No.95 いざ、あの大空へ!
第三章 −王都編− 前編
No.95 いざ、あの大空へ!
「・・・・・・本当に、それで行くのか・・・?」
「はい!そのつもりです!」
エルドールから帰国後、ウルを連れ王都へと向かう事になった私達は、翌日街で準備を済ませシルビィ辺境伯邸に集合していた。
街の外にお屋敷を構えるシルビィ辺境伯は、代々防御系の魔法を得意としている。
街やお屋敷は勿論の事、その魔法は国境にも及んでおり、私達が普段出入りする国境の検問所と違い、壁が途切れた場所であっても防衛用魔導装置を配備し、国防を担っているそうだ。
私が辺境伯邸を訪れるのは初めてで、いわゆる貴族のお屋敷に目を見張る。
門を潜ると、目の前に現れる大きなお庭。神殿の中庭も美しかったが、前世における西洋の庭園に引けを取らない、様々な花が咲き誇る別格の景色だった。
さすが・・・庭付きを求めて、街の外にお屋敷を構えるだけの事はある。
落ち葉1つすら無い広いお庭を抜け、建物の裏手向かうアルシュさんに着いて行くと、広大な牧草地に、王国騎士の有するワイバーンが腰を降ろし待機していた。
「殿下!お待ち致しておりました!」
「すまない。待たせたな、シルヴィ辺境伯」
「いえいえ!本日発たれると伺いましたので、勝手ながらお見送りをと思いまして」
「急で悪いな。領地に滞在の間、騎士団並びにワイバーンへの配慮と献身、礼を言う」
「数日ではございましたが、微力ながら国への力添えが出来ました事は、この上なき名誉にございます」
アルシュさんと握手を交わすこの壮年の男性が、西方一帯の防衛魔法を担っている人物。
後ろに緩りと撫で付け、ベビーブルーに白が交じる頭髪。質の良い生地で作られたウエストコートを纏う身体は、服の上からでもよく鍛えられているのが分かる。
防衛魔法を得意としているからと言って、その身を鍛える事を怠らない、心技一体の気配がする。
完全に初めましての私は、シルビィ辺境伯の統治する西方都市に身を置く人間として、出発前に一言挨拶をしておきたい所だ。
「ヴィクターさん。挨拶の前に知っておきたいので、シルビィ辺境伯のお名前等の情報をお願い出来ますでしょうか?」
「あぁ、メグミは初対面だったか。そうだな、彼はユーグ・エスクド・シルビィ辺境伯。代々西方地域を収める貴族だ。先代が領主だった時代は、ギルドに所属していたらしい。ちなみにだが、ギルマスとは旧友だそうだ。共に冒険者として競い合った・・・と聞いた事がある」
「あれ、グランさん以前はそんな事一言も・・・」
「まぁ、わざわざ詳しくは話さなかっただけだろう。その防御魔法の程は知っての通りだ。並大抵の攻撃ではビクともしない。・・・・・・一応言っておくが、もしこの先国境地にて防護壁魔法や装置の気配を察知しても、不用意に触れるなよ?間違って破壊されると困る」
「さ、さすがにしませんよ!でも、万が一があるので近くを通った際は気を付けます」
"並大抵の攻撃ではビクともしない"と言う言葉を言葉通り受け取って、慢心からの油断で、破壊してしまう事が無い様、十分に注意しよう。
「性格は、穏やか・・・・・・普段は貴族らしい振る舞いを念頭に置いている。が、ギルマスと競い合っていた元冒険者だ。時と場合によっては、口調が荒々しくなる・・・・・・と、聞いた。それが誇張された表現なのかは、すまないが俺には分からない。そのくらいか?」
「そうなんですね・・・でも緊急時や差し迫った状況なら、口調が荒くなる事は不思議なことでは無いので、ひとまず失礼の無い様に挨拶だけしておきますね」
アルシュさん達との会話が終わるのを見計らい、そそっとシルヴィ辺境伯の元へと近寄る。
辺境伯も私に気付き、互いに目が合う。挨拶はまず自分から!初見の第一印象大事!
「お初にお目に掛かります、メグミと申します!最近シルビアに居を構えました、新人冒険者です。現在はジルニード・ヴィクターS級冒険者の元、精進すべく研鑽を積んでおります!以後お見知りおきを!」
「君が・・・グランから聞いているよ。期待の大型新人が入ったから、今後が楽しみだと」
「えっ!?」
「すまない、申し遅れた。私は、ユーグ・エスクド・シルビィ。王国よりこの西方地域の領地を与えられている。───と、まぁ知っているか」
ははは、と目尻に皺を携え柔らかげに笑う姿は、グランさんより幾分か若く見える。
豪快さは全くなく、品を感じる話し方。これがヴィクターさんの言っている、貴族らしい振る舞いの一端なのかと納得する。
「ようこそ、我が領地へ。今後の活躍を期待しているよ」
「は、はい!宜しくお願いします!」
「────シルビイ辺境伯、今後とも世話になる。俺からも宜しく頼む」
挨拶を終えた私に、ヴィクターさんが一言添える。新人の挨拶の場を見守り、間を取ってからの絶妙なタイミング。
「ヴィクター侯爵ご子息から直々の申し出とあっては、無碍には出来ませんね。心得ました」
「やめてくれ、今は冒険者だ」
「ふむ・・・では引退した老骨冒険者として1つ。大きな力は、扱う本人の心次第・・・"大事に育ててやる事だ"」
ヴィクターさんの肩に片手を置き、発する言葉は・・・貴族としてでは無い、かつての冒険者としての姿が垣間見える様な、低く凄みのある声色だった。
「心得ている」
────5秒、いやもっと長かったかもしれない。2人の視線が交差する無言の時間。
殺気、とは違う互いの覚悟を確認する様な圧に、私は横で生唾を飲み込む。
「うん、良い目だ。前回会った時より良くなった」
「それは光栄だ。・・・以前より、悪くない日々を送っている」
「そろそろ、出発だろう。殿下をお待たせするべきでは無い」
「あぁ。ルベルの基へ行くぞメグミ」
先程の空気はどこへやら、軽口を叩き合う姿に唖然とする。この一瞬ピリッと来る雰囲気、冒険者では定番の挨拶なのだろうか。・・・いや、私が勝手にハラハラしているだけなのかもしれない。
「あっ、ではシルビィ辺境伯、失礼します!」
「気を付けて行って来るんだよ」
ひらりと手を振り、優しげに微笑む辺境伯に会釈を返し、ルベルさんの待機するワイバーンの隊列に向かう。
「待たせたな、調子はどうだ?ルベル」
最後まで待機姿勢のまま待ってくれていたルベルさんは"ようやく来たか"と立ち上がり、身体を伸ばす。
「良さそうだな、予定外だったが王都まで頼めるか?」
「グルルル・・・」
頭を下げ、ヴィクターさんの手に頭を擦り付ける姿は、甘えている様で見ていて微笑ましい。
「ルベルさん、宜しくお願いしますね!わわっ!」
「ガウ・・・」
ヴィクターさんに続き挨拶をする私にルベルさんは、頬をひと舐めした後に短く鳴く。
それから、私のフードをジッと見つめる。ウルの様子を確認している様だ。
先日みたく、警戒と言う雰囲気では無い。
「あ、今回もウル・・・竜の子が一緒なんだけど、ちゃんとお利口にしてると思いますので・・・!もし、私が疲れてしまった時は一緒に乗せて頂けたらと!」
「・・・・・・おい、その私が疲れてしまった時と言うのは、何だ?」
「え!?あ、えっと・・・・・・例の私の翼のスキルですが、折角手に入れたので王都までの道程で、飛ぶ練習が出来たらと思いまして!」
「────────正気か?」
「駄目ですかね?」
「駄目もなにも、ワイバーンの速度でも王都へは、丸2日掛かるぞ。休憩は挟むが、恐らく殆ど2日間飛び続ける・・・・・・翼の飛行継続時間がまだ分からない状態で、試すのか?」
「丸2日飛ぶ練習が出来ると言うのは、むしろ絶好の機会かと!あ、でも無理はしません、もし疲れてしまったら、ルベルさんの背中をお借りして、休み休み挑戦しますので・・・!」
前回出来なかった方向転換も、行く行くは難なく行える様になりたい。
だが、まずは進行方向に真っ直ぐ飛んで、どのくらい飛行時間を延ばせるのかを知りたいのだ。
あの時はヴィクターさんの顔を見て気が緩んだから、翼が消えた可能性が高い。
と言うのも、スキルの説明にあった"必要に応じて自動格納"の部分に引っ掛かりを覚えていたのだ。
私は川に落ちない為に抵抗していたにも関わらず、あっさりと翼は消えてしまった。
つまり、あの瞬間私がヴィクターさんに対して、またしても"良かった、助かった"と無意識に思ってしまった可能性がある。
その無意識に反応して必要と無くなった翼は、しれっと格納したのではないかと。
この仮説が正しければ、なんたる失態!甘えるな、恥を知れ!と言う物だ。
そのミステイクをこの先に持ち込まない為にも、ここは精神面と根性面を鍛える。そう寝る前に決めたのだ。
「・・・・・・本当に、それで行くのか・・・?」
「はい!そのつもりです!」
ワイバーンに皆が乗り込み、出発準備を整える中、地面で準備体操を念入りに行う。
「ん?メグミはルベルに乗らないのかい?」
「・・・どうやら、今回発現したスキルを使う練習をしたいらしい」
「・・・・・・それって、例の?」
「あぁ、まぁ、向上心があるのは良い事だ。何か有れば俺が補助する・・・で良いな?メグミ」
「はい!目指すは完走で、なるべくお手を煩わせない様にするのが目標です!行きます!」
強く願えば、背に翼は与えられる。
来い!!大空を舞う翼!!!
────呼び掛けに呼応するかの様に、無事私の背中には3度目の翼が出現した。
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前話更新の際に記載忘れをしていましたが、94話にて、第二章が完結しまして、95話より、第三章となります!
今後とも楽しく更新をして行きたいと思いますので、引き続き宜しくお願いし致します!⸜(*ˊᗜˋ*)⸝




