No.94 心の天秤【ヴィクターside】
No.94 心の天秤【ヴィクターside】
「ふーーー・・・」
「そんなに良かったのか?」
「あぁ、言葉に上手く出来ないけど、そうだね。まさか生きている間に竜に出逢え、触れる事が出来るなんて・・・・・・」
"竜から流れる雷を受け続ける"と言うメグミの覚悟を受け取ったアルは、提示された時間一杯、差し出された背中をゆっくりと指先で撫で続けた。
竜に触れる間、感動で一言も発しないアルとは対照的に、メグミは「ゆっくりね、急に来るとビックリするからね、そっとね・・・?」とウルに声を掛け、雷の調整具合を促し続けていた。
終わった後に「アルシュさんだけなら大丈夫でした!先程は、どうやらヴィクターさんの魔力に反応して強めに流れて来た様です」と、報告を受けた訳だが・・・成る程、そう言う理屈なら、俺は竜に極力触れないで置こうと思う。
「本当にメグミに感謝だね。彼女のお陰で、幸運な出来事が続いているのだから」
「ははっ、本人はやっかいごとを抱え続けていると、認識していそうだがな」
国側の視点からすると、今回の立役者と言っても過言では無いメグミに、何度目かのお礼を言うアル。だが、肝心の本人はもうここには居ない。
ウルの尻尾が腕から解かれた後、メグミは「そろそろ限界値かもしれません・・・すみません、体に溜まった雷を建物の外で逃がしてから寝ますね、お先に失礼します」とソファーを立ち上がった。
倒れない様に、一緒に下まで行こうか?とドアに向かう背に声を掛けたが「降りて放電した後、直ぐに上がって来るので大丈夫ですよ、お休みなさい」と、そのまま部屋を出て行った。
エルドールから帰国したその日の夜だ。人一倍、気力も体力も使った旅で、最後にこの件・・・かなり無理をさせてしまったと反省する。
「────でも、今回の件でジルが彼女を連れている理由がよく分かった。彼女、底抜けに良い子だね、でも同時に自分への不利益を天秤に掛けた時、損をする方を取る・・・危ういね・・・」
「そうだな。恐らく自分の中に明確な信念があり、その上で損を選び、限界値ギリギリまで無理をする。話に聞くと、元からそう言う気質の様だ・・・」
「何を天秤に掛けて取っていると思う?」
「何か、は分からないが・・・・・・自分が損をする先に、メグミが求める"結果"が存在している。いや、その結果に辿り着く為に、そちらを選んでしまっているのかもな・・・」
メグミは俺の想定を簡単に越える。予想していない事が起きて驚かされたり、少し心を緩める瞬間の範囲なら、俺が補えば問題ない。
────だが、度を超える無理は本意では無い。
今回の件で言えば、卵を追って躊躇いなく崖下に飛び降りた件が、正しくそれだ・・・
「・・・・・・崖での件を思い返してる?」
「あぁ・・・あの時は悪かったな」
宙に浮く手段が無いにも関わらず、崖下に飛び降りたのを見た時は、正直肝が冷えた。
直ぐに追い掛けようにも、飛び出た魔物が邪魔で・・・
即座に「シュトルム!最大火力魔法!!」と攻撃の命令を飛ばした。
意図を理解したシュトルムの放つ火魔法に風魔法を急造で複合させ、威力の底上げを行い、魔物を一撃で灰燼とした。
と同時に、抱えていたアルをコールソン目掛けて投げ飛ばし、メグミを追い掛けた。
今思い返せば一国の王子にも関わらず、雑な引き渡し方をしてしまい、アルには悪い事をしたなと感じたが、あの時はその余裕が無かった。
「驚きはしたけど、メグミを助けるにはあの選択が最適解だったと思うよ。コールソンも魔法で受け止めてくれたしね。でも僕を投げたおかげで、間に合って良かったよ」
「いや、正確には間に合っては居ないな・・・」
「どう言う事だい?抱きかかえて戻って来ただろう?」
「メグミは魔法が使えない代わりに、変わったスキルが発現するみたいでな。今回はそれによって、俺が追い付く頃には自力で宙に浮いていた」
「・・・?魔法は使えないんだろ?どうやって浮いていたんだ?」
「・・・・・・翼が、生えていた」
「え?」
アルが、訝しげに俺を見る。俺の幼なじみは何を言い出すのだろう?と顔に書いてある様だ。
「"人間であるメグミの背に翼を出現させる"そう言うスキルだそうだ、俺も目を疑った」
「有翼種の血が入っている・・・とか?」
「いやそれは無い。前にも言ったが、彼女は転生者だ。こちらの世界の種族は転生前には存在していなかったそうだ・・・現にメグミは、ドワーフもエルフも知らなかった。初めは魔物と勘違いした俺が言うのもなんだが、純血の人間だ・・・・・・と、思う」
純血の人間だと思う。と表現したのは、本人の主張とギルドでの魔法装置での判定を根拠としている。だが、実際の根底・・・真実は証明出来ない。現状、並べられた情報を元に、1番正解に近い物を答えとしている。
「ますます、謎が多いね。転生者・・・そう言った者が存在している事は、知識として知っている。人並み外れた能力を有している・・・と。かつてこの世界が、魔王の手によって荒んでいた時代に、顕れた転生者によってそれを退けた、なんて逸話も残っている。顕れたのはこの国では無かったそうだから、王宮の書庫に文献は無いよ」
「ははっ、勇者の物語か。1000年くらい前の伝記だったな。しかし、今回の竜の一件で"伝承やおとぎ話"が人々が作り出した、酔狂的虚構では無かったと、立証された訳だが・・・」
「ふふっ。案外、魔王を退けた勇者が本当に居たのかも知れないね」
「だな。すまない、話が逸れた。それで、メグミの翼の件だが・・・俺が追い付いた時には既に背に在って、だが声を掛けた後に直ぐ翼は消えた。当然だが、浮遊力を失って体が川へと落ちそうになったから、風で浮かせてそのまま抱えた」
不安定なスキルを過信して、また落下されても困る。メグミは余りいい顔をしなかったが、俺が抱えたままの方が合理的だと思い、降ろさなかった。
「あれ?風魔法もそうだけど、ジルが触れても卵は反発しなかったんだ?」
「直接は触っていないからな。終始、メグミ越しだ。まぁ、卵の状態では反発が起こり辛かったのかも知れないな・・・もう今となっては確認の方法が無い」
「ますます興味深いね・・・でも、そんな不思議な存在だから、ウル殿はメグミを気に入ったのかもしれないね」
「そうかもな。・・・・・・興味本位に、つつかれると困るぞ?」
アルの王子としての面では無く、本来の気質でメグミに興味を持たれると予後が悪い。
知的好奇心から、竜問題では無くメグミ自身を囲い込みそうで・・・・・・俺の知り合いはカイルと言い、こう言った手合いの性格が多いと、不意に自覚した。
「────ふーん・・・やっぱり、かなり入れ込んでるね。彼女に僕が興味を持つと困る?」
「まぁ・・・多少は、そうだな」
「それって無自覚?普段のジルなら、女の子相手にそこまで言わないよね?」
「・・・・・・・・・・・・何が言いたい?」
「あーでも、ジルは子供の頃の恩人に惚れてるから、僕の思い違いか」
「それを言う度に訂正するが、あの人に対して惚れるだの、軽薄な言い方はよせ」
この話になると、これだ。アルはどうあっても、あの人に俺が慕情の念を抱いていると感じている様で。
「そんな簡単な物では無い、あの人が居たから俺達がここにある。幼かった俺の心に深く刻まれた、天命の出来事だ」
「だからその天命の人に、心を奪われたままって事だよね?だから、この歳まで婚約者を取らない・・・って思ってるけどね、僕は」
「それはっ・・・・・・あの人との再開を強く願いながら、婚約者と言う存在を持ってしまったら、不義理を働く事になる」
「・・・・・・それはどちらに対して?恩人?それとも婚約者?」
「全てに、だ」
「歳にそぐわず、相変わらず堅いなー・・・まぁジルらしいと言えばそうだどさ・・・・・・エルドールの件、駄目だった?」
「あぁ・・・」
話の流れでアルが聞いて来たのは、エルドールに到着した夜の話だ。時間は余り取れなかったが、俺は人捜しの為に街を歩いた。あの人を探して。
ギルドに所属後、5年かけて探し歩いたが、何一つ足取りを掴めなかった。その際、エルドールは入国できなかった国の1つだった。
幼い記憶の曖昧さは、今更どうやっても鮮明にはならない。だが、もしその記憶が正しいものだったなら、あの人の風貌はどこかエルフに似ていた様に思う。
この部屋の肖像画もその記憶を元に、宮廷画家に依頼した物だ。
エルフだと言う可能性は極めて低い。だがエルドールに踏み入る事の出来るこの機会を逃すと、可能性の1つを手放す事になる。
その思いから、僅かな記憶を基にリミリア王を始め、大樹周辺に住まうエルフを中心に、聞いて回った。
「結果として、手がかりは掴めなかった。まぁ、そんなもんだ・・・悪かったな、折角機会を設けてくれたのに」
「そっか・・・もしエルフなら、人間と違って見た目が殆ど変わっていないだろうから、ジルが運良く出逢えれば記憶がより鮮明に呼び起こされるかな?って思ったけど・・・」
「リミリア王も、心当たりは無いそうだ。一応、この首飾りも見せたが・・・エルドールに縁のある物でも無かった」
部屋着の襟元から、首飾りを指で少し引き出す。幾度となく、それを見ているアルは納得するように目を伏せる。
「恩人の貴重な手掛かりだったね・・・でもそれを見せても情報1つ無ければ、あの人はエルフでは無いのかもしれないね」
「いや、これで可能性が1つ潰せた。残りの期間、諦めずに探してみるさ」
「そうだね、でもエルフで無ければ、見つけるのがより難しくなったかな・・・何せ、あの日から27年経ってる。相手が50歳を過ぎているとなると、容姿にも変化があるだろう?」
「ははっ、俺がその変化を加味した上で見落としていたとしたら、それまでだ。俺が再会するに価しなかった・・・と言う事だ。その場合は、逆に諦めがつく」
「────ジルって、あれだよね。こっちの面ではかなりの、理想主義者だよね?それも初恋を拗らせた」
「は?またそれか。初恋でも無い、拗らせても無い。それを言うなら、お前も婚約者が居ないのはどう言う事だ?」
俺に対して散々な言い方だが、そもそもアルも王子と言う立場にも関わらず、この歳まで婚約者が居ない。
次期王候補の一人目の兄は既に結婚をしていて、二番目の兄は少し変わり者だが一応婚約者が居ると聞く。継承権が低いとは言え、このまま未婚の王子として居る訳にもいかないはずだ。
「あ、あーー・・・それは、うん。まぁ、まだ良いかなーとか思っていたけど、そうも言ってられなくてね・・・・・・うん、そのうち、ね?」
「何だ、随分と歯切れが悪いな・・・・・・俺が居ないうちに何かあったのか?」
「そう言う訳でも・・・いや、まぁ僕のこの件については、保留って事にして置いてよ。色々と、さ。あるから・・・・・・悪い様にはならないよ、多分ね・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
未だかつて無い程に、浮かない表情の幼なじみ。
俺を散々追求して来た後で、俺にもアルを追求する権利はあるのだが、これ以上踏み込むのは賢明では無いと思い、今回は手を引く事にした。
《第二章・完 次章に続く》
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いつもお読み頂きありがとうございます!
転生社畜女子xエナドリバフ、94話で30万文字となりました!
並びに、この94話をもって第二章完結と致します!
皆様に読んで頂ける喜びを噛み締め、引き続き物語を綴って行こうと思います!
メグミの冒険はまだまだ続きますので、引き続き、第三章をよろしくお願いします!₍₍ (ง *´ω`*)ว ⁾⁾




