No.96 前世の身分証は免許証
No.96 前世の身分証は免許証
「ななななな何ですかその翼はっ・・・!!!!」
「おぉ!」
「これはまた・・・」
「────驚きましたね・・・」
「ジルの言っていた通り、本当に羽が生えるんだね・・・」
突然勢い良く私の背中から飛び出した翼に、王宮のメンバーは全員驚いている。
当たり前だ、事前説明も告知も無い。まさに突然顕れた様に見えるのだから。
アルシュさんだけは、ヴィクターさんに昨日の内に聞いていたのか、納得だと言う反応。
「えっと・・・遅ればせながら、ご説明させて頂きますと、卵を追い掛けた崖下でスキルが発現しまして。私も驚いていますが、翼が生えて飛べる様になったみたいです!」
細かい部分は良いのだ、全ては"個々に発現するスキル"と言う便利な理屈で捻じ伏せる。
堂々としていれば、おそらく事細かには追求はされないはずだ。
「スキルでしたか、是非詳細を!記録に残させて下さいませんかっ?」
追求、されないはずだ・・・・・・
「有翼種の様にもお見受けしますが、しかしながらメグミ様は翼以外に変化は無い様です。有翼種でしたら、雌型は細く踵の高いつま先を軸にした足が備わり、反対に雄型はどっしりと、幹のように太い足に加え、大きなかぎ爪を持っております。しかしながら、足に変化は無い。と、言う事はですよ?人間で有りながらスキルとして翼を、作り出している。何と不思議な・・・その理屈を、是非!」
────甘かった、追求されない筈が無い。ここには学者であるニコラスさんがいる。専門分野では無いかも知れないが、私の翼を前に目の輝きを見れば分かる。探究心に火が灯ったみたいだ。
「これこれ・・・止めなさい、ニコラス。成る程、スキル・・・ですか・・・魔導師を長くやっておりますが、初めて見る物ですね・・・我々は基本魔法で宙に浮きますので、翼は必要としていません。あぁ・・・───もしかすると、魔力の無いメグミさん特有のスキルなのかも知れませんね・・・」
「僕もコールソンと同意見だよ。スキルは個人個人の独自性の物だ。何が理由で、どうすれば何が発現するのか・・・本人にも分からない。ある日突然だったりと、意図していない場合の方が多いと聞く。ニコラスもその辺りは、分かっているのではないかな?」
「それはもう・・・!私のスキルもいきなりの発現でございましたので、大層戸惑いまして・・・!あっ・・・申し訳ありません・・・初めて目にした事例への探究心が抑えきれず。メグミ殿大変失礼を・・・」
「いえいえ!大丈夫ですよ!"ちょっと変わったスキル"で驚かせてしまい、すみません。私自身もよく分かっていないんです、なにせ私も、いきなりでしたので!」
コールソンさんとアルシュさんの華麗なアシストに助けて貰った私は、半ば乗っかる様に続く。その作戦が功を奏したのだろう、ニコラスさんは「そうですね・・・いきなり発現して、メグミ様も戸惑っておられるでしょうに、弁えず申し訳ありませんでした」と、意気消沈。
結果、何とか場を収める事に成功した。
何とか翼を受け入れて貰え、軽やかな気持ちで出発準備を整える。ウルは相変わらず、フードの中だ。
それぞれが騎乗後、ゆっくりと飛び立つワイバーン達に続き、私も翼をはためかせる。
鳥が飛び立つ映像をイメージして。
記憶の通りに何度か翼で空を切ると、難なく足が地面から離れた。
思ったよりも難しく無い・・・もしかすると、これは自分のイメージが反映されるのではないだろうか?
そう、例えば"次の羽ばたきで、上空で待つルベルさんの高さ迄、一気に体が持ち上がる"とイメージしたなら────・・・
そんな事を考えながら力強く翼を震わすと、本当にルベルさんの所迄、私の体が浮き上がったのだ。
「わっ・・・と!!?」
「勢いが良いな、感覚を掴んだのか?」
「少し、やり方が分かって来ました・・・」
初めての時は必死で藻掻いていた事と、焦りも相まって上手く翼を制御する事が出来なかったみたいだ。
背中から生える翼へ、正確にイメージを伝える事でそれに反応して動かす事が出来る。
もしかすると、先々でその感覚がより早く正確になれば、最終的に神経伝達と同等の・・・自分の手足の様に扱える日が来るのかもしれない。
「何とかなりそうです・・・この感じで、付いて行きます!」
「そうか?なら出発するが・・・・・・余り無理はするなよ?」
「はい!よろしくお願いします!」
こうして、私達は王都に向け出発した。
・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・-・-・-
「────大丈夫そうか?」
「はい!むしろ、だんだんと楽しくなって来ました!」
「もし休憩が必要になったら、遠慮言ってよ?」
王都までの基本の隊列は、前方にコールソンさん、次いでローグさんとニコラスさんを乗せた騎士団員を横並びに配置。
その後ろにアルシュさんとシュトルムさん。最後にヴィクターさんと、その横を飛ぶ私。
出発して約3時間、始めの頃はワイバーンの飛行速度に合わせ、一定の間隔を保ちながら飛ぶと言う条件に苦戦していた。
例えるなら、車のアクセルの踏み加減を多めにしてしまい、急加速からの慌ててブレーキで減速・・・と言った感じに、加速減速を小刻みに行う忙しない飛び方だった。
私が急ブレーキを掛ける度、フードに入ったままのウルが私の背中にぶつかり「ギャウ・・・」と小さく抗議の声を上げる。"もっと丁寧に飛べ"と言うお叱りの声だ。
だが1時間もすれば、それとなく感覚を掴む事に成功し、今や安定した飛行技術を披露している。
「翼の使い方が分かって来たので、今なら補助翼横転でもご披露出来そうです!」
身体を進行方向に向けたまま、翼の力を左右で変えてその場でクルリと一回転する動作を、指先で再現する。
「・・・・・・それが何かは分からないが、今は遠慮しておく。体力を温存してくれ」
「分かりました!またの機会にしますね」
「あぁ。問題が無さそうなら、このまま継続して進むが・・・良いか?」
「はい!」
シルビアからエルドールへ飛行移動した時と同様に、前方でコールソンさんが風よけの魔法を展開してくれているおかげで、風の抵抗が最小限に抑えられて飛ぶ事に集中出来る。
むしろ余裕すら確保できる程に。
あの時は初めてのワイバーン乗車体験で無事酔ってしまったが、今は自分の翼で飛んでいる為、酔いとは無縁。やはり車と同じで"自分で運転すると酔わない"は本当だと知った。
ちなみに私は、指定自動教車習所内で運転のみ。AT限定バリバリのペーパードライバーだ。免許証?身分を証明する際に、前世では大変お世話になっておりました。
「しかし凄いね・・・ジルから聞いてはいたけど、人間の背中から翼が生えている光景は、圧巻だよ」
「有翼種みたいですな!まぁ、彼らは浮島を国としておりますから、我々と相まみえる機会こそ有りませんが、彼らも立派な翼を携えていると聞きおよびます」
「本当にね。前のニコラスなんて、ああは言った物の、ずっと後ろ向きでメグミを観察しているよ。やはり、学者としての知的好奇心がどうしても疼くのだろうね」
そう・・・出発してからアルシュさんの前を飛ぶワイバーンに、騎乗しているニコラスさんはあろう事か、前向き乗りで振り返るでは無い。完全に後ろ向きでこちらを食い入る様に観察している。
ロープで自身と騎士団員の身体を離れないように結び、不安定な乗り方でも落下を防ぐ対策までしっかりと設ける徹底ぶり。
こちらを見つつずっと、何かを紙に書き続けているニコラスさん。その時ふとエルドールの中心に着いた時、街並みを紙に描き写していたのを思い出す。
未知、初見、稀少・・・そう言った物に出会した時、それを記録する行為がきっと染みついているのだ。
────いや、と言う事は・・・今の私の姿をその紙に、写し取っている可能性がある。
つまり私の姿が記録に残ってしまう・・・それは是が非でも遠慮被りたい。
免許証然り、履歴書然り、写真写りの悪さに定評のある私としては、どの瞬間を切り取って描かれようが、それが絵であっても大層恥ずかしい事に変わりないのだ。
スキルについて詳しく聞けないのであれば、せめてにと自身の書き記しに留めているのかも知れない・・・が、王都に着いたタイミングか、休憩のタイミングでその紙、検閲させて頂きます。
私自身が描かれていない事を、切実に願って。
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