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No.93 アースってご存じですか?

 

 No.93 アースってご存じですか?








「・・・・・・・・・・・・すまない。もう一回、言ってくれるかい?」





 王都行きが決定し、今日は一先ずエルドールでの疲れを取るべく、前回同様グランさんの部屋で解散となった。


 アルシュさん以外はシルビィ辺境伯邸で、アルシュさんはジルニードさんのお部屋で休息を取る。ここも前回と同じなのだが、唯一違うのは、新しい住人が増えた事。


 大家であるマリーさんに、竜の事を何と説明するか悩んだが「今日の所は一先ず何も知らせず、王都で今後どの程度を国民に伝えるのか・・・について確定してから方が良いだろう」とヴィクターさんに言われたので、こっそりと部屋に入れている。


 何だか、野良猫を拾ってしまった気分だ。



「メグミ、ここでアルに例の件を話して置こうと思う。今はアル以外は居ないからな」


「ん?例の件とは?」


「あ・・・そうですね。アルシュさんには伝えて置くべきですね」


「────何だか、嫌な予感がするが・・・?」



 私達の会話に、何かを察したアルシュさん。すみません、この困った状況を一緒に背負って下さい。



「私、ウルの従魔になってしまいました」



「・・・・・・・・・・・・すまない。もう一回、言ってくれるかい?」


「えっと・・・アルシュさんが王宮との話し合いをされている最中に、ウルに名前を付けた訳なのですが、その・・・何と言いますか。私、ウルの従魔になってしまったみたいなんです」


「────・・・・・・ジル・・・?」


「本当だ、竜がメグミに対して従魔契約を施した」



 私の爆弾発言を、聞き間違いだと判断しヴィクターさんに確認を求めるが、返って来る答えは当然だが一緒だ。

 鯉のように口をハクハクとさせ、私からウル、ウルから私へと何度も目線を往復させるアルシュさん。



「いやいや、そんな事・・・・・・冗談・・・え?あり得るのか?」


「俺も正直、目を疑った。だがメグミの額に従魔契約印が出現し、直ぐにギルドの魔導板でも確認したが、しっかりと"従魔"の記されていた。竜が人間を従えたと言う事になるな」


「・・・・・・えー・・・本当に、そんな事に・・・こ、れは、あれだね。今回の王都での拝謁の際は言わない方が良いね」


「あぁ、出来ればこの件は伏せて置いて貰いたい。ギルドには情報が上がっていると思うが、その辺りはメグミのステータスの件と同様、ギルマスが先に上手い事言ってくれるだろう。一応、俺も本部に顔を出して念を押しておこうと思う」


「あ、やはりマズいですか?」



 私達以外の誰に聞かれている訳でも無い。にも関わらず、2人の声のボリュームが下がり、心なしか声色も低い。その変化に、流石の私も不穏さを感じ取る。



「────まぁ」


「うーん、そうだね。余り芳しくは無いかな」


「ど、どう言う風に、芳しく無い・・・ですか?」


「最悪、メグミ、お前が幽閉される可能性がある」


「ゆ!幽閉っ!!?私をですか!!!??」



 とんでもない話になって来た。竜の従魔(しもべ)である私を幽閉される理由は何だろうか、あれだろうか、勝手に契約した不届き者として幽閉と言うより投獄されてしまったり・・・



「竜を囲い込む手段として、メグミを王都に繋げて置けば、竜も大人しく王都に居てくれる――・・・と、安易な発想から実行する不埒な輩が出て来る・・・・・・まぁ、可能性の話だ。そんなに怯えるな」


「後は、竜に気に入られたと言う貴重な存在かつ、人間が従魔となる事例。研究対象として、神殿は勿論あらゆる機関が君を手放さないかもね。あ、でも可能性の話だから、怖がらないでね」


「怖過ぎるんですがっ・・・!!!」



 ウルをギュッと抱きかかえ、2人からつらつらと語られる"考えられる芳しくない一例"に、背筋がゾゾゾ・・・と震える。必要であれば鎖に繋がれる、この世界の容赦の無さよ。




「────冗談はさて置き。先程も言ったが、竜を信仰している国だ。竜を怒らせる様な行動はしない筈だ、精々甘い条件を出してメグミの意思で王都に残させ、竜を説得して貰う。それくらいのやり方は提案して来るか?」


「ああ!そのくらいなら宰相辺りから提言されれば、父上も許可するかもね。基本(・・)荒事は好まない御人だから」


「そ、それなら、私がキッパリとお断りすれば済む話ですかね・・・?」


「・・・君は、本当に素直と言うか、真っ直ぐだね・・・・・・。うん、でもそう言う流れにならない様にしたいかな。正直言うと父上だけになら、君のあれこれを伝えて置いても良さそうだけど、念には念を入れて、当面は内密にして置くさ。それで良いね、ジル」


「あぁ、頼む。せめてメグミがA級・・・いや、一人前になる迄、不必要な負荷を掛けたくは無い」


「了解」



 あらゆる出来事が絡まって、私の前に積み重なり前途多難な状況に、2人の存分な配慮と厚意に感謝する。

 ・・・・・・それはそれとして、2人の息の揃った冗談は全く冗談には聞こえなかったので、今後は是非止めて頂きたい所である。



「それで、さ。今、ウル殿はご機嫌はいかがだろうか?」


 そわそわと両手を合わせ、ジッとウルを見つめるアルシュさんから、ウルに触れてみたい欲が溢れ出ている。

 出会った直後に警戒からか、威嚇をしていたウル。今はあの時程の警戒感は無い、むしろリラックスしている気がする。


「えっと、ウル?アルシュさんが、君に触れてみたいって言われてて、どうかな?」


 問い掛けに両目を開き、軽くあくびをするウル。これはどちらだろうか、肯定なのだろうか?


「どちらかよく分からないので、様子を見ながら手を近付けてみて下さい」


「い、良いのか?なら失礼して・・・」



 ゆっくりと、驚かせないように、警戒されないように、慎重に手を近付けるアルシュさん。


 私達も、その様子を固唾を飲んで見守る。


 あと数センチと言う所で、ウルが「グァ」と鳴く。鳴き声に反応して手を止める。



「こ、ここまで。と言う事だろうか・・・?」


 あと少し、その産毛に触れられると言う所で、ウルによって待ったを掛けられる。

 成る程、中々に判定が渋い。機嫌は恐らく悪くない筈で、呻り声1つ上げていない。



「一連の流れを見た上で、これもあくまで憶測だが・・・竜は俺達の魔力に反応しているのではないか?」


「魔力?」


「試しに、俺もやってみよう」



 そう言うと、今まで一度もウルに触れようとしなかったヴィクターさんが、掌を上に向けてゆっくりと近付く。


「・・・ヴッ」


 だがアルシュさんよりかなり手前で低く鳴く。ただ心なしか、鳴き声は弱かった気もするが。



「やはりな、こちらに敵意が有る無しは関係無いとみる。単純にあの防護壁と同じ理屈だろう。自分の以外の魔力に反射的に反応している。最初に比べて、警戒心は緩んだが根本的に、拒絶反応を示しているな」


「あ、でも確かに。馬車で寝ている時に触れようとすると、必ず目を覚ましていました!眠りが浅いタイプなのかと思いましたが、魔力に反応して覚醒していたんですね・・・」


 アルシュさんが何度かトライして、散って行く流れをずっと見ていたので、直ぐに合点が行く。


「でも、そうすると誰もウルに触れられない・・・と言う事になりませんか?」


「そんなっ・・・・・・!」


「そう言うなアル。こればかりは仕方が無いだろう?防護壁で分かったと思うが、俺達の魔力はウルの魔力と反発する。触れると、手が弾ける可能性があるぞ」


「くっ・・・・・・だとしても。そうだ!あれはどうだろうか?鍛冶師の扱う道具に、魔力を遮断する手袋があったな!あれを装備すれば、あるいは・・・・・・」



 アルシュさんはどうしても諦めきれない様だ。気持ちは分からないでも無い。逆の立場なら触れられず、ヤキモキしてしまう自信がある。

 何とか触れる為の糸口を探るアルシュさんが、ちょっと可哀想になって来た。



「ウル、どうしても駄目そう?例えば、ちょっと魔力の出力を押さえられたりしない?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・クルルッ・・・」


 その問いに長い沈黙の後、ひと鳴きするとウルは長い尻尾を私の腕に巻き付けて来る。

 目的が分からず、されるがまま成り行きを見守っていた。


 そのまま背をアルシュさんに向け、小さく本当に小さく「グル・・・」と鳴く。その様子に、3人で顔を見合わせる。



 まるで、触っても構わないと言わんばかりに差し出されたフワフワの背中。

 野良猫が、ほんの気紛れで触れるチャンスを与えてくれた様な・・・



「アルシュさん、もしかしてですが、ちょっとなら行けるのかもしれません」


「ほ、本当か!?」


「おい、正気か?仮にもお前は一国の王子だぞ。その身全ては、尊き国の国民の為に在る。万が一があれば・・・俺達の首も飛ぶ」


「────あぁ。分かっているさ、ジル。だけどね、僕にも身を賭(と)さなければならない時があるんだ・・・!まさに今がそうだ!」


 そう言うが早いか、ヴィクターさんの制止を振り切り、アルシュさんがウルへ挑む。


「何に、身を賭(と)しているんだ!!!」


 止めに入ったヴィクターさんと、アルシュさんの手が同時にウルに触れた。




「ヒギッッツ!!!!!!???」



 刹那、突然私の全身に雷が走る。いや、走ると言うよりこれは───・・・

 エルドールでウルの卵の化石に触れていた間、防護壁がどんどん私の体に流入して来た、あの感覚だ!!



「メグミ!?どうした!?」


 気を抜いていたとはいえ、突然の断末魔の様な声を上げる私に慌てる2人。その手は弾ける事なく無事だ。



「い、いやあの・・・お2人がウルに触れた瞬間、ウルの雷が私に入って来て・・・・・・ウル?今何かした?」



 雷を作り出せるのはウルだけで、今の衝撃を起こしたのはウル以外に考えられない。

 膝の上にお座りし、私をじっと見つめるウル。その長い尻尾は未だに私に巻き付けられたままで・・・・・・


 そこで1つ嫌な予感が頭を過る。いや、まさか・・・



「ウル、もしかして・・・この巻き付いた尻尾から私に雷、流したりした?」


「グア!」


 とても元気の良いお返事、これは確定だ。どう言う原理で流れて来たのか分からないが、タイミング的に考えられるのは・・・



「────まさかと思うけど、魔力同士の反発分を私に?」


「グア!!」


 またしても良いお返事。何とかならない?と聞いてしまったのは私自身ではあるが、よもやこちらに送る事で反発がチャラ(・・・)になるのは想定外過ぎる。

 いや、そのおかげでアルシュさんもヴィクターさんも無事な訳で・・・



 いや、よくよく考えてみたら、ウルがルベルさんの頬を舐めた際、掌にピリッとした感覚があった。

 あの時は爪か何かが当たっただけだろうと思い、気にも留めなかったが、今と同様にルベルさんの魔力に反応して、私の体へと瞬間的に雷が流れ込んだ・・・と考えると納得が付く。



 良いお返事の後から、より真っ直ぐに私を見つめて来るウル。その目はまるで"触らせてやるから、その間くらい我慢して雷を受け入れろ"と言っている気がした。



「メグミ、どう言う事か説明して貰えるかい?」


「う、えっとですね・・・多分、お2人がウルに触れた時の魔力の衝突を避ける為に、この腕に巻き付いた尻尾から、私の方へ雷の力を送って来たみたいで・・・」


「通りで触れた俺達の手が、無事な訳だ」


「つまり僕達の代わりに、メグミが受け止めてくれたのかい?!」


「そう、みたいです・・・いきなりだったので、とても驚いてしまい、すみません」



 防護壁程の威力と衝撃は無かったが、いきなり来られると流石にビックリする。



「グア・・・?」


「え?あ、どうするかって聞いてるの?」



 困惑気味の私を余所に、巻き付いた尻尾の先で、腕をぺしぺしと叩(はた)かれる。

 このまま続けるのか、止めるのかを聞いて来ている。つまりは、私の覚悟次第だと言う事になる。


 アルシュさんが触れている間は、継続して私の体に雷が流れ続ける。それを受け続けるのか?



「うぅん・・・・・・」


 元々、触れられない前提でいた物を、無理に頼んだのは私で、葛藤を抱えるアルシュさんに同情の念が湧いたのも私だ。


 ────ここは、腹を括ろう。乗り掛かった舟だ、いや・・・自ら操舵席に乗った私が、先に降りてどうする。



「アルシュさん・・・私頑張るので、1分!1分間だけ、頑張れるので!その間、ウルを撫でて下さいっ!!」


「え!?いや、何を言っているんだ、メグミが大変だろう!?今少し触れた、十分だ!」


「いえいえ、ウルが触れさせても良いと言っている貴重な瞬間です!私はまだ大丈夫ですので、是非!!もう一度!!これを逃したら一生来ない時間かもしれません!!」



 触れたい気持ちと、もう止めておこうと言う気持ちの狭間で揺れるアルシュさんを、半ば強引に後押しする。



「・・・・・・アル、メグミがこう言っている。ウルに触れてやってくれ・・・メグミは、割と頑固だ」


「えぇー?嘘でしょ・・・?素直で真っ直ぐで頑固なのかい?」


「どうぞ!」


「・・・・・・それじゃ、触れるよ・・・いいかい?無理だと思ったら、直ぐに言ってね。時間一杯迄我慢する必要は無いからね?」


「はい!じゃぁウル、行くよ!」




 その後触れ合い体験は、時間一杯行われた。


 この時間を通して分かったのだが、先程はアルシュさんとヴィクターさん2人分の雷が流れて来ていたらしく、アルシュさん1人なら静電気よりも弱いくらいだった。


 ヴィクターさんが、以前魔力が多い方だと言っていた事を思えば、殆どヴィクターさんの魔力反発だった様だ。



 触れ合い体験終了後に体に溜まった雷は、外で「出行けー」と排出する様なイメージをすると、前と全く同じ具合にパチンッと音を立て、私の体から弾け出て行った。



 この現象、2度目にして思った事なのだが・・・ウルの発する雷を私が1度受け取り、放電の様に大気に放つ。


 その様(さま)はまるであれだ・・・白物家電と呼ばれる電化製品に備え付けられたアースみたいだ・・・と思った。




 ────従魔の人間アースが誕生した瞬間だった。





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