No.79 訳されると上手く伝わらない事って、ありますよね
No.79 訳されると上手く伝わらない事って、ありますよね
全員が席について10分くらいだろうか。体力的にも特に問題の無い私は、後ろの大きな窓から湖を見下ろそうと腰を浮かせたのだが、それと同時に部屋にノックが響く。
「お待たせしてしまい、申し訳ございません。お連れ致しました」
扉が開かれ、ヨルノさんに続き長身のエルフが私達の前に現れた。
金に揺れる長い髪を高い位置で纏め、美しい顔立ちが目を惹き付ける。その出で立ちに、派手な装飾は無い。だが、その歩を進める動きが、オーラが、存在そのものが"一国の王"であると脳が理解する。
「お待たせしました。ようこそ我がエルフの国、エルドールへ。この国を治めているリミリア・ルークと申します」
鼓膜を震わす、憂いを帯びた静かで落ち着いた声。
そこで初めて、王が女性だと認識する。
「初めまして、レオニア王国第三王子、アルシュレイン・ルス・レオニアだ。この度はお招き頂き感謝する。ここ迄の道程で見させて頂いたが、大地との共存共栄に重きを置かれた国作りに尊敬の意を表する。素晴らしい国だ」
「そう言って頂けると、エルフの代表として誇らしく思います。もし差し支え無ければ、ご同行者をご紹介頂けると嬉しいのですが」
「これは失礼した。皆、自己紹介を」
アルシュさんに促され、ローグさんを筆頭に名前と立場を、各々エルドール国王に挨拶を交えながら伝える。
とは言え最後に挨拶をした私は、こう言った場面での固い言い回しや、気の利いた褒め言葉等思い浮かぶ筈も無く・・・「初めまして、冒険者のメグミです!護衛補佐・・・になります!宜しくお願いします!」と言う元気任せの物で何とか凌いだ。
「それではリミリア・ルークス王」
「リミリアとお呼び下さい」
「では、こちらもアルシュと。書簡に書かれていた内容をより詳しく、お聞かせ願いたい」
「はい、ご説明致します」
自己紹介が終わると、すかさずアルシュさんが本題に入る。
「あの日、轟音と共に空に閃光が走った事はご存じかと。その際エルドールは大いに揺れ、大変な衝撃を感じると共に森の更に奥に、今まで感じた事の無い"何か"の気配がしたのです。見張りの者の話では、その閃光はまさにその気配がする辺りから、空に伸びていたと言う事でした」
「────ん?待って欲しい。まるで閃光が"エルドールの地から空に伸びていた"と言ってる様に聞こえるが」
「おっしゃる通りです。あの閃光の発生源は、ここクラントスの大樹より更に奥。"始まりの樹"と我々が呼んでいる場所で間違い無いかと」
確かに言われてみれば、私は轟音と光で雷が落ちたのだと思った。だが、その落ちた瞬間を見てはいない。
雷は空から地上へと降り注ぎ、地上と繋がるが、まさか発生源が地上からだとは思わなかった。
「その知らせを受け、その場所に先遣隊と共に私自らも赴いたのです。発生源の周囲は森一面が焼け、その閃光がいかに凄まじい現象であったかを物語る様でした。1番被害が大きかったのは、やはり樹自身で・・・この国最古の大木でしたが、根ごと消滅していた」
「あぁ・・・なんと・・・エルドール最古の木、是非一目見てみたかった・・・」
歴史的な大木を失った事実に、ニコラスさんが酷く悲しそうに項垂れる。あれ程熱心にエルドールを見ていた彼には、ショックが大きかったのだろう。
「その最古の木が消失後、何かが現れたと言う事だったが・・・それが何かは分かったのか?」
「いえ、あれから何度か現地に向かい、確認をしておりますが現状変わらず。その場に在り続けている上、非常に強力な力を帯び、近付く事が出来ない」
「強力な力とは?」
「物理攻撃は当然、魔法でさえその力に弾かれ、一種の防壁の様な・・・触れようとする物全てを拒絶する強い力です」
「────成る程・・・つまりそれを、我が国の宮廷魔導士クラスのコールソンに分析と解除をして欲しいと言う事か・・・」
ヴィクターさんとリミリアさんの会話を聞き、合点が行ったとアルシュさんが膝を叩く。
エルフの魔法では対処しきれず、国外の優秀な魔導師ならばあるいは・・・と言った所らしい。
「今の所、発現した際の被害以外に直接的な問題はありません。しかし、あれ程の力です。放置したままで、この先また何か起きると国としても非常に困ります」
「事情はお察ししますが、見た事の無い力がどれ程の物か・・・宮廷魔導士である私でも対処出来ない可能性は十分にございます。お力になれば良いのですが・・・」
「いえ、是非お力をお貸し願いたく・・・」
・・・何だろう、書簡と随分印象が違う。もっと、こう上から目線の内容だったと言う話だった。だが実際は腰の低い対応。
余り良い印象を持っていなかったであろうローグさんも、呆気に取られた表情のままだったが、意を決したように口火を切る。
「リミリア王、恐れながら申し上げます。何故、謁見の間・・・王座の間をご用意して頂けなかったのでしょうか?本来国と国の国交の場であれば、然るべき間にアルシュ殿下をお迎えすべきではありませんか?!」
「ローグ、別に僕は構わないよ」
「いえ、これはレオニア王国の沽券の問題です。殿下の代わりに真意を問わせて頂きたい。帰国後に陛下にお伝えする命を仰せつかっておりますので、ご容赦を。───お伺いしたい事はまだございます。今の話を聞く限りでは、大変お困りの様子。ですが書簡の内容が余りに高圧的で些か、品位に掛ける物でありましたが、どう言う意図であの様な物を?」
文官としての責を果たすローグさんの質問に、リミリアさんは一瞬キョトンとした表情を見せ、それからチラリと後ろに控えるヨルノさんに目配せをする。
リミリアさんに近寄ると耳元で何かを伝え、次第に何とも言えない表情に変わった。
「非礼をお詫びします。こちらの落ち度です」
「と言いますと?」
「まず、何故王座の間にて謁見をしないのか、ですが・・・実はエルドールはもう1000年以上国交を正式に行っておりません。それに伴い、王の間は廃止されている為、この応接室以外は外部の方をお招きするに適しておらず・・・」
「王の間を廃止・・・そのような事があって宜しいのですか?」
「前王が必要性を感じないと・・・光を良く取り込むその部屋は、今や植物の研究をする部屋に変わっています」
私達が全員「え?」と言う反応を示す。
「それから、書簡の件ですが・・・恐らく、私の発言をそちらの国の文字に置き換える際、言い回しや言葉選びを失敗していたのかと・・・この国で唯一、エルフの言語以外を読み書き出来る者に任せたのですが、どうやら失礼な内容になっていた様で・・・本当に申し訳ありません」
成る程、エルフの言葉と人間の言葉を文字訳する際に、変換ミスが多分にあったと言う事。
唯一翻訳出来る人が居たとして、その書き起こした文が合っているのか、間違っているのかをダブルチェック出来る人は存在しない。
確認も出来ないまま、こちらに届いたと言う訳だ。
「そう言う事情があったのだな・・・こちらもすまなかった。その辺り国王によく伝えておくよ。そう言う事で、良いねローグ」
「はい、出過ぎた行為を謝罪致します。申し訳ございませんでした」
「事情を汲んで頂けて感謝します」
互いの誤解と蟠りが解消された所で、今後の事について話合う。
「かの場所へは、明日の朝より向かおうと考えています。と言いますのも、ここから更に奥地になる為、日が落ちると何かと不便をお掛けするかと・・・客室は用意が出来ていますので、ご利用下さい」
「そうか、今日の事にはならないか・・・いや、部屋の手配感謝する。明日は、書記官のローグはここに残して置きたい。彼は有事の際の戦闘面には全く向か無いのでね。その他は全員向かうつもりだ」
「構いません。ただ・・・お気付きかも知れませんが、この国の魔法の特性上、外部の方は道程の往復が出来ません。つまり、アルシュ殿一行が問題解決を完了された際、ここに戻ってローグ殿と合流が不可能となります。その場合、帰路に着かれた頃合いを見て案内を付け、森の入り口付近までお送りする事になりますが、宜しいでしょうか?」
「ああ、宜しく頼む」
体力面や戦闘面で言うと、ニコラスさんもここに残る方が無難ではあるが、考古学者の血が騒ぐのだろう、どうあっても最古の木の場所まで行くと決めている様子。
それを理解しているアルシュさんは、頭数にニコラスさんも入れている。
「では、皆様本日は明日に備え、ゆっくりとご滞在下さい」
その晩、エルフの国の食事が並べられ、この部屋で晩餐を皆で堪能した。
・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・ー・ー・
「ん?あれ、ヴィクターさん外出ですか?」
夕食後、案内されたお風呂は温泉の大浴場並に広く、急に宿場に来たような気分になった。
女性は私一人で貸し切り状態。
おかげでゆっくりお湯に浸かり、疲れを十分に癒やして部屋に帰ったのだが、隣のヴィクターさんが丁度部屋から出て来るタイミングと重なる。
始めはお風呂かな?と思ったが、腰に剣を下げたままで。お風呂と言う雰囲気では無い。
「あぁ、少し出て来る。・・・何、少し周辺を見て回るだけだ。メグミは気にせず休むと良い」
「散策ですか!折角の貴重な機会ですもんね、お気を付けて」
普段から、こうしてフラリと1人で外出する事があるヴィクターさん。1人の時間を有意義に過ごして欲しくて、任務が絡まない外出はそのまま見送っている。
私もいい大人なので、置いて行かれるなんて感覚も無い。その時間は私も好きな事が出来るから、各々のプライベートに首を突っ込まないスタンスで来ている。
私も読みかけの本があるので、就寝時間迄のんびりと過ごしてから眠りについた。
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本日、20P目のキャラクター紹介の所の最後に、筆者の考えるキャラクターイメージイラストを掲載してみました。
ご興味のある方はどうぞ(*´◒`*)!
※既にキャラクターイメージが脳内にある方や、活字に置いてキャラクターのイメージが無い方が、読みやすい方は、閲覧非推奨になります・・・!




