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No.97 初めての食事

 

 No.97 初めての食事







「有り難うございます・・・ルベルさん」


「さすがに、疲れたか?」



 あれから更に3時間・・・合計6時間飛び続けた私は、速度を維持出来なくなってしまい、敢え無くルベルさんの背中に助けを求めた。



「飛ぶだけなら、まだいける気がするんです。でも、速度をワイバーンに合わせるとなると・・・」


「ワイバーンは能力的に、飛行出来る魔物の中でも継続時間・速度、共に上位に来る。加えて、王宮騎士団の訓練されたワイバーンだ。それを考えれば、発現したばかりのスキルを使用し、初の長距離飛行だと考えれば、むしろ健闘した部類だろう」


「そうですかね・・・だと良いのですが・・・でも悔しいです」



 ヴィクターさんの胴部に回した両手を、互いにギュッと掴む。悔しさから無意識に取った行動だった。


 そんな心情から、力の込もる私の手をヴィクターさんの手が、宥(なだ)める様に2度軽くトントンと触れる。


 俯いていた顔を上げると、振り返るヴィクターさんと目が合う。その表情は呆れでも、幻滅でも同情でも無く・・・いつだったか、夕暮れに見た柔らかい物に近かった。



「そう何でも悲観的に考えるな。スキルの上達も経験値で大きく変わって来る。もう少し長期的に考えて行くと良い、何でも焦る必要は無い」


「はい・・・すみません、気を遣わせてしまって・・・」


「それこそ気にするな。しばらくはルベルの背で休息を取れ、もし仮眠を取るなら俺の前に来い、後ろだと落ちる危険性がある」


「いえ!大丈夫です、起きています!」


「そうか?まぁ、ゆっくりしていると良い」



 ヴィクターさんのお言葉に甘えて、ルベルさんに身を任せる。


 揺れと風を感じて進む遮蔽物の無い大空は、遙か先まで伸びていた。到着は明日の深夜になるだろう。



 ワイバーンは、丸2日以上飛び続ける事が当たり前に出来る為、休憩の必要が無いそうだが、我々はそうも行かない。


 その為、途中で仮眠を含めた休息を取る予定となっている。時間としては、合計5〜6時間。全員の体調を見ながら、タイミングを決めるとの事だった。


 エルドールの国内を移動した時に、魔法で回復しながら進める事が分かった為、2日間ノンストップで移動はしないのだろうか?と一瞬思ったが、その思考は完全に社畜時代の悪い癖だ。



 休める時には休む、もしくは休む時間を取れるように調整しながら行う───・・・

 私も、もっとゆ(・)と(・)り(・)ある思考を育みたい所である。




 日が落ちる前に山間の村に降り立ち、村長に許可を取った後(のち)、野営する事になった。


 許可と言っても、騎士団の制服を見た村長が、是非ご滞在下さい!と即断。


 アルシュさんの変装の甲斐あって、を王子様が我々の中に居るとは分からなかった様だが、それでも王国騎士団と言う肩書きは歓迎されるに十分な物だった。


 是非、村の中でお休み下さいとも言われたが、大きなワイバーン数体を寝かせるのは心苦しい。

 ご厚意だけ受け取って、村の側にて全員で野営と言う運びとなったのだ。



 よく訓練された団員の面々は、速やかにテントを張り、炊事を始め、あっと言う間に完成された夕食がテーブルに並べられた。


 私も手伝いを希望したが、補助的な役割のみで、殆どは団員の手による物だった。


 食糧庫代わりのマジックバッグがあるとは言え、随分と豪華な食卓に、やはり王宮のメンバーとなると潤沢な予算の基、食材の準備が豊富なのかもしれない。


 バゲットに、肉の香草焼き、野菜のグリルに、具沢山のスープが揃い、野外飯の範囲を超えてちょっとしたレストランだ。



「いつも騎士団の方々は、これ程の夕食を?」


 横に座るヴィクターさんに、小声で聞いてみる。ヴィクターさんも以前は騎士団所属だったのだから、その辺りの事情に詳しいはずだ。


「いや?料理1つ辺りの量は多いが、品数はこれ程多くない。今回はアルが居るからな、たった数日でも健康面を不安視した王宮の厨房が、食材を持たせたんだろう。一応、料理担当は厨房での研修期間があるから、ある程度は対応可能だ」


「えっ!団員の方が料理研修をされるんですか!?」


「簡単な物は全員調理出来る様にはなっているが、長期遠征や討伐での士気を上げる為に、献立の管理が出来る団員も必要だからな。任命された団員は、厨房に3ヶ月研修と言う名の修行だ」


「凄い・・・」



 管理栄養士的な責任者を育てる、細やかな組織体制に感動する。そして、その団員達の作る料理は驚く程に美味しかった。




 夕食を終えて片付けをしている最中の事、野営地に村長が訪れた。


 遠目だったので、恐らくだがコールソンさんが籠の様な物を受け取り、お礼を言っている様に見えた。


 自分に割り振られた仕事を終え、皆の元へ戻ると先程の籠がテーブルに置かれている。


 詳しく聞くと、村で収穫された果物だそうだ。ソルアと言う名の果物は、昼の光と夜の光を惜しみなく浴び、甘さと酸味のバランスが絶妙に合わさった味わいで、この地域の名産。



 毎年王都へと献上しているが、今年は例年より出来が早く、つい今朝収穫したばかりの物を、是非にと持って来られたらしい。騎士団には、いつも助けて頂いていますので・・・と。



 団員の手で華麗に切り分けられたソルアを、全員が口に入れたのを確認してから、一切れ食べる。


「あ、凄く美味しいですね・・・!」



 よく熟れたマンゴーの様な味と、ラフランスの様な食感。両方の特徴を併せ持ったソルアを、とても不思議な感覚で味わう。



「うん、今年も素晴らしい出来だな。これはお父上もお喜びになるだろう」


「本当ですね───しかし頂いてしまって、良かったのでしょうか・・・村長の仰る騎士団とは"王宮近衛騎士団"では無く、国全体を警護する"王国騎士団"の事でしょうから、我々は頂く事は出来ませんとお断りをしましたが、是非にと押し切られまして・・・」


「それは大丈夫でしょう。王宮に収める前に、王宮関係者に味わって貰いたかったのかも知れませんしな!」


「まぁ、団服の見た目が少し違うくらいで、並べて見比べないと分かり辛いからね・・・。なんにせよ、折角のご厚意だ!有り難く、味わって頂こう」


 後ろめたい様子のコールソンさんを、シュトルムさんとアルシュさんが宥める。



 頂いた感謝と共に採れたてのソルアに舌鼓を打っていると、ゴソゴソとフードから出て肩に乗って来たウルが、しきりに私の口元の匂いを嗅いでいる。



 実は、卵から産まれて一度も食べ物を口にしていなかったウル。何を差し出してもフイっと顔を背けてしまう。


 だからと言って、食事を口にしない事で弱る様子は全く無く、1日の大半を私のフードの中で寝て過ごしている。


 どうしたものかと困っていたが、生態の分からない生物だ。無理矢理食べさせて、逆に弱らせてしまっては元も子もない。


 ヴィクターさん曰く"産まれたばかりでまだ食に興味が無いのだろう。何かが切っ掛けで、興味を示す食べ物があるかも知れないし、腹が空けば何かしら自分から催促して来るだろう。それまでは様子を見たらどうだ?"と言われ、今日まで来た。



「ウル、もしかしてこれに興味があるの?・・・食べてみる?」


 ソルアの一切れを皿から掌に乗せ、ウルの口元まで近付ける。

 訝しげに鼻を近付け、何度か匂いを確認した後に今度は、舌先でひと舐め。口内に戻った舌で、モゴモゴと味を確かめている。


 気付けば皆食べる手を止め、固唾を飲んでウルの動向を見守っている気配がした。



 そして訪れたその瞬間。小さな口でソルアを囓り始めたのだ。シャクリ・・・シャクリ・・・と、小さな咀嚼音だけが聞こえる。


 やがて、その一切れを食べ終わったウルは掌を見つめ、それから私の顔を見つめる。



「・・・あっ・・・!おかわり・・・?」


「キャア・・・!」


 困った、今のは最後の一切れだった。どうしようかと皿の方に視線を向ける。


「えっ・・・!?」


 思わず目に入る光景に、私は驚きの声をあげた。


 アルシュさんを始め全員が、木串に刺さったソルアをこちらに差し出していたからだ。



 始祖の誕生に加え、竜の初めての食事と言う貴重な場面に立ち会い、見届けた彼らからは"本来ならば、両手を掲げ大喝采をしたいが、その気持ちを抑え、まだ欲しいと希(こいねが)う竜へと静かに品を献上する栄誉を!"と言う強い意志が感じられた。


 その様子にたじろいた私は、どうしようかと考えてる間に次々と皿に戻されるソルア。


「囓り欠けは駄目ですよ、まだ口を付けていない者のみお返しなさい」とコールソンさんからの指導が入り、五つのソルアが皿に鎮座した。



「えっと、宜しいのですか?」


 私の問いに、全員が首を縦に振る。成る程、もうこのソルアはウルの物と言う事だ・・・皆さんの厚意を有り難く頂戴する事にした。



 ウルをテーブルに乗せ皿を目の前に置く。少しお行儀は悪いかなと思ったが、自分で皿から食べると言う行為も覚えて貰いたくて、そうした。


 私の手では無く、目の前に置かれる木の皿。その円形の皿の上には、今しがた口にしたソルアが乗っている・・・


 匂いを嗅ぎ、少しの警戒の後、ゆっくりと食べ始めるウル。


 そうして皿が完全に空になり、再びフードへと戻るその様子を、皆が優しく見守る。



 ウルの姿が完全に見えなくなってから、それぞれが押し留めていた歓喜の声が、夜空に響いたのだった。






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