No.91 上位存在
No.91 上位存在
"────信じがたい話だが、従魔されて居るのは・・・メグミ、お前の方だ"
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
その言葉を理解するのに、十分すぎる程の時間を要した。
たった今、従魔師や従魔と言う言葉、加えてそのスキルを持った人間が、魔物に対して行う契約だと言う知識を得たばかりだ。
しかしヴィクターさんの発言は、知り得た情報と全くの真逆ではないか。飲み込めない事態に、何とか絞り出した声。
「竜がメグミを従魔とした・・・いや、厳密には従人か・・・?」
「私が、この竜の従人・・・」
「これは完全な俺の憶測だが、竜はこの世界においての最上位種と言えるだろう。その存在からすれば、魔物も人間も従える事に何ら違いは無い、と・・・」
「いやいやいや・・・・・・!隷属契約なら、国によっては存在してるが、あれは犯罪者や身売りの一方的な奴隷契約だ。そもそも、魔物が従魔契約を人間に行うなんざ聞いた事ねぇぞ・・・」
「────随分と賑やかな様ですが、一体何事ですか?」
ここに居る全員があり得ない出来事に混乱していると、騒ぎを聞き付けたのかエリスさんが執務室へと入って来る。
「エリス!丁度良い所に!!アレだ!!魔導板持って来てくれ!!!」
「えっ!?はい、直ぐに!」
何が何か分からないまま、エリスさんはグランさんの指示を受けて、魔導板を執務室へと運び込む。
「よし!嬢ちゃん、手を乗せてみな!」
「は、はいっ!」
この部屋で3度目のステータス確認。前回と比べて何か変化はあるだろうかと、毎度ながらドキドキする。今回は別のドキドキの方が勝っているが・・・。
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メグミ 【特記事項:ウルの従魔】
基本ステータス
体力 1060 ↑200(+10000)
攻撃 950 ↑200(+9700)
防御 980 ↑200(+10000)
敏速 840 ↑200(+9400)
魔力 0
技量 890 ↑200(+8900)
精神 3000 ↑1000(+9500)
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「特記事項、ウルの従魔・・・・・・」
ステータスが表示された瞬間、真っ先に目に飛び込んで来たその一文。名前の真横に現れた、前回は無かった筈の新規項目。
そこには、明確に"ウルの従魔"と表記がされていた。
「私、本当に従魔になっています!!しかも従人では無く従魔ですっ・・・!!」
「まさか、だな・・・」
「嘘だろ・・・・・・本当に竜の従魔になってやがる・・・」
「え!?何がどうなっているのですか、メグミ様が従魔とは?」
急に意味不明な事態に巻き込まれる形となったエリスさんの、状況把握に務めようとする声が、現状を受け止めきれない私の意識の遠くに響く。
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「────って訳でな・・・」
「成る程、大体把握出来ました。つまりエルドールの森より出土した"竜"と思われるこの個体の、名前を考えていただけのつもりが、従魔契約となり、メグミ様は"竜"の従魔になってしまわれたと・・・」
「で、でも、仮の呼び方を考えていただけですよ?従魔契約なんて、そんな大がかりなつもりは・・・」
「普通の従魔契約の話にはなるが、契約の際に互いの名前が必要になる。名前を持たない魔物はテイマーによってその場で名を与えられて、契約を行う。だが、メグミの名前は俺達が呼んでいるから、既に竜に認識されていた。後は竜自身の自分の名前があれば従魔契約を締結出来る。その仮の呼び名を竜が気に入って、契約を行った・・・と見る」
「そんな一方的な・・・私の意思は・・・・・・」
名前を決めただけで、私の意思関係なく結ばれる契約なんて有りなのだろうか?
以前ヴィクターさんと師従契約を結んだ時は、互いの了承の元に行った筈だ。
「人間と魔物の契約も人間が能力的に上だった場合、もしくは魔物が上位であっても契約を受け入れれば成立する。しかし、その定石が竜においては、機能しなかった。こちらがどう思っていようが、最上位種の竜の前では、関係ないのかも知れないな・・・」
「何でも有りじゃないですか・・・」
「伝承通りなら、この世界を創った存在だしな。俺らには理解出来ねぇ事と思って、受け入れるしかねぇな」
「どうしてこんな事に・・・」
「クルルル・・・」
がっくりと首を頭を垂れると、膝の上に舞い戻った竜と目が合う。
喉から柔らかい声を出し、まるで"これから宜しく"とでも言っている様だ。もう、これは受け入れるしか無いと悟る。
拾った生き物は最後まで責任を持って飼わなければいけない。それが出来ない内は生き物は飼うべからず!幼き日のお母さんの言葉を鮮明に思い出した。
奇しくも拾った形になってしまい、名前まで付けてしまった。つまり、もう既に責任が発生しているのだ。
・・・・・・いや、この場合従魔は私なのだから、ウルが飼い主で私が───・・・・・・一瞬過った考えを慌てて霧散させる。
考え方を変えよう、ウルのお世話係と言う意味合いの従魔としよう。高貴な存在に遣える、お手伝いの様な感じだと思う事にしよう。
「えっと、よろしく、お願いします・・・」
「クルル」
「ははは!新入り、嬢ちゃんと宜しくやってくれや。所で、嬢ちゃん。今出ているステータス画面だが、ウルの事以外何か変わった事は有りそうか?」
そうだった、ステータス!ウルの従魔騒動ですっぽり抜けていたが、こっちの確認を怠ってはいけない。再度魔導板に触れて、画面を映し出す。
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メグミ 【特記事項:ウルの従魔】
基本ステータス
体力 1060 ↑200(+10000)
攻撃 950 ↑200(+9700)
防御 980 ↑200(+10000)
敏速 840 ↑200(+9400)
魔力 0
技量 890 ↑200(+8900)
精神 3000 ↑1000(+9500)
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「あ!ちょっとですが変化しています!全体的に少し上がっている事と、後は精神が1000上がっています」
「1000!それはまた一気に上がったな。精神はそのまま自分の精神熟成度が反映される、この旅で嬢ちゃんの心が鍛えられたって事だな!」
思い返すとこの旅、ワイバーンの嘔吐寸前乗り物酔いから始まり、謎の防護壁に吸い込まれ事件。触れた置物に雷を流し込まれ、暴発を押さえ込み、謎の木の魔物に襲われ、卵を護る為谷底へとダイブ、その最中に突然生えて来た羽───・・・・・・
前世では考えられない、怒涛の経験しかしていない訳で、私の心を鍛えるには十分過ぎる要素が目白押しだった様に思う。
「あ、そう言えば羽!羽が生えたんでした!」
「は?羽ってのはどう言う事だ?」
「何か、以前のワームの時の様にスキルが目覚めた感覚がして・・・えっと・・・」
何と説明すれば良いのか・・・一先ず固有スキルの欄を、急いで確認する。
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《固有スキル》■■■■■■
過去に積み重ねた行いがやがて自身の体を常に強化し続ける。
その体は盾となり矛となり自身を輝かせる。
【ファイトで一発】それはかつて誰もが耳にした事のある言葉だろう。絶体絶命、崖っぷち、背水の陣。呼び方は幾重にもあるが、その状況から脱する唯一無二の言葉。この言葉を唱える時、己の体は限界を超え、その一瞬を持ってして現状を打破出来るだろう。出力1.5倍。使用回数1/2
【翼は授けられん】大空を夢見た事はあるか?その空に向かって飛び立とうと思った事は?大空とは決して文字通りの意味だけでは無い。大切なのは、自分が先に何を見るかだ。その挑戦、あくなき探究心、無理と承知で挑む全てに、大きなる一歩にこの力を授けよう!その背を押そう!さぁ、願え!!呼称は何でも構わない!!この翼は永劫、君と共に或る!!!
[使用回数:無制限 ※必要性に応じて自動格納]
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「・・・・・・本当に新しい項目が出来てる・・・」
「羽の件を詳しく聞かせてくれ」
「あ、はい。えっと、私が願えば翼が生えて来るらしいです」
「・・・・・・どう言う理屈だ?」
「理屈ですか・・・」
翼が生えた現場を、目撃しているヴィクターさんからの至極真っ当な質問。
理屈は説明できない、だがこのスキルの効果・・・と言うより発現理由には心当たりがある。
翼を授けてくれる、エナドリ・・・と言えば1つしか無い"レディブル"だ。炭酸のよく効いた栄養ドリンクとは指向性の違う、ガツンッと舌に来る味。匂いもスパイス混じる、目の冴える逸品。
確かパッケージには翼の生えたクジラが描かれていた様な気がする。
売り出された時は試しにコンビニで購入し飲んだのだが、余りの効き目に即、私の戦友となった商品だ。
まさか、この様な形でまた助けられるとは思わなかった。
「話を遮って悪いが、羽?翼?ってのは一体何なんだ?」
首を傾げるグランさんとエリスさん。百聞は一見に如かず!見て貰った方が早い。
「少し待って下さいね・・・えっと、今、出せるかな・・・?出て来い、翼・・・」
力を込め強く念じる、私の願いに応じて出て来るならば、危険な時以外でも出す事は可能なはずだ。
翼、翼、翼・・・そう強く願うと、次第に背中がじんわりと温かくなって来る。
「はい!今っ!!!」
「おわっ!!!」
掛け声と共に立ち上がると、勢い良く背中から飛び出す前回と同じ翼。
崖の所では浮かぶ事に必死で、ちゃんと見られては居なかったが、この翼、随分と大きい。両翼合わせて、3人掛けのソファーの端から端まで届く。
「で、出た!出ますね!自分の意思で出せます!!」
「な、何だこりゃ・・・・・・!?嬢ちゃん、有翼種にでもなっちまったか?」
「いえ、恐らくただ翼を出せるスキルみたいです。理屈は説明出来ませんが、前の時と同様に前世での私の行いが、元になっているみたいです・・・」
「・・・・・・どう言う生活を送っていたら、翼が生えるスキルが発現するんだ・・・・・・」
眼前に拡がって視界を塞ぐ翼の風切り羽を、暖簾の様に手で上げ、くぐるヴィクターさんはどこか、深く考えるのを諦めた表情をしていた。
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