【24話】邪神の声 ※リーシャ視点
(力……そうだ! 力があればお母様もきっと私のことを――って、そんなのいけない! なに考えてるのよ!)
リーシャはハッとなる。
もう少しで甘い誘惑に負けてしまうところだった。
きっとディオニスは、こうなることをわかっていたのかもしれない。
消えたふりをして機会を待っていたのだ。
心が弱って隙ができている今、ディオニスはそこに付け込もうとしている。
(邪神の思い通りになんてならない! 絶対に負けない!)
「そんなのいらないって言ったでしょ! 何度聞かれても私の答えは変わらない! 私の体から出ていって!!」
「周囲に出来損ないと蔑まれ妹への劣等感を抱えながら生きるのは、さぞ辛かっただろうな」
「――!? どうして知ってるの……!」
「俺にはお前の感情が手に取るようにわかる。随分と辛い人生を歩んできたようだな。人間だった頃の俺によく似ている。……お前が特別なのはそれが理由かもしれないな」
ディオニスの声が一瞬だけ小さくなるも、
「だが安心しろ」
すぐに元の力強さを取り戻す。
「闇の力を宿せば、妹よりも上に立てるぞ。これでもう劣等感を感じることはない。母親に捨てられる心配だってなくなる」
「いい加減なこと言わないで! お母様はずっと一緒にいてくれるってそう言ってくれた! 私を捨てたりなんかしないもん!!」
「これはめでたいな……ククク」
嫌味ったらしい笑い声が響く。
なんにもおかしいことは言っていないのに。
腹が立ってしょうがない。
「まさかお前、その言葉を本気で信じているのか?」
「当たり前でしょ! 私はお母様のことを世界で一番信じてる!」
「ひとつ、問題だ。綺麗で完璧なクッキーとひび割れた出来損ないのクッキー、その二つが店に売られていたとしよう。さて、客が選ぶのはどちらのクッキーかな?」
「……お菓子と人間を一緒にしないで!」
「いいや、同じさ。お前の母親が選ぶのは完璧な妹。出来損ないのお前が選ばれることはない。未来永劫にな」
「嘘……そんなの嘘!!」
「ならば母親を見てみるといい。そこにこの世の真実がある」
ベンチでは笑顔のバネッサが、ミアの頭を撫でている。
緑のその瞳が見つめているのは、ミアだけだ。
リーシャのことなど、少しだって見ていない。
完全に存在を忘れている。
バネッサが選んだのは、優秀なミア。
出来損ないは選ばれない。捨てられる。
そこにあったのは、残酷すぎるほどにわかりやすい世界の真実だった。
「いや……いやあああああ! なんで! どうして私を見てくれないの!? 嫌だよ! 私を見て! 私だけを見てよ!!」
心のうちに溜まっていた黒いなにかが、全身に広がっていく。
ディオニスの高笑いとともに、リーシャの体から黒色のオーラが噴き上がった。




