No.86 躊躇いなんて無かった
No.86 躊躇いなんて無かった
「ははっ、そうか。君の国は随分と自由国家のようだな。納得だ」
「ご理解頂けて、良かったです!」
「これは、ジルが気に入る訳だ・・・」
「ん?ヴィクターさんがどうされたんですか───「2人とも何かに掴まれ!!!」
アルシュさんの発言に聞き返したと同時に、御者席にいるヴィクターさんの声が響く。
次いで馬車が激しく揺れ、車輪が地面を荒々しく削る音。馬車に急ブレーキが掛かり、衝撃で前側に飛ばされるアルシュさんを受け止めた。
「何がっ・・・!」
慌てて馬車から飛び出ると、前方の馬車も急ブレーキを掛けたのか、横向きに停まっている。
「さすがに、魔物に出くわさずに抜けきる事は出来ないか」
辺りには岩肌の見える山と、伸び立つ木々。魔物の気配は前方ならず、周囲全体に感じられる。
ただ、今までの魔物の気配と違い姿が見えない。
「駆け抜けたいが、そうも行かないね」
「アル、下がっていろ」
ザワリ・・・風も無い中、周りの木が揺れたかと思った瞬間、何かが木から撃ち出され、足下に突き刺さる。
地面に埋まったそれは、直ぐに蔓を伸ばし成長して行く。
「「ハイスヴァイン!!!」」
ヴィクターさんとコールソンさんが叫んだのはほぼ同時で、その魔物の名前が何を意味するのかを私は知らない。
「最近目撃情報が余り無かったがっ・・・成る程、無主地に棲息地を移していたのか」
「これは魔物なんですか?」
成長しながら、こちらへと伸ばして来る蔓の腕を拳で弾きながら、質問する。
「あぁ、少し厄介な魔物で、一体であってもこうして種を飛ばし、手足となる兵隊を産み出す。あっと言う間に複数体に囲まれて捕縛されれば、本体の養分にされる」
「えっ!!もう最初の時点で5体くらい出来上がっていますよっ」
「あぁ、だから本体を叩けば兵隊は枯れる。こんな風にな」
種を飛ばした木に向かってヴィクターさんが剣を振ると、魔物は衝撃で粉砕される。
先刻言われた通り、目の前の3体は急激に色を失い枯れ木へと変わった。
「あれ、2体が枯れませんね」
「厄介な部分はこれだ。こいつらは集団で生え揃う、つまりこの辺りの木々に紛れ込んだハイスヴァインが複数体居る。その兵隊は今倒した個体とは別の物だ」
「それってつまり・・・」
「複数の木が産み出した兵隊が、集団で襲って来る」
魔物の生態を聞いている間も、降り注ぐ弾丸のような種。向かって来る兵隊を片っ端から破壊しているが、本体を叩かないと意味は無い。
「シュトルムが広範囲高出力の火魔法が得意なんだが、全ての木に無作為に攻撃を加える訳にもいかない」
前方でシュトルムさんも同じ様に、蔓の兵隊に苦戦を強いられている。
纏めて一掃してしまうと、この地も焼け野原になってしまう事を危惧しているのだろう。
風の防壁を直ぐに馬車に掛けるが、アルシュさんを確実に護らなければならない為、ヴィクターさんはこの場を離れられない、ならここは・・・!
「ヴィクターさん、ここをお願いしても良いでしょうか!」
「どうする気だ」
「以前使用した、植物を見分けるスキルを使います!植物の反応以外は魔物として叩けば良いですよね!」
「出来そうか?」
「最善を尽くします」
単騎で出る許可を貰い、木々に向かって名も無きスキルを発動する。このスキルは長時間使用が出来ない、成るべく素早く見極め倒す!
「うわっ・・・!」
集中すると、木々の纏うオーラの中に別の物を感じる。しかし驚くべきはその数。
10体所の話では無い、側の森側に20、いや30体近くは本物の木に紛れ込んでいる。
今はまだ、手前の魔物が攻撃をしているだけだが、全部が攻撃態勢に入ったなら多勢に無勢、瞬く間に蔓の兵隊は増えて行くだろう。
「責任重大の大仕事だっ!」
気圧されている場合では無い、一番近くで魔物のオーラを放つ木に右拳を叩き込む。
ギィッ!と断末魔を上げるが、ヴィクターさんの風魔法の様に一撃で粉砕してそれ以上の声は上げさせない。そのやり方で一体一体、確実に潰す。
「良かった、加減の必要なくて・・・」
"素早く"と"加減"は、私の中ではまだ同時に行える物では無い。不甲斐ないが、どちらかに偏ってしまっているのが現状だ。
だが、この魔物相手ならば破壊目的で、強めの拳を振るえる。
今は全員の安全と現状の打破が最優先。素材云々は気にせず行こう。
たまに、私に向かって種を飛ばして抵抗して来る木もいるが、生憎と私は巨大ワームに全力の突進を受けても耐えた身体だ。当然、飛ばされた種は、コンッと弾かれ地面に転がる。
「残念。そのくらいの威力なら、かすり傷にもならない、よっ!!」
地面に落ちた種から蔓の兵隊が生え上がるが、それが動き出す前に本体をすかさず叩き続け、気付けばかなり数が減って来た。
その証拠にヴィクターさんの周りや、前方の馬車にも蔓の兵隊は集まって居ない。
このまま、全滅させてしまおう。攻撃の手を緩める事無く、スキル切れの限界まで木を潰して回った。
・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・-・ー・
「有り難うございます、メグミさん。お陰で皆無事です」
殆どの魔物を倒し、森から馬車の場所まで出る。延々と生み出されていた蔓の兵隊に、苦戦を強いられていたシュトルムさんとコールソンさんにお礼を言われる。
「大規模な魔法は使えないと思ったので、肉弾戦で行かせて頂きました!皆さんお怪我が無くて何よりです」
馬車が攻撃を受けた痕は無く、このまま移動再開出来そうだと安心する。
後方のヴィクターさんの方を向き、馬車の外で待つ2人に手を振りながら、駆け寄った。
いや、駆け寄ろうとした瞬間、視界の端に何かが映る。
今、魔物を倒して回った森は向かって左側、右側は岩肌が剥き出しの渓谷に続く断崖。
その断崖に生える、木が一瞬動いた様な気がしたのだ。オーラを視るスキルはもう効力を失っている。その木が魔物である確証は無い。
だが、嫌な予感がして2人に向かって叫ぶ。
「ヴィクターさん、下っ・・・!!!その場から離れてっ!!!!」
「!!!!」
私が言い終わる前に、アルシュさんを抱えてその場から飛び退くヴィクターさん。同時に、馬車の下のから、木の根が地面を突き抜け馬車を破壊する。
風の力で空中に逃げた2人は無事だ、ほっとしたのも束の間。衝撃で谷底へと吸い込まれていく馬車から、スローモーションの様に"卵"が転がり出る。
「っ!!!!」
ヴィクターさんもそれに気が付き、風魔法で馬車周囲を浮き上がらせるが、卵はそれを擦り抜ける。
そう、卵は魔法を受け付けない。
「ヴィクターさん!卵は私が!!!魔物お願いします!!!」
谷底へ落ちて行く卵へと方向を定め、躊躇無く崖から飛び降りた。
どんどんスピードを上げて落ちていく卵、このままだと運が良くて川に落下、最悪は岩に打ち付け、木っ端微塵。
竜の卵の強度に期待するが、その最中切り出した岩に卵の一部が打付かる。
「あっ・・・!!!」
その衝撃で卵の端は割れ、ヒビが入ったのが見えた。
この高さを耐えうる強度は、無い。確実に粉々になる。
何としてでも、卵に追い付いて受け止めなければ!!!だが、スピードが足りない。同じ速度で落ちていては追い付くのは不可能。何か方法は・・・
「空中って蹴られないのかな・・・」
何を馬鹿な事を思い付くのだろう、普段ならそんな事思いもしない。だが、もし出来るとすれば、一気に加速して卵に追い付ける。迷いは無かった。
「ファイト、でーーー、いっぱぁつ!!!!」
瞬間的出力を出し、自分の能力値を底上げ出来るこのスキルに掛けた。
足に力を溜め、一気に放つ。
「わっっ!!!!!」
何も無い筈の空中に、力が加わり一瞬地面を蹴ったかの様な感覚がした。
それに共ない、落下が急激に加速する。
身体が下に向かってどんどん早くなり、崖の半分手前で卵に追い付いた。
力を込めすぎない様、柔らかく抱きしめる。良かった、間に合った。
「・・・・・・あれ、この後はどうしよう・・・」
卵に追い付く事に必死で、追い付いた後の事は考えていなかった。
空中を蹴る為にスキルは使ってしまった、しかもそのスキルの弊害で自身の落下速度を上回る速さで、谷底が迫っている。
上手に川に落ちられても、高さに比例した水面が優しく受け入れてくれるとは思えない。そこをクリアしても深さが足りなければ川底に打ち付けられる。
私はまだ良い。その衝撃の余波を卵が受けてしまう可能性がある。只でさえ、既にヒビが入った割れかけの卵だ。折角受け止めたと言うのに、その結末はあり得ない。
何か手は?壁に拳を打ち込んで速度を落とそうにも、壁までの距離が遠い。
早く打つ手を考え付かないと・・・!!
目まぐるしく回転する頭の中に、ふっ・・・とある映像が浮かぶ。
それは、高く飛び立つ翼を背に宿した姿。縦横無尽に飛び回るその姿は、人が決して得ることの出来ない空への憧れ。空を駆けると言う夢。
飛行機やロケットと言った機械に頼る飛行では無い、純粋に誰しもが1度は抱く渇望。自分も、自分自身で羽ばたき、飛んで見たいと。
その映像に引き寄せられる様に、身体が熱を帯びる。
そうだ、この感覚を私は知っている────・・・
身体に帯びた熱は、背中へと。力を込め、叫んだ。
「この状況を打破できる翼を私に下さいぃーーーー!!!」
絶叫が渓谷に木霊し、耳鳴りで目を閉じた。
落下し始めてから感じ続けていた、身体を切る風が急速に収まり、替わりに感じるのはジェットコースターに乗った時の様な・・・いやそれ以上の浮遊感。
目を開けると、迫っていた水面はふらふらと揺れる足の下に見えた。
止まっている?・・・いやこれは・・・
「私が、浮いている・・・?」
驚きの余り、空を見ようと振り返る私の背中には、時折羽ばたき高さを保つ、大きく立派な翼が生えていた────・・・
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