No.85 部外者と信仰と
No.85 部外者と信仰と
リミリアさんとの挨拶を済ませ、エルドールと外を隔てる膜に向き合う。
ゆらゆらと透明な膜の向こうには、草原の様な景色が広がっている様に見える。
「では、私が先に出て安全を確保して置きましょう!」
「よろしく頼みます、シュトルム。次は私が出ます、ニコラスも続いて下さい。殿下は、そうですね・・・ヴィクター殿とメグミさんと共に最後が良いでしょうね」
「そうだな、そうしよう。先に外で待機していてくれ」
「はい。では少しの間ですが、殿下を頼みましたよ」
シュトルムさんが森の外と内を隔てる膜を潜り、間を置いて予定通りに2人が潜って行く。
膜の外とこちらでは魔法で空間が捻れている様で、今見えている景色は恐らく別の場所を映しているのだろう。森に入った時も、外から見えていた景色と違っていたのを思い出す。
「・・・もう良いだろうか?」
「恐らく問題ない筈だが、何か有っては困るな・・・俺が先に出よう。メグミ、アルと一緒に出てくれるか?」
「はい!任せて下さい!」
「あぁ。ではリミリア王、失礼する」
リミリアさんに一言告げ、ヴィクターさんも膜の外へ。エルドールには残す所、私達だけとなった。
「えっと・・・リミリアさん、短い間でしたがお世話になりました。私、世情に疎くてエルフと言う種族も初めて知りました。こう言った表現が正しいのか分かりませんが、太古の自然と調和して暮らす生活様式、とても素敵で格好いいと思いました!最古の樹は、消失してしまいましたが、あの場所がまた美しい自然に囲まれる事を祈っています」
「ふふっ、貴女とはもう少し話してみたいと思いました。その変わった体質も不思議で、大変興味深い。正直貴女のその体質のお陰で、我々も明日より暮らしを元の形に戻す事が出来る。森もまた、時間と共に甦って行くと思います。本当に有り難ございました」
そう言って、私一個人に差し出される手。一国の主の掌を、平民の私が握り返しても良い物かと躊躇って居たのだが、一連の流れを横で見ているアルシュさんに促され、僭越ながら握手をお受けする。
「ふふっ、有り難う。不思議な冒険者さん」
その笑みは、今まで見た王としての威厳ある表情とは違い、とても優しく柔らかい物だった。
「改めて、この度の事感謝する。我が国の王にもしっかりと伝え置こう。それでは失礼する」
「では失礼します!」
「こちらこそ、帰路の無事を祈っています。ご武運を」
別れの言葉と共に一歩を踏み出すと、またあの皮膚を撫でる様な感覚。そこから2、3歩進むと、今までのエルドールの景色が外の正しい景色に移り変わった。
出た場所は、渓谷を下に構える高い地形。余りの変わりように振り返ると、東側の入り口と同じで森がこちらへを口を開いている。だが、その入り口が歓迎から開いている訳では無いと、今なら分かる。
「殿下!中々出て来られないから心配しましたぞ!」
「すまない、別れの挨拶をしていた。皆、無事に出られた様だな」
「ええ、エルドールを出た事で多少魔物の気配は感じられますが、この辺りは掃討致しましたので、ご安心を。ここからは簡易馬車をご用意しましたので、そちらにて東側まで回り込みましょう」
森を突っ切る事は当然出来ないので、東側の入り口の飛竜が待機している場所迄は、この外側の無主地を移動する。
その為の馬車が2台、しかし馬車を引くための馬は居ない。
「殿下、どうぞ中へ。こちらの馬車は、御者をジルニード殿にお任せ出来ますでしょうか?我々はシュトルム指揮の下、先を走りますので」
「構わない。馬はどうする?」
「私が、ご用意致します。《大地による創造》《早亀竜》」
名乗り出たニコラスさんが、地面に手を翳し魔法を発動すると目の前の大地が揺れ、地面がボコボコと隆起する。
中から現れたのは二頭の大きな亀。いや、亀と言っても体から伸びる四肢は太く、まるで恐竜の様な見た目だ。背中が甲羅に近い形をしているから、瞬間的に亀と表現したが、殆ど恐竜と言って良いだろう。
「凄い・・・大きいですね。これはニコラスさんの魔法ですか?」
「いえいえ、大層な物では。私の魔法は地を用いた物を得意としていまして、地に足を付けた魔物でかつ見た事があり、生態を理解している場合のみ、こうして造り出せるのです。本物と同等の能力が付与されていますので、私の魔力が続く限りそれを動力とし、動かす事が出来ます」
「本物そっくりの・・・」
「と言いましても、戦闘向きの能力ではありません。どちらかと言うと、このトルタルザイルも運搬や移動に向きで。戦闘となると魔力消費が計り知れない上、そう言った戦闘向きの魔物は、より複雑な構造をしていますので、私の魔力量ではあっと言う間に地に還ってしまいます」
動力源がニコラスさんに依存している為、魔力量に見合った創造を行わなければならない。より大きく強い魔物を造り出せれば、頼れる戦力になるのではないかと考えたが、そんなに単純な話では無かった様だ。
「私は基本、遺跡やダンジョンを求めて移動が主体で、何かが出土し持ち帰る際に、この魔法を重宝しています。最高速度も平地でしたら、私達が走るよりは速いですし」
「力強そうで、良いですね!」
「さて、馬車と繋げるぞ。少し下がれ」
馬車に恐竜をそれぞれ配置し、目指すは東側の飛竜達の待機場所。
私達がエルドールを出るタイミングに合わせて、ヨルノさんがローグさんを連れて出ると言う話になっていたので、恐らくローグさんもその場所で待って居てくれている。
「では、先は私達が!」
恐竜の引く馬車に乗り込み、待機場所に向けて出発したのだった。
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「さ、さすが余り人が通らない地域・・・結構揺れますね」
「はは、無主地は誰も開拓していないから、荒れ放題だね」
今までは、曲がりなりにも国家間の行き来をする人々のお陰で、街道は比較的整っていたと思う。
それに比べると、今通っている道は土の踏み固めは甘く、でこぼことしている上に小石や浮き石が点在し、かなりの悪路だった。
馬車の座席に座る私達は、度々振動でお尻が浮いてしまうと言う状態。
私の横に置いたスイカ包みの卵が、この衝撃で何か影響を受けないかと心配だったが、相変わらず静かで、取り敢えずは大丈夫そうだ。
化石とは言え、この振動でヒビ割れてしまうと、保存面での予後が悪い。国に着くまでは現状を保って行きたい。
「気になるのかい?」
「え?」
「その遺骸の事さ。度々視線を送っている」
「そうですね・・・一応、レオニア王国の崇拝する雷竜の遺骸ですし、無事に持ち帰りたいかなと。ここまで来て壊してしまったら、元も子もないです」
「・・・君は、元々我が国の人間では無かったよね?それにも関わらず、伝承でしか無い僕達の信仰を疑問には思わないのか?」
不思議そうな顔と、困惑が入り交じった声色。
伝承への信仰・・・つまり、幻や夢物語に相当する対象への信仰心。
その疑問は文字にすれば、確かに不可解に感じるかも知れない。伝承は他国からすれば、不確かな与太話と言う扱いになる筈なのに、それを疑問に思わないのかと。
「うーん、疑問。そうですね・・・確かに、実際に目で見ていない物は、現実にあり得ないとされるのも分かります」
「そうだな」
「ただ、私からすれば。信仰ってそんな物では無いでしょうか?・・・と、言うより。私の元居た国は、その辺りにかなり寛容で、信仰は強制では無いですし、逆に何を信じていても自由なんですよ。むしろ、選び放題と言いますか・・・」
「選び放題・・・とは?」
「現実に居ても良いですし、空想の物でも伝承でも・・・それこそ、例えばその窓から見える山肌の岩!ああ言った物であっても、信仰していますからね。なにせ、私の国は八百万・・・800万の神がいるとされていますから!」
「は、はっぴゃくまん・・・それは、また多いですね・・・」
「そうなんです。なので、他国がどんな対象を崇めて居たとしても、特に疑問とかは無いですね!まぁ・・・無理矢理強要したり、後はそれが原因で戦争とかに発展してしまうと、駄目なのですが・・・」
レオニア王国にとっては始祖に雷竜が居て、それを信仰していて、この化石がご神体となるのなら、やはり大切に持ち帰ってあげたい。
────それよりもだ。数時間前に正体が分からなかった卵を、棒で叩いていた私が神の逆鱗に触れていないかが、気掛かりではある。
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