No.69 清らかさとは?
No.69 清らかさとは?
一体、何が起きているのだろう・・・?
自分の置かれた状況が理解出来ない。
非常に獰猛で、特定の条件を満たした若い女性しか近付く事を許さず、それ以外は敵と見なし襲って来る。
それがユニコーンだと教わった。
だと言うのに、この状況は何だ?何故ユニコーンは、私の前で座り込んだ?
攻撃の意思は無いと言う事だろうか?分からない・・・
戸惑う私を余所に、ユニコーンは角を器用に反らし頭を私の膝に乗せて来た。
「ひっ!?」
何だ、頭を撫でろとでも言うのだろうか?
目的が分からない、どうしてこんな行動を取るのか。例の条件はどうしたのだ、それともあれは迷信の類いなのか?
殺すか殺されるかの命のやり取りを想定していた私には、この美しい見た目をした生き物が自分にすり寄る様が、ただただ不気味で、理解が出来なかった。
膝の上から一向に頭をどける気配の無い状況に腹を括り、恐る恐る指先で鼻先から額、頭とゆっくりと触れる。
3度それを繰り返した時に、混乱状態の私の脳は1つの判断を下す。
"このまま油断したユニコーンの角を、へし折れないだろうか"と。
この奇異な状況が起きている理由はもう分からないが、確実な事がある。
私は今、目的の角に幾度となく触れている。
やらなければならないのは、ユニコーンを撫でて戯れる事では無い。ユニコーンの角を手に入れる事だ。
多少荒っぽいやり方にはなるが、なるべく本体を傷付けない様に配慮するつもりでいる。
完全に油断しきったユニコーンの頭を再度なぞり撫で、流れる様に角に手を掛ける。
一本一本確実に指を掛け、握り込むと、そのまま力を込めて手首を内側に捻る。
────ミシッ、ゴキンッッツ!!!!!
大きな音と共に、角は額から外れ、私の手の中に収まる。
それと同時に、覚醒したユニコーンが私の膝から勢い良く跳び退いた。
3メートル程先に着地したユニコーンは、今の今まで自分の頭に生えていた角を私が持っている状況に、信じられない物を見る様な目で此方を見て来る。
当然だ。油断しきった相手に突然角を折られるなんて、想定もしていなかっただろう。
大きな声で何度も、嘶く姿は、騙された!!裏切られた!!!と怒りを表して叫んでいる様な気がした。
その怒りは直ぐに、攻撃態勢に移行する。地面を強く蹴り、私に突進を仕掛けて来た。
受け止めようかと思ったが、精霊は傷付けてはならないと言うヴィクターさんの言葉を思い出し、後方へと飛ぶ。
そのままの威力でぶつかられると、今までの経験上恐らくだが、反動でユニコーンは弾け飛んでしまう。
咄嗟の判断だったがその作戦は功を奏し、角を失って攻撃力が半減したユニコーンの頭突きの威力を、限りなく弱い衝撃で押さえ込めた。
それでも、ユニコーンにはそれなりの反動だった様で、ふらふらとその場で目を回す。
足が覚束ない中、ユニコーンは一際大きく嘶くと、私に背を向けて森へと駆けて行った。
その声はどこか、とても悲しそうに聞こえた。
何が何だか分からないが、取り敢えずヴィクターさんの所へ戻り、困惑気味に手に残った大きな角を手渡す。
「────角が手に入りました・・・」
「・・・どうしたらそうなる」
一部始終を見ていたヴィクターさんは私以上の困惑具合で、その場で大反省会が始まった。
ヴィクターさん側としては、魔導具を設置し起動したタイミングで私を呼ぼうと思ったそうだが、それは運悪く私がユニコーンと出会った瞬間と同時だった。
直ぐに戦闘態勢に入ろうと構えたが、私の身の危険も十分承知の上で、今自分が出て行ってしまうと事態をより悪化させる可能性もある。
直ぐに私を襲わない雰囲気に、しばらく様子を見る事にしたと言う事だった。
「しかし、何故ユニコーンは大人しく座った?普段の獰猛な姿からは、かけ離れていたぞ」
「私にもさっぱりです・・・聞いていた話と全く違って、意味が分からなくて。でも結果として、角を手に入れられたのは良かったです!」
「でも、まさか・・・力任せに折るとはな。さすがに想定外だった」
「何故か、完全に油断していたので、今しか無い!と思いまして」
あのまま撫で続けても埒が明かない。
私は"ユニコーン触れ合い体験"に来た訳では無いのだから。
それに、気紛れで触らせてくれていたとして、急に気が変わって突然襲われたりでもしたら元も子もない。
あの時の最善手は、あの方法がベスト。それで正解だった。
私はそう自分に言い聞かせるが、ヴィクターさんは、すっきりとしない顔。
「・・・・・・何か思う所が?」
「そうか・・・いや、仮にあのまま撫で続けていた場合、角を自主的に落としたりしたのだろうか・・・と思ってな」
「・・・どうでしょうか、でもそれは例の条件が揃って初めて有効になる流れですよね?条件を満たした上で、ユニコーンが満足するまで撫でてあげると、角を落とす。そう言う話だったと記憶していますが」
「それはそうだが・・・やはり身を委ねたと言う事が不思議で・・・・・・いや、そもそもの前提が間違っている、のか?」
「前提?この条件が間違っていると言う話ですか?」
起きた出来事と合わない辻褄。
その整合性を考え込んでいた、ヴィクターさんは「あ・・・」と小さく呟く。
「何か分かりましたか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、何でも無い。目的は済んだ。シルビアに戻ろう」
「明らかに、何かの結論に辿り着きましたよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
この沈黙、絶対肯定だ。
「教えて下さい。気になります」
「やめておいた方が良い」
このやり取りは水辺で待つ馬を引き寄せ、帰る準備をする中で何度も繰り返された。
しかし、どうあっても折れないヴィクターさんに、私は脅しを掛けて見る事にした。
運良く未だマジックバッグに収納されていない角を、奪うように自分に引き寄せる。
「この角を私は、ギルドに引き渡しません」
「何を・・・」
「危険を冒して手に入れた物です。私はこの角の所有権を主張します」
「・・・・・・・・・そう来るか」
本気で言っている訳では無い、ただの交渉材料だ。
この角の権利と引き換えに、なぜユニコーンは油断したのかを聞きたいだけなのだから。
「────────はぁ・・・メグミにとって良い話では無いぞ。むしろ不快に思う可能性の方が高い」
「構いません」
「先に忠告はしたぞ。・・・以前食堂で冒険者が言っていた条件は間違っていない。・・・・・・可能性があるとしたら、お前自身だ」
「私?ですか?」
「清らかさとは何だと思う?」
清らかさとは何か?清らかさの定義・・・哲学的な話になって来た。
「汚れや濁りが無く、純粋で綺麗なさまですかね?まぁ、私は随分と荒れた生活で血も淀んで濁ってるでしょうし、健康診断ももう何年も受けて無くて、でも結果は酷い物だと思いますけど・・・」
「違う。この場合の清らかさは、そう言う話では無い」
「?」
「やはりか・・・・・・・・・失礼を承知で聞くが、誰かと交際経験はあるか?」
こうさいけいけん・・・?ヴィクターさんからその単語を聞くとは思っていなかった。
突然のワードに、脳の処理速度が落ちる。
どうして、交際経験の有無を聞かれるのだろう?今は、ユニコーンの話をしていたはずだ。
ユニコーンの求める清らかさに何の関係が────────・・・
「・・・・・・・・・あ゛!!!!!!??????」
十分過ぎる時間を使い、ようやく言葉の意味を理解する。
清らかさの定義、それはつまり────・・・
「でででででで、でもでもですよ?それが当てはまったとして、うら若きからは外れていますよね?!年齢聞かれて、あー・・・って反応でしたよね!?」
「精霊であるユニコーンからしたら、人間の年齢なんて誤差だ。そっちはもとから入っている」
誤差、と言う事はあの時に年齢確認をされたのは"さすがに27歳にもなって未経験の筈は無いだろう"と言う冒険者側の判断による判定だったのだ。
そして、その質問の意図を正しく理解していなかった私。
「そんな、個人の尊厳に関わる内容が条件って・・・そんな物が、まかり通って良いんですか・・・?」
「ユニコーンに聞いてくれ」
それはそうだ、ヴィクターさんにそんな事を聞くのは筋違いだ。
それに、もし、もっと早くその言葉の意味に気が付いていたら、正しい手順を踏み安全に角を手に入れられたと言う事実に、頭を抱える。
いや、どちらにせよ間接的に私のその辺の事情が、ヴィクターさんに伝わってしまった訳で。
しかも、事情を察したヴィクターさんの配慮を無碍にして、無理矢理聞き出した自分も間抜け過ぎて・・・・・・
知らないままでいる事も出来たと言うのに。
斯くして、無事?に角を手に入れた私達は、翌日依頼完了の手続きを行い、無事に金貨100枚を手にした訳だが・・・。
・・・・・・この依頼、大金と引き換えに失う物がそれなりに大きく、何とも後味の悪い結果となる。
加えて、私の中では出来れば今後は、遠慮したいくらいにはトラウマ案件となった。
.
2章のギルド日常パートは、ここまでとなっております。
次から別のパートに入ります!よろしくお願いします!




