No.84 雷竜の卵
No.84 雷竜の卵
「これが、雷竜の卵だと・・・?」
可能性の1つではあるが、俄には信じられないとアルシュさんが驚きの声を漏らす。
当たり前だ。未だ地面に転がるその黒い置物は、この世界の始まりを齎したとされる竜の1体だと言うのだから。
それもレオニア王国のみが、伝承する竜と言われてしまえば、尚更だ。
「その可能性が極めて高いと思われます。ただし"卵だった物"がより近い表現かと」
「詳しく頼む」
「はい殿下。先程のコールソン殿の解析魔法と近しい物を私も扱えますので、防護壁が無くなった今、詳しく調べる事が出来ました。まず、現存する魔物や精霊の物とは全くの別物になります。部位・器官と何1つとして当てはまる物が有りませんでした。そこで竜種の可能性を念頭に、より詳しく解析を行ったのですが、この丸い形の中に生き物の様な影がうっすらと感じられました」
「それが、竜だと・・・?」
「現状断定は出来ません。ですが、確実に何かが存在しています。ただ、その体は殻と一体化していると思われます。いつからこの状態なのかは分かりませんが、竜の目撃情報は1000年以上無いと言われいる事を考えれば、遺骸と言う事になるかと・・・」
「1000年所ではありません。我々長寿のエルフですら存在を見た事など無く・・・それに、ここに在った木の樹齢は数千年以上・・・その下にて眠っていたとなれば、それと同等・・・いえ、もっと前から卵は在ったと言う話になって来ます・・・!」
遺骸、つまり化石と言う事だ。一体いつからこの化石になった卵は、ここに在ったのだろう。永い永い刻を地の中で眠り、ある日突然現れたこの化石は、まるで私達に見つけて欲しかったと言っている様な気さえした。・・・なんて、それは余りにも都合の良い考えかと自笑する。
「いや、例え遺骸であったとしても、この発見は吉報だ。リミリア王、貴殿の国より出土した卵は非常に歴史的価値のある物だが、許されるなら我が国に持ち帰りたいと思うが、どうだろうか?」
「構いません。基よりこの森を焼き払った原因を排除して貰う取り決めでした。その遺骸が原因であれば、正体が何であろうと再び同じ事が起きてくれては困ります・・・我が国で持て余すくらいでしたら、貴国に持ち帰り、遺物として崇拝する方が良いのではないでしようか?」
「ご厚意に、感謝する」
アルシュさんを初めとするレオニア王国の皆が、深々とお辞儀をする中、私も横に倣い一緒にお礼を伝えた。
伝承にある雷竜そのものが出現し、あの夜の雷を起こした訳では無かったが、その雷竜の痕跡と言える化石が見つかった事は十分な収穫と言えるだろう。
数千年以上も眠っていた化石が、あれ程の力を残していた事実を思えば、もし本当にこの場に竜その物がいたとしたら、一体どれ程の力を有した存在であったのかと考える。
だが、そもそも伝承通りならば、この世界を創った竜の1体となる訳で、神に等しい創造主の力の程度を、私がいくら思考を巡らしたとしても答えなど永久に出ない。
けれど、折角ファンタジーに溢れる世界へ来たからには、ひと目だけで良いから本物の竜を見てみたかったとは思う。
「それで、その卵は触れられるのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
レオニア王国へ持って帰るのは良いが、問題が発生した。
この卵、直接触る事は出来るのだろうか・・・?警戒して木の棒で突きはしたが、持ち運ぶとなると触る他ない。
では、誰がその役を最初にするのか?
「えっと、私は、さっきの事があるので、不用意に触らない方が良いかと・・・」
「そうだな、また暴発が起こると困る・・・代案を立てよう」
「マ・・・マジックバッグに入れて運ぶのはどうでしょう!?バッグを直接被せれば、触れずに中に格納出来ます!」
「おぉ!ニコラス殿、それは名案だ!早速試してみよう!」
シュトルムさんが、背に装備していたバッグを外し、卵に被せた。
「あれ?」
「む?入りませんな・・・」
上にバッグが乗っかっただけで、肝心の卵が中に吸い込まれる気配は無い。
おかしい、大きさの問題では無い筈だ。
なぜならマジックバッグはバッグ自体の容量は決まっている様だが、このサイズの卵くらいなら、今までの魔物の素材がそうだった様に、魔法の様にスッと吸い込まれて行く筈だ。
「まさかとは思いますが、魔法効果を受け付けないのでは無いでしょうか・・・?」
「あり得るな。マジックバッグは、掛けられた魔法で容量度外視の収納を実現している。収納する物全てを一時的に閉じ込める完全な"魔法空間"は、どうやら受け付けないらしい」
「ならばジルに浮かせて貰う事も難しいか」
これは、人力で運ぶ他無い様だ。
苦肉の策として、魔力の帯びていない大きな布で包み込む作戦を取った。直接触れずに済むその包み方は、前世で風呂敷を用いてスイカを包み移動する際に、便利とされていたスタイルだ。
記憶を頼りに、ヴィクターさんへやり方を説明し、極力卵に触れない様に配慮して結んで貰った。
洋風の世界に和風の要素が突如現れた事で、そのアンバランスさがちょっとだけ面白い。
エルドールの険しい森を抜ければ、荷車が使えるそうで、そこまで移動する急ごしらえの物だが、卵の遺骸は暴れる事も無く沈黙を保っているので、良しとしよう。
案外とユラユラ揺れて、心地が良いかもしれない。
「では、私が運びましょう」
運びやすくなったスイカ包みの卵を、シュトルムさんが受け取る。ヴィクターさんから引き継がれた卵、依然として沈黙。
やはり、ニコラスさんが言われていた様に、卵から発していた力は遙か昔に残存していた物で、私の体に入り込み弾けた物で最後だったのかも知れない。
改めて周囲を見渡し、残存していた力の強大さを改めて認識する。
あの夜この森を焼いた光がこの状況を作り出し、余力をかなり削いでいたから、私の体が雷に耐えられたのでは無いだろうか?
「この焼けた森って、いずれは元の自然に戻りますかね?」
「永い年月を掛けて戻るだろうな。エルドールは魔力が安定して豊富な国だ。案外俺達が思っているよりも早く回復するかもしれないな」
「そうなんですね!良かった」
本当に地面しか残っていない大地に、今後草木が元に戻るのか不安でいたのだが、大丈夫そうで安心した。
魔力の恩恵ですくすくと育ち、周りの景色に負けない緑を取り戻して貰いたい。
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「これで目的は概ね達成してしまったな。リミリア王、早々で申し訳無いが、この遺骸を携えて国に戻らせて頂こうと思うが、宜しいか?」
「勿論です。案内しましょう」
元より光の原因の排除を目的としているエルドールと、調査を目的としてるレオニア。双方の目的がスピード解決した今、後はエルドールを出国し国に帰るのみとなった。
ドルガニルと違い、普段立ち入りを全く許可していない国をのんびり観光とは行かないし、アルシュさん達もこの卵の事を一刻も早く報告をしたいだろう。何せ、歴史的発見なのだから。
「こちらです。このまま奥地に進み、森の終わりが魔法の結界の外になります」
一方通行の魔法が付与された迷路。部外者の私達は、来た道を戻る事が出来ない。リミリアさんを初めとするエルフの護衛が進む道を、ひたすら付いて行く。
1時間くらい歩いただろうか、木々の景色が入国した時の物に近付いて来た事で、森の終わりを感じ始めた。
護衛兵が立ち止まり、振り返り一礼。その仕草を受け取ったリミリアさんが私達の方を向く。
「ここから先がエルドールの外、西北側の無主地となります。西の隣国側になる為、この無主地を南東へ移動し、レオニア王国側へと向かって下さい。国の規則で不便を掛けて申し訳ないのですが、ご理解頂けると助かります」
「案内感謝する。エルドールを見せて貰える貴重な経験だったよ。本音を言うなら、これを機に国同士の交流をしていきたいと思ってはいるが、そちらの都合もあるだろう。直ぐにでは無くて良い、先々でまた相まみえる時が来れば嬉しいと思う」
「そうですね・・・我々も永らく、他国との関係を完全に閉ざして来ました。これも何かの縁と考え、前向きに検討したいと思います。今回の事、大いに感謝致します」
差し出される掌を、アルシュさんが左手を添えて握り返す。
「そう言って貰えると、期待してしまうな。良い返事を待ってる!・・・出来れば俺が生きている内でお願いしたい所だが・・・いや何せよ、双方にとってより良い結果になった事、お礼申し上げる」
軽い冗談を交えながら交わされる握手は、非常に力と気持ちのこもった物だった。
エルフの寿命を思えば冗談では無く、規則が改変される頃には、私達は寿命を迎えこの世に居ないかも知れない。
ドワーフより更に長命種のエルフにとって、人間の寿命は一瞬で過ぎ去ってしまうのだから。
しかし今日という日は、双方の国にとって歴史的な出来事として、後世に語り継いで行くのだろう。
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お待たせ致しました!
金曜日は更新が遅くなる時があります……すみません…
よろしくお願いします( ̄^ ̄)ゞ




