No.83 正体不明の物体の正体
No.83 正体不明の物体の正体
「それで、この置物は一体何なのでしょう・・・?」
ようやく離れた置き物が、再び手にくっ付き雷を流される・・・なんて事態は御免蒙りたい。
マジックバッグに入れてあった、焚き火用の木の棒で置物を突いて見るが反応は無い。軽く叩いてみるとゴンッと中身が詰まった低い音がする。
「ニコラス、見てくれ。何か分かるかもしれない」
「はい殿下」
指名を受けたニコラスさんは、鞄から数冊の本を引き出して置物の正体を探る。
考古学者である本領発揮と言う訳だ。
「メグミさん、そちらはニコラスに任せて私と少しお話出来ませんか?」
「?」
「先程の、散った魔力の件です。あの膨大な力をその身に受けて、どうでしたか?何故、身体から放散していったと思われますか?」
やはりコールソンさんとしては不可解な現象を曖昧にせず、解明して輪郭を帯びさせたい様だ。
その気持ちは、現に非常に曖昧な存在を地で行っている私には痛い程分かる。
「えっと、そうですね・・・何と説明すれば・・・」
「メグミ、思っている事をそのまま伝えても良いと思うぞ。もし違ったとしても誰もお前を責めない」
正直な所あの落雷の日から私は、一貫してこの現象や力は"雷"だと思っている。
科学的な根拠は提示出来ない、あくまで私の知識や経験則から出た答えだ。
この世界に雷が存在しないとヴィクターさんに言われた時点で、仮にこれが本当に雷なのだとしても、それをそうだと説明する為の根拠の提示出来ない状態で、納得して貰えるとは思えないからだ。
この世界で・・・いや、雷の存在を伝承として語り継ぐレオニア王国にとっては、願っても無い話だろう。しかし、私の知っている雷とこの世界の雷が同一とも言い切れない。
そもそも魔法なんて概念がある世界だ、前世の自然現象とは理屈が違う・・・別物の可能性の方が高い。
加えて、これが雷だと信じて貰えたとして、実は違いましたーなんて事になったら、それこそ大問題だ。
つまり2つの国の実質トップを前に、私が不用意な発言をする事に一抹の不安があるのだ。
「もし何か今回の事について、思う所があるなら臆さず話して欲しい」
「そうだ。我々も自国にも国民にも被害が出たままでは、納得が行かない。仮説は立てているが、所詮見た事の無い想像の物でしか無い。明確な答えが必要だ」
「だ、そうだ。あの時に俺に言った事を話してみろ」
当該のアルシュさんとリミリアさんにも促される。もし違っても恨みっこ無しですよ。
「・・・分かりました・・・恐らくですが、まずこの現象は"雷"だと私は思っています。根拠は示せませんが、私が過去に見た事がある物に非常に酷似しているとだけ・・・」
「!!!!!!!」
全員の驚く視線が集まる。だがその目には純粋に驚く物、その可能性を考えていた物と様々だ。
「やはりそうか・・・長年生きる我々エルフでも見た事が無い力。となれば最早、お伽話と言われるレオニア王国の伝承にその可能性を感じていたが・・・」
「伝承に記される物を、この目で見られる日が来るとはな。さぞ陛下もお喜びになられましょうぞ」
「そうだねシュトルム、父上に良い報告が出来そうだ。ここ迄僕自身が出向いた甲斐があったよ」
「あ、あのっ!可能性の話で、まだ断定するのは早いかと!本当、私の勝手な発言ですので!」
考えを伝えてしまった事で、早くも嬉々としてしまった空気をどうにか落ち着かせたい。
まだ決まった訳では無いと強調するが、そう上手く行くはずも無く・・・。
「それより、メグミさん。雷を見た事があるとは、一体どこで・・・?」
逆にコールソンさんに圧強めに詰め寄られる始末。
「コールソン、それは今は重要では無い。話の続きを聞こう」
「そ、そうですね。失礼しました。他に何か思い当たる事は?」
「取り敢えず、雷と言う前提で話を進めますが、恐らく一時的に魔力が無い私に流れ込みはしたものの、合わなかったのか何なのかは分かりませんが、身体から出ようとした感覚があったので、押し込めようと抵抗した結果、力がぶつかり合って相殺した・・・のかも知れません」
あくまでも、私の主観に基づく仮定の話だ。実際の所は分からない。
「そうですか、相殺・・・。弾けた後に魔力として感じられた理由を解明するには、情報が足りませんね・・・」
私から伝えられる事は伝えた。後はあの置物が何か分かれば、もしかしたらこの世界での雷が、どう言った物なのかを知る事が出来るかもしれない。
そもそも何故、お伽話になる程までに存在を確認出来ていなかった物が、いきなり現れたのだろう。何か重要な───・・・
分からないなりに状況を推理していたのだが、置物を調べていたニコラスさんの「これはっ・・・!!皆さん!!分かりました!!!」と言う興奮気味の呼びかけに思考を一旦切る。
全員が置物の元に集まったのを皮切りに、ニコラスさんが状況説明に入ったのだが・・・
「私、学者になりもう30年を過ぎておりますが、感無量です。産まれてこの方、まさか、この様な物に出逢える日が来ようとは夢にも思いませんでした!初めは、置物と言われていたので、魔導具の線からあたってみました。古き時代の魔導具は遺跡やダンジョンから出土する事はありますので。しかし、これ程の強大な力を発する魔導具は存在を確認された前例も無く・・・」
「次に、今回私としましては我が国の伝承にあります、かつて居たとされる雷竜の痕跡を辿り、伝承が正しい物であったと証明すると言う成し遂げたい悲願がございます。この度の光がもし雷竜の残存する力だとすれば、大きな進展になって参ります!ですので、その可能性を念頭に国立図書塔の更に奥の文書庫より持ち出した資料を基に、書き記された情報と照らし合わせて───・・・」
「すまない、ニコラス。簡潔に頼めるか?」
眼鏡越しに輝く目と、かつて無い程饒舌に語る姿は、学者としての探究心の塊で・・・止めどなく溢れる言葉を前に、私達は圧倒された。
この置物の正体が判明するに至った経緯や、道筋や思考が大切なのは十分理解している。が、一刻も結果を知りたい私達には些か長めの前置きで、アルシュさんが見かねて止めに入る。
「簡潔にですか・・・分かりました。この物体は恐らく"卵"です」
「卵・・・?」
反射的に頭に鶏の卵が浮かぶ。この大きな黒い置物が卵、それが本当なら随分大きな卵だ。
「ニコラス、"何の卵"だと思う?」
「そうですね、断定は出来ませんが・・・我々が求める存在の物では無いかと」
卵から産まれた大きめのヒヨコが歩き回るのを想像をしている私と違い、他の皆には1つの答えが浮かんでいた様で。
「────────雷竜、か・・・?」
ヴィクターさんの懐疑的で、それでいて驚きを隠せない小さな声が、その場の全員の鼓膜を静かに揺らした。
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