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No.67 恐ろしい敵


No.67 恐ろしい敵







ラガルレットの件から、1週間と少し。私はD級冒険者として、依頼をこなす日々を送っている。


グランさんが出した"例の通達"も先日ようやく館内放送が無くなり、このギルド会館を利用している冒険者に十分知れ渡った事だろう。

連日続いたヒソヒソとした声も、チクチクとした目線も落ち着き始めていた。


居心地の悪さが多少マシになって来た所で、改めて目標は貢献度を上げて目指せC級!



今日もいつも通りに鐘の音で起き、支度を整え、ヴィクターさんと共にギルド会館にやって来たのだった。



「わっ・・・!?」


入り口の扉を開けると同時に、中から出て来た人物とぶつかりかけ、慌てて身を捻って避けた。


白に金縁のライン、その服装には見覚えがある。アデルさんが着用していた教会の神父の物だ。

だが、それに加えて大きめのケープと帯状の布が目を引く。


アデルさんよりも、位の高い教会関係者なのだろうか。見上げると、レンズ越しに切れ長の目と視線がかち合う。

薄い青を帯びたグレーの瞳の人物は、一言「失礼」とだけ告げ、銀とも白とも見える長髪を靡かせて去って行った。



「綺麗な方ですねー・・・」


女神の様な雰囲気に、後ろ姿を目で追う。


「・・・・・・先週不在だった、祭司だ。王都から帰って来たのだろう」


「司祭さん・・・と言うことは、あの教会で一番偉い人ですか?」


「そうなるな。さっさと朝食にしよう、俺の勘では、そろそろ面倒な依頼が降りて来るぞ」


「?」




私達が朝食を食べ終わる頃、そのヴィクターさんの勘が見事的中する事となる。






・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・-・-・






「・・・何だか、受付辺りが騒がしくなって来ましたね・・・」


「・・・・・・・・・」



食後の紅茶を飲みながら遠目にその様子を眺めると、受付前に冒険者が多数集まり、何かを眺めては残念そうに立ち去る。


目を凝らしてよく見てみると、1枚の貼り紙が見える。冒険者用の依頼掲示板にあると言う事は、何か目を引く依頼内容なのだろうか。



「おい、あれ見たか?」


「あー見た見た。さっき貼り出されたやつだろう?」


「報酬が半端じゃ無いらしい!お前、一緒に受注しねぇか?」


「馬鹿言え。確かに報酬は良いけど、内容ちゃんと見たか?」


「いや、人集りでよく見てねぇ。皆口々に報酬は良いけどなーって言ってたぞ」



タイミング良く、斜め前に座る冒険者が貼り紙の内容を話し始めたので、聞き耳を立てる。



「あれはな、稀に出るユニコーンの角の獲得依頼だぜ」


「ユニコーンって、あの?」


「そうだ、いくら報酬が金貨100枚でもな、命掛けるには割に合わねえ」



「きききき、金貨100枚ですか!!??」


「おい・・・」


聞き耳を立てて居たはずが、報酬金額に思わず大声で反応してしまった。

そしてその勢いのまま、冒険者の席まで移動する。



「あん?何だ嬢ちゃん?興味あんのか?」


「あり寄りのありです!!」


「ほーん、そいつは・・・ちなみに年齢は?」


「年齢ですか?27歳です!」



何故このタイミングで年齢を聞かれたのか分からないが、元気よく答える。

すると、冒険者の2人は顔を見合わせてニヤッと目配せした。


「やめとけ、やめとけ!ユニコーン様はな"清らかな若き乙女"をご所望と言うのが常識だ。嬢ちゃんはお呼びでねぇさ。あの尖った角で、お腹を串刺しにされてあの世行きさ」


「えっ、年齢制限があるんですか・・・それは・・・残念」



清らかさからかけ離れた荒んだ生活、アラサーと言う年齢は若いかと言われると微妙なラインだ。乙女?な感じでも無いな。うん、全ての条件から外れている。


勢い無くした私は、ズコズコと席に戻る。



「・・・・・・そんなに落ち込むな。確かに、そう言う条件の女性が有利な生物だが、一応俺達みたいな男でも角の獲得は可能だ」


「ヴィクターさんもあの依頼興味ありですか?」


「いや、興味は無い。が、また面倒な依頼を持ち込んだな・・・」


「え?依頼主をご存じなんですか?」


「心当たりがある。と言うか、さっき入り口ですれ違っただろう?」


「え!?あの女神様ですか?」


「女神?あの司祭は男だぞ」



金貨100枚の依頼をギルドに持ち込んだ、あの美しき人がユニコーンの角を欲する理由とは何なのだろうか?


そもそも、ユニコーンがいまいちピンと来ていない。確か、馬の様なフォルムの・・・星座にそんなのがあったような?いや、あれはペガスス座か・・・?



「あの司祭様は、どうしてそれ程の大金を掛けて迄、角が欲しいんですかね?」


「必要に駆られているんだろうな。そもそも聖職者が治癒魔法を行使する際に精霊の一部を触媒・・・言わば、俺達の武器みたく利用して魔法を使用する。ユニコーンの角は解毒作用もあるから、教会側としては必須の物になる。聖職者に多い光魔法や癒魔法との相性も頗る良い」


「なるほど?」


「だが、使用すればそれだけ摩耗する。そうそう使えなくなる訳では無いが、一定期間ごとに新しい物が必要になって来る。しかし稀少素材な上、ユニコーンは非常に獰猛で簡単に手には入らない。そんな理由から冒険者ギルドに依頼が舞い込むが、条件が揃わなければ、依頼を受けた所で普通に死ぬ」


「普通に死ぬ!?」



星座の生き物が恐すぎる。

さっきの冒険者が言っていた、串刺しであの世行きは比喩では無く、本当に死んでしまう話だったのか・・・てっきり、おじさんのジョークなのかと思ってスルーしていた。



「司祭が王都に呼ばれていたのは、この件か・・・・・・数日経っても受ける奴が出なければ、S級案件(あまりもの)になるだろうな」


「この報酬金額で、誰も受けないなんて事あるんですか?」


「・・・前回と前々回は、いた。同じ奴だが」


「じゃあ、今回もその人が受けられるんですかね?」


「どう、だろうな」



少しだけ歯切れの悪い返事に、違和感はあったがヴィクターさんにも何か思う所があるのだろうと、気に留めなかった。




結局、3日経ってもその依頼は掲示板に残り続けた。




この間、誰も依頼を受けなかったと言う訳では無い。何組かの冒険者が受注して挑んで行ったそうだが、見事に返り討ち・・・と言うより、壊滅的なダメージを受けて撤退。怪我も普通の治癒魔法では追いつかず、教会に駆け込む事になったらしい。


大金を得る為に教会からの依頼で大怪我をして、その治療に教会に駆け込む。当然治癒もタダでは無い、治療代は発生するのだから骨折り損だ。



乗り気では無いヴィクターさんにお鉢が回って来るのは、必然と言うか、予定調和だった。




苦笑いのグランさんに呼び出され、2人並んで執務室のソファーに座る。



「そうなるか」


「なるな」


「いつもなら、アイツが受けていただろう?今回は良いのか?」


「マーシャルの事か?あいつは今里帰りするっていって、2ヶ月程休暇中だ」



肩をすくめるグランさんに、ヴィクターさんは溜め息を一つ。

何やら、マーシャルさんと言う常連の冒険者が今、シルビアに不在の様で、この依頼が完全に中に浮いている状態らしい。



「一応数日様子を見ていたんだが、やはりユニコーン相手では並の冒険者では分が悪い。いくら自己責任とは言え、ギルドマスターとしてはこれ以上の被害は看過出来ない」


「一応想定はしていた。引き受けよう」


「おう、頼む。いや待て、嬢ちゃんなら簡単にいけるんじゃ無いか?まだ19かそこらだろ?」


「あ、えっと、いえ。私27歳です」


「27だぁ??!エリスよりも一廻り近くも年上だったのか?!」



少し前にも、この年齢の件をやったな・・・と思い出す。

グランさんの声に続いて、隣の部屋からも「27歳!!」と言う声が聞こえた。多分エリスさんの声だ。



「何だか、誤解させてしまってすみません・・・」


「いやいやいや、勝手に誤解してたのはこっちの方だ。すまねぇな。あー・・・だとすると、アレだな。やっぱ、それなりには手間取らせちまうな」


「いや、最初からそのつもりで来ている。ま、それなりにやるさ」




2人のなんとも言えない表情と重い空気の中、この依頼がかつて無い程の難易度なのではないだろうか・・・?

私は、ゴクリと生唾を飲み込んだのだった。






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