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No.87 それはノーカンです!!

 

 No.87 それはノーカンです!!







 バサリッ・・・バサリッ・・・


 窮地に突然背中に出現した、白いソレ。


 意識して自分で二度三度羽ばたいて見ると、その度に羽風で水面が揺れ、変わらず身体を空中に留めている。



「本当に、翼が生えちゃった・・・」



 無我夢中で求めた、現状を打破出来る存在。だが実際に手にすると、助かった安堵よりも驚きと困惑が勝ってしまった。


 ギルドで一旦は証明されたが、いよいよ、私が人間で無い可能性が浮上して来た。

 どう言うメカニズムで生えているのかも分からない。



「・・・・・・もしかして、ううん。もしかしなくても何かのスキル・・・?」



 切っ掛けがあれば、スキルは発現するとヴィクターさんに言われていたが、前回のワームの時と同じで、極限の状況で発現したと考えるのが自然だ。


 だが、このまま谷底で1人考えていても仕方ない。幸い卵はヒビのみで原型は保っている。皆に卵の無事を伝えなければ。



 上昇を試み、何度か翼をはためかせるが、所詮は翼が生えただけの人間。鳥の様に上手く扱える訳も無く、左右に振られ、蛇行しながら浮き沈みを繰り返し移動する。


 空気の抜けた風船にでもなった気分だ。


 少しずつ上昇はしているのだが、この調子では崖上迄到達するのに、かなりの時間を有する・・・



「う・・・方向転換は、どうすれば・・・」



 戻るべき場所は後方なのだが、方向転換が出来ない私はずっと、向かいたい場所へ背を向けたまま浮かんでいる。


 半回転しない事には、目指すべき場所が定まらない。後方が見えないまま後ろを目指す不安感と、以前としてまともに飛べない状況に途方に暮れる。


 もう何時間掛かっても良いから、上を目指そうと自分を宥めていた時だった。





「────────・・・・・・メグミ・・・か?」


「っ!!ヴィクターさんっ!!??」



 後ろ上空から振って来た、神の声・・・いや、頼れる上司ヴィクターさんの声。


「私です!メグミです・・・!・・・・・・え?」


 ヴィクターさんの声に安堵し、気を抜いたせいなのか、私の体は浮遊力を急に失い、ガクンと下に落ちる。

 慌てて翼を羽ばたこうとするが、先程まであったはずの翼は私の背中には無かった。


 今度こそ落ちる・・・!再落下を覚悟した瞬間、今度は体が柔らかくフワリと浮かぶ。



「!!!!」


「はぁーー・・・本当は、勝手に飛び降りた事に対して言いたい事があるが、先に何が起きているのか、説明して貰うぞ」



 浮遊感の正体は風魔法で、浮いた体は吸い込まれる様にヴィクターさんに向かい、そのまま両腕で抱え込まれる。


「ありがとうございますっ・・・!!」


「礼はいい。今のは何だ?一瞬お前の背中に翼が生えていた様な気がしたが?」


「はい、えっと・・・先に、降ろして頂けると・・・あ、降ろすでは無いですね、持ち方を変えて頂けると・・・背中とか、私がしがみ付く体勢でも」


「何故?この方が安定して運べる。それより質問の返答が先だ」



 何となく落ち着かない体勢に、腕から降りようとしたのだが、抱き抱えられた体制のまま話が続行した。



「翼は、間違いなく生えていたと思います」


「・・・お前は人間で、有翼種(ゆうよくしゅ)では無かったと記憶しているが?」



 そう、ギルド登録時に"人間"である事の証明は済んでいる。



「多分ですが、また何かのスキルが発現したのでは無いかと・・・前回のワームの時の感覚に似ていまして・・・」


「翼が生えるスキル・・・と言う事か。また、変わったスキルだな」


「ははは、でもこのスキルのお陰で命拾いしました。卵も少しヒビが入っていますが、概ね無事ですよ」



 ほら!と、胸に抱え込んだ卵を見せる。包まれていた布は落下が始まった時点から外れていた。

 もし布に包まれた状態のままであったら、緩衝材になり結果は違ったかも知れない。


 ・・・・・・布が、外れている!


「しまった・・・私、思いっ切り直接持ってしまってます・・・!」



 成るべく触れない様にしていたのに、無我夢中で卵を受け止めた為、その辺りの配慮を怠っていた。


「現時点で触れて何も無ければ、大丈夫だろう。それよりだ、メグミ。今回は偶々スキルに助けられたから良かったものの、本来空中を移動する手段が無いやつが、何の策も無しに飛び降りるとはどう言うつもりだ?」


「す、すみませんっ!!・・・ヴィクターさんはアルシュさんを護るお役目があるので、身軽な私が追い掛ける方が良いかと思いまして・・・」


「理由は分かったが、その言い分は認めない。いくらお前でもこの高さを落下し、地に叩き付けられれば只では済まない筈だ。確かにお前の防御力は高いが、過信はするな。常に最善と最悪を考えるようにしろ」


「はい・・・すみませんでした・・・」



 そうか、私は最善が真っ先に頭に浮かぶ。最悪は思考の順番において、かなり後回しなのだ。



「────小言はここまでだ。メグミのお陰で卵の消失を阻止出来た、礼を言う。ありがとう」


「えっ!あ、はい・・・!それは、えっと・・・思い切って良かったです!結果論ですが!」


「正直な所、上でヤツを倒して追い掛けて、ギリギリ間に合うか・・・五分五分だった」


「良かった!あの木、無事倒せたんですね!皆さんにお怪我は?」


「シュトルムとコールソンの助力の元、一撃で倒した。負傷者は無しだ」



 私が森の中で倒した木に比べ、馬車を壊したアイツは結構な大きさだったがアレを一撃で・・・

 悔しいかな、ワームの時もそうだったが、大型の魔物を倒すヴィクターさんをまだ見られていない。


 エルドールの森で、この卵の防護壁を破壊する為に加えた攻撃の凄まじさは、よく理解した。その上で、次こそは是非とも、実践で見たいと思った。



「そろそろ戻るぞ。皆、上で俺達の帰りを待っている」


「あの、でしたら降ろして頂けると・・・良い大人ですので、差し支えなければ、一緒に浮かせて貰って・・・」


「・・・・・・・・・・・・子供扱いみたいで、嫌と?」


「えっまぁ・・・はい・・・」



 子供扱いと言うよりも、どちらかと言うとこの状態、前世では"お姫様抱っこ"に部類されると認識している。・・・・・・この世界にその概念が有るのかは分からないが、このまま人様に見られるのは少々抵抗がある。


 ・・・・・・要は、恥ずかしいのだ。



「・・・・・・勝手をした罰だ、諦めろ。それに、メグミをこうして抱えるのは、初めてでは無い」


「えっ!?」


「ワームの件の時に、坑道からモーゼ殿の所まで"これ"で運び込んだ。今更だ」


 記憶に無い時の話は、ノーカンでは?思わずそう言いそうになったが、心の内に留めて置いた。



 上に戻る手段は、ヴィクターさんの魔法頼り。ここは大人しく使い手の意向に沿おう。



 無だ、無になろう・・・ちんけな羞恥心から余計な心配をするのがいけないのだ。


 仮に上で皆さんに見られても、普段通りの態度で居て、そう言う物だと気に留めない事で、相手もそう言う物だと認識して貰えるはず。うん、それだ、それで行こう。


 ヴィクターさんに抱えられたまま、体は上昇を始めた





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