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No.73 よく聞くミス

 

 No.73 よく聞くミス








「────では、今日はこれでお開きにしようか。また明日に再度、打ち合わせを行う事としよう」


「そうしましょうか。では我々はここで失礼致します」


 明後日のメンバーが決まった所で、王子様は会議を切り上げる。長旅の疲れもあるだろうから、お宿でゆっくりして欲しい。


「あ、僕はジルの所に泊まるから、君達だけで別邸に行くと良い」


「は?」


「何をおっしゃいます殿下!シルヴィ辺境伯から、別邸を是非にと案内されたではありませんか!」



 ローグさんから聞き慣れない名前。すかさずヴィクターさんに「シルヴィ辺境伯・・・?と言うのは??」と小声で聞く。



「そうか、教えて無かったな。この西方都市周りは、シルビィ辺境伯が治めてる。まぁ、この地域一帯の領主・・・責任者だ」



 領主で責任者・・・成る程、都知事県知事的な偉い人が、国のそれぞれの地域を治めているのか。



「本来、このシルビア内に屋敷を構えているべきなんだが、辺境伯は自由な人で・・・」


「大きな庭付きの屋敷に住みたいからって、シルビアの外に屋敷を構えてんだよ。まぁ、街の中じゃ土地は限られているからな・・・でもそれじゃ示しがつかねぇって事で、一応形だけ辺境伯邸が建ててある。どっちが本邸で別邸なのかって話でな」



「辺境伯家は代々防御系の魔法の腕利きで、国境関係の護りは勿論、このシルビアの北と東の門の特殊な構造も手掛けている。屋敷も壁の外にありながら、鉄壁の護りが施されていて、壁の中と差ほど変わらない・・・と本人は言っていた」



 どうやら領主様は自由人でありつつも、堅実堅牢な人の様だ。



「お前達が来る少しだけ前に、辺境伯が殿下に挨拶に来ていてな。その際に、滞在中は別館を是非にと。それで、一行はそれを快諾して話しは纏まっていたんだが・・・」



「殿下!御勝手はなりませんぞ、我々と別では警護の兼ね合いに支障をきたします」


「大丈夫だって!そっちはシュトルムが、こっちはジルがしてくれるから解決だ」


「ぐうっ・・・で、ですが殿下は失礼ながら大変目立ちます!その御姿で街を歩かれますと、大混乱を招きます!」


「何だ、そんな事か・・・」


 お付きの皆さんが口々に王子様を説得にかかるが、暖簾に腕押しというか・・・こっちもこっちで押されている。


 事の成り行きを眺めていた時だった。王子様が指をパチンっと弾くと、神々しい迄に輝いていた髪はくすんだ緑色に、透き通る様だった瞳は灰色に、みるみる内に変わっていった。



「これで文句無いだろう?どのみちエルドールへの道程は、この容姿で向かう。今から変えておいても問題ないさ。後は、服を取り替えれば完璧だな」


 姿が変わっても、ふふっと笑う様子は気品がだだ漏れで、完璧に変装しきれていない気もした。



「うぐっ・・・・・・・・・はぁ・・・ジルニード殿、殿下をどうかよろしくお願い致します」


「おい、待て。俺の所に来るのは確定事項なのか?」


 確かに、本人が蚊帳の外で話が進んでしまっている。



「心配するなジル、寝具一式マジックバッグに入れてある。君のベッドを占領するなんて事は無い」


「その心配はしていない。はぁ・・・俺宛の手紙の"所用でシルビアに向かうから、数日世話になる"は、コレも含まれていたのか・・・てっきりエルドールの件の事だとばかり・・・」


「と言う訳だ、よろしく頼むよ」






・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・-・ー・





 斯くして、一般人に扮した王子様を伴い、レオノラまで帰って来た私達。



「へぇ、ここがジルの城か」


「おい、その言い方は止めろ。入れてやらんぞ」


「それは困るなぁ」


「ひとまず部屋に行くから、着いて来い」



 建物を見上げながら、仲の良いやり取り。

 何だろう、王子様と騎士と言う間柄だけでは無い気がする。特にヴィクターさんの口調が、今迄で一番砕けた感じがとても新鮮だ。



 開店前のレオノラは静かで、私達の足音だけが居住用の廊下に響く。普段と変わらない光景だが、今日は王子様と言うお客様分の音も混じっていて、不思議な感じだ。


「過ごしやすさは、余り期待するなよ」


「失礼するよ。へー、中はこんな感じになっているんだ、街が見渡せて良いね」


「まぁな。お前の、家(・)程では無いが、気に入ってる」


「ふふっ。さっそくだけど、ベッドどこに置けば良いかな?」


「あぁ、持って来たと言ってたな。寝室はそっちだ」



 来客用にお茶を準備しながら、ヴィクターさんは隣の部屋を指さす。


 ヴィクターさんを手伝いつつ王子様の様子を伺うと、部屋の中を見つめ「うん、十分な広さだな」と頷きマジックバッグに手を掛ける。



「わっ!!!」


 直ぐに驚きの声が上がり、何事かと2人で部屋に立ち入ると、部屋一杯に広がる大きなベッド。

 元から置いてあるヴィクターさんのベッドは、窓際一杯迄押しやられ、ぎゅうぎゅうに壁と押し合いになっている気がする。


「凄い、床が見えない」


「はぁ・・・アル、さすがにお前のベッドは、部屋に対して大き過ぎるだろ」


「え、でも城で一番小さい物を持って来たんだけど・・・」


「それは、城の部屋が大きいから、ベッドが小さく見えたってだけだろう」



 おかしいなぁ・・・と首を傾げる王子様。


 まるで、家電量販店で見たテレビモニターが思ったより小さく見えて、いざ買って部屋に置いたら、想像以上に大きくて困る・・・あの現象だと思った。確かに、縮尺感覚がおかしくなる現象ありますよね・・・と。



「そうだ、ジルのベッドを一時的にマジックバッグに収納して、僕のベッドをジルも使えば良い!これで解決だ!子供の頃、よく一緒に寝てたから問題ないな!」


「は?冗談だろ、大の大人が何が悲しくて、同じベッドで寝るんだ」


「いや、5年振りの再開で積もる話もある。むしろ、そうしよう!」



 そう言って、ヴィクターさんの了承を得る前に、端に追いやられた不憫なベッドは、王子様のマジックバッグへと吸い込まれていった。凄い・・・王子様、遠慮が無い。



「はぁ・・・お前は・・・変わって無くて安心したよ」


「うん、ジルもね」


「取り敢えず、ソファにでも座ってくれ。紅茶を淹れる、メグミも座っていろ」


「ジルの淹れてくれる紅茶も、5年振りだ」



 嬉しそうに、ソファに腰掛ける王子様。


 さすがに、横に腰を下ろすのは違うなと、テーブル用の椅子を選んだのだが、今度は王子様を見下ろす角度になってしまい、選択を見誤ったのではと、内心ドキドキとしていた。



「───ところで、メグミちゃんだっけ?」


「あ、はい!何でしょう」


「ジルの弟子って言ったよね、何で?どう言う経緯で?」


「何で、と言われますと・・・」



 何をどこまで話しても良いのだろう。転生者と言う事は伏せたままで、バフの件も言わない方が良い。

 ギルド的には、情報は本部まで上がっている筈だが、ここで私の事を聞かれると言う事は、王子様の方までは伝わっていないとみる。



 と、なると"出自は不明ですが、今はグランさんとヴィクターさんの保証の元、冒険者やってます"辺りの返答が無難か。



「メグミは転生者で、潜在的能力は俺以上と言って良い。混乱を避ける為に、一先ずシルビア(ここ)で面倒を見ている。俺とギルマスを後見人としている、新人冒険者だ」


「あ、全部言っちゃうんですね」



 紅茶をテーブルに置きつつ、全く隠す気のないヴィクターさんの返答に、思わずツッコミを入れてしまった。



「アルは王族で継承権は第三位。見ての通りの自由さで融通も利く。個人的に事情を話して置いても、まぁ悪い様にはならない」


 信用に足る人物だ。とヴィクターさんに言われてしまえば、私が心配する道理は無い。



「ふーん、ジルよりねぇ・・・信じ難い話だけど、ま、ジルがそう言うならそうなんだろうね。頭に情報としてだけ入れて置くよ」


「ありがとうございます、よろしくお願いします・・・えっと、殿下・・・?」


「別に無理して固く呼ばなくても、気軽にアルシュで良いよ」


 一国の第三王子を、気軽にあだ名で。そんな大変不敬そうな提案に、ヴィクターさんに目線で確認を取るが、"本人がそう言ってるから受け入れろ"と言うニュアンスを込めた、ジェスチャーが帰って来る。



「ア、アルシュさん・・・?」


「うん、僕の方はメグミって呼ぶね。よろしく」


「はい!こちらこそ、宜しくお願いします!」






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