【7話】開かないドア
レオネル様との話を終え談話室を出た私だったが、私室へは戻らない。
私にはまだ、やらなきゃいけないことがあった。
向かったのは、リーシャの部屋だ。
「バネッサだけど話がしたいの。今いいかしら?」
閉じたドアをノックしてから、声をかける。
しかし返ってきたのは、
「……ごめんなさい」
という小さな声だった。
「わかったわ。明日の夜もまた来るわね。おやすみなさい」
こういうのは焦ったら逆効果。
明るい声色で返してから、私はこの場を後にする。
翌日の夜も、私はリーシャの部屋へとやってきた。
同じように、話がある、と声をかけてからドアをノックする。
けれどもリーシャの返答も、昨晩と同じ。
都合が合わないとのことだった。
「明日も来るわね。おやすみなさい」
私はまたそう言って、去っていく。
辛抱強く続けていれば、ドアはきっと開くはず。
そう信じながら、一週間同じことを続けた夜のことだ。
「こんばんは。今いいかしら?」
私はいつもみたく、ドア越しに声をかける。
いつも通りなら、少しして断りの言葉が返ってくるはずだ。
けれども、今日はそうならなかった。
待てども、返事がなかなか返ってこない。
留守かしら?
仕方ない……今夜は諦めましょう。
そう思って帰ろうとしたとき。
「どうしてですか?」
返ってきたのは断りの返事ではなく、疑問。
こうなったのは初めてだ。
「どうして私と話をしたいんですか?」
「あなたと仲良くなりたくて――」
「さんざんひどいことをしてきた癖に! 今さらこんなこと!!」
涙交じりの叫び声が、内側からドアを乱暴に叩く。
痛々しい感情がダイレクトに伝わってきた。
きっとこれは、誰にも言えなかったリーシャの本音だ。
ずっしりと重たい。ずっと言いたくても我慢してきた分、感情が積み重なっているかのようだった。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
過去は消せない。どんな理由があろうとも。
私はひたすらに謝るしかなかった。
「謝るくらいなら最初からやらないで! あなたの言葉なんか信用できない!!」
「そうよね。謝っても謝りきれないことを、私はあなたとミアにたくさんしてきた。私の言葉を信じられないのも当然よ」
「そこまでわかっているならどうして毎晩来るんですか……。私のところに来ても意味がないって、わかっているはずなのに……」
「私はあなたと話がしたいの。仲良くなりたいの。信じてもらえないかもしれないけど、これが私の本心よ」
この言葉が届くかはわからない。
それでもドアが開くことを願い、ありったけの想いを乗せてありのままの気持ちを伝える。
私にできることは、それしかないのだから。
――ギィッ。
ゆっくりと音を立てて、ドアが開く。
「ありがとう」
きっとこのドアを開けるまでに、たくさんの葛藤があったことだろう。
それでもリーシャは開けてくれた。私を信じてくれた。
だからこその、感謝。
真っ赤に瞳を腫らすリーシャに頭を下げてから、私は部屋に入った。




