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No.66 共生関係


No.66 共生関係







ひたすら踊らされただけの1時間。トカゲの捕獲を失敗した私は、ヴィクターさんの見学に回る。



D級冒険者がS級冒険者から学びを得るに当たり、手順やコツと言った物が見られると期待していた。



「・・・・・・一応言っておくが、コイツに関しては俺から教えられる事は余り無いぞ。と、言うよりメグミ、お前と相性が悪過ぎる相手だ」


「えっ、どういう事ですか?」


「まぁ、見ていろ」



説明するよりも見た方が早い。知らない魔物と対峙する時の流れだ。

先に大まかな流れを見せてそれから、手順の説明。



追尾捕縛(アレストシーク)


ヴィクターさんが手を翳し、魔法を発動させると風の球体が現れ、暫くそこでクルクルと回転を始める。


10秒ほどだろうか、回っていた球体はピタリと停止し、間髪入れず弾ける様に無数の帯が高速で延びて行く。


帯は部屋中を縦横無尽に、其々がぶつかる事無く駆け回る。その動きは、さっきまで私が走り回っていた経路と、どことなく似ている気がした。



そんな事を考えつつ、目で追いかけていたら「ギィーーーー・・・」と鳴き声の様な声が聞こえて来た。



「問題無く捕獲出来たな」



それぞれが独立して動き回っていた帯、それが一点に収束し、見事にトカゲを捕まえていた。

無数の帯は、全力で逃げるトカゲを追いかけていたから、あの様な軌跡を描いていた訳だ。



「まぁ、こう言う事だ。ラガルレットは拘束系の魔法か、罠系の魔法、後は、混乱や昏睡の魔法で捕獲するやり方が正攻法だ」


「・・・つまり、魔法による捕獲前提の依頼でしたか・・・」



確かに、魔法が使えない私との相性は最悪と言える。

成る程・・・これは教わっても実践不可能だ。他の冒険者も魔法が得意で無ければ、進んで受けないのだろう。ガックリと項垂れる。

だが、来年の為に捕獲方法の知識としてだけは、頭に入れて置こうと思う。




鳴き声のする方へ向かったヴィクターさんは、少しして鳥籠の形をしたケージを抱えて戻って来る。

中には、私と鬼ごっこを繰り広げたトカゲが捕獲されていた。



「す、素晴らしいですね・・・!ここまで、手早く捕獲されるなんて。先程の魔法は、風系の拘束魔法ですね?しかも、対象を追尾していた様に見えましたが・・・」


「あぁ、風魔法の一種で、捕獲対象を感知補足後に自動追従する。俺の魔力で作り出した風だから、障害物に当たってもすり抜け、追いかけ続ける。こう言った場面ではそれなりに便利だ」


「・・・簡単に言われていますが、拘束魔法自体かなり細かな調整が必要ですよね?それを高速で展開し、追いかけて捕まえる・・・そう言った魔力操作における技術面も、相当な・・・」


「産まれて30年以上の付き合いだから、自ずとな。さて、後始末をしてしまうぞ」


「は、はい!」




────その後、無事捕獲に成功した私達は、部屋に残った糸を完全に除去、素材として回収し終えた。




「これで、依頼完了だ」


「はいっ!ありがとうございますっ!本当になんとお礼を言えば良いか・・・」


「夕刻の鐘は間に合いそうだな」


「はいっ・・・これで、始末書・・・は、それなりにありますが、明日に持ち越さずに解決出来て、安心しております」



始末書と言うワードに、私は反射的にキュッと目を瞑る。これからアデルさんが書かれる書類は私が原因の物が半分を占めているのである。

何故私は1度目の時点で止めなかったのだろうか?と、あの時の自分を問いただしたい。



「始末書、すみませんでした・・・」


「いえ、これもきっと私に課された運命さだめなのだと思います。お気になさらないで下さい」


「悪いな。こいつはこちらで処理しておくから、よろしく頼む」


「はい、聖堂外までお見送りをしたい所ですが、もう直ぐ夕刻の鐘の時間になりまして・・・申し訳ありません、ここでお別れとさせて頂けたらと」



確かに、私達を玄関先まで見送って、ここにまた戻ってとなると、往復している内に定刻を過ぎてしまう。また始末書が加算されてしまう。



「来た道を戻るだけだから構わない、俺達もここで失礼する」


「もし今後、何か困った事などございましたら、いつでも教会にいらして下さい」


「あぁ」


「失礼します、お世話になりました!」


「はい、お2人に創竜(そうりゅう)のご加護が在らんことを―――」






・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・-





アデルさんと別れて、私達は迷う事無く教会の外に辿り着いた。


移動する最中、風の鳥籠に入れられたトカゲは、暴れる様子も無く大人しく収まっており、鐘楼でのわんぱく振りが嘘のようだ。


改めて見てみると、トカゲ・・・と言うよりもヤモリに近いような気もする。



「暴れずにお利口にしていますね」


「あぁ、風魔法で沈静してあるからな。眠りを誘う魔法を微量にかけてある」


「風魔法って、何でもありですね・・・」


「応用が利く、と言う点では風魔法は便利だな。が、回復系の魔法が使えないから、何でもと言う訳では無い」



何が出来て何が出来ないのかは、属性それぞれの善し悪し。全てを兼ね備えた属性は無いのだと教わった。



「そろそろギルドに戻るぞ。今なら正面から入られそうだ」


「あ・・・本当ですね、人集りが無くなっています」


「さすがに夕刻が近いから、依頼の受注を明日に延ばしたんだろうな」



教会からギルドまで大回りをする事無く辿り着き、正面玄関の扉を開けたと同時に、教会の鐘が鳴り響く。今日初めての正しい時間、正しい音色の鐘。



「良かった、ちゃんと鳴っていますね」


「やはり、この音でなければしっくり来ないな。あの時の鐘の音とは別物だ」


「あの時の・・・?」


そこまで言いかけて思い出す。あの時の鐘の音とは、もしかしなくても私がこの身で鳴らした、あの鐘の音の事だろうか。



「そう言えばヴィクターさん、あの時何だか笑ってませんでしたか?」


「そうか?」


「目をそらされて今、確信に変わりました。笑っていましたね?」


「どうだろうな、まぁ・・・あれ程忙しなく鳴る鐘を初めて聞いた事と・・・後は、メグミの頭突きを受けてもヒビ一つ入らなかった鐘に対して"思ったより強度があった"事への意外性・・・に思う所があった。そう言う事だろう」


「・・・・・・どう言う事ですか?」


「見応えがあった、と言う話だ。夕刻の鐘も鳴った、急いで依頼完了を報告しに行くぞ」



どうも腑に落ちない。私の質問を煙に巻かれた様な気分だ。

そんな気持ちを抱えたまま、階段を昇るヴィクターさんの後を足早に追いかける。





「失礼する」


「失礼します」


今度は正式に扉から執務室に入ると、鐘が無事鳴った事でグランさんも依頼が完了した物と認識していた様で、報酬が既にテーブルに用意されていた。


「2人ともご苦労だったな!ラガルレットはこちらで預かろう。これが報酬だ、金貨10枚だな」


「確かに。ラガルレットの糸は、また買い取りに出そうと思う」


「そうしてくれると助かる、高級糸扱いだから貴族やら職人やらが喜ぶぜ」


「あの、この子はこれからどうなるんですか?」



依然として鳥籠内で大人しいトカゲを覗き込みながら、上機嫌のグランさんに尋ねる。



「明日の朝にでも、商人ギルドに預けておくさ。南方向に旅立つ馬車に乗せて、ある程度人里離れた場所で、野に放って貰う。勿論冒険者ギルドからの依頼としてな!こいつは人に危害を加える事は滅多に無い。籠を開けたら勝手に飛び出して自然に帰るさ」


「危害を加えない・・・」



確かに、私も鬼ごっこの時に弄ばれはしたが、一度として攻撃をされた事は無かった。


個体によっては、人の生活区域に入って巣を作り、出産後に子供と再び旅立つ。


今回は場所が場所だっただけに、私達が介入したが、これが例えば村の納屋の天井裏とかであれば、人に知られる事の無いまま旅立って行ったはずだ。


人間の出入りがある程度あれば、外敵が近付き辛くなり安心を得る事が出来る。トカゲにとって人間は、いわば共生関係の間柄と捉えていて、基本的には攻撃の対象と認識していない・・・と言う事だろうか。



「さて、入れ物を変えようか。さすがに魔法を解除しねぇとだろ」


「あぁ、そうだな。今の籠を小さく変形するから、籠ごと入れられる物が良いな。そうすれば魔法を解除するだけで、逃げ出される心配も無く入れ替えが終わる」


「お!確かにそうだな!いやー、風魔法は便利なもんだなー。これ使ってくれ!」



グランさんに差し出された四角い金属製の籠に入れられる様に、ヴィクターさんがトカゲの大きさギリギリ迄風の籠を狭め、中へと入れ込む。


籠の鍵を閉めた後に魔法を解除すると、風は解ける様に消え、金属製の籠だけがそこに残る。


「驚かしちゃってごめんね、次は人目に付きにくい場所を見つけてね」


籠越しにトカゲに話しかけると、丸まってうたた寝をしている目が片方少し開き、目が合う。蛇目の瞳は私をジッと見つめた後、ゆっくりと閉じた。

まだ、ヴィクターさんの睡眠魔法が効いているのだろう。



「・・・明日、解き放たれる時には効果が切れているはずだ」


「そうなんですね、じゃあ元気でね」




うたた寝から、本格的な眠りに入ったトカゲに別れを告げ、1年に1度の大陸渡りと称される"ラガルレット"との初邂逅は、無事幕を下ろした。








────────と、言う訳も無く。



後日、私はアデルさんへの始末書のお詫びに菓子折りを持参し、グランさんの執務室の窓枠をピカピカに磨いたのだった。






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