No.76 ワイバーンの背に乗って
No.76 ワイバーンの背に乗って
翌日に設けられた準備日を問題なく終え、迎えた朝。私達はエルドールへと出発すべく、シルビア西側の正門の外へと集まっていた。
「改めて見ると、迫力がありますね・・・」
「そうだな、ロック鳥よりもふた回り大きい」
門外には、一昨日シルビアの広場に居たワイバーンが4体、騎士団隊員と待機していた。この4体で無主地を越え、森の入り口まで向かうのだろう。
「このワイバーンは何人乗りになるんですか?」
思わず、車の定員人数の感覚で聞いてしまったが、合っていただろうか。
「騎士団では機動性を高める為に騎乗は原則1人だが、ただ乗せて移動を目的とした場合は2人になるな」
「成る程!丁度2人ずつで乗ると言う訳ですね」
「───いや、コールソン魔導師とニコラス殿ローグ殿は、騎士団がそれぞれ付く筈だ。殿下にはシュトルムが・・・」
ワイバーンは4体、我々は7人と騎士3人。人間の数に対してワイバーンの数が合わない。
「となると、我々は自前の足で・・・」
上空を飛ぶワイバーンを、追いかけながら黙々と走る展開を想像し、ゴクリと生唾を飲み込む。
「いやいや、まさか。ほら、ジル呼んであげなよ?君の相棒をさ」
「ヴィクターさんの相棒?」
アルシュさんに何かを促れ、ヴィクターさんは一瞬驚いた様に目を見開く。だが直ぐに、折り曲げた左人差し指を唇に咥え込み、ピュィっと鳴らした。
夜明けの空に音が響き渡り、直ぐに真上から此方に、何かが高速で接近してくる気配がする。反射的に見上げると、空に浮かぶ黒い点がどんどん大きくなり、その存在が風を巻き上げ地に降り立つ。
「黒い、ワイバーン・・・!」
「ルベル、久しぶりだな」
ルベルと呼ばれたワイバーンは、ヴィクターさんに頭を下げすり寄る。撫でられるとグルグルと鳴き声を放ち、大変嬉しそうだ。
「彼は賢いね。騎士団の厩舎で、どのワイバーンで向かうか話していた我々の会話から、ジルの名前を聴き取って、連れて行くように鳴いて訴えて来た。ここまで、僕をとても丁寧に運んでくれたよ」
聞くと、ルベルと呼ばれたワイバーンは王子一行とこの街に来た日、私達と入れ違いで退席した、シルビィ辺境伯を屋敷へ乗せて送った後、辺境伯邸の厩舎兼裏庭にそのまま待機していたそうだ。
シルビアの広場にいた他のワイバーンも同様に、シルビィ辺境伯邸にて羽を休め、今日に備えていたらしい。
「そうか、会いに来てくれたんだな。ありがとうルベル、俺も会えて嬉しいよ」
そうワイバーンにお礼を伝えるヴィクターさんは、見た事の無いとびきり優しい表情だった。
・・・成る程、女性がこの顔を万が一浴びたり偶然見てしまった日には、一目惚れは言わずもがな。貴族のご令嬢からの縁談の申し入れが度々あると言うのも納得だ。
以前夕方に見た微笑みとは比べものにならない、それはそれは破壊力のある物だった。
「5年振りの相棒との再会も出来た所で、出発しようか。ジルはメグミとそのワイバーンに乗るだろう?」
「あぁ、そうしよう」
ヴィクターさんに確認を取ると、アルシュさんは護衛騎士のシュトルムさんに支えられ、別のワイバーンに騎乗する。続いて他のメンバーも同様に、騎士達と共にワイバーンに乗り始める。
「さて、ルベル。彼女は君達ワイバーンに乗るのは初めてだ。馴れるまで、手加減して飛んでくれると助かる」
「クルルル・・・」
先程同様、柔らかい声色でワイバーンに話しかけると、了解したと言わんばかりに、こちらも柔らかい鳴き声で返事をする。
「先に乗せるぞ。上がったら少し後ろに下がれ」
「え、あ!はい!」
風でふわりと浮かされ、馬よりも高い背に備え付けてある鞍の持ち手を必死に掴む。数段高くなった目線には、ワイバーンの顔が直ぐ側に見える。
「あ、メグミって言います、今日はよろしくお願いします!ルベルさん、とお呼びしても良いですか?」
アルシュさんやヴィクターさんの感じから、人の言葉を理解出来る程の知能を有していると感じたので、人と同じように話しかけてしまった。いや、知能云々では無い。普段から街にいる猫に話しかけているので、その癖のまま話しかけた。
「ギュァ」
「良いそうだ」
「え?言葉が分かるんですか?」
私の前へと騎乗したヴィクターさんに、ルベルさんの返答の真意を問う。
「人間の言葉に聞こえる訳では無い。今までの経験から、肯定の鳴き声だ」
「そうなんですね!良かった」
「仲良くしてやってくれ。さて、全騎準備は整ったな?最前は予定通り俺が飛ぶ」
昨日打ち合わせた通り、隊列の先頭に私達が。続いてアルシュさんとシュトルムさん、ニコラスさんローグさんを挟み、最後尾に魔導師のコールソンさんで、森の入り口まで向かう。
初めはヴィクターさんが後方警戒の為に、最後尾を飛ぼうと進言していたのだが、1番の戦闘経験者で騎士時代に、最前線を切る役職だったヴィクターさんを後方に据えるなど、あり得ない!と、コールソンさんが最後尾を立候補。この配置となった訳だ。
「上昇時、振り落とされないように、しっかりしがみ付いているんだな」
しがみ付く様に言われたが、鞍の後ろ側には、丁度良い持ち手は無い。と、なると・・・
「自動二輪方式、になりますかね・・・?」
「たんでむ?分からないが、さっさと俺の胴体に腕を回して体を固定しろ。上がるぞ」
高校生の淡い青春の1ページとしてよく見られた、二人乗り。
前世の法律においては罰則付きの違反ではあるが、かつて眩しい程に目に映っていたあの光景。
まさか、この歳になって二人乗りの気恥ずかしさを味わう事になろうとは。
ちらりと他のワイバーンを見ると、私と同じ後方同乗の面々は当たり前に腕を回して自身の体を固定済みだ。
勝手な価値観で気恥ずかしくなっているのは、私だけなのである。28歳にもなって何を恥ずかしがる事などあろうか・・・腹を括り、勢いに任せてヴィクターさんの胴体にしがみ付く。
「・・・・・・力加減、頼むぞ・・・」
「はい!すみませんっ」
一瞬ヴィクターさんの体が強張った。しまった、緊張で思ったより力を込めていたようだ。私の力加減のミス1つで、ヴィクターさんの胴体が上下で永遠に別つ可能性が大いにある。気を付けなければ・・・
「ルベル、行くぞ」
ヴィクターさんが手綱を軽く揺らし合図を送ると、ルベルさんは両翼で空気を掻き込むように、はためかせる。
翼に掴まれた空気の反動で、私達ごと大きな体は浮き上がった。
それを2回、3回と何度か繰り返すと、あっと言う間に目線は高層ビルの上層階並になる。
この世界に来てからずっと地上か、高くても教会の塔の上しか経験した事が無かった。
不思議な色をした空が、とても近くに感じて目を見開く。
「わっ・・・凄い、こんなに高く・・・」
「高い所は平気か?」
「はい、観覧車とか大好きなので!・・・あ、えっと高い所から景色を見るのが好きなので、問題ありません!」
「それは良かった。全騎上がり終えたな、出発する。徐々に飛行速度を上げて行く、風当たりや揺れで気分が悪くなったら、早めに言ってくれ」
「分かりました!」
高度が上がった事で地上に比べて風がやや強いが、これから今以上に風や揺れが強くなったら、確かに不調が出てもおかしくない。
酔いやすい方では無いが、体調に気を付けて置こう。
徐々にルベルさんの飛行速度が上がって行く。後ろを振り返ると、出発地点だったシルビアの街があっと言う間に遠ざかるのが見えた。
馬とは比べものにならないスピードに、正直驚きを隠せない。体感として、高速を走る車くらい・・・いや、高さもあるから総じて言えばジェットコースターに近いかも知れない。
「地上で馬に乗る程度までは、風の抵抗を抑える魔法を一応張っているが。無理はしない事だ」
「ありがとうございます」
こうして、私達は西方都市シルビアより更に西、隣国エルドールへと出発したのだった。
.
メグミの言っている、この世界の"不思議な空の色"のイメージに近い写真が偶然撮れたので、Xにて76話更新ポストに載せてみました!
ご興味のある方は見てみて下さい
@akisamenagumo




