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灰の傭兵と光の園 〈ロボットイラストあり〉  作者: 青羽 イオ
第二章 合流点

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第7話 静かな白帯

 白帯東部、E‐7区画。


 任務は、E‐7/E3礼拝共同体集落から伸びる支線白帯の避難誘導と護衛。列の行き先はカルディア都市の受け入れ区だ。


『E‐7支線の列、想定より長い』


 外周を取るヒロの機体が、灰霧の薄い側へわずかに位置をずらす。


『カルディアが受け入れ枠を増やしたって通達が出て、一気に流れ込んでる』


『子どもも多いな』アキヒトは列の中ほどへ視線を落とした。『支線が折れたら終わる』


 荷車が軋み、担架が揺れ、子どもが手を引かれ、老人が背負われていく。足音は途切れない。白帯そのものが、巨大な人の流れになっていた。


『ああ』


 外周の距離を保ったままヒロが続ける。


『幹線が生きてても意味がない。ここが詰まった瞬間、受け入れ枠が増えた話だけが残って、現場は潰れる。だから速度を落とさず流す。俺は外で受ける』


 マップの端に六機分の識別が点る。点は散らばらず、列の速度に合わせて同じ方向へ流れていく。


 ストレイ・カスタムが先行して前の視界を拾い、ブルロアーが輸送車の脇を埋める。バッド・バンカーは外側へ半歩出て、寄ってくる影にだけ短く割り込む。


 ブレイン・モールは列の中ほどで詰まりの兆しを押さえ、レイヴン・アイが後方から遠い兆候を回す。バッファローは外周に距離を取り、風と灰霧に合わせて位置だけをずらしていた。



 支線白帯の上には、点々と自治体の志願ラインガードが立っていた。

 揃いの装備ではない。外套の丈も、ブーツも、ヘルメットもまちまちで、無線機のアンテナが風に小さく揺れる。手袋が大きすぎて指先が余っている者もいた。

 それでも、目だけは据わっている。やるべきことを外していない。


「止まらないで――列から離れすぎないように!」


 声が裏返り、言葉が途中で詰まる。それでも列は切れずに続いていた。UDFでも企業でもない彼らは、見様見真似でも「それらしく」振る舞うことで、白帯の流れを守っていた。


『次の灰霧で見え方が変わる』ヒロの声が回線に落ちた。『光学は捨てろ。熱と音だけ残せ。外周の間合いは一段広げる』


 返答は要らなかった。六機の識別が、列に沿ったまま少しずつずれる。誰も列へ寄らない。誰も外へ出すぎない。配置だけが静かに更新された。


 幹線側には別の白帯が走っている。E‐7幹線白帯。支線と合流すれば、そのままカルディア都市へ続く。


 その幹線は、この一帯だけの話ではなかった。カルディア側は合流点を中心に南北三十キロへ護衛を展開している。レムノス級が一隻。リミネタイ四十八機。五キロおきに中隊配置。白帯に沿って、切れ目のない護衛線が引かれていた。


 灰を被った輸送車列、燃料車、整備車、補給コンテナ。その流れの外側を、カルディアのRFが薄く広く押さえている。幹線そのものを都市の延長として運用していた。


 その三十キロのうち、支線と混じわる合流点にだけ、別の識別があった。


 IFFを入れる。応答が四つ、揃って返る。コードは既知の範囲に収まり、偽装の癖もない。各機の位置と応答がずれずに重なっている。


 独立傭兵団エリュシオン・アクトのラファエル隊だ。


 彼らは合流点の外側に余白を残し、両方の流れに届く位置で静止していた。列の正面を塞がず、押し込めば崩れると知った上での配置。車列の速度に合わせて、四機が同じ幅のまま横へ滑る。誰も前に出過ぎない。抜ける幅を潰さない。その一点だけを守る動きが揃っている。


 だが、ここは最初に削られる場所だ。外から触れれば真っ先に当たる。流れが崩れれば、そのまま巻き込まれる。


 カルディアにとっては都合がいい。傭兵は使い捨てにできる。前へ出せて、損耗したら切り捨てられる。まずはここで受けさせておけば、それで十分だった。


 幹線側の回線が開いた。


『各隊へ通達。E‐7幹線白帯の流量を維持しろ。停止は認めない』


 短く区切って、次が来る。


『合流点周辺の即応はラファエル隊が担当。外部勢力の接触は最先任で処理』


『北側接触は幹線内で、南側は合流閉鎖。ラインガードへ指示済み』


『支線および集落は幹線運用の対象外。波及のみ阻止しろ』


『幹線へ触れさせるな。必要なら合流点南側を切れ』


 回線が静かになった。


『……了解』ラファエルの声が入る。『合流点即応を受ける。北側優先。南側は波及阻止』


 言葉は崩れなかった。だが、復唱の最後にだけ硬さが残った。命令を受けた声ではない。呑み込んだ声だった。


 その直後、別回線でヒロが割り込んだ。VOLKの呼び出し符号を載せ、カルディア管制へ直接叩く。怒鳴らない。だが、言葉は低い。


『カルディア管制。こちらクレイブ・アクト所属、VOLK隊。確認する。今の通達、支線と集落を切る前提で言ったな』


 返答はすぐ来た。


『貴隊への通達ではない』

『答えろ。支線の根元に共同体集落がある。そこを閉じたら列が死ぬ』


 一拍の間もなかった。


『黙れ。傭兵風情が幹線運用に口を挟むな』


 切り捨てる声だった。


『道理を語る相手を選べ。貴様らは金で立っている壁だ。壁は命令された場所で黙って削れ』


 ヒロが何か返しかけたが、その前に回線が鳴った。切断音は短い。カルディア側が一方的に落とした。


 ノイズだけが薄く残る。


 アキヒトは何も言わなかった。


 マップの上では、幹線三十キロの護衛線がそのまま動いている。レムノス級の識別は合流点の北で鈍く光り、五キロごとの中隊配置も崩れない。そこへ置かれたラファエル隊だけが、合流点の先端で止まっている。


 ふざけるな——


 その衝動を、機体の姿勢を一段だけ締めることで押し殺す。怒りに使う秒を残さない。護衛の間合いを見直し、列から離れすぎない距離だけを確かめる。


 白帯沿いに立つラインガードの姿が視界に入る。そこへ脅威を流し込む指示が、同じ無線の中で正規の命令として処理されている。回線の向こうの顔を思い浮かべても、何も軽くならない。やれることをやるだけだ。


 無線の雑音が一段低く聞こえた。


『リュウ、幹線の流れ、どうだ』


 高台から返事が来た。


『車列は一定。護衛は四。今は静かだ』


 別の回線が割り込む。ゴーシュだ。


『このまま、一発も撃たないで済めば最高なんだがな』

 

 アキヒトも同じ気持ちだった。


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