No.72 誰が誰の掌の上?
No.72 誰が誰の掌の上?
「遠慮せずに腰掛けてよ」
そう促され、グランさんの横に座るヴィクターさん。その横の席に座るかどうかを悩む。流れで付いてきてしまったが、この会談に私は必要ないのでは無いだろうか?
明らかに、私だけがこの空間で浮いている。
殿下と呼ばれた人の後ろには、立ったまま待機する壮年の男性も居て、それに倣おうとヴィクターさんの後ろに回った。
一瞬、怪訝そうに見られたが、その行動を咎められる事は無かった。
「いやぁ・・・まさか第三王子、自らお越しになるとは・・・驚きました」
「急に決まってね、昨日連絡が届いて今日到着する事になったのは、謝罪しよう」
「いやいやいや、そんな!いつ何時にお越し頂いても構いませんよ!」
緊張した様子のグランさんに少し驚きながら、第三王子と呼ばれた来訪者に目を向ける。
詳しくは分からないが、王子様が急に来る事は異例の様で、何か差し迫った理由でもあるのだろうか?
「それで、本題ですが。手紙には今回の来訪の詳細は書かれていませんでしたが、一体・・・」
「それについては私から説明させて頂きます。申し遅れました私、宮廷書記官のローグと申します。国王の勅命により殿下にご同行させて頂いております。早速ですが、本題に入らせて頂きます」
「お、おお!構わない。よろしく頼む」
会話の対象が変わり、緊張していたグランさんの口調が少し砕けた。
「少し前に、眩い閃光が国に轟いた件はご存じの事かと思います。我がレオニア王国としましては、あの事象を"古の創竜"が齎す"雷"ではないかと仮説を立て、文官や学者を総出で協議しておりました。しかし、なにぶん情報不足もあり、調査隊を落雷のあった場所に派遣し、より詳しく・・・と言った結論に一旦、達しました次第でして」
・・・あの時見た光はやっぱり、雷だったのか。ヴィクターさんもその可能性を示唆していた。
「そんな時です。ある国から我が国に便りがありまして・・・それは隣国関係にある"エルドール"からの物で、我々に協力を仰ぎたいと言う内容でした」
「エルドールからの協力依頼だぁ?」
グランさんはあり得んだろう!と反論する。
「国交を断絶とまではいかねぇが、無主地なんて境界線を引いて、殆ど干渉するなって言ってる国が、協力とは・・・」
「我々も初めは耳を疑ったのですが、国王陛下に宛てた書簡には、間違いなくそう書かれておりました」
無主地と言う単語に聞き覚えがあった。つい最近ユニコーンの依頼の為に訪れた場所ではないだろうか。とすると、隣国とはシルビアの更に西の方の・・・あの大木が生い茂る地域の先を指す。
「それで、内容は?」
物静かに聞いていたヴィクターさんが、端的に切り込む。
「要約しますと、あの雷と仮定した光はエルドールの森に落ち、齢数万年を超える大樹を割り、周囲を焼き払ったそうで・・・。更に、大樹の在った場所から何かが顕れたものの、強い力を発しており、手が付けられない。我が国より王宮魔導師か、それに相当する魔法に長けた者を遣わして欲しい。と言う内容でした」
「受けたのか?」
「はい。決め手となりましたのは、《その強い力が見た事の無い物で、もしかすると、レオニア王国が伝承している竜の"雷"に相当するのではないか、良ければ調査を兼ねて貰っても構わない》と、綴られていた事です。エルドールは滅多に立ち入る事は出来ませんので、こちらとしても利点があるかと」
つまり、"困っているから助けてくれ、そっちの国的にも光の正体が気になっているんじゃない?物の序でに調査してくれても構わないが?"
と言う話だ。な、何だろう・・・全く知らない国だが、上から目線過ぎないだろうか?
「で、折角の申し出を無碍にする訳にもいかないからね。かといって大規模な遠征部隊は国防に関わる。必要最低限で編成を行った結果、今ここに来ている部隊が救援隊兼調査隊と言う訳」
王子様の目配せに、順に自己紹介を受けた。先程の宮廷書記官のローグさん、横に宮廷魔導師のコールソンさん。更にその横が考古学者のニコラスさん。席に座らず立ったままの男性が、王子様専属の護衛騎士のシュトルムさん。
新しい顔ぶれに、ふんふんと頷きながら一人一人の顔と名前を頭に入れる。
「そして僕はアルシュレイン・ルス・レオニア。よろしく頼むよ。───で、ジル。そっちの子は?」
「俺の弟子・・・の様な物だ。メグミと言う」
「お初にお目に掛かります!メグミと申します、よろしくお願い致します!!」
「弟子・・・うん、よろしく」
弟子、と言う言葉に一瞬だけ眉が僅かに持ち上がったのが見えた。だが、すぐに王子様らしい表情に変わる。
やはり、場違いだったか・・・と、身を縮めて、なるべく会談の邪魔にならない様気配を消す。
「さて、本題だが。エルドールとの約束の日が2日後で、取り急ぎで悪いんだが、ギルドに護衛を頼みたい」
「護衛?下に連れて来ているだろう?」
「彼らは、ここまでの航路の護衛で、基本は待機の予定だ。余り物々しい格好で行くと心証が悪いだろう?エルドール入国は、僕とシュトルム、ローグ、コールソン、ニコラスの最低人数で行う。ちなみに、ここで僕に待っていろと言うのは無しだよ。国家間の問題だ、僕が自ら出向くのは必須条件だからね」
王子様はここで待っていた方が安全ではないだろうか?と思ったが、成る程そういう訳にもいかならしい。
「確かに、俺の所に来た文には"王都から使者を遣わすので、ギルドに手を貸して欲しい"とだけ書いてありましたが、いやはやそう言う事でしたか・・・」
「それにここには"元王宮近衛騎士のジルが居る"からね。そこを父上は考慮しての最低人数だよ」
「陛下・・・」
眉間を指で解す仕草をするヴィクターさんを、全員が生暖かい笑みを浮かべている。
ヴィクターさんが前職で、どの様な立ち位置だったかを察する。
それは今のギルドでの厚い信頼と同種か・・・いや、それ以上の手放しの全面的信頼だ。
「はははっ!!ご指名だなジル!!!ま、王族護衛ともなりゃS級のお前以外には頼めねぇよな!!!」
手紙を受け取った時点で、ヴィクターさんを斡旋すると初めから決めていた様で、自分が頼む手間が省けたぜ!と高らかにグランさんは笑う。
「で、当日の流れは?」
「ワイバーンに乗り、更に西方へ移動。無主地で降りた後はその場で騎士を待機させ、足でエルドールへと入る、案内人が待機していると言う事だ」
「成る程な・・・ならこちらは、俺とメグミを出す。良いな?ギルマス」
「えっ!?」
王子様をお護りする国の最重要任務に、D級の私がですか?!
そう、続けて喉から出そうになったのを、何とか飲み込む。
「お、おお・・・それは構わんが・・・嬢ちゃんには若干、荷が重くは無ぇか?」
グランさんの言葉に、心の中で激しく頷く。足手まといになる予感しかしない。
現に今まで、なんやかんや偶然、偶々、結果的に何とかなった事の方が多い。
万が一があっては取り返しが付かない。今度は本当に、私の首が飛ぶかも知れない。
すると、ヴィクターさんが何かをグランさんに耳打ちする。何を伝えたのかは分からないが、嫌な予感。
聞こえないやり取りが終わった途端、掌を返したかの様に「嬢ちゃんも頑張れよ!」と、鼓舞される始末で。
まさか、僅か数十秒で丸め込まれてしまうとは。
ギルドマスターたる存在が、そんなにあっさりと陥落してしまって良いのだろうかと、意味の無い心配をした。
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久々に登場人物が少し増えますが、よろしくお願いします!




