【9話】レオネル様の視線
リーシャと初めてまともに話した夜から、一か月。
リーシャとは毎日ちょっとずつ打ち解けていき、今では『お母様』と呼んでもらえるまでになった。
わーい! やったね!
あんなにも開いていた義娘たちとの溝は、かなり塞がった。
二人と仲良くなりたいという私の目的は果たされたと言っていいだろう。
破滅の未来はこれで遠ざかったはず。
それは良かったのだけれど。
「ママはミアとお外で遊ぶんだよ! お姉ちゃんにはあげない!」
「わがまま言わないで! お母様は私と過ごすの! 今日は一日中勉強を教えてもらうんだから!」
別の問題が発生するように。
義娘たちは私の取り合いをして、よく喧嘩するようになっていた。
今も朝食の席で、今日の私をどうするかで激しい言い合いを繰り広げている。
二人ともムキーッとなっていて、譲る気はまったくない。
それだけ好かれているってことだから嬉しいんだけどね……。
以前みたく怖がられているよりはずっといい。
むしろ天使みたいにかわいい子どもたちに取り合いをされるのは悪くないというか、けっこうテンションが上がるというか。
とはいえ、だ。
二人には仲良くしてほしい。
ここは母親として、きちんとこの場を収めないとね。
「二人とも注目!」
私が両手をパンと叩くと、言い合いをしていた二人はスッと静かになった。
聞き分けの良い娘たちで、母は嬉しいです。
「今日は三人で行動します。午前中はお勉強、午後は外で遊ぶ。これなら二人のやりたいことを叶えられるでしょ?」
義娘たちは互いの顔を見合うと、しぶしぶ頷いた。
私の折衷案に物申したいんだろうけど、どうにかこれで丸く収まった。めでたしめでたし。
「ん? どうかしました?」
二人から視線を外した私は、レオネル様へそれを向ける。
私たちのやり取りを、興味深そうにじっと見ていた。
……いや、それはないか。
レオネル様は他人への興味が無いお人。
私たちに関心を示すことはありえないだろう。
きっと私の気のせいだ。
「……なんでもない」
少し間を空けてから答えたレオネル様は、食事を再開した。
その日の午後。
「次はミアが鬼ね! お姉ちゃんとママは――」
「ごめん! いったん抜けさせてちょうだい!」
ぜえぜえ息をしながら、私はなんとか声を絞り出す。
午後になってからというもの、ミアはフルパワーで遊び回っていた。
やりたくもない勉強をしたことによるストレスのせいか、おてんば度がいつもよりパワーアップ。めちゃくちゃ元気だった。
私とリーシャもそれに付き合っていたのだけど、ついに私は限界が。
このまま続ければ死んでしまう。いったん休憩が必要だ。
「大丈夫ですかお母様?」
「ええ。少し休憩すれば元に戻るわ。心配してくれてありがとうね」
リーシャに笑顔を見せ、
「ママ、早く戻ってきてね!」
「もちろんよ」
ミアにも笑顔を見せる。
そして私は、近くのベンチに腰を下ろした。
ふぅ……つ、疲れた。
真剣に筋トレを考えた方がいいかもしれないわね……。
深く息を吐き、額の汗をハンカチで拭う。
のどがカラカラだわ。
飲み物がほしい……。
なんて思っていると、
「これを飲むといい。回復魔法をかけてあるから疲労回復効果がある」
横から水の入った容器が目の前に差し出された。
なんてグッドタイミング!
……あれ、でも誰が?
見てみれば、そこにいたのはまさかの人物。
レオネル様だ。




