No.68 ここから状況を好転出来ますか?
No.68 ここから状況を好転出来ますか?
ユニコーンの依頼を受け、私達は早々に出発した。場所はシルビアを西に、国境を越えて隣の国の境目辺り。
レオニア王国と隣国の間には所謂"無主地"と呼ばれる地帯が存在し、互いが自国と主張せず、また侵略を行わないと言う条約が締結されている地域が存在する。
相手国がそれを希望したそうで、種族間の過度な干渉を避けたいと言う意向が、前提にあったが故の物らしい。
今回のユニコーンの生息地はまさに、その地域に当たる―――。
「馬を貸して貰えて良かったですね、てっきり徒歩で向かうのかと」
「場所が国境の先と言うのもあるが、教会側も待っているだろうからな」
「善は急げと言う訳ですね!・・・あれ?そう言えばこの馬ってもしかして」
シルビアから私達を乗せて駆けてくれる馬。なんとなくだが乗り心地に覚えがあった。
「あぁ、あの時と同じ馬だ」
「やっぱりですか!あの時はありがとうね、またよろしくね」
私がヴィクターさんに首を刎ねられ掛けた日、シルビアまでの道のりを乗せてくれた恩馬と共に、再び草原を進む。
前回の国境越えは捕虜の身だった事もあり、あの時の状況を思い出して萎縮したが、身分証である腕輪を見せたら、ものの数秒で通過出来た。
「そうだ、ユニコーンの事を詳しく聞こうと思っていたんです。どんな生き物なんですか?」
「ん?・・・あぁ、そうだな・・・精霊の枠組みに入っているが、非常に獰猛で情け容赦無い性格だ。見た目は白い大きな馬で、額に長く尖った角が一本生えているんだが、この角こそが今回の依頼の物だ」
「返り討ちにあった冒険者の怪我の話を聞きました。骨が砕けるまで、蹄で何度も全身を踏みつけられたとか・・・」
「怒らせると、そのくらいは簡単にやってのける」
常識だ、と言う口ぶり。
「そんな凶暴な生き物を、どうやって倒すのですか?」
「倒すのは駄目だな。ラガルレットの時もそうだったが、精霊は基本傷つけてはならない。怪我を負わせず、角を手に入れる」
こちらは手出し出来ないが、向こうは好き放題出来ると言う、ユニコーンの方が圧倒的に有利な条件。
「方法をお聞きしても?」
「そうだな、先に一般的なやり方を説明しておこうか。基本的に男が近寄ると激昂し、手が付けられなくなる。だから必ず、条件を満たした女性を連れて行く必要がある」
「条件って、あの清らかなーって言う件ですか?」
「あぁ、その条件が揃っている女性であれば、ユニコーンは己の凶暴性を出す事無く、歩み寄って来る。そして自らの頭を差し出し、撫でさせる」
成る程、人によって態度を変えるタイプの生き物か。確かに、どうやっても犬に吠えられるという人もいるから、動物側にも撫でさせる相手を選ぶ権利がある。
それがやたらと厳しいと考えれば、仕方ないのかも知れない。
「この時に、男性は隠れていますか?」
「そうだ。万が一見つかったり、気配を悟られれば、騙されたと怒り狂うだろうな」
「なら、角はどうやって手に入れるんですか?」
「そのまま撫で続けると、満足した礼にその場に角を落として、立ち去る。それを拾う」
「落とす?え、簡単に取れる物なんですか!?」
満足したら落とすとは、一体どう言うシステムなのか。そんなに角とは自由自在に外せる物なのだろうか?
「精霊自体が、不思議な生態をしている。その辺りの理屈は、俺達人間の感覚や常識では計れない。"そう言う物なんだろう"とでも思っておくと良い」
「・・・そう言う物。分かりました」
「まぁ、今回はこの方法を予定していないから、別のやり方を説明するぞ」
現地に着くまでの間、ヴィクターさんから作戦内容を聞かされる。
まず、ユニコーンの生息地の中でも目撃情報が多い場所に、気配を消す魔導具で潜伏する。
その為には、魔導具を潜伏範囲にセット。これは土に指すタイプの物で、一片1.5メートルに4ヶ所撃ち込む。
光魔法と水魔法に闇魔法を加えた複合型で、偵察や隠密行動をする際に用いられる魔導具らしい。
何でも、闇魔法で姿を気配を消し、水魔法で匂いを無効化、光魔法で景色に溶け込む・・・
よく分からないが、大変高価な物でギルドからのレンタル品だ。
受け取る際にヴィクターさんがグランさんに、くれぐれも壊さないようにと念押しされていた。
それをセットしたら、私達は内側に入りユニコーンが現れるのを待つ訳だが、辺りに誘引剤を散布し、より早く邂逅出来るようにする。
「薬剤には何の成分が入っているんですか?」と聞いたが、詳しくは教えて貰えなかった。
ユニコーンが現れたら、自然の風に紛れ込ませて、睡眠効果の風魔法を放つ。
完全に沈黙したら、その場から今度は鋭利な風刃を放ち、切断する。
この作戦は安全ではあるが故の一発勝負。少しでも悟られれば、戦闘になる可能性は高く危険が伴う。
運悪く、違和感を感じたユニコーンが、早い段階で逃げてしまえばこの場所はもう使えない。
「手際良く終わらせたい所だな」
「そうですね・・・」
既に何人かの冒険者が、生息地に踏み入り荒らしている手前、条件も頗る悪いが私達が最後の砦になってしまった以上、依頼失敗で退却と言う選択は無い。
出来る事なら、ミス無く完遂したい。
万が一、本当にユニコーンが怒りで手が付けられなくなった時は、私自身が防御壁となってヴィクターさんを護ろうと心に誓う。
草原はやがて、木々へと移り換わり森が深くなって行く。生息地が近付いているのだ。
「───この辺りで良いか、俺は前方の平地に魔導具を設置して来る。メグミはこの辺りで、馬と待機していろ。準備が出来たら呼ぶ」
「はい!先にそこの泉で馬に水を飲ませていますね」
ここに着くまで、ずっと走り続けてくれた馬を側の泉で休息を取らせる。
ユニコーンは動物には、いきなり襲いかかったりしないそうで依頼完了するまで、ここで休んでいて貰いたい。
美味しそうに水を飲み、その場に膝を折り、座る馬を少し撫でてから、ヴィクターさんの方へ向かう。
待機と言われた場所で魔導具を設置する様子を眺めながら、辺りを見渡す。
森の木々は背の高い物が多く、幹も太い。かなり長い時間を生きて来ているのだろう。例えるならそう、屋久杉の様にどっしりと地に根を張っている。
私達の居る場所は、森の始まり。先へと続く景色はまだまだ奥深く、誘い込むようにこちらを見つめている気がした。
────ガサリッ・・・
不意に、真横から木々を掻き分ける音がした。
つられてそちらを向く。
「っ―――!!!」
私の目の前、僅か10メートルの距離に姿を現した、白銀に輝く大きな生き物。
馬によく似たフォルム、決定的に違うのは額に生える大きな長い角。
見たのは初めてだ、だが見た瞬間にそれが何かを理解した。
「ユニコーンだっ・・・」
驚きの余り喉から捻り出した声は、とてもか細く、自分の耳にさえ辛うじて届く程度。
・・・この場合のパターンは想定していなかった。
まだヴィクターさんは誘引剤を散布していないはずだ、身を潜める魔導具を設置後に中に入り、それから散布予定で・・・
偶然か、運命か。不意に訪れた急な獲物との遭遇に、動揺し動けない。
ここまで得たユニコーンの知識から、どうにか状況を打破しなければならないが、作戦も何も無い。
私の置かれた状況に気が付いたとて、ユニコーンの凶暴性を知っているヴィクターさんも簡単にはあの場から動けない。
どうすれば・・・
少ない知識で必死に考えているその間にも、ユニコーンはジリジリと私の方へと近寄って来る。もう目と鼻の先だ。
相手から目を反らさずに、出方を伺う。
あぁこのやり取り、以前の湖で出会した鹿と同じ状況だ。
その立派な角をこちらに向けて突進して来るのだろうか?
スンスンと鼻先が、私の敵意を探っている。そんな気がした。
長く息を吐き、下半身に力を込める。いつでも防御態勢を取れる。来るなら来い!!
気構えた刹那、ユニコーンが嘶き巨大な蹄を持ち上げ、私を威嚇した。
「わっ・・・、と!!」
予期せぬ動きに防御態勢虚しく、尻餅をつく。
あ、これは非常にマズい。その大きな蹄は全身の骨を砕く迄踏みつける。
教会に運ばれた重傷の冒険者の事が浮かんだ。
私のバフ分の防御力で、何とかヒビか打撲で済む事を願う。
追撃に備えた私だったが、目の前で信じられない事が起きた。
「・・・え??!」
────あろう事か、ユニコーンは馬のように膝を折り、私の前で座り込んだのだ。
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