No.82 ワガママな雷
No.82 ワガママな雷
「申し訳ありません、ヴィクター殿・・・メグミさんが魔力が無い、とはどう言う事でしょうか?」
コールソンさんが、困惑気味に質問する。それもそうだ、この世界は全ての存在が魔力を持っている事が当たり前で、私の様に魔力ゼロ体質はまずあり得ない。そんな異例中の異例を急に上げられて、驚くのは当然の反応なのだから。
「時間が無いから細かい所は省くが、全く魔力を持っていない上に属性適性も無い。ギルド登録の際に確認済みだ」
「魔力が無い、なんて事があり得るんですね・・・その様な方にお会いするのは初めてです。───では、それを前提として考えるならば・・・魔力を持っている我々が、この防護壁に干渉しようとしたから、拒まれた。と考えるのが自然でしょうね。反対に魔力の無いメグミさんは、受け入れられている」
「なるほど・・・え?それでどうなるのでしょう??」
「コールソン。このままだと彼女は、防護壁の内側に取り込まれてしまわないか?」
コールソンさんの考察を元に、原因は何となく分かったが、一刻も早く脱出したい私としては結構焦っている。その雰囲気を察して、アルシュさんが助け舟を出してくれた。
「・・・もしかしてだが、そのまま中に入り込み、中心の物体を壊したりは出来ないだろうか?」
「───確かに、この防護壁を張っているモノが中に居るならば、それを壊せばこの壁ごと消滅する可能性が!」
「よし、それで行こう。メグミやってみろ」
現状、これ以上の打開策を思い付くのは難しい。一抹の可能性に賭け、リミリアさんの提案に全員がコクコクと頷く。
「それは、非常に・・・勇気と言いますか覚悟が要りますね・・・いや!やりますよ、やりますが・・・入ってどうにも出来ず、一生その中で暮らすなんて無いですよね・・・」
「飢えが先に来るだろうから、一生は過ごせない。その場合は、手加減無しで内側から全力で破壊を試みてくれ。外側は堅牢だが、内からならあるいは───・・・」
「ははっ、ヴィクターさん真面目に答え過ぎですよ・・・・・・最悪、最後の悪足掻きに内側で暴れてみますね・・・・・・じゃぁ、行きます・・・!」
意味があるか分からないが、水に潜るときの様に肺一杯息を吸う。中に酸素があるかも分からないので、一応だ。
息を止め目を瞑って、ひと思いに中へと飛び込む。
「────────!!」
結果として防護壁に飲まれたのか、私が入り込んだのか。
壁の内側は、外側の禍々しさが嘘の様に静かで、まるで洞窟の中に居るみたいだ。
薄暗い空間はドーム状になっており、15メートル程先の中央部分に"何か"があるのが見える。
息を止めたまま、警戒しながら一歩一歩近寄って行く。
スキルでその中心の物体を視てみるが、何かは分からない。だが、こちらに攻撃をして来る素振りは無い。
あっと言う間に、其所へと辿り着いてしまった。
「《何だろう・・・これ・・・。丸い球体・・・いや楕円・・・?》」
目指した先に有ったのは、30センチ程の丸みを帯びた黒色の置物。台座の類いは無く、地面に横たわっている。
この小さな置物があの落雷を起こし、エルドールの森を焼き、未だ力を放ち続けていると言うのか。
起きた事実は十分に理解している、だがどうしてだろう・・・目の前に対峙しても不思議と恐ろしさは感じない。本当に静かで穏やかで、時間の流れすら曖昧になりそうだ。
だが、のんびりとはしていられない。肺一杯に吸い込んだ空気だが、いつ迄持つのか分からない。
「《申し訳ないけど、破壊させて貰うね》」
壊す前に置物に触れ、ひと撫で。言葉を発せられない替わりの、お別れのつもりだった。
バチリッ!!!!
触れた瞬間、置物から身体に静電気・・・いや、私のこの身体がそう感じると言う事は、もっと高圧の雷が駆け巡る。手を離そうとしたが、置物に指先が吸い付き離れない。
どうにか外そうと色々な角度で力を込めていたのだが、その最中、防護壁を形成していた周囲の雷が徐々に狭まっている事に気付いた。まるで、この置物に力が戻って行くかの様に。
それと同時に、置き物に触れている指を伝い、雷が私へと流れ込んでいる気がしてならない。それも止めどなくだ。
痛みは変わらず静電気程度だが、感覚で分かる。この雷は私の身体の中に溜まり続けている。
例えばそう、空のペットボトルに水が注がれて行くかの様に。
魔力が空っぽで丁度良いのだろうか?このまま為す術無く、雷を受け入れ続けても良いのだろうか?
何をすれば正解なのか混乱している私を余所に、どんどん防護壁は小さく縮まり、気付けば防護壁の中にいた身体が完全に外に出てしまっている。
「ぷはっ・・・!!!」
顔が外に出た瞬間、肺に残り僅かだった空気を全力で補充する。危なかった、かなりギリギリだった。とは言え、25メートルプールを息継ぎ無しで泳ぎ切れなかった前世の事を思えば、この長い時間を耐えた肺は、驚く程にバージョンアップしている。
いや、そもそもヴィクターさんと長時間の訓練をしても、なかなか息切れを起こさない強靱な肺だった訳で、息を留める事もさ程難しくは無かったのかも知れない。
・・・中にいる時間が長かった為、ギリギリではあったが。
「メグミ!大事ないか!!」
「は、はいっ!問題ありませんが、ちょっと困った事態になってます!」
指先は相変わらず置物にくっ付いたままで、呼びかけにその体制のまま応じると、防護壁が完全に無くなった事を確認したヴィクターさんが、私の側に駆け寄る。
「何があった?」
「えっと、この置物・・・なんですが、防護壁の真ん中にはこれがありまして、破壊しようと試みたのですが、触れた途端指が離れなくなってしまいまして・・・」
「それは、何だ?」
「丸い置物、ですかね?恐らくこの置物が、雷・・・防護壁を産み出していたのだと思います」
「────つまり、ソレが森を一晩で焼き払った光の正体だと言う事ですか?」
ヴィクターさんに続いて、足早に到着したリミリアさんが置物を忌々しそうに睨む。
「そう、なると思います・・・」
「外から見ていたが、防護壁は消滅では無く、徐々に小さくなって行った。何か触れた事で解除されたのか?」
「解除の様な・・・説明が難しいのですが、防護壁が小さくなると同時に、この置物に一旦力が集まって来て、表面上は無くなったと思うのですが、えっと・・・今現在その力は丸々、私の身体に滞留しています」
「は?」
感覚的な話をするとだが、本当に誇張表現無しで文字通り"私の身体の中をグルグルと蠢き回っている"のだ。
「例えるなら、そうですね・・・暑い時に汗をかけず、熱が身体に留まり続けている。感じでしょうか・・・溜め続けられる限界値が分かりませんが」
「───それは、あの膨大な力を身体に押さえ込んでいるものの、暴発寸前と言う事でしょうか?」
コールソンさんの発言で、皆の緊張が一気に高まる。今度は私を起点に光が発動する可能性を警戒しての事だろう。
「暴発寸前と言う感じでは無いですが・・・・・・・・・あ、いや待って下さい、何か変な感覚がっ・・・!離れて下さい!」
グルグルと身体を巡っていたモノが、急に外に出ようとしている。そんな気がした。
静電気程度だった雷は、全身の筋肉が大きく跳ねる程に強くなって行く。
このままだと、皆を巻き添えに暴発してしまう。
出るな出るな出るな出るな!!!!
全身に力を込め押さえ込もうと試みる。
「───勝手に入って来て、今度は好き勝手出て行くとか・・・!!このワガママ雷がっ!!!大人しくっ・・・しっ・・・ろ・・・!!!」
パリッ・・・!!!!バチンッツ!!!!!!!!
全身全霊で力を込めた刹那、全身・・・いや、皮膚全ての表面から何かが弾け散る衝撃。
暴発した気配は無い。衝撃も私の身体を迸っただけで、周囲に影響を及ぼした様子も無い。
それは反射的に背後の皆を護るため、防御魔法を展開したヴィクターさんとコールソンさんの反応を見れば確実だった。
想定された衝撃が起こら無かったにが故に、全員が無傷で無事なのだから。
「今、何っ・・・が・・・?」
身体の中にあった筈のワガママ雷の気配は、完全に消え去り、代わりに周囲にパチパチと静電気が走る音が聞こえたが、それもやがて小さくなり消えて行った。
「あれ?手が離れてる・・・」
手元を見ると、どれだけ頑張っても外れなかった置物と私の指が、完全に離れていたのだ。
もしかしたら、あれだろうか・・・高圧の線に触れたら手が離れなくなる、あの現象に似た状態だったのかもしれない。
雷の原因が無くなった事で、離れたと考えるのが順当だ。
「無事か!?」
「メグミ、怪我は!?」
ヴィクターさんとアルシュさんからの本日二度目の安否確認に、離れたばかりの掌を翳して無事を伝えなる。
同時に、ふと、国の要人を伴った任務にも関わらず、致命的な事態になってはいないが、結構危ない綱渡りをしているのでは無いだろうか・・・と頭の片隅で思った。
紙一重の運に助けられている。その危うさを自覚しながら地面に転がる置物に目線を送る。
「───信じられません・・・・・・、今メグミさんの身体から弾け出た光・・・未知の魔力です」
「え?」
「先程までの禍々しい力は、魔力と呼ぶには到底難しい強大な力でした。世界に流れを感じる魔力や、我々が持ち得る魔力と全く性質が違いましたので・・・それが何故か、我々の扱う魔力に非常に近しい・・・柔らかい物になっていました。一瞬の事で、今はもう消えてしまった為、感じる事は出来ませんが、確かに世界に流れる魔力に近い物でした・・・」
魔力を感じられない私には、コールソンさんの言っている意味が半分も理解出来ていない。
だが、ひとまずの脅威的な力は弾けて消えたと捉えて良いのだろう。現に、私の身体に雷の気配は無く、目の前の置物が再び防護壁を張る気配も無い。
「何だが良く分かりませんが、取り敢えず爆発が起きなくて良かったです」
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