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No.78 クラントスの大樹

 

 No.78 クラントスの大樹






 エルドールの森は、住みやすいように開墾(かいこん)や圃場(ほじょう)と言った、人工的に手を加えた形跡は殆ど無く、自然のあるがままに共存していると言った国柄だった。

 その為、地形のアップダウンも激しく、川や崖、滝もそのままの姿で存在していた。


 昇降に使う用の梯子や、川を渡る吊り橋と言った最低限の移動手段は各地にはあるものの、整えられた道や外灯は無い。


 途中に見かけた小さな村も、大きな樹に沿う様に家が建てられ、必要以上に開拓された雰囲気も無かった。



「もう直ぐ到着致します」



 この森に入ってから時間感覚が定かでは無いが、かなりの時間を歩いている。


 休憩らしい休憩も無く、ほぼ歩き続き。


 アルシュさんと非戦闘員の2人に流石にこの道程は体力的に大変な物で、コールソンさんに定期的に回復魔法を掛けて貰い凌いでいた。


 王子様に無理をさせても良いのだろうかと思うが、当の本人が足取りを止めない為に進んで回復魔法を希望している所を見るに、アルシュさん的には「足手まといになる訳にいかない」と言う意地もあるのかもしれない。



「殿下、もう直ぐですのでご辛抱を」


「シュトルム心配し過ぎだ、大丈夫だよ」



 アルシュさんの前を歩き、出来るだけ足場の安定した所を歩ける様にと、配慮しているシュトルムさんも、さすがにこの距離を歩く事は想定していなかっただろう。


 だが何にせよ、もう直ぐ到着するのであれば一安心だ。




「皆様方、お疲れ様でございました。あちらに見えますのが我がエルドールの中心、大樹クラントスに構える王城になります」


「あれが、王城・・・」



 森の木々が大きな湖を中心として拓け、その湖の向こうに大きな城が見える。

 ただの城では無い。今までに無い程の巨大な大樹に、建物が包まれているのだ。


 うねり曲がり、様々な方向へと伸びる枝々、それを支える太い幹はどれ程の刻をそこで過ごしているのだろうか。



「美しいな・・・まるで樹そのものが城を産み出したかの様だ・・・」


「えぇ、我々エルフは悠久の刻を森や木々と共に生きます。樹は建物を拒む事はありません。ゆっくりとその偉大な枝(うで)に抱かれ、永い刻を経て今の城が在ります」


「凄い、おとぎ話に出て来るお城みたい・・・」



 この世界自体が、おとぎ話みたいな物ではあるが、この自然に囲まれた景色は特にそう感じる。



 お城を見下ろした場所から下まで降りると、俯瞰で見ていた木々がより高く大きく、私達の前にそびえ立ち、圧倒される。



「湖の周りを回り込んでも良いのですが、皆様お疲れでしょうから小舟を使い、クラントスの真下まで参りましょう」



 王城の対岸に設けられた船着き場で、2組に分かれて乗船した。透明度の高い湖を緩やかに小舟は進み始め、ゆったりと景色を眺める。


 王城のある大樹はこの場で1番大きいが、周囲の木々も十分な出で立ちで、枝や幹には住民の暮らす家や階段が設けられていた。

 前世で言う、ツリーハウスの規模を大きくしたイメージに近いかもしれない。


 遠目に人々が行き交う様子も見られ、その全てがヨルノさんと同じ外見の特徴を持ち合わせている。ここは本当に、エルフだけが住まう土地なのだ。



 隣の舟を見ると、ニコラスさんが分厚い手帳に何かを一心不乱に書き込んでいる。

 一生掛かっても見る事の出来ないエルフの森は、考古学者にとって情報の宝庫。


 その姿から、またと無い機会を無駄にはしないと言う気迫を感じた。




「ヴィクターさん、エルフの方々は、国から出る事はあるのでしょうか・・・?」


「エルドールの外で見かけた事はある。ドワーフ同様に他国に興味を持ち、旅立つエルフもいるんだろうな」



「我々は、外からの来訪は基本的に遮断しておりますが、国民が国から出て行く事については制限しておりません。なにせ寿命が1000年以上ありますからね、どう暮らしどう生きるかは各々の選択としています。最も、一生をエルドールで過ごす者が大半ですが」



 鎖国的ではあるが、国民に対しての罰則は無い。いつでも出て行ける状態で、どうするかを個人の判断に委ねている。つまり、エルドール国民からしたらそこまで閉鎖的では無いと言う事。



「さ、到着しましたよ。足元を注意されて下船をお願いします」



 桟橋に降り立ち、クラントスと呼ばれた大樹を登る。階段は樹の外側と、大きく開いた洞の中を変則的に設けられ、その階段をグルグルと回り、お城に辿り着く造りになっていた。


 途中、城の警備兵と思われる何人かのエルフとすれ違ったが、目立った武装の様子は無く、軽装に背に弓矢を携えている程度。

 国自体が外部と遮断されている為、城の警備面は余り重要視されていないのだろうか。



「王城ってもっと警備が、ガチガチに固められている物だと思っていました」


「そうだな。レオニア王城に比べ、かなり手薄だ。だが、エルフは弓の名手と呼ばれ、矢は迷い無く敵を射貫く。下手な行動を取れば、無数の矢を浴びる事になる」


「だ・・・大丈夫です、今日の私は護衛担当。前に出て何かをする事も無いですし、静かに見守ります!」



 今回のメインはアルシュさん一行。私のちょっとした誤行動が、顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまわない様、ヴィクターさんの後を大人しく付いて行くだけである。




「王は、本日執務室にて公務をされています。申し訳ございませんが、呼んで参りますのでこちらのお部屋でお待ち頂けますでしょうか」



 そう案内されたのは、大きく豪華な長いテーブルと椅子が備え付けられた部屋。

 応接室だろうか、外の湖が一望できる窓も大変魅力的だ。



「・・・お目通りは玉座の間では無いのでしょうか?」


「えぇ、形式的にはそうですが、今回は諸事情により・・・・・・どうぞ、お掛けになって少々お待ちを」



 不服そうに意を唱えるローグさんに、一礼するとヨルノさんは静かに退室する。



「無礼では無いか!レオニア王国第三王子に対して、玉座では無く応接室でお目通りとは!」


「まぁまぁ、今回は、あくまで例の光の件で来ていて、国家間の重要な局面では無いからね。僕としては、こちらの部屋の方が有り難いよ。一先ず座ろうか、ローグもニコラスも疲れているだろう」


「ですが・・・」


「ローグ書記官、殿下の仰る様に座って休みましょう。かなりの回数、魔法を施しましたからね・・・無理は禁物です。休める時に休みましょう」



 コールソンさんに促されローグさんが腰を下ろし、続いて全員が椅子に座り、束の間の休息を取る。



 私はヴィクターさんの隣に座り、小声で質問をした。


「あの、さっきローグさんが言われていた事って、何が問題なのでしょう・・・」


「ん?あぁ・・・一応アルは王子と言う身分だからな、書簡を交わしているからには、レオニア王国代表と言う位置付けだ。初めてと言って良い国同士の外交で、レオニア王国としては正式な挨拶を型張ったやり方でして置きたかったが、エルドール的には違った・・・そんな所だ」


「この後喧嘩になったりしませんか・・・?」


「その心配は無いだろう。種族も違えば、文化も違う。公での常識や振る舞いも当然別物だ。殆ど交流の無かったエルドールとレオニアで、こうした場が設けられた事自体が幸運。アルもその辺りを重要視している筈だ」




 何の心配も無い、そう言うヴィクターさんの言葉通り、エルドール王との謁見は恙(つつが)無く取り行われる事となる。






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