No.80 不気味
No.80 不気味
翌朝、リミリアさん含むエルドールの護衛数名と私達は、クラントスの大樹の更に奥へと出発した。
「ヴィクターさん?何かありましたか?」
応接室で朝食を摂る間、ずっと浮かない顔をしているヴィクターさんが気になったのだ。
普段より気持ち覇気が無い様な、ぼんやりとした表情。昨日の外出の際に何かあったのだろうか?
出発してからもずっと、気がかりで思わず聞いてみたのだが「いや、何でも無い」と言う返答。
余り多くを語らずのタイプではあるが、聞けば割と答えをくれていた。それが、何でも無いと言う返事。となれば、本当に触れて欲しくない時だ。
何かあったとしても、これ以上は話すつもりが無い。そう言われてしまえば、一緒に暮らす師従の間柄で、友人でも家族でも無い私に、これ以上の追求をする権利は無い。
先を行くヴィクターさんの背中を見つめながら、些細な変化に気が付いただけで、仮に内容を聞けた所で解決出来るかも分からないのに、何を自惚れた事を・・・と頭を振る。
切り替えよう、今は雷の件が最優先だ。
1度は森が更に深まり、草木もより濃く茂って殆ど人が立ち入っていない様な景色が続く。
それが進むにつれて徐々に草木は枯れ、雄大な緑は見る影も無くなって行った。
「この有様、例の光が原因・・・か」
案内人の後ろを歩くシュトルムさんが、森の状況に物悲しそうな声で呟くと、その声をリミリアさんが拾う。
「はい。一晩・・・いえ、あの一瞬でこの状態。初めて目の当たりにした時は、私達も言葉を失った物で。何度か足を運ぶ内に見慣れてしまいましたが」
慣れとは恐ろしい物です、とリミリアさんは苦笑する。
しかし、ここはまだ序の口で、肝心の場所は最古の木を中心に500メートルは、黒く焦げた木々が辛うじて残っている程度。
言われていた通り、雷が発生した場所には何も残っておらず、ただ、地面ごと爆発したかの様なクレーターと、不気味に存在感を放つ"何か"だけがそこには在った。
「あれが・・・」
「はい。あれが以前はここに存在せず、あの晩を境に発生した力」
「これは、また凄まじい力を放っていますね・・・」
クレーターを中心に半球体状の膜が張られ、それを護るかの様に黄とも青白くとも取れる色の光が、バチバチと音を立て辺りに飛散する。雷と言うより、漏電した電気にも見えるが、電気という物はここには存在しないので、やはり雷で間違い無いだろう。
「辺りに漂う光に触れると、激痛が全身に走る。運が悪ければそのまま失神するから気を付けて」
「その口ぶり、既に被害者が出ているのか?」
「えぇ、それなりに。ちなみに光の威力が異常で、魔法攻撃はことごとく弾かれました」
「左様ですか、となると私の魔法もどれだけ通用するか・・・出来るだけはやってみましょう」
未知の物にコールソンさんが、数歩前に出て対峙する。その手には、いつの間にか身の丈程ある長い杖が握られていた。
そう言えば、宮廷魔術師と言う役職はどの様な物なのだろうか。魔術師と言う職業は当然前世には無かったので、非常に興味がある。
「シュトルム殿ジルニード殿、殿下を宜しくお願い致します」
「お任せを」
「あぁ、任せろ。逆風籠・強き盾」
コールソンさんに短く返事をすると、流れるように後方の私達にヴィクターさんの魔法が掛けられる。以前のワームの時に見た魔法に加え、初めて見る魔法が更に前方に展開された。
「では、まずこの力が魔法と仮定して、解除をやってみましょうか。魔法解除」
そう唱えると、クレーターの回りに円を中心とした幾何学的な模様が、複数浮き上がる。
それはさながら、冬場に街を彩るイルミネーションを思わせた。
「凄い・・・」
「魔方陣を見るのは初めて?いや、それもそうか・・・日常における通常魔法を使用したくらいでは、まず見れる事は無からね。より高度で複雑に練られた魔力で発動する時に、ああ言った陣として視認出来る様になるんだ」
ヴィクターさん以外の大がかりな魔法を初めて見た事で、前のめりの私にアルシュさんが教えてくれる。
「今コールソンが使っている魔法は、全部の属性を解析して種類に対応した魔法を解除出来る物だ。あれが何か分かれば、僕たちも対処しやすくなるが───」
その説明の最中、バチンッ!!と言う弾ける様な音と共に、周囲に光と衝撃が迸る。
「これは・・・成る程・・・。一先ず、どの属性にも当てはまらない事は分かったのですが、肝心の解析が弾かれました。ですが恐らく周囲に影響を与えているこれは、攻撃態勢では無く身を守る防御壁の役割を果たしているのかと」
「防御?」
「はい。表面をなぞり、属性を確認している時は無反応でしたが、解析の為に深層へと魔力を送ろうとした瞬間に弾かれましたので、おそらく防衛の為の物・・・」
顎に手を当て、コールソンさんは状況を整理しつつ、私達に説明してくれる。
「成る程、身を守る手段を取っていると言う事は、アレに何かしらの意識が在ると言う事だな?」
「断言は出来ませんが、無作為に攻撃をしている訳で無い事は確かです」
「解析から解除が駄目となると・・・多少、手荒い手段にはなって来るが・・・」
アルシュさんが、コールソンさんに目配せする。すると、少し驚いた様に一瞬躊躇う表情を見せるが「やむを得ませんね」と、何か覚悟を決めた顔。
「あの防護壁、解除は無理そうですので殿下許可の元、破壊します。皆様その場所から出られないよう」
杖を握り直し体制を整えると、今度はコールソンさんの足下に魔方陣が広がる。
先程とは色も形も大きさも違う。
「ヴィクター殿、すみませんが力をお借りします。私が放てる1番威力の高い魔法をぶつけて見ます。ただ、もしそれでも駄目でしたら、魔法での破壊は難しいと判断し、貴方の剣技を試して貰いたい」
「成る程、瞬間的な高威力の魔法で、破壊出来るかも試すべきだな。了解した」
「宜しくお願いします」
会話を終えると、コールソンさんが再び杖に魔力を込めると、急激にその周りの空気が揺らめく。
その様子に気配察知のスキルを使い、普段見えない景色を視認した事でより状況を理解する。植物や生き物に普段見られる色・・・仮にこれを前世の某芸能人に擬えて"オーラ"としよう。
コールソンさんの周りに多分に集中し、どんどん色味が変化している。本人の発する物も、循環し魔方陣が煌々と輝く。
「行きます。凍てつく氷────光による破壊」
そう唱えた瞬間、キラキラと周囲にダイヤモンドダストが煌めき、クレーターを中心に巨大な氷の柱が弾ける様に出現する。
この前ヴィクターさんが、水魔法の派生で氷魔法が扱えるようになると言われていたが、ましくそれだった。
その美しい氷が見られたのは、僅か3秒。次いで別の魔法が放たれる。
ダイヤモンドダストに替わり、雷とは別の閃光が輝きその氷を砕いた。
「成る程、氷魔法で一瞬魔力の流れを止め、停止後に1番攻撃が早い光魔法で防護壁ごと破壊」
「よくお分かりで、おっしゃる通りです。本来大型の魔物に使う魔法なのですが。どうでしょう・・・防護壁は・・・」
爆発で辺りには水蒸気が上がり、対象は見えない。
いや、気配察知スキルを使用したままの私には、結果が見えている。多分これは────・・・
「結果良好とは言えないな・・・」
視界確保の為に、ヴィクターさんが周囲を風で凪いだのだが・・・
防護壁を携えたソレは、不気味な迄に変わらずその場で、周囲に雷を放ち続けていた。
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