れできる武力と実力があるとはね」
京極社長はその時不在で結婚式を挙げていたという情報が入り、警備につけていた警官は全員死亡。
ヘリは盗まれ、唯一の情報源でもあった彼を失う事に。
「それと…調べてくれましたか?」
「えぇ、調べたわ。冥本智…やっぱりそんな人間は日本には存在しない」
「やはり偽名ですか」
温和な笑みを崩さぬまま彼女は頷く。
まぁ…本名などどうでもいい。
次奴らが“どこ”で“何を”するかが重要だ。
「柊紅羽についてはまだ何も掴めてないわ。ごめんなさい。あなたのやりたい事も理解しているし、私も賛同する。けど、無茶はしない様にね」
「……やっぱり現場に出たいのですか」
全てを見越した堺の一言に、彼女は少しギョッとする。
特に何か感情に出したつもりはないのだが。
彼女の名は九条楓。
五年前に今はもう壊滅したが、あるテロ組織との戦いで、彼女の右手と左耳上部は欠損している。
その思考能力と判断能力が評価され上へと駆け上がったが、彼女にとってもそれは日本を守る為の苦渋の決断。
「使い捨ての駒でも構わない、私は最期まで昔と変わらずに、戦っていたかったけど……しょうがないよね」
言い聞かせる様に呟く楓に、少しだけ黙る堺。
「今は取り敢えず休んで頂戴。特異対策課はこれからも彼らと戦い続けるでしょうから」
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【別の場所。政府】
「……クソっ」
突如設立された特異管理委員会。
様々な人間が寄せ集められた集団。
そんな中で、彼女こと芳沢は警視庁の人間だ。
高い能力を評価され、今このポジションに就いた訳だが……
(奴らのせいで警察の信頼はガタ落ち……特異対策課の敗北が効いたか…!!)
このままじゃ彼女のポストが危うい。
(私にはまだやる事がある。今の日本…そしてこれからを守る為には…あのクズ達を渡りあわなきゃいけない)
【会議室】
メンバーは研究員の人間や、政権を担う人間。
はっきり言って彼らは無能だ。
偉くなる事と金になる事しか考えていない。
そんな中で芳沢は常に彼の命令をいなしつつ、日本の為に行動し続けるのが彼女の役目。
「芳沢君。あんなに予算をかけたと言うのに……君ら警察はダメだなぁ」
四十代という若さで政治家となった足立は高圧的で、他の人間を見下している。
それは主に警察に向けられ、能無しと馬鹿にしているのだ。
「特異対策課は善戦しています。彼らを無能というのは違います」
「彼らは生きてるのか?そもそもさぁ…たかだかテロ組織でしょ?何をそんなに苦戦しているのさ。SAT?とかがどがーんと倒せばいいじゃん」
何も知らない彼にはこれ以上何を言っても無駄だと分かっている、だが、今彼女ができるこは証明し続けるのみ。
「能力者という未知の存在、そして圧倒的な武力を用いる奴ら。大規模テロの経験が乏しい我々にとっては、銃の腕やその場の勘だけじゃ戦えない場合もあります」
足立はどうでも良さそうに「ふーん」と返し、彼らは黙った。
「能力者について何か分かりましたか?」
芳沢が目を向けたのは、唯一有能と思える研究者がいる。
建物のライトをぼーっと見つめる男。
彼の名前は和泉。
「能力という人によってランダムに変わる物を断言するのは大変恐縮だが……一つだけ、断言できるものがある」
彼は息を軽く吸い、吸った以上に吐くとワントーン低く呟く。
「彼らは異能力を持った“ただ人間”だよ。ドラクエみたいなMPはないし、能力発動由来は全て体力消費。使えば使うほど…彼らは我々よりも遥かに速く消耗する」
「付け入る隙はある。…と言って良いんですね?」
「アメリカの研究をそのまま垂れ流しただけだしそうなんじゃない?」
彼曰く同じ事を考えていたが、論理を追求しすぎるがあまりアメリカに先を越されたそう。
アメリカはあくまでも結果を重視した発表。
和泉が重視するのは能力者の全体像だ。
何故、どうして?
科学者としての根源的欲求を、彼は追い求めているのだから。
「………………」
暫く話し合ったが、特に何も進展がないまま会議は終了した。
芳沢はかなり苛立っていた。
(SATを物喰いとぶつける?ふざけるのも大概にしてほしいものだ…!)
彼らの武力並びに能力、そしてその対策さえ思いついていない状態で戦うなど言語道断。
彼らの損失はこれから助かるであろう国民の命を失くすも同義。
(特異対策課による少数精鋭で戦うべき)
重要なのは数ではなく質。
物喰いの実態を明らかにし、制圧・蹂躙する。
「…………柊紅羽」
彼女の居所は明らかとなっていない。
今最も彼らに近い存在を探し出し…
「私が必ず吐かせてやる」
“交渉”だ。
権力しかない奴らと、権力はないが行動できる私の力。
(柊紅羽を見つけ出し、交渉して仲間にする。どんな手を使っても、物喰いにテロを起こさせてはならない)
SATの突入は緊急事態のみ。
そんな事を奴らが起こすとは…考えつかなったが。
知ってる人の方が多いとは思いますが一応。
SATとは?
Special Assault Teamの略。
日本名では特殊急襲部隊。
テロや凶悪犯罪を受け持ち、武力による制圧を試みる。
…のはず(うろ覚え)




