No.71 突然知った過去
No.71 突然知った過去
雷の落ちた日から1週間後、ヴィクターさんの元に一通の手紙が届いた。
ヴィクターさんの部屋の窓を嘴で強く叩き、それは来訪を知らせる。
窓を開けるとそこには、白い大きな鳥。
首に付けた筒状の装飾を外すと、鳥は光を纏い消えた。
筒状の物は、ヴィクターさんの手に残ったのだが、すぐに開封する事無く、訝しげに眺めている。
「何ですか、それは」
今日は冒険者活動をせず、完全な休暇とした為に遅めの朝食を2人で摂っていた、その最中の出来事。
「────・・・手紙、だな」
「立派な入れ物ですね」
「・・・・・・・・・これは魔導具の一種で、送り出し主が指定した人間の魔力でしか、開けられないようになっている。そしてこの紋章は・・・」
送り主が誰か見当が付いているのか、ため息交じりにヴィクターさんは留め金に魔力を流すと、魔導具はカチャリと静かに開く。
中から手紙を取り出し、内容を確認する。目線が何度か紙の上を往復した後、ヴィクターさんは小さく「は?」と呟く。
聞いた事の無い、声色に朝食を食べる手を止める。そこに一体何が書かれていると言うのか。
「何か、ありましたか?」
「────そう言う訳では・・・いや、何かあるのはこれからか・・・」
「?」
「アイツが、シルビアに来る」
微妙そうな顔に不安が過る。いつも冷静な表情をしている事の方が多いヴィクターさんが、こう言った顔をする時は、何かしらの問題が起きる時だ。
ヴィクターさんが表情を曇らせ、告げるアイツが誰なのか、それは直ぐに判明する事となる。
・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・-・-・
翌日ギルドへと向かった私は、前の広場の状況を見て驚きの声を上げる。
「なっ・・・何ですか、これは・・・!!」
街の人々が行き交う普段とは打って変わって、広場全体に規制が張られ、物々しい雰囲気だ。
しかも噴水の周りには、揃いの制服に身を包む兵士の様な出で立ちの人間や、羽根の生えた大きな竜が何体も、待機姿勢を取って(おすわりをして)いる。
「竜っ!!!」
「いや、あれは飛竜種の類いで、竜とはまた別の生き物だ」
「えっ違うんですか・・・?」
「以前も言ったが、竜は伝承の生き物で、存在が確認されていない。飛竜は前足が無く竜とは見た目が違う」
「はー成る程・・・違いが良く分かっておらず、同じ物にまとめていました」
新しく豆知識を得た。今後は、前足の有無で見極める様にしようと思う。
しかしだ、そのワイバーンが何故、こんなにもこの場所に?
よく見ると、馬のように背中に鞍が付けられ、体に手綱も一緒に装備されている。
もしかして、飼われている(家畜扱い)のだろうか?
その巨体を以てして、暴れる様子も無く大人しい。その姿を不思議そうに眺めた。
「本来ワイバーンは魔物だが、ごく一部の種類においては、運搬や移動の利便性から軍用利用が行われている。これらは、まさにそれに該当する。レオニア王国直属、王宮近衛騎士団の有するワイバーンだ」
「王国直属の近衛騎士団、ですか?」
「あぁ、普段は王都にいて王族を守護する役目を仰せつかっている。特別な理由が無い限りは、辺境地であるシルビアに来る事は無い」
「それでは、特別な理由があって今ここに?」
物々しい雰囲気どころの話では無い。王族を警護するレベルの部隊が、今目の前に居るなんて、危機迫る一大事か何かでは無いだろうか?
「はぁ・・・恐らく────「ご無沙汰しております!!ジルニード・ヴィクター第四師団副隊長!!」
「!!???」
ワイバーンの側に居た制服の人達の1人が、ヴィクターさんの名前を呼ぶと、等間隔に居た全員が横一列に並び一斉に敬礼をする。
フルネームは余り呼ばないと聞いていたが、それ以上に後に付いてきた階級の様な肩書きに意識を持って行かれる。
聞き間違いで無ければ、第四師団副隊長と聞こえた。
「あぁ、久しぶりだ。ただ、俺は陛下にその籍をお返しした身の上だ。その呼び方は適切では無いな」
「はっ!!失礼致しました!!」
ビシィッ!と言う音が聞こえそうな程に最敬礼をする彼ら。
「ははっ、気楽にしてくれ。俺はもうお前達の上官では無い」
「承知致しました!」
────今まで、ヴィクターさんの身の上や過去を気にした機会は無かった。
冒険者になったのは5年前で、それ以前は何をしていたかについても、ヴィクターさんが語ることも無かったし、敢えて聞こうともしなかった。
私にとっては、"S級冒険者で師匠で後見人であるヴィクターさん"で十分だったからだ。
にも関わらず、急に開示された情報に呆気に取られていた。
いや、そう言えばいつだっか、私の呼び名についてレオノラでマリーさんに指摘された時に
一瞬"騎士時代"と言う言葉を聞いた様な気もするが、記憶が定かでは無い。
「昨日手紙を受け取った。お前達がここに居ると言う事は、もうお着き(・・・・・)なんだな」
「はっ!航路が安定していた関係で、予定しておりました時間よりも到着が早まり、先程ギルドマスターと共に、ご入館なされました!」
「そうか、ありがとう。変わらず職務に励んでくれ」
「はい!ジルニード・ヴィクター様も、お変わりなく安心致しました」
ヴィクターさんが笑いかけると、堅かった姿勢が少し緩み、皆解けたように笑う。
元上官のヴィクターさんと、元部下の彼ら。そのやり取りから、関係性がとても良好で固く、尊い信頼関係だった事が窺える。
「さて、恐らく2階の応接室だろうな。受付で確認しよう。行くぞ」
「わっ!あ、待って下さい!」
自己紹介もしないまま、騎士団の皆さんに会釈をしてヴィクターさんの後を追う。
入り口にも騎士団の人が待機していたが、敬礼と共に道を空けてくれた。
「あ!ジルニードさんっ!!大変です、今っ!!」
「あぁ、もう来ているんだろう?」
「ご存じでしたか!そうなんです、昨日マスターから伺いましてっ・・・一体何事でしょう・・・」
「部屋は?2階の応接室か?」
「はい、執務室に一番近い応接室にお通ししています」
「ありがとう」
カレンさんとの会話も手短に行い、階段を駆け上がる。
かつて、こんなに焦るヴィクターさんを見た事があっただろうか?外での会話の内容から、ヴィクターさんがかつて、王都で王宮近衛騎士団の副隊長をしていた事は分かった。
となると、もしかして昨日の手紙の"アイツが来る"とはつまり、応接室に居るのは王族の誰かで、ヴィクターさんと特に親しい間柄である事が推察出来る。
応接室をノックしたと同時に、返事を待たずして扉を開く。
「やぁ!久しぶりだねジル」
開かれた扉の先で、驚いた顔をしつつ微笑む人物が真っ先に目に飛び込んできた。
プラチナブロンドに、空を落とし込んだ様な透き通る青色。穏やかさと凜々しさを併せ持った美しい相貌。
知らない顔ぶれが数人居る中で、漂う雰囲気とその身を包む衣類から直ぐに分かった。
「殿下・・・お久しぶりです」
「うん。元気だった?」
────この人物が、手紙の主・・・この国の王族関係者であると。
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