【6話】公爵様からのお呼び出し
夕食を終えてから、一時間後。
私は今、談話室のソファーに座っている。
しかし、一人ではない。
対面のソファーにはレオネル様が腰をかけている。
『当主様がお呼びです。談話室へ向かってください』
先ほど私室にやって来たメイドにそう言われ、私はここへと駆けつけたのだ。
「急に呼び出したりしてすまないな」
「いえ、お気になさらず」
「……」
「……」
ちーん。
広い部屋に沈黙が走る。
……気まずすぎる。
レオネル様は他人に対して、無関心無干渉のお人。
この家に嫁いでからというもの、まともに会話したことはただの一度だってない。
そんな人と部屋に二人きりというこの状況は、気まずい以外のなにものでもなかった。
話があるなら手早く済ませてほしい。
呼び出しておいて、どうしてなにも喋ってくれないのよ……。
いっそ私の方から、いったいどんなご用でしょうか? って、聞いてみようかしら。
なんて考えていたら。
「単刀直入に聞こうか。……なにを考えている?」
レオネル様の赤い瞳がキッと細められる。
悪事を暴こうと問い詰めているかのような雰囲気だ。
「キミは今朝から急に態度が変わった。まるで別人だ。俺にはそれが不可解でならない」
当然の意見ね。
もし立場が逆なら、私もそう思っただろうし。
けれど真相を話したところで、信じてもらえるとは思えない。
前世の記憶がよみがえったから、なんて言っても、余計に不信感を募らせてしまうだけだ。悪手でしかない。
「なにを企んでいる? 場合によってはこの家から追い出すぞ」
ビリっとした言葉が私の鼓膜を震わせる。
レオネル様は本気だ。
冗談で言っているとは思えない。
ここで言葉を間違えれば大変なことになる。
下手にごまかすのは、かえって逆効果だろう。
「私、これまでの行いを深く反省したんです。これからはドルムント公爵夫人としてそしてなによりあの子たちの母親として、ふさわしい人間に生まれ変わりたい。今はそう思っています」
不要な部分を伏せつつも、思っていることを素直に口にした。
これが今の私に出せる最大限だ。
「悪いが俺には、キミがそのような殊勝な心を持ち合わせているとは思えない。これまでの立ち振る舞いをさんざん見てきたからな。……だが、なぜだろうな。嘘をついているようにも見えん」
顎に手を当てたレオネル様はしばらく考えてから、小さく頷いた。
「しばらくは様子を見させてもらう」
「ありがとうございます」
とりあえずは、セーフ。
まだ完全に疑いが晴れた訳ではないけど、追い出されずには済んだ。危なかったぁ。
「話は以上だ」
「少しお待ちになってください」
立ち上がろうとするレオネル様を、慌てて引き止める。
「これからはレオネル様も、リーシャとミアの二人と会話をしていただけないでしょうか?」
レオネル様がどうして他人と関わろうとしないのか。
それはわからない。深い事情があるのかもしれない。
けれど父親と仲良くなれた方がきっと、リーシャとミアは嬉しいと思うはず。
二人のためになるのであれば、ぜひとも叶えてあげたい。
だって私は今日、母親になると決めたのだから。
「……考えてみよう」
「ありがとうございます。なにか私にできることがあれば、遠慮なく言ってくださいね」
「それでは失礼する」
立ち上がったレオネル様が、部屋から出ていく。
あー、緊張した。
張りつめた空気から解放された私は、ホッと息を吐いた。




