第103話 一見ハズレの属性偏重チーム
学園の実技課題は、個人戦とペア戦を一通りやらせたあと、ようやく“らしい”段階へ入った。
その日のホームルームで担任が黒板へ大きく書いた文字は、やけに簡潔だった。
チームを組み、ダンジョン一階層ボスまで到達せよ。
その下に、さらにルールが三つ並ぶ。
一つ。六人一組。
二つ。トップ10入学生は一チームにつき一人まで。
三つ。トップ10枠は最後に指名する。
教室が、分かりやすくざわついた。
当たり前だろう。
実力差があるのは、もうみんな受験の時点で知っている。
だったら最後の最後に“どの上位者を取るか”で、チームの性格がほとんど決まる。
教師は教壇の上で、いかにも“公平な教育課題です”みたいな顔をしていた。
でも実態は、かなり露骨な人選ゲームだ。
俺は頬杖をついたまま、黒板の文字を見上げた。
「露骨だな」
隣で優奈が小さく苦笑する。
「でも、ちょっと面白そうです」
「お前はそう言うと思った」
「だって、誰がどこを取るかで全然違いそうじゃないですか」
違う。
違いすぎる。
俺が入るチームと、優奈が入るチームでは、勝ち方そのものが変わる。
そして、それはたぶん教室のほぼ全員が分かっている。
担任が続ける。
「トップ10以外の生徒は先に五人一組で集まってください。その後、抽選および希望をもとにトップ10生徒を最終加入させます」
公平っぽく言っているが、たぶん実際はかなりぐちゃぐちゃになる。
そう思っていたら、予想通り、五分後には教室のあちこちで勧誘合戦が始まっていた。
誰と誰を取るか。
どの属性を軸にするか。
前衛を固めるか。
遠距離を増やすか。
教室の空気が一気に実戦寄りへ変わる。
そして当然というべきか、最後に残るトップ10枠の話題は、ほとんど二人に絞られていた。
俺と優奈だ。
「相川さんが入れば火力が安定する」
「でも結城先輩が入れば、ボスまでの最短ルートが組めるだろ」
「チーム戦なら結城の方が強いんじゃないか?」
「いや、一階層なら単体火力の優奈の方が押し切れるかも」
そんな声が、別に隠しもしないまま飛び交っている。
まあ、そうなるだろうと思った。
優奈は分かりやすい。
単体火力が高い。
《発射》と《延長(斬撃)》と《思考強化》の組み合わせは、一階層程度ならだいたいの敵をそのまま処理できる。
事故も少ないし、見栄えもいい。
俺は逆に、火力だけ見れば優奈ほど分かりやすくない。
でも知識がある。
チーム戦の組み立てができる。
誰をどこへ置けば安定するか、どの敵を誰へ任せればいいか、そういう“全体の勝ち筋”を作る側として見られている。
だから、教室の連中からすると、
知識とチーム戦力特化の結城悠真か。
単体火力の相川優奈か。
その二択になりやすい。
「なんか、値踏みされてる感じしますね」
優奈が小声で言う。
「実際されてるだろ」
「ですよねぇ……」
優奈は困ったように笑うが、あまり嫌そうではない。
こいつはこいつで、自分が期待されることにまだ前向きだ。
問題は、俺の方だった。
俺は教室の様子を見回した。
すでに五人グループがいくつも出来上がりつつある。
その中で、特に目立つのが二つあった。
一つは、音葉の周りだ。
白井音葉。
弓。
《貫通》に《遠隔魔法》を通し、接触武器向けの魔法を矢へ乗せる遠距離特化型。
そこに、もう一人いた。
唯だ。
俺の妹。
糸。
環境魔力。
《魔力変化(糸)ー極》と切断拡張で、自分なりの最適解を組み上げたやつ。
あの二人が同じグループへいる時点で、かなりいやらしい。
音葉が遠距離から確実に射線を作る。
唯は糸で拘束や切断を入れる。
どちらも前へ出すぎずに戦える。
事故率が低く、しかも精密だ。
「音葉チーム、唯を取ったんだな」
俺がそう呟くと、優奈がすぐに気づいた顔で頷いた。
「相性いいですもんね」
「すごくいい」
俺は素直に認めた。
「遠距離と糸は噛み合う。どっちかが止めて、どっちかが通す。しかも両方とも“無理に前へ出ない”系統だ」
優奈は音葉と唯の方を見て、小さく笑った。
「唯ちゃん、ちゃんと馴染んでますね」
「……馴染んでる、のか?」
「少なくとも、前みたいに固まってはいません」
言われてみれば、その通りだった。
唯は未だに自分からよく喋るタイプではない。
でも音葉と話す時だけは、妙に自然だった。
多分、互いに距離感が近いのだろう。
必要なことを必要なだけ言う。
そういう関係の方が、あいつには合っている。
もう一つの目立つグループは、ジョンのところだ。
ジョン・ウィリアム。
《肉体強化ー極》と《拡張付与ー頑丈》と《魔力強化ー拳》を組み合わせ、拳で押し潰すザ・アメリカン。
そのジョンが、誰を選んだのかと思えば、これがまたいかにもジョンらしかった。
あの、ごく普通の日本の女子高生みたいな見た目で、
《肉体強化ー極》と《回復魔法ー極》だけを使って殴り続けるタイプの女子だ。
一見すると普通。
やっていることは全然普通じゃない。
「ジョン、あの子選んだのか」
俺が言うと、優奈も納得したように頷いた。
「前線統一、ですね」
「だろうな」
俺は答えた。
「自分が前で殴る。相方も前で殴る。近接圧で押し切る。分かりやすい」
「ジョンさんっぽいです」
「すごくな」
ジョンは、構想がはっきりしている。
前線二枚。
肉体強化で押す。
回復魔法まであるなら、多少の被弾も前提で行ける。
一階層なら、それで十分通用するだろう。
つまり、音葉チームは精密制圧。
ジョンチームは正面突破。
じゃあ俺はどうなる。
そこが問題だった。
五人組がだいたい固まりきったあと、最後にトップ10枠の分配が始まった。
ここだけは少し乱暴で、まずチームごとに希望を出し、そのあとじゃんけんや簡単な抽選で順番を決める方式になった。
その結果、俺が入ることになったのは、一見しただけで「偏ってるな」と分かるチームだった。
岩属性が二人。
風属性が二人。
火属性が一人。
以上、五人。
それを見た瞬間、教室の何人かが露骨に「うわ」という顔をした。
「偏りすぎだろ」
「ボス火力足りなくないか」
「雑魚は行けても、最後だるそう」
周囲の反応はだいたいそんなものだ。
実際、一見するとかなり歪だ。
火力担当が、火属性一人しかいない。
しかも火属性は、一階層の雑魚一掃には強いが、ボス相手やチーム戦の決定打としてはやや扱いづらい。
面制圧はできる。
でも一点突破が苦手だ。
だから普通に見れば“弱そう”な構成に映る。
だが、俺は席を立ちながら、むしろ少しだけ安心していた。
「結城先輩、お願いします!」
最初に頭を下げてきたのは、岩属性の一人だった。
短髪の男子で、体格はそこそこ。
いかにも前へ出たがる顔をしている。
もう一人の岩は女子だ。
背は低いが目つきが鋭い。
同じ岩でも、さっきの男子とは雰囲気が違う。
風属性の一人は長身の男子。
動きが軽そうだ。
もう一人の風は小柄な女子で、こっちはどちらかと言えば器用寄りに見える。
火属性は、赤毛に近い茶髪の女子。
魔力量が多そうな顔をしている。
これは偏見だが、実際この手のやつは火力に全部振っていることが多い。
俺は五人を一通り見てから、思った。
――一見偏ってるが、一階層ならむしろ安定感は高い。
岩はタンクとして優秀だ。
一人は前へ出て受ける。
もう一人は局所防御や足止め寄りだろう。
風は距離管理に使える。
一人は吹き飛ばし。
もう一人は軌道ずらしか、機動補助寄りの可能性が高い。
火は面制圧。
雑魚一掃にはかなり向く。
問題は、まさにそこだけだ。
ボス火力が足りない。
だが逆に言えば、そこさえ俺が埋めれば形になる。
周囲には“ハズレを引いた”みたいに見えているだろう。
でも、俺から見れば違う。
このチームは、俺が一番仕事をしやすい。
誰か一人の火力で押し切るチームじゃない。
配置と役割の整理だけで強くなるチームだ。
「結城先輩……?」
風の女子が不安そうにこちらを見る。
「何だ」
「やっぱり、偏ってますよね……うち」
正直なやつだ。
嫌いじゃない。
「偏ってる」
俺ははっきり言った。
五人の顔が一瞬だけ強張る。
そこで続ける。
「でも、一階層ならむしろ安定感は高い」
「え?」
今度は岩の短髪男子が素っ頓狂な声を出した。
「岩二人は壁になれる。風二人は距離管理できる。火は雑魚一掃に向いてる」
俺は指を折りながら説明する。
「ボス火力だけが問題だが、そこはやり方がある。逆に、雑魚戦の事故率はたぶん一番低い」
五人が少しずつ顔を上げる。
さっきまで自分たちの構成に自信がなかったのだろう。
でも、理由付きで“強み”を言われると反応が変わる。
「えっと……」
火属性の女子が恐る恐る聞く。
「私、ボス相手だとやっぱり微妙ですか」
「微妙というより、向き不向きだ」
俺は答える。
「火は広く焼くのが強い。一階層のボス相手だと、火力が散る。弱いんじゃない。使いどころの問題だ」
女子はそこで、少しだけ安心した顔になった。
「じゃあ雑魚は任せていいってことですか」
「むしろそこは任せる」
そこから先は早かった。
俺はその場で五人の役割をざっくり確認した。
岩の短髪男子――桐生大河。
得意なのは前面防壁と、短時間だけ硬度を上げる局所防御。
典型的な前タンク。
もう一人の岩女子――三枝琴音。
こっちは地面から岩杭を生やしたり、足元を少し盛り上げて動きを止めたりする局所制御型。
同じ岩でも、役割が違う。
風の長身男子――瀬名蒼。
直線的な吹き飛ばしが得意。
圧で押し戻すタイプ。
風の小柄な女子――小鳥遊澪。
こっちは細かい風操作。
軌道ずらしや、味方の動きの補助が上手い。
火属性の女子――火ノ宮朱里。
広範囲の火線。
雑魚一掃。
爆発というよりは“燃やし切る”寄り。
なるほど。
見た目以上に、ちゃんと噛み合う。
「結城先輩、どう組みます?」
桐生が身を乗り出して聞いてくる。
「まず前提から言う」
俺は言った。
「この課題は“強いやつが全部倒す”じゃない。六人で一階層ボスまで安定して行くことが目的だ」
「はい」
「だから、お前らの強みをそのまま使う。無理に誰か一人へ寄せない」
そこで俺は床へ簡単な図を描くように手を動かした。
「桐生は前。最初の受け。三枝はその一歩後ろ。足止めと局所遮蔽」
「瀬名は押し戻し。小鳥遊は味方の動線補助と射線の微調整」
「火ノ宮は前へ出すぎるな。雑魚がまとまった時だけ焼け」
五人が真剣に聞いている。
たぶんもう、周囲から見て“弱そうな構成”だと言われるのに慣れてしまっていたのだろう。
だからこそ、自分たちに明確な使い道があると言われるだけで、かなり変わる。
「で、ボスは?」
三枝が短く聞いた。
「そこは俺が入る」
俺は答えた。
「ただし、俺一人でやるわけじゃない。ボス戦ほどお前らの仕事が要る」
五人の目が少しだけ変わった。
弱そうに見える構成。
でも、弱いとは言っていない。
そこにようやく気づき始めた顔だ。
教室の別の場所では、ジョンが自分のチームへ大声で何か説明している。
たぶん“前へ出ろ、殴れ、耐えろ”をもう少し細かくしたような内容だろう。
音葉チームでは、唯が紙へ糸の走らせ方みたいなものを図で描いていた。
あいつもあいつで、ちゃんとチームに馴染んでいるらしい。
それを横目で見ながら、俺は改めて思う。
この課題は、単に一階層ボスまで行くだけじゃない。
誰がどの場で輝くか。
誰が“強いやつ一人”ではなく、“チームを勝たせる側”へ回れるか。
それを見る課題だ。
そして俺のチームは、たぶんその意味で一番面白い。
一見ハズレ。
でも、組み立てればかなり強い。
そういう構成は、嫌いじゃなかった。
「じゃあ、まず細かい立ち位置から詰める」
俺がそう言うと、五人が一斉に頷いた。
周囲から見れば、たぶん俺は“弱そうなチームを引いた”のだろう。
でも、俺に言わせれば違う。
一番、俺が入る意味のあるチームを引いた。
それだけだった。
(つづく)




