No.90 厄介事は続くよどこまでも
No.90 厄介事は続くよどこまでも
あの後私達は、無事ワイバーンの背に乗ってシルビアへと帰還した。
行きと変わらず道程は好調で、フードの住人も時折モゾモゾと顔を出し、風を浴びては戻ってを繰り返していた。
ずっと卵の中で眠っていた竜にとって、風に吹かれる事が物珍しかったのかもしれない。
護衛騎士とワイバーンはシルビィ辺境伯のお屋敷にて一時待機。中央の噴水の前でアルシュさん達と分かれ、ギルドへと向かう。
今回の依頼はギルドを通しているので、当然依頼完了の報告をグランさんに伝えなければならないのだが・・・
「それで、また・・・何がどうなって、そうなったんだぁ?」
「今話した通りだ」
「・・・全く、お前はいつから、問題抱え込み冒険者になった?」
「もう直ぐ2ヶ月になる」
「初めの頃はあれ程嫌そうだったのに、言うようになったじゃねぇか」
目の前で繰り広げられる会話のキャッチボール。それを膝に座る竜と一緒に、交互に視線を送る。
ちなみに、一連の話をしている最中に竜がタイミング良く目覚めたのを察して、フードから退場して貰った。
目の前に顕れた存在に、グランさんは大層驚いていた。まさか本当に竜が居るなんて、夢にも思っていなかったそうだ。
しかし、流石はギルドマスター。初見で物珍しくとも決して触れようとはせず、一定の距離から眺めるのみで、竜による威嚇の洗礼を受ける事は無かった。
「で、殿下は今どこに?」
「神殿に向かった。恐らく、神殿に備えられた伝達用の魔導装置を使って、王宮と状況整理と今後について話合っている筈だ」
「成る程なぁ・・・ところで、嬢ちゃん。そのチビちゃん・・・・・・あー、何て呼べば良い?」
「え!?呼び方ですか?」
言われてみると、呼び方も何も考えて無かった。竜・・・正しくは雷竜で、現時点ではフードの住人と言う認識しかない。
いや、よくよく考えて見たら私も、ヴィクターさんの所に住み着いていた存在。そう思うと、ちょっと変な親近感を覚える。
勝手に考えて良い物かと思わないでは無いが、取り敢えずの仮名があっても良いのかも知れない。
「名前、名前・・・そうだなぁ・・・君、何て呼ばれたい?」
頭を指先で擽るように撫でながら質問すると、私の問いに返事は無いが、首を回して私の顔を見上げて来る。
擽られる感触が心地よいのか目を少し細め、されるがままの竜。
指先に触れる産毛は撫で付ける度、つやりと光を反射し黒のベルベット生地の様で。
時折光の加減で、赤っぽくも紫っぽくも見える不思議な色合いだ。
「つやつやしてて、綺麗だね・・・」
その色合いを眺めていたら、ふとある物を思い出す。
それはかつて日本でよく目にした、美しい伝統工芸品。温かみを感じる柔らかい光り方が、漆器と似ている気がしたのだ。
「漆・・・・・・ウル、はどうかな?駄目?」
私自身は、今まで家で動物を飼う機会は無く、クラスメイトが『ペットを飼い始めたんだよね!』なんてそんな話を聞く程度。当然、何かに名前を付ける機会も無かった。
それもあって、どう言った物が名前に適しているか?とか、この生き物ならこの名前が人気!と言ったセオリーを知らない。
直感的に思い浮かんだ食器から、引っ張って来た"ウル"と言う物が、果たして受け入れて貰えるのだろうかと竜の反応を伺うが、竜は瞳を何度か瞬かせただけで、善し悪しを反応で判断するには心許無かった。
「あ、そうだよね・・・安直過ぎたかな・・・・・・もうちょっと、こう、気の利いた・・・」
「キャウ!!」
「うぐっ・・・!!?」
"ウル"は没だと断定し、再び長考に入ろうとした瞬間、膝に座っていた竜が勢い良く跳ね上がり私の額に頭突きをかまして来た。
油断しきっていた私は見事に頭突きを決められ、情けない声と共に額と頭部にそれなりの衝撃を受ける。
「痛たたた・・・・・・何で急に・・・」
適当に考えるなと言うお叱りだろうか、頭突き序でに目の前で翼をはためかせる竜。
ここで驚いた事が1つ。今まで魔物と私がぶつかると高確率で弾け飛んでいた。
私からぶつかる分には、多少手加減を覚えた今、余程防御力の低い魔物でなければその限りでは無いが・・・。
だが、不意に相手からぶつかられた場合は違う。バフの効果付きの防御力で弾け飛ぶか、形を保ったまま吹き飛ぶか・・・いずれにせよ無傷とはいかない。
にもかかわらず、竜は反動で吹き飛ぶどころか、大した傷もダメージも無くケロリとしている。
「うぅ・・・久々に、ちょっと痛かった気がします・・・」
「さすがだぜ・・・竜の防御力は並大抵のモンじゃねぇと思っちゃいたが"相当硬い"な」
「さすがのメグミでも、竜の攻撃は入るのか・・・」
「次は、もっと良い名前考えるから・・・もし次もイマイチでも、頭突きは勘弁してね・・・」
没が出る度に頭突きを受けていたら、脳が揺れ過ぎて脳震盪を起こしかねない。
早く早くと催促するかの様に、顔の周囲をグルグル回る竜に、額を押さえながら言い聞かせる。
「その様子だと、名付けには前向きなのかな・・・・・・えぇっと・・・」
「────おい、嬢ちゃん。額のそれ・・・」
「え?」
腕を組み頭を悩ませている最中、グランさんに何かを指摘された。
額?もしかして、頭突きで額が割れているとかそう言う話だろうか?
さっきまで額に触れていた手を見るが、血は付いたりしていない。
「違う・・・メグミ、もう一度さっきの名前を呼んでみろ」
「え?ウルですか?」
「キャウ!!」
ヴィクターさんに指示され、没になった名前を再度口にすると、竜は呼応する様に鳴く。
それと同時に、額が急激に熱くなる。一体、何が起きているのだろう?
確認しようにも、この部屋に鏡は無い。指摘された額の状況を見る為に窓際へと駆け寄る。
途中、グランさんの執務デスクに足を引っ掛けたが、今はそれどころでは無い。
窓の反射に映り込んだ私の顔、そしてその額には────・・・
「何かの模様・・・?」
見た事の無い不思議な模様が浮かび上がり、程なくして皮膚に吸い込まれる様に消えていった。
「────恐らく、従魔契約の際に用いられる模様だ」
「ていむ?ですか?すみません、ていむとは・・・?」
「従魔契約とは、従魔師と呼ばれる調教スキルや、魔物使いのスキルを持った人間が魔物と契約し、より良い関係を築いたりするものだ。稀少なスキルと言う訳では無く、冒険者にも普通に従魔師は居る。その場合は主に戦闘要員での契約だな」
「要するに、相棒兼使い魔って感覚だな!一緒に日常生活を送ったり、冒険の仲間だったり、あぁ!仕事の手伝い要員として、荷物運びってのも見かけるな。まぁ、後は禄でもねぇが隷属扱いしてる奴も居るには居る」
「王国騎士の中にも従魔師は存在する。良い関係を築く事が出来れば、心強い存在となる」
「な、なるほど・・・」
要は、魔物と行うアシスタント契約・・・と思えば近いだろうか。便利、と言って良いのか分からないが、一緒に行動して自分の手助けをして貰えるのなら、良いスキルだと思う。
「私もしかして、従魔師のスキルが開花していたりしますか!?」
そう言えば、羽が生えた件もまだ確認していない。羽が何かのスキルだとして、あの時一緒に別のスキルが開花していてもおかしくない。
「いや、恐らく違う。従魔契約は当然だが魔力が無いと出来ない・・・」
「そうですが・・・魔力を・・・」
期待に胸を膨らませている私に、またしても立ちはだかる、魔力の必要性。
今日まで魔力無しで何とかやって来ているが、やはり・・・たまに欲しくなる存在になりつつある。
「・・・・・・ん?あれ?だとすると、この額の模様はどう言う・・・?」
「繰り返す様だが、その模様は、従魔師が魔物に対して従魔契約を行う時に用いられる物で、それは"テイムされる側"に浮かび上がる模様だ。完了すると視覚的には消える」
「え?」
「────信じ難い話だが、従魔されて居るのは・・・メグミ、お前の方だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
.
お読み頂き、ありがとうございます!
ここまで多くのリアクションを頂き、毎日感謝でいっぱいです。
メグミの冒険も気付けば90話となり、新たな仲間が加入?しました!よろしくお願いします!




