【18話】最悪の再会
レオネル様と手を繋いだまま、一緒にホールへ入る。
瞬間、会場内にいる貴族たちの視線が一挙に私たちへ集中した。
セレディム王国で大きな権力を持つドルムント公爵家は、一目置かれている存在。
貴族たちにとっては注目の的だった。
ミルディ伯爵家にいたときにも、社交パーティーに出席したことは何度かある。
けれど、こんなにも注目を浴びるのは初めてだ。
――多くの人に見られている。
その現実が緊張感へと変わり、私を襲う。
プルプルと手が震えてきた。
ダメだ、ここから逃げ出しくてたまらない。
「大丈夫だ」
隣にいるレオネル様は小声で呟くと、私の手をギュッと握り直してくれた。
大きくて温かい、彼の手。
思わず泣いてしまうようなその温かさは、私に大きな安心をくれた。
ついさっきまで怖くてたまらなかったのに、今はもう平気だ。
手の震えも止まっている。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
「そうか。……では、行こうか」
「はい」
レオネル様と一緒になって会場を回り、貴族たちに挨拶をしていく。
相手は王族や公爵家といった、大きな権力を持っている人たちばかり。
そんな人たちを前にしてまったく緊張しない――というのは無理だったけれど、それでもガチガチにならずにはいられる。
隣にレオネル様がいる。
そう思うだけで安心し、お腹の底から力が湧いてくる。
緊張しつつもなんとかこなすことができているのは、そのおかげだ。
一通り挨拶を終えた頃。
「すまないが少し離れる」
主催者直々にお呼び出しを受けてしまったらしく、レオネル様が私の側を離れることに。
心細いから置いて行かないで~、というのが本音だけど、さすがにそれはワガママというもの。
不安はありながらも、笑顔で送り出した。
うーん……どうしようかしら。
一人になったとたん、次の行動がわからなくなる。
いったん、なにか飲みながら考えてみましょう。
そう思い、飲み物を貰いに行こうとした、そのとき。
「お姉様じゃありませんか」
背中越しに声をかけられる。
この声……まさか。
聞き覚えのある声に顔を引きつかせながら振り向けば、嫌な予感は的中。
そこにいたのは、長いピンク色の髪をした可憐な少女。
リリエット・ミルディ――私の妹だ。
リリエットの両脇には両親もいる。
今日のパーティーにはエスタ王国の貴族も多く招待されているって聞いていたけど、まさかこの人たちも来ていたなんて……。
この三人にはもう二度と会わないと思っていたし、会いたくもなかった。
最悪だ。
「公爵夫人としての生活はいかがですか? ちゃんとやれています? それとも出来損ないのお姉様のことですし、もう愛想を尽かされて捨てられる寸前だったり~?」
リリエットがクスクス笑う。
両親も楽し気に口の端を吊り上げた。
私を見下し嘲笑する家族たち。
この光景を見るのは、もう何度目だろう。すっかりおなじみの光景だ。
ミルディ伯爵家で虐げられてきた私にとって、家族に蔑まれるのは日常茶飯事。
そのたびにいつも、悔しい気持ちをこらえて我慢してきた。
けれど、もう違う。
「私への侮辱はドルムント公爵家を侮辱することになる。その意味をわかっているの?」
今の私は公爵夫人。
目の前にいる三人よりも、社会的地位はずっと上だ。
彼らに罰を与えることなんて訳もない。
「これ以上くだらないことを言えば、あなたたちは後悔することになるわよ? わかったらとっとと私の前から消えてちょうだい。不愉快だから」
ぐぬぬ……! と、両親は揃って険しい顔になる。
なにか私に言いたいのだろうが、ここで失礼な発言をして罰を与えられることを恐れているのだろう。
私の話をちゃんと理解してくれたみたいでなによりだ。
でも、リリエットだけは違った。
「ふん! なにを偉そうに! 臆病で泣き虫で無能のお姉様に、そんなことをする意気地があるわけないでしょ!」
リリエットは続けて両親を交互に見ると、
「あんな出来損ないの言うことなんて無視して大丈夫! どうせなにもできやしないんだから!」
なんて笑顔で言ってみせた。
険しかった両親の表情が戻る。
どうやらリリエットの言葉を信じたらしい。
いや、私はやるけどね?
せっかく警告してあげたのに……愚かな人たちだこと。
「あぁ……そっか。公爵様に泣きつこうと考えているんですね? でも無駄ですよ。公爵様が他人に興味がないのは有名な話。お姉様がなにを言ったところで耳を貸してはくださいません。はい、残念でした~」
的外れなことをリリエットが自慢気に語れば、
「さすがは賢くてかわいいリリエット! 私の自慢の娘だ!」
「ええ! バネッサみたいな失敗作とは大違いね!」
両親は調子づく。
あれ……なんだか気分が悪くなってきた。
実家で虐げられていたときの記憶が、次々と脳裏に浮かんでくる。
――心に深い傷を持つ者は、強いストレスを感じたときなどに無意識にそれを思い出すことがある。
最近読んだ本に、そんなことが書いてあった。
今私の身に起こっているのは、たぶんそれだ。
足元がふらつき、視界がぐにゃりと歪む。
だめ……このままじゃ倒れちゃう。
「ドレスと宝石でいくら着飾ったところで所詮、出来損ないは出来損ない! 調子に乗らないでよね! 自分の立ち場をわきまえなさいよ!!」
「立場をわきまえろだと? それは貴様の方だ」
低い声が聞こえるとともに、ふらついていた体が安定する。
私の体は支えられていた。
それをしてくれたのは、レオネル様だ。




