【20話】ずっとほしかったもの
社交パーティーが終わる。
月明かりの下、動き始めた帰りの馬車の中で最初に口を開いたのは、私の対面に座るレオネル様だった。
「すまなかった」
聞こえてきたのは、まさかの謝罪の言葉。
どうしてそうなるの?
私は今日、レオネル様にたくさん助けてもらった。
謝られることなんて一つだってないのに。
「もっと早く駆け付けるべきだった」
「いえいえ! 来てくれただけで嬉しかったですよ!」
ピンチに駆けつけて助けてくれた。
レオネル様は私にとって、白馬の王子様だ。
「助けていただき、ありがとうございました」
「気にしないでいい。俺は当然のことをしたまでだ」
当然……当然かぁ……。
その言葉の意味を考えてみる。
身内が蔑まれているのを放っておくのは、当主としてあるまじき事。厳正に対処しなければならない。
きっとそんな思いで、レオネル様は私を助けてくれたのだろう。
『当然』は、『当主として当然』という意味。
だからこそ私に、気にしないでいい、と言ってくれたんだと思う。
それが一番しっくりくる。
レオネル様っぽい。
それでも私は、
「やっぱりお礼を言わせてください。ありがとうございました」
もう一度お礼を言う。
理由はなんであれ、レオネル様がピンチから救ってくれたのは揺るがない事実。
本当に嬉しかったし、心から安心した。
だからどれだけ私が感謝しているのかを、きちんと言葉にして伝えたかった。
不要って言われても、引き下がるもんですか。
「キミは優しいな」
「……優しくなんてありませんよ。優しい人であれば、父の言葉に耳を傾けていたはずですから。でも私は、どうしてもそんな気になれませんでした」
胸の内に不快なものが形成される。
どんどん膨れ上がっていくそれを吐き出すかのように私は、
「……私、家族にずっと虐げられてきたんです」
嫁ぐ前の自分を語っていく。
両親がかわいがるのは優秀なリリエットだけだったということ。
家族や周囲の人間たちから、『出来損ない』と呼ばれ蔑まれてきたこと。
そのすべてを隠さず話した。
話し終わるなり、レオネル様が腰を浮かせる。
私の隣へやって来ると、肩にそっと手を置いてくれた。
「よく頑張った。辛かったな」
隣から小さな言葉が聞こえる。
短いその言葉はなによりも優しくて、温かい。
涙がこぼれる。
どんどん溢れて、止まらない。
あぁ、そうか。
きっと私は、誰かにずっとそう言ってほしかったのかもしれない。
レオネル様が私を抱き寄せる。
分厚くてたくましい胸板に、私は顔をうずめた。
「キミの居場所はここだ。安心していい」
「う……ううっ……!」
体にすがりつき、子どものように泣きじゃくる。
そんな私をレオネル様はなにも言わずに、そっと受け止めてくれた。
胸が温かくて、でもそれだけじゃなくて……なんだろうこの気持ち。
あぁ……そっか。わかったかも。
私、この人のことが好きなんだ。
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