No.88 そんなまさか
No.88 そんなまさか
「皆さん、お待たせしましたっ・・・!!!」
長く続いた絶壁は終わりを迎え、私が飛び降りた元の場所まで戻る事が出来た。
正直、卵を抱えたまま自力での登頂は絶望的で・・・助けに来てくれたヴィクターさんには感謝だ。
無事到着後、地面に降り立つと身体の安定感が身に沁みる。やはり人間の身体は空中よりも、地を足で捉えている方が安心するのだと実感した。
「メグミ!無事だったか・・・!」
「卵は一応無事です!途中岩に当たり、少しヒビが入ってしまいましたが・・・」
アルシュさんに卵の状態を先んじて伝えたが、ヒビは結構問題になるだろうか?私としても、成るべく見つかった時の状態を維持してレオニア王国に持ち込みたかった。このヒビは、不慮の事故として目を瞑って貰いたい。
「ヒビ、で済んだとは・・・メグミ、あの絶望的状況から良くやってくれた、礼を言う」
「いえそんな、でも間に合って良かったです。最後にヴィクターさんが追い掛けて来て下さったので、何とかなりました・・・」
「ジルもありがとう。魔物を最速で倒し、急ぎ向かってくれた事、感謝する」
「気にするな、弟子を追い掛けたまでだ」
「────メグミさんっ!」
会話をニコニコと聞いていると、コールソンさん、シュトルムさん、ニコラスさんの3人が、改まった姿勢で私に向けて頭を下げる。
「我々からも感謝を。貴女が危険を賭して護って頂いたお陰で、今もこうして遺骸は無事を保っているのですから」
一瞬何事かと驚いたが、皆さんの神妙な面持ちに、肯定も謙遜もこの雰囲気に似つかわしく無い。そう思い私も少し頭を下げた
"このまま、全員で卵を護って帰国しましょう!"そう言う意味を込めて。
「うん、これでまた旅の仕切り直しだ!馬車もこの通りニコラスの修復魔法で直しておいた」
そう言われ馬車の方に目を向けると、魔物に破壊された馬車が元通りの形に戻っている。
破壊された瞬間を見たのは、飛び降りる直前の僅かな時間だった。
その時点でかなりの損傷具合だったと記憶しているが、本当に綺麗に直っていた。
ニコラスさんの魔法は魔物以外の造形も可能だったらしい。
「後はメグミ。出発前に、遺骸のヒビを見せて貰えるか?」
「あ、はい!」
「ありがとう、どれどれ・・・・・・ん?・・・メグミ・・・君、遺骸を直接持っているが平気なのか?」
「エルドールからここまで、卵の暴走を警戒して触れて居ませんでしたが、どうやら大丈夫みたいです」
触れて問題無いと分かれば、残りの帰路は私が腕に抱えたままでも良さそうだ。馬車の席に置いて転がらない様に見張るよりも効率的だと思う。
そんな事を考えながら、卵のヒビ側を上に向ける。改めて見ると、ヒビと先端の一部が欠けている。割合で言うと1割にも達していないが、欠けは欠け。アルシュさんの見解を仰ごう。
「成る程。あの高さから落ちて、この程度で済んだ事を喜ぼう。事情を話せば父上も理解してくれる」
「良かった、首は繋がりました・・・正直、国の最重要の物に傷を付けてしまって、実は内心結構焦ってました」
「首・・・あぁ、打ち首って話かい?まぁ、そう言う事例が無い訳では無いけど、流石にそこ迄の話にはならないと────・・・」
「んん?」
私達の会話に急遽ストップが掛かる。くだんの卵の化石が、腕の中でほんの僅かに揺れた気がしたのだ。アルシュさんもそれに気が付き、顔を見合わせる。
「メグミ、僕の気のせいでは無ければ、今・・・」
「・・・・・・はい、何だか動いた・・・気が・・・」
その不可解な出来事に、全員の目が卵へと引き寄せられる。
「メグミ様、それは本当ですか!?私にもよく見せて頂けませんか!!??」
間近で観察を試みるニコラスさんが、見やすい様に体を向ける。
「そんな、まさかでしょう!遺骸が動くなんて事・・・」
「気のせいでは無いか?」
数千年以上、最古の木の下に埋まって居た物が動くなど考えられない。と、コールソンさんとシュトルムさんは、懐疑的だ。
気のせいだったかも・・・そう思った矢先に再度卵が揺れ、ヒビを起点として卵に亀裂が入る。
「あっ!!ヒビが拡がっちゃう!!強力接着剤!!!卵?化石?が引っ付く接着剤って何!!??」
突然の現象に動揺した私は、以前家で皿を割って接着剤で修復した日を思い出し、反射的に何種類もの商品が頭に浮かぶ。紙、木材、陶器、ガラス、金属用対応の物しか出て来なかったが。
「修復魔法っ・・・は駄目ですね、魔法は受け付けませんでした・・・!」
「状態維持の魔法も恐らく効かないな」
「ははは、早く手を打たなければ・・・!」
慌てる私達を尻目にヒビはどんどん拡がっている。このままだと、2つに割れた遺骸を持ち帰る事になってしまう!!
パキパキ・・・パキンッツ!!!!!
願い虚しく、無情にも卵は底までヒビが到達し、完全に割れた音が腕の中で聞こえた。
全員の動きが止まり、事態を重々しき受け入れる気配が漂う。
卵を抱えている私はと言うと、目線をゆっくり下げて、完全に割れたであろうソレを確認した。
まだ2つに分かれきっていないが、ヒビが完全に入った事で若干の隙間が空き、分かれるのも時間の問題だ・・・と、長いため息を漏らす。
その時だった。割れた卵がより強く揺れたかと思うと、半分に分った卵から、何かが顕れ出て『ミ゛ャウ゛・・・!!』と鳴いたのだ。
「なっ!!??」
予期せぬ事態に、お腹の底から驚きの声が出る。
割れた卵の化石から出て来て、私の方へと鳴き声を放つその生き物。
こちらを見つめる金色の大きな瞳、長い尻尾と頭に乗る耳の様な突起、フワフワとした黒の産毛に包まれる全身。背中には2つの羽、手足も産毛に覆われ僅かに爪が見え隠れしている。
その柔らかいフィルムの見た目から、濁音混じりの鳴き声が放たれたのだ。
声と羽が非常に特徴的ではあるが、この見た目には見覚えがある。こっちに来てからバタバタで、・・・目にする機会が余り無かったが、こ、これはまさか・・・
「羽の生えた、猫ちゃんっ・・・・・・!!!!」
「こ、これは!竜の幼体です!!」
「恐らく竜の幼体だ」
「竜の幼体ですね・・・信じられませんが・・・」
「竜の幼体ですと!?」
「ははっ・・・まさか竜の幼体とは・・・俄には信じがたいな・・・」
羽を生やした猫だと歓喜の声を上げた瞬間、全員からほぼ同時にその見解を否定される。
・・・・・・これが、竜・・・伝承の類いと言われている存在。私の想定していた竜は、こう・・・もっと大きくて、棘張っていて鱗があって、圧倒的な存在感がある物だと思っていた。
腕の中で、ふにゃりと柔らかいソレは、羽以外ほぼ猫に見える。しかし、猫では無い。
ゆっくり持ち上げて裏側も見てみるが、お腹周りも背中側と変わらずフワフワの毛並みである。
「こんなに触り心地も似ているのに、猫ちゃんじゃ無いのか・・・」
四肢の力を抜き、されるがままのソレは色々な角度から眺める私を、目だけで捉えジッと見つめて来る。
「君、本当に猫じゃ無くて、竜なの・・・?」
顔の前で目線を合わせて、問いかける。言葉が通じるとは思っていないが、かつてオフィス街のビル境で見かけた猫ちゃんにも、一方的に話し掛けていた過去がある。
「わわっ・・・・・・!!!」
問い掛けに当然返事は返って来ないが替わりに、私の然程高くない鼻先をひと舐めされる。
猫のザラザラした舌の感触と違い、犬の物に近かった。
「メ、メグミ殿・・・もし宜しければ、私にも触れさせて下さいっ・・・」
目をキラキラとさせるニコラスさん。そうだ、この子が本当に伝承の竜の子供であれば世紀の大発見で、レオニア王国の誰もがその存在を伝承越しに信じている。
卵の化石と言うだけでも喜ばしいのに、実は中に本体が居たのだから、それはつまり"生きた化石"として存在を証明出来た訳だ。
その存在に触れて置きたいと思う気持ちが、ヒシヒシと伝わって来て、私はどうぞ!と動物触れ合いコーナーの様な気軽さで差し出した。
「ウ゛ギャゥ゛!!!!グルルルルルル・・・・・・!!!」
それまで大人しかった筈の竜が一転、近付くニコラスさんの手を威嚇し、拒否の意思を示す。
「!!!」
「えっ!?何で・・・?」
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