【21話】心境の変化
社交パーティー以降、私はレオネル様を強く意識するようになってしまった。
だって、仕方ないよね。
レオネル様のことが好きなんだもの。意識しないほうが無理ってもんでしょ。
私のことどう思っているんだろうとか、好きって伝えたらどういう反応をするんだろうとか。
頭の中は常にそんなことでいっぱい。自分でも呆れてしまうくらいに恋愛脳になっていた。
「けど、ずっとこのままっていうのも良くないわよね……」
私室の窓辺に立つ私はため息を吐く。
レオネル様と食堂で顔を合わせるだけでも変に緊張して、うまく喋れなくなってしまう。
リーシャやミアに心配されることも、近頃では結構な頻度であったり。
このままズルズル気持ちを引きずっていたら、いつかおかしくなってしまう。
スッキリするには、レオネル様に気持ちを伝えるのが一番いいんじゃないかと思う。
「思う……思うんだけどねぇ……」
しかしながら、実行できるかはまた別の話。
私にはそんな勇気がない。
もし拒絶されてしまったら。
そんなことを考えて、足がすくんでしまう。怖い。
私はどこまでも弱くて、臆病だった。
実家で虐げられていたあのときから、本質はなにも変わっていない。
「さて、どうしようかしら――あら?」
ふと窓から見えたのは、庭園に立つリーシャとミアの姿。
今日の令嬢教育は確か、二人にとって初めての魔法の実技演習だったわよね。
危ないことにはならないわよね?
講師が見てるから大丈夫だとは思うけど……あー、ダメだ。
やっぱり心配だ。見に行こう。
過保護すぎるって?
そんなの知ったことですか!
「お母様!」
「ママー!」
私に気付いたリーシャとミアは、満面の笑みを浮かべる。
はぁ、今日も義娘たちは最高にかわいい。
二人の天使に小さく手を振った私は、近くのベンチへ腰を下ろした。
「お二人にはこれから、実際に魔法を放ってもらいます。少し離れたところに大きな岩が見えますよね? あれが目標物です。岩に魔法を当ててください」
講師からの説明に、二人は揃って頷いた。
けれど、そこから先は違いがある。
リーシャは不安気に、きょろきょろ周りを見ている。
緊張して落ち着かないのだろう。
対照的に、ミアはわくわくしている。
早く魔法をぶっ放したくてたまらない、そんな感じだ。
二人の性格の違いがハッキリと出ている。
見ているだけでも微笑ましくて、自然と笑みが浮かんじゃう。
「隣に座ってもいいか?」
そんな私に声をかけてきたのは、レオネル様だ。
もしかしたら私と同じで、初めての実技演習が心配で見にきたのかもしれない。
うぅ……レオネル様と二人きりだ……。
緊張してきちゃう。
「ど、どうぞ」
やや上ずってしまった声で許可を出すと、レオネル様が私のすぐ隣に腰を下ろした。
が、ここで私は全速力で端までスライド。
レオネル様と距離を取る。
だってあんまり近すぎると、緊張でおかしくなってしまうんだもの……。
「……。俺はなにか、キミに嫌われるようなことをしただろうか。もしそうなら謝罪させてほしい」
「いえ、そういうことではありません……」
「ではとうして離れる? 理由を教えてくれ」
「……申し訳ございません。それは無理です」
「…………そうか」
レオネル様の肩がガックリと落ちる。
あからさまにショックを受けていた。
ごめんなさい!
私だってあなたを傷つけたい訳じゃないんです!
「では最初は、ミアさんからにしましょうか」
「はーい!」
講師から指名を受けたミアは前に出ると、大岩へ向けて両腕を伸ばす。
「えいっ!」
元気いっぱいなかけ声とともにミアの手のひらから放たれたのは、氷のつらら。
大岩めがけて勢いよく飛んでいったそれは、見事に真ん中へ命中した。
ミアの初チャレンジは大成功。
文句のつけようがないくらいに素晴らしかった。
「ママー、パパー!」
満面の笑みで手を振るミアに、私とレオネル様は手を振り返す。
もうあんなに立派な魔法を使えるなんて、ミアはすごいわね。
天才魔術師のレオネル様の血を継いでいるだけあるわ。
きっと同年代でこれだけできる子は他にいないだろう。
将来はレオネル様みたく、国を代表する魔術師になるかも。うふふ、今から楽しみ。
「大変よくでました! パーフェクトです! では次。リーシャさん、お願いします」
「は、はい」
ミアと入れ替わるようにして、今度はリーシャが前に出た。
同じように大岩へ向けて両腕を伸ばす、が。
氷のつららは現れない。
失敗だ。
「今日が初めてですからね。落ち込むことはありませんよ」
「……ありがとうございます」
講師にフォローされながら、リーシャは後ろへ下がる。
その表情には、悔しさがにじみ出ていた。
リーシャは以前、『優秀なミアにコンプレックスを抱いている』と私に話してくれた。
きっと今、悔しくて悔しくて仕方ないことだろう。
心の内を想像するだけでも、ズキンと胸が痛くなる。




