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No.70 大地を震わす落雷


No.70 大地を震わす落雷







────────その日を、私は一生忘れないだろう。







ユニコーンの依頼日から2週間程経ったある夜の事。

その日はいつも通りにD級の依頼を行い、ギルドへ報告。



夕方辺りからは雨が降り出し、冷たい雨に打たれながら自宅へと帰りつく。

シャワーと夕食を済ませ、自室で就寝までの時間をゆっくりとしていた。



ユニコーンの一件で、この世界の常識や歴史をもっと知っておくべきだと思い立ち、エリスさんにお願いして子供でも分かり易く書かれた本をいくつか借りた。


知は力なり、勉強は何歳からでも始められる。と、つい2日前から夜のこの時間に本を読む事にしたのだ。



夜が深まっても変わらず雨は降り続ける。雨音を聴きながらの読書、世界の成り立ちのページを捲ろうとした時、ふと何気なく窓の外の暗い景色に目を向けた。



その瞬間だった、眩しい閃光が外を照らす。窓の向こうの街の建物がはっきりと見え、まるで昼間のようだった。


次いで光は垂直に柱の様に空と地を繋ぎ、ズドンッと言う轟きと共に鳴動し、衝撃が建物をビリビリと震わせる。



「わっ!!び、ビックリした・・・!か、雷だ・・・こっちに来て初めて見たかも」



前世では、低気圧の影響で雷雨を見る事は度々あったが、久々に聞く轟音に思わず大きな声で反応してしまった。



職業柄雷は天敵で、バックアップや保存をしていなかった時に限って周辺に落ち、停電。数時間の作業が吹き飛ぶ・・・なんて事もあった。

頭を両手で抱えながら、油断していた自分に、こまめな保存は大事だと言い聞かせて何とか、切り替えていた。


コンクリートジャングルとは無縁のこの世界で見る雷は、遮蔽物も無く非常に見応えのある物だった。



雷が鳴ったのはその大きな1回だけで、雷雲が居座るなんて事も無く、雨でだけが朝まで続いた様だったが、私は毎日規則正しい生活を送っているおかげで、朝までしっかりと睡眠を貪っていたのだった。


国が、いやこの世の中が、雷で大騒ぎになっているなんて事も知らずに。





・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・-





「あれ?ヴィクターさん、もう居ない・・・?」



いつも通りの時間に支度を済ませ、ヴィクターさんの部屋をノックしたのだが、反応が無い。普段なら直ぐに足音が聞こえてドアが開く。



「先に、出かけられたのかな?」



ギルドに向かえば、そこで落ち合えるだろうと思い、階段を降り始めたタイミングでヴィクターさんが下から昇って来る。



「起きていたのか、よく眠れたか?」


「はい!もうぐっすりと!」


「そうか、起きて早々で悪いが聞きたい事がある・・・取りあえず部屋で話そうか」



どこか少し焦った様子のヴィクターさんに、首を傾げながら部屋に付いて入る。




「昨日の夜、外が光ったのは見たか?」


「あ、見ました!凄かったですよね、雷が!」


「────メグミお前は、あの光をそう呼称するのか?何故だ?」


「えっ?雷の事を雷と呼ぶ以外にあるんですか?」



何かおかしな表現だっただろうか?日本語ならもっと色々な言い回しがあるが、一番の定番呼びは雷だと思う。


「今まで、雷を見た事があるのか?」


「えっと、前世では割とよく。こっちに来てからは昨日のが初めてですが」


「前世で・・・成る程な。俺も昨日見たのが初めてだ」


「え?初めてですか?そんな事あるんですね・・・地域的にそう言う場所があるんでしょうか?」


「いや、そもそもだが、この世界に"雷"の魔法は存在しない。と、言うより雷が存在しない」




────────え?



「存在しない、事ってありますか?」


「魔法の属性を思い出してみろ、雷は無いだろう?」



魔法は全部、火・水・風・地・光・闇・癒の7個。

確かに属性としては雷は無いが、そう言う物なんだろうと思っていたから、雷が属性として無かったとしても、自然現象下においては、雷くらい起こりそうではあるが。



「基本的に、魔法属性が関係していない自然現象はこの世界では起こりえない」


「何故でしょうか?」


「この世界の成り立ちが"そうなって"いるからだ。エリスに歴史書を借りていたな?どこまで読んだ?」


「あ、えっと昨日まさに、その項目を読もうとした所でした」


「丁度良い、その辺りの事を少し説明しておこう」




昨日の雷が切っ掛けで、ヴィクターさんから直々に講義を受ける。




それは古い古い、始まりの物語。





・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・-





《この世界はかつて何も存在しなかった。ただただ広く暗い世界。永い時間をかけ、いつしか7体の竜が現れる。突然現れた竜達は神に等しい存在だった》



《ある竜は水で世界を潤し、ある竜は大地を創り、ある竜はその地を業火で焼き、ある竜はその世界に光を齎し昼を生み、別の竜は反対に夜を生んだ。急激に行われる創生に荒らみ、壊れかける世界を留めるように竜の起こす風が包み込み、それをまた別の竜が癒やした》



《そうして幾度となく、繰り返される破壊と創造に世界は徐々に形となって行く》



《いつしか、そこに生命が芽吹き大地や空を駆ける。不安定だった世界は穏やかな物に。安定を手に入れた事で、多種多様な生き物が生まれた》



《竜達の魔力で形取った世界は繁栄し、ひとつの世界として立派に成り立ったのだ》



《やがて竜達は創り上げた世界に満足し、その世界を維持する為に魔力(マナ)として世界に溶け込んだ。風に水に火に大地に・・・それぞれが竜としての形を無くし、世界そのものと成ったのだ》



《この世界は、創竜と呼ばれる7体の竜によって形を成している。創竜は生きとし生けるものに恩恵を齎し、動力となり、寵愛を以てして我々を見守っている》






・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・-





「これが、この世界の成り立ちとされる歴史だ」



「壮大な話ですね・・・」



「この物語を聞いて気が付いたと思うが、この世界はこの創竜の加護を受けていて、魔法自体が世界に溶け込む魔力(マナ)を利用してる。俺達にそれぞれ発現している属性は、常に身体を巡っているが、元を辿れば世界に漂っている物でもある」


「身体から魔法が出ている訳では無いんですか?」



「そう見えるが正確には、魔法を使う際にその属性ごとの魔力(マナ)が反応して発動可視化している。魔法適正と言うのは、どの属性の魔力(マナ)を行使出来るかどうかの才能で、ギルドで表示される"魔力"はそれを数値化した物だと思ってくれ」


「成る程・・・」


「───故に、世界に溶け込んだ属性以外は扱えない。つまり、雷なんて物は魔力(マナ)としても存在していない。そして、自然にも発生しない」



「ああー、そう言う事でしたか。・・・・・・・・・あれ?でもヴィクターさんは、さっき私が"雷"と言う言葉を出した時に"それは何だ"とは聞きませんでしたよね?普通なら、言葉の意味を聞くはずです」


「鋭いな、意外だった・・・」



私が矛盾に気付き指摘すると、ヴィクターさんは心底驚いたと言う表情。



「まさに、今その事で国が大騒ぎになっていてな・・・」


「雷で、大騒ぎですか?」


「あぁ、今メグミが借りている歴史書は一般的な物で、子供から大人迄広く読まれている内容だ。他の国でもおよそ同じ内容で書かれている。だがあくまで、一般的に(・・・)だ」



含みのある言い方だ。

まるで一般的では無い歴史があると言わんばかりの。



「世界の成り立ちには、もう一つの伝承がある。創生の竜は本当は8体だったのではないか、と」


「8体目の竜ですか?」


「あぁ、そしてそれは"雷"の竜だったとされている。こちらの伝承はレオニア王国や神殿が主に語り継いでいる物だ。その為、神殿の内部のガラスや装飾には8体の竜を誂えてある。最も、それは伝承でしかなく、国民にとっても御伽話の感覚に近いが・・・」


「あ、確かに神殿のステンドグラスや、入り口の装飾は確かに竜でしたね」


「だが、この世界には雷は存在していない、それが現実。だから他国からしてみれば、所詮この国が信仰している、希有な伝承と言う認識でしか無かった。────昨日の夜までは」




在りもしなかった物が、突然自然現象として起こり、落雷それは世界を震わせてみせた。



「国内は今、その事で騒ぎになっている。神殿は当然、学者や研究者総出でその事実を解明しようと、一晩中会議を行っているらしい。ギルドでも話題になり、その関係で先程までギルマスの所へ行っていた」


「そうなんですね・・・」



「とは言え、この事実にギルドが勝手に関与する事はおそらくは無い。冒険者には普段通りに依頼をこなすと言う事で落ち着いた。慎重に扱うべき事案にも関わらず、興味本位や勇み足で、国の邪魔をする訳にはいか無いからな」




内容が内容だけに、一先ず"国自体がどう動くのかを見極める事が優先"と言うのが、ギルドの下した判断。

当然、ギルドに所属している私達もそれに倣って、普段通りを過ごす事になった。




突然起きた落雷、気にならないと言えば、嘘になるが。






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