No.92 竜の処遇
No.92 竜の処遇
「あ!後、1つ目に発現したスキルですが、今一緒に確認したら使用回数が1/2になっていました!」
「・・・つまり使用上限回数が増えたと言う事か?」
「その可能性が高いです。渓谷で卵の落下スピードに追い付く為に1回は確実に使いましたので。今回使った事で上限が伸びたのでしょうか・・・?」
「お、何だ何だ、あの瞬間的爆発力を生み出すスキルの事か?」
変化があった項目については、ヴィクターさんに一通り話して置こうとしたのだが、言った後に、しまった!グランさんの前で出す話題では無かった!と後悔した。
前回、ヴィクターさんとエリスさんの説得で、何とか場を収めて貰ったのをすっかり忘れていたのだ。
「今回の旅で使用した上に、回数制限の上限が上がったって事は、つまりそのスキルはちゃんと回復するって事だな!だったら、俺に一発お見舞いしてくれても何ら問題無いよな?な?」
「え、あぁーーーそう、ですかね?いやぁ、そうでも無いですかね・・・?」
澄んだ瞳を真っ直ぐに向けられ、動揺から意味の分からない返事を返す。
「ギルマス、駄目ですよ。メグミ様はお戻りになられたばかりなんですから、無理をさせるのは看過出来ません」
「そっ・・・そうか・・・そうだよな、無理をさせちゃ元も子もない。じゃあ、嬢ちゃんまた今度な・・・」
「ははは、はい・・・」
これは、今度こそ逃げられないか。そう思ったのだが、またしてもエリスさんの華麗なディフェンスにより難?を逃れる事に成功した。
────正直1度限りなら、グランさんに向けて発動してみても良い気もするが、果たして本当に1回で済むのだろうか?
この熱量、事ある毎にグランさんに腕試しを求められそうな気がする。いや、直感がそう言っている。このまま躱せるだけ、躱し続けて行きたい。
「───ところで質問ですが、その生き物が本当に竜だったとして、この後の処遇についてはどうなるのでしょう?レオニア王国としては、伝承の竜が存在していたと言う大変喜ばしい出来事で、やはり国の象徴として王都で囲い込むのでしょうか?」
「どうだろうな。流石に神とも呼べる存在を、俺達人間の勝手で閉じ込めはしないと思うが」
「いやぁ、王宮はそうでもないかもしれねぇが、神殿の上の連中は分からねぇぞ・・・現に、ここまでは連れて来れちまってる訳だしな・・・」
「ゆ、幽閉とかされてしまいますか!?」
急に現実問題がからむ、昏い話になり不安感に苛まれる。
卵の化石としてならば奉り上げられて、ご神体の様に適切な場所に安置すると言う流れなら大賛成だが、生き物として産まれてしまった。
なので、閉じ込められてしまう事は正直反対だ。
「神殿も竜を崇めて居る立場で、幽閉と言った不敬な行動はしないはずだ。それこそ、神の怒りを買う方が愚かだろう」
「それもそうかぁ。殿下がどう言う話を王宮としているかに、かかってるな・・・」
「────皆、待たせた!すまない!」
今後の行く末を憂慮していた最中、神殿との話し合いが纏まったのだろう、アルシュさんが勢い良く駆け込んで来る。
少し遅れて、シュトルムさん達が「殿下、お一人で先に行かれては困ります!」と追い掛けて部屋へと到着。
ヴィクターさんがソファーを立ち、席を皆に譲る。私も同じように立とうとしたが"竜が膝に乗っているから、そのままでいろ"と言われてしまった。
さすがに一瞬躊躇ったが、確かに落ち着いているウルを退かしてまで立ち上がるのも気が引けた。現状、私は竜のソファーなのだから。
「それで、王宮の見解はどうなった?」
「順を追って説明するね。一先ず父上に状況を伝えた。卵の遺骸の事、それが孵化して竜の幼体が顕れた事。想像通りと言うか、当たり前と言うか、大層驚かれたよ」
ははは、あんなに驚いた顔は初めて見たな。と困ったように笑うアルシュさん。竜が現存したと言う事実は、この世界の誰が聞いてもそう言う反応になると思う。
「一応、神殿関係者と王宮と交えた物だったんだが、結論から言うと"竜殿に1度王都へ来て頂き、その姿を拝見したい"と、言う事で決着した」
やはり、ウルは王都に切望されている。
「拝見、で済む話か?それとも、王都にて囲うと言う事か?」
「・・・・・・と、閉じ込められたりしますか?」
「いや、その結論には至って居ない。と言うより、その可能性を潰す為に手を打って置いた」
「と言うと?」
「流れで、竜殿を是非王都で居を定めて頂いてはどうか?と言う声も上がったが、竜殿の力の凄まじさは僕がこの目で見ている。エルドールでは運良くメグミのお陰で暴発は防ぐ事が出来たが、もしまた先々で同じ現象が王都で起きてしまったら、止める術が無い。その辺りの話を交えて、理性的に安直な判断は下さぬよう、仕向けたよ」
「流石だ」
「こちらの都合で竜殿の自由を奪うなんて、それこそ不敬だと思ってね」
確かに、国の中枢にてあの暴発が起きれば大惨事だ。
ウルの力がどの程度セーブが効いて、何が切っ掛けで発動するかと言った詳細が分からない。
人間側の都合で王都で閉じ込め、それがウルにとってストレスとなり、発動する場合もあるかもしれない。
信仰の対象ではあるが、同時に生態が分からない危険な存在でもある。
「だが、危険の面も伝え、それでもやはり竜は国の信仰・・・象徴だ。せめてひと目、その存在に逢いたいと言う思いを、すまないが理解してくれるとありがたい」
「つまり、王都にはあくまで一時的に向かい、拝謁するだけと・・・」
「そのつもりだよ。そこで相談なんだがメグミが一緒に来てくれると、とても助かるのだけど・・・どうだろうか?竜殿は君を気に入っている。不慣れな場所であってもメグミが側にいてくれれば、竜殿も安心して頂けるのではないかと」
「私も、ですか?」
確かにアルシュさん達に、ウルを預けてここで帰りを待つよりも、私が一緒に行った方が何かと都合が良いかもしれない。
短期的な滞在でも、何か起きた時の可能性を視野に入れておくべきだ。
しかも今私はウルの従魔と言う立場で、むしろ離れない方が良いような気もしている。
「はぁ・・・そうだな。もし王都に竜を連れて行くなら、1番懐いているメグミが同行した方が、問題が起きた時に対処がし易いかもな・・・・・・それに、メグミ無しで王都まで大人しく着いてきてくれるのかどうか・・・」
「なら、ジルも嬢ちゃんと一緒に王都に行って、家族に顔見せて来ると良い!里帰りだ」
「勿論、メグミ一人行かせるつもりは無いが・・・そうだな、そうするか・・・」
「そうして貰えると助かる!」
「はい!竜の護衛任務、引き続き継続します!宜しくお願いします!」
今後の予定が決まった所で、もう暫くの間ご一緒するアルシュさんに改めて挨拶する。
「ウル?竜殿の名前かい?」
「あ!すみません、ずっと竜と呼ぶのも寂しいので、仮の名前を付けようと言う話になりまして。勿論、国の意向で新たに呼称を決められる場合は、そちらに合わせようかと思いますが」
「────いや、構わないよ。ウル殿、もう暫く我々人類の戯れに、お付き合い頂けると光栄です」
ウルに話し掛けるアルシュさんは、左手を胸に当て少し屈む。その所作は王族の振る舞いなのだろう、とても美しいものだった。
肝心のウルは膝の上で丸まり、片目をチラリと向けただけだった。
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